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~アジーン遺跡・扉の前~


「すっかり暗くなっているんだよ」

「ずっと遺跡にいましたからね」


 アジーン遺跡の外はすっかり暗くなっていた。

 明かりを探すように見渡すとクロストの街灯が遠目に眩しい。

 見ていると全身に疲労感が押し寄せてくるな……。


「アリスお嬢様、お疲れみたいだねー!」


 肩を脱力させていると、シロハさんが背中から両肩を掴んでくる。

 それにビクッと驚きながら俺は振り向く。

 するとシロハさんはニマニマと笑っていた。


「はい……結構疲れちゃいました」


 俺も笑みを浮かべて答える。

 シロハさんはホントに元気だなー。


「一から攻略したのは初めてだからくたくたなんだよ……」


 言いながらよろよろとラビも身体を寄せるように近づいてくる。

 ちょっと今体重を掛けられると―――倒れる!

 と思ったがシロハさんが後ろから支えてくれていたので倒れはしなかった。


「ラビ…、離れてください…」

「シロハだけずるいんだよ…」


 ラビは後ろに居るシロハさんに力なく抗議をする。

 今シロハさんが離れてしまうと俺が背中から倒れてしまうんだけど。

 そこら辺をラビは理解しているのだろうか……? 多分して無いよな……。


「とにかく離れてください…」

「嫌なんだよ…」


 助けを求めようとシロハさんの方を再び振り向く。

 だけども笑いながら体を受け止めてくれるだけだった。


「何をしているんですか? 馬車に乗ってください」


 声の方を向くとクロハさんが馬車に乗っていた。

 助けにこないなと思っていたけど馬車を取りに行っていたのか。


「クロハお姉ちゃんも来たみたいだし行こうかー!」


 ひょいと身体を持ち上げられる。

 するとラビはゆっくりと地面に突っ伏した。


「私も抱きかかえて欲しんだよ…」


 ラビを無視してシロハさんは馬車に俺をぽつんと置く。

 そして自分も荷台に乗り込みラビに向かって声を掛ける。


「置いて行くよー」

「待って欲しんだよ!」


 ラビはダッシュで乗り込んできた。

 疲れてるのは演技だったのか……。


「物凄い元気じゃないですか!」


 俺がそう言うとラビは口笛を空吹きして誤魔化す。

 シロハさんは初めから見破っていたのかな?


「乗り込みましたね。ではお屋敷へと戻りましょうか」


 こちらを一瞥した後、クロハさんは手綱を揺らし馬車を進め始める。

 今回は前より大変だったな。


「…………」


 遠ざかる塔を眺めながら俺達はアジーン遺跡を後にした。



 ◇◇◇


 ~道中~


 屋敷までの道すがら、特にすることも無いので外を眺めているとラビが鞄をゴソゴソしだした。


「何をしているんです?」

「戦利品を広げているんだよ」


 ラビは鞄から一つ二つと遺跡で手に入れた物を取り出して並べていく。

 麻袋(金貨入り)。赤い丸石(宝石?)。緑革の本(魔具)。

 こうして見ると意外に少ないな。


「第一階層から真面目に探してこれだと少ないんだよ」

「一桁の階層は基本的に無視したからねー」

「他の探し方なんてあるんですか?」


 ラビの言葉のニュアンスが気になって思わず尋ねる。

 他の探し方があったのかな?


「黄色の地面に入って一気に階層を飛ばすんだよ」

「ああ、なるほどです」


 そういえば黄色の地面があったな。

 普段入る事がないから考えもしなかった。


「私達はパーティーだから出来ない探索の仕方だねー」

「はぐれてしまいますからね」


 振り向かずクロハさんも会話に混ざってくる。

 確かに独りでもないかぎり出来ない探索の仕方だ。

 みんなバラバラに飛ばされるらしいからな。


「ラビは普段から黄色の地面に入って探索していたんですか?」

「そうなんだよ。だから今回みたいに全部の階層を歩いたのは初めてなんだよ」

「逆にすごいねー!」

「私達には真似が出来ませんね」


 感想を漏らす二人の声音は驚きが混じっている。

 俺も全部の階層を歩くのが当たり前と思っていたから驚きだ。


「そういえばラビは今まで独りで遺跡探索していたんですよね?」

「そうなんだよ。だから今日は少し楽しかったんだよ!」


 ラビは笑みを浮かべながら麻袋を大切そうに抱きしめる。

 そんなに喜んでもらえるとちょっと照れてしまう。

 ……そうだ! この赤い丸石はどうしよう? 


「シロハさん! クロハさん! この赤い丸石なんですけどお二人のどちらかに――」

「それでしたら辞退させて頂きます」

「そのままアリスお嬢様のものにしちゃっていいよー!」


 どちらかに譲ろうとしたら断られてしまった。

 まあ、一つしかないしとりあえず持っておくか。

 俺はポケットに赤い丸石を仕舞う。


「わかりました。これは私が持っておきます」

「はい。それがよろしいかと」

「うんー! ……あっ! お屋敷が見えてきたよー!」


 シロハさんの言う通り橙色の光がちらほら見えてくる。

 そろそろお屋敷に到着みたいだ。


「この魔具、イノリお姉ちゃん喜んでくれるかな……」


 残り一つのイノリお姉ちゃんのための魔具、緑革の本を胸に抱えながら俺は呟く。


「きっと喜んでくれますよ」

「うんー! イノリお嬢様ならきっとねー!」

「正直イノリには勿体ないだよ」


 心配そうに俯く俺に、みんなは大丈夫だと励ましてくれる。

 本当にそうだといいな。

 そんなことを思っているとクロハさんがやや怒色をはらんだ声音でラビを諭す。


「ラビ。お嬢様を呼び捨てするのは感心しませんね」

「だねー! ラビもヨツバ家のメイドなんだから気をつけないとー」

「そ、そうだったんだよ! ごほん、イノリお嬢様には勿体ないんだよ」


 言い直したのはいいけど、言ってる事は若干揶揄が入っているけど大丈夫かなー。

 けれどもそんな俺の心配は無用だったようで、クロハさんとシロハさんは特に気にした様子はない。気にしたのは俺だけか……。

 なんて考えていると馬車が止まる。


「着きましたよ」

「とうちゃくー!」


 勢いよくシロハさんは馬車を飛び降りる。

 そしてこちらに手を伸ばして―――


「おかえりなさいー! アリスお嬢様ー!」

「……はい! ただいまです!」


 その手を取り俺も馬車を降りた。

 うん! 帰ってきたって感じがする!


「わ、私もそれやりたいんだよ!」

「いいよー! おいでー!」

「違うんだよ! ラビがご主人様を下ろしたいんだよ!」

「そっちですか……。先に戻りますよ」


 俺はラビを無視して屋敷の扉へ向かう。

 それに続くようにシロハさんも着いてくる。


「ご主事様! 私が扉を開けるんだよ!」


 言いながらラビは馬車を降りて駆け寄ってきた。

 メイドとしての意地みたいなものだろうか?

 まあ、シロハさんも笑っているし任せよう。


「私はこのまま馬車を置いてきますね」

「うんー! こっちは任せてー!」

「お願いします」


 クロハさんは馬車を進め馬小屋へと向かっていく。

 さて、待っていても困らせるだけだし先に入ろう。


「ご主人様! 開けるんだよ!」

「はい、開けてください」

「早く開けないと私が開けちゃうよー!」

「あわわ! 開けるんだよ!」


 扉が勢いよく開かれる。

 悠然と輝くシャンデリアがより一層脱力感を感じさせるなー。

 なんて思いながら立ち尽くしていると、二人が一歩前に出てこちらに振り返る。


「おかえりー!」

「ただい――おかえりなんだよ!」


「ラビ……、ただいまです!」


 こうして長かったアジーン遺跡の魔具探しは無事に終わったのだった。


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