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 ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛

 サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛



 ラビの声を受けてか、ビックウッドはその巨大な軋めかせながらより震わせる。


「もう一発なんだよ!」


 言いながらラビはビックウッドへ向かって走り出す。

 そして指輪を輝かせて、先ほどの一撃『ファイアーストーム』を放った。


「シロハはアリスお嬢様とここに。私はラビを捕まえ――サポートに回ります」

「了解ー!」


 シロハさんの返事を受けて、クロハさんはラビの後を追う。

 え? 今捕まえるって言いかけた? 

 そんなことを思って立ち尽くしていると、生い茂る緑葉が舞い散り視界を僅かに塞いでいく。


「シロハさん! 葉っぱが降り注いで!」

「大丈夫だよー! 葉っぱ自体には害は無いからー!」


 不安そうに怯える俺を見て、シロハさんは俺の前に出てくれた。

 ど、どうなってしまうのだろうか……。

 シロハさんの背中にしがみつきながらビックウッドの方を見る。

 するとラビは先程攻撃した箇所に続けざまに魔法を放っていた。


「ファイアーストーム!」


 舞い散る葉っぱを黒く焦がしながら炎の渦を直撃させる。

 しかし黒い焦げが広がるだけでビックウッドの動きは止まらない。



「そういえばシロハさん! 火魔法って使っていいんですか?」

「ここは広いし引火しても逃げられるから問題ないよー! それにビックウッドは再生能力があるからどんどん燃やさないとねー!」


 初耳情報はいっぱいだ。火はOK(今更)再生能力(!?)

 まあ、俺が知っていても意味がないことだらけだけど。戦えないし。

 ともかく火を使っても問題ないということだけ分かればいいや。


「アリスお嬢様! 伏せて!」

「――えっ! はい!」


 シロハさんの鋭い声音に一瞬遅れて身を縮める。

 すると近くで何かがボトリと落ちた。


「これは……蔦?」

「もうちょっとそのまま居てねー!」


 恐る恐る顔を見上げると、


「―――っ!」


 シロハさんが無数に迫りくる蔦の触手をナイフで斬りさばいていた。

 一つ。また一つ。音を立てて緑の綱が落ちていく。

 けれども蔦は蛇のように捻りながら絶え間なく迫りくる。


「シロハさん!」

「大丈夫だからねー! そのままの体勢でヨロシクー!」


 シロハさんは明るい声音で振り向かず、目の前の触手を斬り落としていく。

 時に割くように。時に裂くように。蔦はナイフにのまれる。


「……っ」


 その光景はしばらく続いた。

 1分。5分。10分。それでもなお続く。

 終わりはない。激しい蔦の猛攻は止むことはない。

 やがてボトリボトリと蔦の落ちる音が次第にしなくなる。

 触手が止んだからではない。気づくと山のように積もっていた蔦がクッションとなり、音を吸収していただけだった。


「……シロハさん」

「大丈夫だよー! へっちゃらー! へっちゃらー!」


 俺の弱々しい声にシロハさんは変わらぬ明るい声音で答えた。

 まるで気遣うように、安心させるように。

 そこでやっと気づく。

 不安になっている場合ではないと。

 シロハさんは俺を守るために戦ってくれているんだ。

 そんな俺が不安な姿を見せてどうする! そんなのシロハさんを信頼していないのと同じじゃないか!

 なら俺に出来ることはなんだ? 少なくとも震えて縮こもることじゃない。その背中を支えて励ますことじゃないのか。


「……うん」


 答えは出た。後は実行するだけだ。

 俺は―――声を張り上げて叫ぶ。


「シロハさん! 頑張れー!!!」

「――っ! ……任せてー! シロハ! 滅茶苦茶頑張るよー!!」


 瞬間、シロハさんのナイフの動きが加速し、爆発的な勢いで蔦が落ちていく。

 見ると触手は一瞬で小間切れになっていた。

 何回斬ったのだろう? 少なくとも10以上の緑の円形が散らばっている。


「ご主人様ー! ラビにも応援して欲しんだよ!」


 ラビの声が段々こちらに近づいているのを感じる。

 まさかこっちに向かって来ているのか!


「ご主人様ー!」

「ラビ! 戻って来たねー!」


 蔦の山が吹き飛び、青い髪が揺れるのが見える。

 ら、ラビが戻ってきた!

 と思ったのも束の間。黒い光が横切りラビが消えた。


「へ…? と、飛んでいるんだよ!」

「やっと捕まえましたよ」


 見上げるとクロハさんがラビを抱えて飛んでいた。

 あれは……クロハさんの飛行魔法! クロウウイングだ!

 相変わらず綺麗だな……。

 なんて見とれていると二人は俺の元まで降りてくる。


「飛行魔法なんて初めて見たんだよ……」


 驚きながらラビは地面に足をつける。

 そして俺に抱き着いた。


「怖かったんだよ! ご主人様!」

「ら、ラビ! そんなことより目の前の触手をなんとかしてください!」


 こうしている間もシロハさんは懸命に触手を捌いている。

 ラビが魔法を使えば余裕が出来るだろう。


「御心配には及びませんよ」

「クロハお姉ちゃんー! 後はヨロシクー!」


 クロハさんとシロハさんの声が聞こえたと思ったら身体が宙に浮く。

 お腹の辺りに圧迫感が……。


「さーて! 後は離脱だよー!」

「えっ、シロハさん! 触手は!」

「ま、また飛んでいるんだよ!」


 気づいたらシロハさんの両脇に抱えられていた。

 ちなみに飛んではいない。扉へ向かって全力疾走している。


「クロハお姉ちゃんが何とかしているよー!」

「えっ! 一人でですか!?」


 振り返ると、黒い翼を広げて迫りくる触手を躱し続けるクロハさんが映った。


「すごい……」

「姿が見えないんだよ」


 クロハさんは次第に加速し、黒の線が描き始める。

 縦、横、斜め、円。

 そんなクロハさんの軌道に着いていけないと悟ったのか、蔦は次第に動きを止めた……?

 ……いや、違う! 絡まりついて動かせなくなったんだ!

 よく見ると蔦は複雑に絡まっているように見える。

 もしかしてクロハさんはそれを狙って!?

 そんなことを思案していると腹の圧迫感が無くなる。


「はい! 到着ー!」


 シロハさんの声に視線を正位置に戻すと、生い茂る草が映り込む。

 どうやら扉の前で着いたようだ。

 身体をゆっくりと降ろされる。

 クロハさんはこのままどうなってしまうのだろう!


「ラビ! シロハはクロハお姉ちゃんのお手伝いに行ってくるから、ここでアリスお嬢様を守っていてー!」


 シロハさんはそれだけ言い残し、再びビックウッドへと向かって走り出した。


「……行っちゃたんだよ」

「ラビ、大人しく私とここで待っていましょう」


 ラビも行きたそうな顔をしていたが、俺を放っておくことが出来ないと悟ったのか、大人しく横で二人の光景を眺めはじめる。


「凄いんだよ……」

「今度はシロハさんが一人で触手を引き付けてます……」


 シロハさんが参戦するなり、触手はシロハさんを目掛けて動き出した。

 しかし先程までのシロハさんとは対応が違う。ナイフで受けたりはしないのだ。


「シロハさん、壁を走ってます!」

「ウォールランなんだよ!」


 守るべきものが無いシロハさんは縦横無尽に走り回っていた。

 地面、壁、ビックウッドの躯体。自由に楽しそうに駆け回っている。


「あんな動き……私にだって出来ないんだよ」

「すごいを通り越して美しいです」


 あれが本来の戦い方なのだろう。

 普段のシロハさんは一瞬で敵の懐に入り一撃で倒すスタイルだ。

 けれども今のシロハさんは、走り回り敵の攻撃をいなし、隙を見て攻撃を与えている。

 単純に一撃では倒せない階層主だからそうしているだけかもしれない。

 しかし一挙手一投足からひしひしと伝わってくる清廉さは淀みを感じさせない。

 それを証拠と言うように、触手もそんな動きに翻弄されてたどたどしく動いている。


「………………」


 自分がいかにシロハさんの足かせになっていたか痛感するな……。

 俺が居なければ初めから普通に戦えていただろう。


「シロハ! もう下がって大丈夫ですよ!」

「了解ー! それじゃあ後はヨロシクねー!」


 そういえばシロハさんにばかりに夢中になってクロハさんを全然見ていなかったな。

 見上げるとクロハさんは炎を纏うようにして空中で静止していた。


「炎が集まっているんだよ!」

「あれは……皇帝スライムの時と似ています」


 ノーリ遺跡でのことを思い出す。

 あの時は炎じゃなくて雷だったなー。


「い、一体何をするつもりなんだよ……」

「それはねー!」

「シロハさん! もう戻って来たんですか!」


 気づいたらニコニコ笑顔のシロハさんが隣にいた。

 前にもあったな…こんなこと。

 そんなことを思い出していると、シロハさんが続きを言う前に、クロハさんが動いた。


「インフェルノ!」



 ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛

 サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛



 ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛

 サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛



 ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛

 サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛サ゛



 ――――――全てが炎に染まった。



「ほ、炎の海なんだよ……」

「さすがクロハお姉ちゃんー! 一撃だったねー!」

「……炎で何も見えないです」


 クロハさんが魔法を唱えた瞬間、視界の全てが赤く染まった。

 そして泣き叫ぶような振動音が三度響いたと思うと、次第に音は止み静寂が訪れた。


「さあ、終わりましたし帰りましょうか」


 炎の海から煤汚れ一つないクロハさんが飛び出てくる。

 そして黒光の翼は次第に薄まり地面に足をつけた。


「そうだねー! 帰ろうー!」


 クロハさんとシロハさんは何事もなかったかのように青い光へと進みだす。

 一方、俺たちは―――。


「……階層主を一撃で倒すなんて凄すぎるんだよ!!」

「今回は規模が凄すぎです」


 その場で立ち尽くし、炎の海を眺めていた。


「アリスお嬢様ー! ラビ―! 行くよー!」

「申し訳ありませんがドロップアイテムは多分燃えていますので諦めてください」


 言われて気づく。そういえばドロップアイテムとかあったな……。

 けどそんなことはどうでもいいと思えるくらい―――


「い、今行くんだよ!」

「わ、私もです!」


 クロハさんの魔法に唖然としながら、青い地面に入り遺跡を出た。


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