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~第19階層~
第19階層に着いてすぐにバサリという音が鳴る。
「クロハさん! 草がおへそくらいまで伸びています!」
着地した途端、地面から生える草がスカートの内側から身体をくすぐる。
痒いというよりくすぐったい。身体に触れるそれは異物(草)だ。
「ちょっと待って下さいね」
クロハさんがこちらに駆け寄り俺の脇を掴んで持ち上げる。
そして草を潰した地面に俺を降ろし、身体に付いていた草をパパっと払ってくれる。
「ありがとうございます!」
「いえ、他には大丈夫ですか?」
「はい! …それにして草が随分伸びてますね」
周りを見ると嫌になるくらい草まみれだ。
それも身長の半分くらいの高さだ。
なので見えるのもほとんど草。
しゃがんだら、かくれんぼが出来そうなくらいだ。やらないけど。
「ご主人様ー! どこなんだよー!」
何処かからラビの声が聞こえるが姿が見えない。
身長同じぐらいだもんな。
苦労しているに違いない。
そう思って辺りを見渡しているともぞもぞしている一角を見つける。
「ラビー! こっちですよ!」
「見つけたんだよ!」
もぞもぞっと、ラビが草むらから飛び出し、
「むぎゅ~!」
抱き着いてきた。
そんな感動の再開みたいに抱き着かなくても……。
「アリスお嬢様はあっちかー!」
抱き着くラビの相手をしているとシロハさんが近寄ってくる。
白い髪が目立って見つけやすいので一瞬で姿を見つけられるな。
「合流ー!」
「揃いましたね」
とりあえず全員揃った。
揃ったはいいけど……どうするのだろう?
そう思っているとクロハさんが説明を始める。
「この階層は見ての通り、草の丈が非常に高いので視界が悪いです」
「正直鬱陶しんだよ」
ラビに共感するように頷く。
「ですので、はぐれない様に最低二人一組で移動しましょう」
「二人一組ですか?」
「私はご主人様と組みたいんだよ!」
「あー、それはちょっと駄目な組み合わせだねー」
「身長的にアリスお嬢様とラビが一組になりますと完全に見失いかねないですからね」
ああ、確かに。
小さいもの同士がペアを組んだら間違いなく遭難するな。
それを聞いてラビも納得したのか大人しく引き下がった。
「問題はどちらと組むかですが」
「アリスお嬢様はどっちがいいー?」
二人は俺の顔を見て尋ねてくる。
どっちがいいかー?
後組と前組でそれぞれ分かれた方がいいのかな。
後組(応援)だけど。
近接戦闘もできるクロハさんと今まで通りの方が無難?
う~ん、迷うなー。
「迷っちゃいます」
「クロハお姉ちゃんー! ならじゃんけんして勝った方がアリスお嬢様とペアを組めるのはどう?」
「私は構いませんがよろしいですか?」
「は、はい! 私も決められないので、それでいいですよ」
どうやらじゃんけんで勝った方とペアになるらしい。
話半分で聞いていたので僅かに焦る。
「それじゃあー! いくよー! じゃんけんー! ぽいー!」
シロハ グー
クロハ グー
ラビ パー
「なんでラビが混じっているんですか……」
「楽しそうだから?」
「ともかく仕切り直しですね」
「それじゃあー! もう一回ー!」
ジャンケン ポイ!
シロハ チョキ
クロハ パー
ラビ グー
「あいこなんだよ!」
「だからラビは参加してないよ」
「やったー! 勝ったー!」
「シロハはグーで来ると思ってましたが、裏を読まれましたか」
どうやらシロハさんは本気で勝ちにいっていたらしい。
そんなに真剣にやらなくても。
ともかくシロハさんとペアに決定だ。離れないように気をつけないと。
「よろしくねー! アリスお嬢様ー!」
「はい! よろしくお願いします!」
とにかくペアも決まったし動こう!
◇◇◇
シロハさんは一言で言うとすごかった。
「アリスお嬢様ー! 待っててねー!」
そう言って、俺を草むらの中に置き去りにした後。
バサバサバサ―――
と音をたてて走り去り。
草壁の道が出来た。
「お待たせ―!」
「まさか道を作るとは思いませんでした……」
「これで通った道も分かって一石二鳥でしょー!」
確かにそうだけど……。
切り取られたところがすごい目立っている。
最悪一人になってしまった時も「ここに出ればいい」と言う目印としても優秀だ。
文句も批判もないけど……。
「大変じゃないですか?」
「んー、まあー大丈夫だよー!」
そう言いながらシロハさんは息を切らしているとか、明らかに疲れている風には全く見えない。
俺としても助かるし、大丈夫というのならこのままお願いしようかな?
「ならお願いします!」
「任せてー! どんどん刈るねー!」
そう言ってシロハさんは草の群れに再び突っ込んでいく。
バサバサバサ―――
そういえば、あっちはどうしているのだろう?
そう思い、クロハさんを見つけて様子を見てみるが、普通に歩いているだけっぽい。
まあ、本来はあれが普通なんだろうな。 ん? 普通に?
よく見ると本当に普通に歩いていた。
草が遮っていない?
本来だったら草が進行の邪魔をするので、それを払いながら進むのが普通だ。
しかしクロハさん達の普通は”障害物もなく平然と歩く”の方の普通だ!
つまり、普通だけど普通じゃない!
「…………」
目を凝らして見るとラビが指輪から風を出して草を全てなぎ倒していた。
なるほど……。そんな手段もあるのか。
「………………みんな滅茶苦茶です!」
独り常識を考えるのが馬鹿に思えてくるのだった。




