04
「どこ? と訊かれるとそうですね……」
「ここはルベリア。遺跡や美しい湖畔が有名ですね」
「ルベリア?」
「ご存じありませんか?」
「はい……全然」
「そうですか……」
これからどうすればいいのだろう?
予想するに、あの扉を通じてこの見知らぬ世界に来てしまったのだろう。
だが、現在の状況が分からない。
気づいたら馬車の中に居た。分かるのはそれだけだ。
「あの? お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「名前?」
「はい。お名前です」
「服装を見る限り、身分の高いお家のご令嬢とお見受けしますが……」
名前……? そういえば思い出せない? どうしてだろう?
それにご令嬢? この人は何を言っているのだろうか……?
「……分かりません」
「そうですか……困りましたね」
本当に困ったような顔をしている。何か悩んでいるようだ。
俺はどうしていいのか分からず彼女を見つめる。
長い紫色の髪に見慣れた黒い瞳。
スラっとした身体のわりに胸がとても大きい。
それに着ている服が特徴的だ。
「メイド服?」
「これですか?」
黒いワンピースのような服に、要所要所がフリル調の白いエプロン。
首元に彩られている碧色のブローチは、まさしく俺の知るメイド服だ。
「そういえば私の自己紹介をしておりませんでした」
「私はヨツバ家にお仕えしております、クロハと申します」
「ご想像の通り、メイドをさせて頂いております」
スカートの両端を軽く持ち上げ挨拶をしてくれる。
「あ、あの!クロハさん!」
「何でしょうか?」
俺は。 と言いかけて止める。
この姿で言うと違和感しか感じないだろう
「その……私はどうして馬車に乗せられていたのでしょうか?」
「事情をお話しておりませんでしたね」
クロハさんは今に至るまで経緯を説明してくれた。
クロハさんが仕えているお嬢様の命令で、ワインの買い出しをしていたこと。
その帰り道に倒れている俺を見つけて、馬車に乗せて保護してくれたらしい。
「助けていただいて本当にありがとうございます」
「いえ、偶然お見掛けして保護しただけですので」
「あ、あの! 実はお願いがあるのですが……」
「お願い……ですか?」
「私を助けてください!」