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 イロハさんの後ろをカルガモ親子のようにテクテクと着いて行く。

 お屋敷の中に入っていくあたり、次の仕事場は屋敷内の何処かのかな?

 そんなことを考えていると、とある部屋の扉の前で立ち止まりイロハさんは振り返る。


「次はこの部屋の掃除をしてもらいます」

「ここって……」

「空き部屋………………………」


 次の仕事場は普段誰も使わない空き部屋だった。

 そういえば昨晩、クロハさんも空き部屋は掃除が行き届いてないって言ってたけ。


「任せるんだよ! ピッカピカにするんだよ!」


 やる気に満ちた目でラビは胸を張る(張るほどは無い)

 自信満々じゃないか。これはドジっ子の汚名は返上か?


「それでは始めましょう、と言いたいところですが、掃除道具を持ってきますので暫くこちらでお待ちください」


 イロハさんは一礼して、その場を一旦離れて行った。


「さて、待っている間どうします?」


 イロハさんの後ろ姿から二人に視線を戻しながら尋ねると、ラビは扉を勝手に開いて中に入っていくのが見えた。


「先に掃除をして驚かせるんだよ!」


 どうやら良いところを見せようと、イロハさんが戻ってくる前に掃除を終わらせようとする魂胆のようだ。それにしても掃除道具も無いのにどうやって掃除をするのだろう。


「ラビ! イロハさんは待っているようにって――」


 俺がそう注意を呼びかけようとすると「面白そう…………………」とイノリお姉ちゃんも部屋の中に入っていく。


「イノリお姉ちゃんまで!?」


 そんな俺の驚愕も廊下で虚しく響くだけで、二人は俺の制止を無視して部屋に入っていった。



 ◇◇◇



 部屋に入っていく二人を放っておけるはずもなく俺も部屋の中に入っていく。

 待っていてくださいとは言われたけど、入るなとは言われていないからな! 大丈夫、大丈夫! ……誰に言い訳しているんだか(多分イロハさんにだろうけど……)


「さっそく掃除をするんだよ!」


 部屋の中心でやる気満々のラビを視界の外にして部屋を見渡す。


「あれ?」


 思っていたよりも部屋は全体的に綺麗だった。目に見える埃も全然ないし、部屋が散らかっている様子もない。試しに窓のふちに指を滑らせる。うっすらとなぞった跡が残る程度、指に埃が付着するという感じのものではなかった。


「昨日クロハさんが駄目って言うからてっきり……」

「てっきり…………………………?」

「い、いえ!」


 ―――もっと埃まみれかと思っていた。

 そう言いかけて思いとどまる。

 言ってもイノリお姉ちゃんには意味が解らないだろうからな。

 何にせよイノリお姉ちゃんの興味はラビに移る。


「まずは―――」


 ラビは掃除をするべき場所を探すように部屋を見渡す。

 一体何をするつもりなんだ。


「う~ん、特に掃除するところが無いんだよ……」


 一通り見渡すと諦めたようにその場に座り込む。

 まあ、目立って汚れているところも無いしな。


「ラビ、一体何をするつもりだったの?」

「? この指輪で汚れを吹き飛ばそうと思ったんだよ」

「ふ、吹き飛ばす!」


 ラビは指に付けている緑色の指輪を見せてくる。

 もしかして魔具を使って……。


「この指輪は風を起こせるんだよ。だから埃もこの力で一瞬で吹き飛ばせるの!」


 ラビは、自身が宿暮らしをしていた時に、この指輪を使って埃だらけの部屋を一瞬で綺麗にした話を自慢げに語る。なんでも宿屋の親父さんにえらく褒められたそうだ。


「そ、掃除用の魔具なんてあるんだ……」

「? 別に掃除用の魔具ではないんだよ?」

「え? 違うの!?」


 俺が驚きながら尋ねるとラビは首を振って否定する。


「何となく試してみたら出来ちゃっただけなんだよ」

「何となくで出来るんですね……」


 何だか実際に見たくなってきたな。

 けど試そうにも掃除が必要そうなところはやっぱり見当たらない。


「お待たせしました、それでは掃除を始めましょうか」


 部屋の汚れを物色していると、イロハさんが掃除道具を一通り抱えて戻ってきた。


「まずはこれで埃をはたいてください」


 イロハさんは勝手に部屋を入った俺たちを咎めることはなく、ラビに埃はたきを手渡す。どうやら俺が意識しすぎだったらしい。


「でも埃なんて全然ないんだよ?」


 先程まで部屋の隅々を見ていたラビが「どこを掃除すればいいの?」と言いたげにイロハさんに視線を向ける。


「いえ、案外ありますよ。例えばこことか―――」


 イロハさんは、さっき俺が指でなぞった窓のふちを同じように指でなぞる。


「この通り、僅かですが確かに埃はあります。他にもそこの花瓶のふち回り、クローゼット、それ以外にも結構ありますよ」


 ちょうどクローゼット付近にいたイノリお姉ちゃんが、屈んで指で触れると「ホントだ…………………」と呟く。それを見てラビも花瓶の元へ動き出した。


「ほ、ホントなんだよ!」

「納得していただけたようですね。目に見えるものだけが汚れとは限りませんから色々と試してみてください」

「はいなんだよ!」


 それを聞いてラビは和気藹々と仕事に取り掛かり始める。さすがに皿を割った時のことを意識しているのだろう、目の前の花瓶をかなり慎重に埃はたきでなぞっている。


「はたいて…………………………ない」

「あれだと拭いているみたいです」


 そんな俺たちの小言は耳に届くことはなく、ラビは神妙な顔つきで「割らないように」と小声で連呼する。


「ラビット様、そこまで慎重になさらなくても大丈夫ですよ」

「割らないように……割らないように……」


 イロハさんの呼びかけもラビの集中の前では右から左のようで、ノロノロと掃除がまともに進まない。そんなラビを眺める事5分。(体感時間)ラビは満足げに汗をぬぐう。


「完璧なんだよ!」

「そうですか、チェックしますので他の所もお願いします」

「任せるんだよ!」


 ラビは嬉々として別の場所を同じようにノロノロと掃除しだす。


「これってお昼までかかるんじゃ……」

「つまらない……………………」


 あきれ顔をしながら俺たちは、ラビの掃除を眺め続けるのだった。


「こっちも出来たんだよ!」

「チェックいたします」


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