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イロハさん達に着いて行くと、先ほどまで着ていた寝間着の山を各部屋を訪れて集め、そのまま抱えてお屋敷の外の洗濯場へ移動する。
「次は洗濯ですか?」
「はい。それよりお嬢様方はなぜいらっしゃるのですか?」
今更な気がするがイロハさんが「お嬢様方には仕事はさせませんよ」という目で訊ねてくる。そう言えば厨房では慌ただしくて結局言えていなかったな。
「ラビの仕事の見学です! 邪魔はしないのでお気になさらず!」
「見てるだけ…………………………」
実際仕事をするわけではないので問題ないだろう。
こちらが気になるのはラビの仕事ぶりなのだから。
「わかりました。ラビット様、始めますよ」
「ご、ご主人様が見て……! が、頑張るんだよ!」
イロハさんのOKが出たので、洗濯を始めるラビ達を近くで眺める。
それにして初めて来たけどこれって……。
「まずはお手本をお見せます。一度しかやりませんので集中してください」
「わ、わかったんだよ!」
洗濯機のような機械? に衣服を入れて白い粉をまぶせる。そして横に置いてある水樽の栓を緩めて中に水を入れていき、洗濯機? に付属している手回し式のハンドルを握って回し始める。
「こうやって洗濯するんですね」
「初めて見た………………………」
見た感じ手動式洗濯機といったところだろうか、こんなものもあるんだ。俺はてっきり手洗いで洗濯をしているものだと思っていた。イノリお姉ちゃんも初めて見たのだろう、少し驚いた顔をしている。
「お、覚えたんだよ!」
「では実際にやってみましょうか」
隣に置いてあるもう一台の手動式洗濯機でラビもチャレンジする。
はたしてちゃんと出来るだろうか?
「これを……こうで……こう!」
イロハさんの動きを思い出しながら、ラビは慎重に洗濯していく。
今のところかなり順調だ。イロハさんも安心そうに見ている。
「あとはこれを回して……」
「お見事です。ちゃんと出来てますよ」
洗濯は問題なくこなせているようだ。
俺はてっきりまた皿洗いの時みたいに何かやらかすとばかり思っていた。
だが、どうやら杞憂だったようだ。
「回すのやりたい……………………」
大人しく二人がハンドルを回しているのを見ていたが、イノリお姉ちゃんが自分もやりたいとイロハさんに訴える。しかし「見ているだけと言う約束でしたよね」と断られ、ラビの方をじーっと見つめる。
「駄目なんだよ! これは私の仕事なんだよ!」
「けち…………………」
「イノリお姉ちゃん、大人しく見てましょう」
少し不機嫌そうなイノリお姉ちゃんの手を引き、邪魔をしないように後ろにさがる。そういう約束だったからな、気持ちはわかるけど仕方ない。俺は慰めるようにイノリお姉ちゃんの頭を撫でる。
「まあ……次がありますよ」
「アリス…………………やさしい」
イノリお姉ちゃんは嬉しそうな顔をして機嫌を直してくれる。
本音を言うと次なんて無いと思うが(そもそも次ってなんだ?)ともかく納得してくれたみたいなので結果オーライ!
「イノリだけずるいんだよ!」
ラビは嬉しそうに目を細めるイノリお姉ちゃんを見て、まるで物に当たるかのように(実際に当たっている)ハンドルを物凄い勢いで回していく。
「ラビット様! そのように回すと!」
「えっ?」
イロハさんが止めようとするが既に遅かった。手動式洗濯機が物凄い勢いで渦巻き、中から物凄い量の泡と衣服があふれ出し、地面にボトリと落ちていく。
「泡の山……………………」
「衣服も混じってますね」
それを眺めていた俺たちは「これは洗い直しだな」と見ているだけでわかった。ラビは泡だらけになった衣服を見つめると苦笑いしながらイロハさんの方を向く。
「ご、ごめんなさいなんだよ……」
「いえ、事前にお伝えしていなかったこちらの落ち度です。お気になさらないでください」
あきれ顔の一つぐらいしても良いと思うが、イロハさんは平然とした顔で叱りもしなかった。それどころか何事もなかったかのよう落ちた衣服を拾い集め、水洗いを始める。
「わ、私がやるんだよ!」
「そうですか、ではこちらをお願いします」
てっきり「結構です」と言うと思ったが、半分をラビに渡して洗わせる。イロハさんの心の広さが窺えるな。そう思っているとシロハさんがやって来る。
「片づけが終わったから来たよー! って、どうしたのー! 物凄い泡だねー!」
「ちょうど良いところに来たわね。シロハ、残りの洗濯ものを任せていいかしら?」
「えー! 来たばっかりで洗濯ー!? シロハはイノリお嬢様達の様子を見に――、ごほんごほんお世話をしに来たんだけどー?」
「そちらはラビット様共々私が請け負うわ。だからをお願いね?」
「むぅー、わかったよー」
しぶしぶシロハさんは洗濯を引き受ける。それにしても珍しいイロハさんの素バージョンだ。ラビは初めて見るんだっけ、「あれ?」って感じに頭を傾けている。
「それではラビット様、お嬢様方、次の仕事場に向かいましょうか」
「こ、今度こそちゃんとやるんだよ!」
「ラビ…………………ドジっ子?」
「案外そうかもしれませんね」
頬を膨らまして「違うんだよー!」と言い訳するラビの相手をしながら、俺たちは次の仕事場へと向かうのだった。
「ラビはドジっ子じゃないんだよー!」




