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「ごちそうさまです!」
「楽しかった………………」
「えっ!? ラビのがまだ残っているんだよ!?」
ごちそうさま宣言をする俺に、ラビは未だに食べかけのタマゴサンドを押し付けてくる。どれだけ頑張ろうとその歯形が付いたタマゴサンドは食べることは無いぞ! そんな俺の意志を汲み取ったのか(単に諦めただけかもしれないが)ラビは食べかけのそれを自分の口に放り込む。
「ラビ………………ドンマイ」
「もぐもぐ、違うんだよ! きっとお腹が一杯で食べれないだけなんだよ!」
イノリお姉ちゃんは憐れみを込めるかのように、ラビの肩に手を置く。そこ顔はどこか勝ち誇ったような感じだ。そんなイノリお姉ちゃんの顔を見てラビは「ムキぃー!」と怒るように振るほどく。しかし食べてもらえなかったのも事実なので(サラダは食べた)悔しそうに言い訳を述べる。
「フ…………………(笑)」
「ムキぃぃ!!!」
そんな喧嘩に夢中な二人を放置して、俺はこっそりとクロハさんの所へ向かう。
「見て下さいクロハさん! イノリお姉ちゃんが笑ってます!」
「珍しいですね。これもラビット様のお陰でしょうか」
仲良く? 喧嘩をする二人を眺める。
普段から無表情のイノリお姉ちゃんが笑うのは本当に珍しい。
ある意味ラビを連れてきて(付きまとわれて)よかったかもな。
「そういえば、ラビをメイドにする話はどうなったんだろう?」
「ラビット様をメイドにですか?」
クロハさんが「初めて聞きましたよ?」と言いたげな顔をする。
あっ! そうか! あの時クロハさん達は部屋に居なかったけ。
「はい、イノリお姉ちゃんが言ってましたよ」
「そうですか、私はてっきり客人扱いかと」
再び俺たちは、喧嘩をしている二人をちらりと見る。
どう見ても主従関係には見えないな……。
「ノリで言っていただけかもしれませんし、もしかしたら決定じゃなかったのかもしれません」
「そうですか、ともかく一度聞いてみないといけませんね」
実際、話の流れで決めてた感じだしな。
妹駄目! ならメイドで! 大体こんな感じ(適当)
まあ、生い立ち含めてメイドにするという判断だったかもしれないが、イノリお姉ちゃんの気まぐれは今に始まったことじゃないし、俺の知るところじゃない。
「イノリのばーか!」
「フ…………………(笑)」
「ムキぃぃ!!!」
どうやら悪口合戦を行っていたようだが、いよいよ取っ組み合いを始めかねない雰囲気になる。
「とりあえず止めましょうか」
「そうですね」
二人の間に入って「喧嘩は駄目ですよ(棒)」と注意する。
そもそもの原因が俺なので強くは言えないのが辛いところだ。
「二人とも仲良くですよー(棒)」
「私達………………仲良し」
「仲良くなんかないんだよ!」
イノリお姉ちゃん的にはすっかり仲良しらしい。
ラビは敵愾心をむき出しで威嚇までしているけれども……。
「なるほど、仲良しですね」
「え、どこがですか!?」
「アリスもまだまだ………………………」
「ご主人様の言う通りなんだよ!」
そう言うと「私はイノリよりご主人様との方が仲良しなんだよ!」と言わんばかりに俺の腕を取って抱きしめてくる。そんなとこで対抗してどうすんだ……。
しかしその行動でイノリに火が付いた。
「私の方が…………………仲良し」
反対側の腕を取ってイノリお姉ちゃんも抱きしめてくる。
この流れもういいよ……。
「私は二人と仲良しですよ(棒)」
「ラビの方がー!」
「私の方が………………………」
「アリスお嬢様はモテモテですね」
「嬉しくないですー!」
痺れていてただでさえ感覚が無いのに、引っ張るように腕を取られて散々だ。
クロハさんも見てないで助けてくださいよ!
目で必死に訴える。けれどもクロハさんは温かい目をするだけだった。
◇◇◇
あれから10分が経過。
俺は二人に「お前がナンバーワンだ(棒)」的なこと言って解放してもらった。
二人の顔を見ると、とても満足そうだ。俺も解放されて満足です。
そんなことより、俺は解放された後、シロハさんとイロハさんを呼んで<第一回ラビをどうするか会議>を開催した。
「と、言う訳で! 第一回ラビをどうするか会議を開催します!」
「ご主人様ー! カッコいいんだよー!」
「よくわからないけど楽しそうだねー!」
乗っかってくれるラビとシロハさん。
しかし残りは違うようだ。
「会議…………………………?」
「会議ですか?」
「メイドにするのでは無かったのですか?」
当然のように疑問を述べる。
どうやら説明がいるようだ。
「それも含めて説明します!」
「まずは昨日! イノリお姉ちゃんがラビをメイドにすると勝手に決めましたが!」
「勝手じゃない………………イロハも」
「お静かに! 説明の途中です!」
目を見開いてイノリお姉ちゃんが驚いた顔をする。
ちょ、ちょっと言い過ぎたかな。
「ごほん、続きを、メイドに決めたわけですが、私はラビにメイドが務まると思いません! それは皆さんも今日までの出来事で何となく感じてるはずです!」
「ガビーン! なんだよ!」
ラビは驚愕の表情を浮かべる。
いや、どう考えても無理だろう。
少なくとも俺から見たらだけれども……。
「確かにそうですね。実際私も客人として見ていましたし」
クロハさんは共感してくれる。
他のみんなはどうだろう。
「私は今日から教育を始めるつもりでしたよ」
「シロハはよくわからないやー!」
「ラビ………………………何が出来る」
イノリお姉ちゃんがラビに結構いいことを尋ねる。
実は料理が得意! とかあるかもしれないしな。
だがラビは、考えあぐねて頭を悩ませる。
「モンスターや魔物を……倒せる……んだよ?」
「駄目みたいです」
「駄目みたいだねー!」
「駄目みたいですね」
「ラビ………………ダメダメ」
イロハさん以外は一同揃って駄目コールを送る。
どうやらメイドは厳しそうだ。
「だ、駄目じゃないだよー!」
「そうです、言い過ぎです。始めは誰でも初心者ですから」
唯一駄目コールを行わなかったイロハさんがラビをフォローする。
「ですので今日一日、実際にメイド業を体験させてはいかがでしょうか?」
「なるほど、イロハさんの言う事にも一理あります!」
確かに決めつけはよくなかった。イロハさんの言う通りだ。
ここはイロハさんの案に賛同しよう。
「私は良いと思いますよ!」
「うん……………………」
「そうですね、私も賛成します」
「シロハもー!」
満場一致。どうやら決まったようだな。
イロハさんは一通り視線を送ると「と言う事です」とラビの肩に手を置く。
「頑張りましょう」
「うん! 頑張るんだよ!」
こうして<第一回ラビをどうするか会議>は閉幕し、ラビのメイド体験会が始まった。




