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~ダイニングルーム~
「皆様、いらっしゃいましたね」
「美味しそうなんだよ!!」
クロハさんが扉の前で出迎えてくれる。
テーブルの上には数々の料理が既に並べられていた。
ラビも興奮しながら見ている。美味しそうだ。
「お肉ー!」
「シロハ、意地汚いですよ」
「早く食べたい…………………」
「とりあえず座りましょうか」
それぞれ椅子に座っていく。
「私はご主人様の隣に座るんだよ!」
「む……………………」
ラビが俺の隣の席に座ってくる。
それを見たイノリお姉ちゃんはいつもの上座を離れて俺の膝の上に乗ってきた。
「あの……イノリお姉ちゃん?」
「ここで食べる……………………」
助けを求めようとクロハさん達に視線を送る。
わ、私、どうしたらいいんです! 色々苦しいです!
するとクロハさんが助けに来てくれた。
「お嬢様それは流石にいかがなものかと」
クロハさんはイノリお姉ちゃんを持ち上げ元の席に移動させる。
すると持ち上げられながらイノリお姉ちゃんは露骨に不満そうな顔をしている。
普段無表情なのに! こういうときだけ表情豊かだ!
「イノリお嬢様、お気持ちはわかりますが自重してください」
「アリスお嬢様がつぶれちゃうよー!」
「ずるいんだよ! 私もそれがしたいんだよ!」
せっかくイノリお姉ちゃんが諦めたのに今度はラビが膝に乗ってくる。
だ、だから重いって! 俺とラビ同じ体格だからね!
男の時だったら余裕だったけど流石にこの身体じゃ無理すぎる。
「苦しいです……助けてください」
「ずるい…………………」
一度は諦めたイノリお姉ちゃんが再び膝に乗ろうとしてくる。
さすがにこれ以上の加重は耐えられん!
そう思っているとクロハさんとイロハさんが二人を抱えてどかしてくれる。
「ありがとうございます。イロハさん! クロハさん!」
「いえ、大丈夫ですか」
「はい……なんとか」
「イノリお嬢様、ラビット様、アリスお嬢様が嫌がっております。これ以上同じことをなされますと嫌われてしまいますよ」
イロハさんが二人に向かって少し鋭い視線を向ける。
すると二人は諦めたように大人しくなる。
「なら隣に座る………………………」
イノリお姉ちゃんは妥協案としてラビの席を所望してきた。
だがもちろんラビは抵抗する。
「ご主人様の隣は私なんだよ!」
「私の……………………」
今度はイス取り合戦が始まった。
椅子にしがみついて離れないラビ。
それを引き剥がそうと力なく引っ張るイノリお姉ちゃん。
また助けを求めようと視線を送るとイロハさんもクロハさんもあきれ顔をしていた。
シロハさんに至っては先に「いただきますー!」と言いながら食事を始めている。
余程腹が減っていたのだろう。主を差し置いてバクバク食べている。
こうなったら俺がなんとかするしかない。
とりあえず解決策が思いついたので提案してみよう。
「イノリお姉ちゃん、私に考えがあります!」
「考え………………………?」
「譲らないんだよ!」
ラビを引っ張りながらイノリお姉ちゃんは首を傾げる。
よし! とりあえず無視はされなかった。
「私がラビの席に座ります!」
「絶対に譲らな……え?」
ラビがなんとも言えない顔をしてこっちを見る。
イノリお姉ちゃんは意味が通じたのか頷いてくれる。
「そして私の席にイノリお姉ちゃんが座ります! これで二人とも私の隣です! 文句ないですよね!」
「うん………………………」
「ご主人様が言うなら従うんだよ」
あれ? これなら初めから「座るな!」とラビに言えば良かったか?
普段から人に命令することがなかったから思いつきもしなかった。
社畜時代も結局一番下っ端だったしな……。
こういうことにも慣れないといけないのかな。
まあ、とりあえず席を移るか。
「ラビ。もう1つ隣に移って」
「はい、なんだよ!」
あっさりと隣の席に移ってくれる。
効果覿面だ。普通に言っただけなんだがな。
「イノリお姉ちゃんはこっちです」
「うん………………………」
ストンと大人しく座ってクロハに目配せする。
それに気づいてクロハさんがイノリお姉ちゃんの席へ移動し料理を運び直してくれる。
これでやっとご飯が食べれる。
「いただきます」
「いただきますなんだよ!」
「いただきます………………………」
目の前の料理に手を付ける。
今日はどうやらビーフシチューのようだ。
具は一口大のごろごろお肉、星型ニンジン、ほろほろジャガイモ、しんなりブロッコリー。
見ているだけで美味しそうだとわかる。
スプーンに手を伸ばしシチューだけを口に含む。
「美味しい!」
「美味しいんだよ! こんなに美味しいのは初めて食べたんだよ!」
「おいしい…………………」
「お褒めに預かり光栄です」
イロハさんは謙遜しながら微笑んでくれる。
謙遜なんていらないレベルで美味しい。
コクのあるデミグラスソースがたまらない。
口の中が幸せだ! 今度はお肉を食べてみよう。
「このお肉! 口の中で溶けるみたい柔らかいです!」
「じっくり煮込みましたからね。いっぱいありますから是非お替りしてください」
「シロハお替りー!」
シロハさんがお替り宣言をすると「食べすぎです!」とストップが入る。
見るとシロハさんの前に置いてあるパンだけ以上に減っていた。
いったいどのぐらい食べたのだろう。
「ご主人様は毎日こんな美味しいご飯を食べてるの?」
「うん。ラビは気に入った?」
「すごく気に入ったんだよ!」
ふとラビの皿に目を移すと既に空になっていた。
それに気づいてイロハさんがお替りを取りに向かってくれる。
「こんなに美味しいご飯が食べて幸せなんだよ!」
大袈裟、そう言おうとしたが、ラビの生い立ち話を聞かされた後なのであながち大袈裟ではないかもと言いよどむ。
「どうしたのご主人様?」
「な、なんでもないよ!」
「お待たせいたしました。お替りになります」
俺が反応に困っていると、ちょうどいいタイミングでイロハさんがラビの前にお替りのビーフシチューを置く。心なしか量も多めによそってある。イロハさんなりの気遣いだろう。微笑みながら「たくさん食べてくださいね」とラビの頭を撫でる。すっかりお母さんみたいだ。言うと多分怒られるから言わないけど。
「よくわからないけどたくさん食べるんだよ!」
そういうと気にする事なくがつがつと食べだす。
それを横目で「私もお替りしたいー!」と言いたげなシロハさんが見ている。
もしかして本当にシロハさんの分だったのかな?
そんなことを思いながら自分の分の料理を食べる。
そんなこんなで料理は瞬く間に無くなり、みんな食べ終わる。
「ごちそうさま……………………」
「ごちそうさまでした!」
「お腹一杯なんだよ……」
ラビは腹をさすりながら若干苦しそうだが、顔は非常に満足そうにしている。
横でシロハさんが妬ましくみているが気にするのは止そう。
「食事も済みましたし、次はお風呂ですね」
「みんなでお風呂……………………」
「お風呂は久しぶりなんだよ!」
「それならしっかりと身体を洗わないといけませんね」
「私はひとりで……」
「さあー! アリスお嬢様も行こうー!」
シロハさんに手を引かれながら強制連行される。
イノリお姉ちゃんのみんなで宣言も出てしまったし、どうやら逃げ場はないようだ。
ラビ……すまない。なるべく目をつぶるから許してね!
そう思いながら俺は浴槽の扉の中に入っていくのだった。




