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「………………」
沈黙が流れる。
要約してしまうとラビットの話は私怨以外の何物でもない訳だけれども。
経緯を聞くに同情を覚えられずにはいられなかった。
「……私の話はこれまでなんだよ」
「ラビットさん……」
「覚悟は決めたんだよ……あとは煮るなり焼くなり好きにするんだよ……」
ラビットは半ば諦めたかのように体を脱力させる。
だがそんなラビットを見てどうこうしてやろうと思う人は一人もいなかった。
「シロハさん……放してあげてください」
シロハさんは羽交い絞めを解きラビットを解放する。
ステンと尻もちをついたラビットは不思議そうにこちらを見る。
「ラビットさんは『はずれ』を入れたことを悪いと思っていますか?」
ラビットは一瞬俯く。
「悪いとは思ってたんだよ。でもそれ以上に私はスライムの死骸を入れる冒険者達が許せなかった……。それは間違いないんだよ」
ラビットはそう言い切った。
だから俺はそれで十分だと思った。
「なら私はラビットさんを責めません。私も同じ経験をしたことがありますから」
初めて入った遺跡。初めて開けた宝箱。スライムの死骸の山だった。
物凄い期待した。物凄いワクワクしていた。だけどスライムの死骸の山だった。
気持ちは痛いほどわかる。俺も同じだったから。俺も同じ目に遭ったから。
だから俺はラビットを責めない。責められない。
それを責めてしまったらあの時の気持ちが嘘になるような気がするからだ。
「でも私はきっとあなた達に悪いことをしたんだよ……?」
「それでも私はラビットさんを責めません!」
悔しさや虚しさ。あの時の感情は嘘にしたくない。
あの感情が無ければきっと第20階層にはたどり着けなかった。
あの王冠を手に入れることも出来なかった。
それを否定するいうことはイノリお姉ちゃんとの思い出が嘘だという事になる。
だから俺はラビットを責めない。責めたくない。
「お嬢ちゃんは責めないようだが、俺はこの頭の借りがあるからな!」
そう言いながらラビットに近寄る。
ラビットの方は震えながらそれを受け入れようとしていた。
「ワズディンさんが一番責める資格がありません!」
俺はワズディンさんを一喝した後、怒声を浴びせた。
「元を辿ればワズディンさんのような冒険者が悪いです!」
「馬鹿みたいに! 考え無しに! スライムの死骸を拾って!」
「要らなくなったら捨てる? どこまでも我儘なんですか!」
「しかも夢と希望に満ち溢れている宝箱の中にですよ!」
「そんな奴になぜラビットさんを責める資格なんてあるんですか!」
「ある意味その頭になったのは因果応報です!」
「なるべくしてなった! それだけのことでしょう!」
「………………………」
ワズディンさんは押し黙る。
突然の俺の叱責に驚いてなのか、罪悪感を感じてなのかは判らない。
だが少なくともラビットにどうこうする気は失せたようだ。
「……カッコいい」
ラビットの声に振り向く。
すると目をキラキラさせながら俺を見ている。
「カッコいいんだよ! 私はあんな風に言えなかったんだよ!」
「私はアナタを尊敬するんだよ! 一生ついていくんだよ!」
そういうと俺に抱き着いてくる。
ど、どういうこと?
「く、苦しいです!」
「うわぁ~~ん!!」
今度は泣き出した。
何がどうなっているだ!?
「お嬢ちゃんには負けたよ。俺も心を入れ替えるぜ!」
「めでたしめでたしですね」
「だねー!」
「意味がわからないです!!」
「うわぁぁ~~~ん!!!」
本当にどうなっているんだ?
そう思いながらも一行はアジーン遺跡をとりあえず後にした。
◇◇◇
~クロスト・冒険者ギルド前~
遺跡の外を出ると日がすっかり暮れていたので俺たちはすぐに帰ることにした。
「へへ、次会う時はもっとビックな男になるぜ!」
そう言ってワズディンさんは馬車を降りて上機嫌に走っていった。
ビックなのはそのアフロだけで十分だろう。
と、ツッコもうと思ったが既に姿は居なくなっていた。
そんなことより問題はラビットだ。
「……ラビットさんは帰らないんですか?」
「ラビでいいんだよ! ご主人様!」
あれから一向に抱きしめて離れてくれない。
それどころか俺をご主人様と呼ぶ次第だ。
どうしよう? このまま連れて帰るか?
助けを求めようとクロハさんとシロハさんに視線を送る。
「アリスお嬢様のお好きなようにしてかまいませんよ」
「無理やり降ろしても着いてきちゃいそうだからねー!」
「……連れて帰ります」
渋々そう答える。
イノリお姉ちゃんは何というだろうか?
いちお『はずれ』の犯人だしたたき出すかもしれないな。
そんなことを思いながら馬車の中を過ごしているといつの間にかお屋敷に着いていた。
~ヨツバ家お屋敷~
「すごい豪邸なんだよ!」
ラビは初めてお屋敷に来た俺のように興奮したようにはしゃぐ。
気持ちはわかる。だが、そろそろ俺を離して。歩きづらい!
「すっかり懐いてしまいましたね」
「驚きだよねー!」
二人も見ているだけで引き離そうとはしてくれない。
いったいなんなんだー!
「私は馬車を置いてきますね」
「それじゃあシロハはアリスお嬢様達と先にお屋敷だねー!」
シロハさんがお屋敷の扉を開け、中に入る。
それに続くように俺たちも入っていく。
「とりあえずイノリお姉ちゃんの部屋に行こう」
「イノリお姉ちゃん?」
怪訝な顔をするラビを他所に俺は決意して階段を上るのだった。




