28
「疲れたんだよ……」
両手をぶらぶらさせたラビットがノコノコと出てくる。
恰好の獲物だな。俺はシロハさんにGOサインを出す。
「確保だよー!」
「なんでまだいるのー!」
ラビットは遺跡に向かって走って逃げだす。
しかしシロハさんも全力疾走で追いかける。
「遺跡の中に入ったぞ!」
「追いかけましょう」
「はい!」
~第一階層~
遺跡に入るとラビットが背負っていた鞄が落ちていた。
少しでも身軽になるために落としていったんだろうか?
とりあえず拾っておこう。
「アリスお嬢様ー! 捕まえたよー!」
「離すんだよ~!」
遺跡のど真ん中でラビットがシロハさんに羽交い絞めされ捕まっていた。
流石シロハさんだ! ちゃんと捕まえてくれている。
「どうやらうまくいったみたいですね」
「なんて足の速さをしてやがる!」
「流石はシロハさんです!」
俺の見立てに間違いはなかったようだ。
ホント、どこかにワズディンさんとは大違いだ。
そう思いながらシロハさんの所は駆け寄る。
「離してほしんだよ!」
「暴れないー! 暴れないー!」
シロハさんに羽交い絞めされたラビットは足をジタバタさせ抵抗する。
こうしてみるとホントに小さいなー。
もちろん身長の話だ。けして胸の話ではない。
「やっと捕まえたぜ!」
「ワズディンは捕まえてないです」
「そうですね。スライムの死骸を拾ってました」
二人してそう言うと、ワズディンは笑って誤魔化す。
まあいい。本題は『はずれ』についてだ。
「ラビットさん!」
「な、なに!?」
怒ったように問い詰める俺にラビットはジタバタするのを止め萎縮する。
例えるならば叱られる子供のようだ。
「ずばり聞きますけど『はずれ』の犯人ですよね!」
「し、知らないんだよ!」
露骨に目を逸らして白を切る。
だが、貴様は重大なミスをした!
「本当ですね?」
「な、なんのことだか分かんないだよ」
あくまでも誤魔化すようだ。
否定しないあたり、もう分かり切ったようなものだが。
「だったらこの鞄の中身を見ても問題ありませんよね!」
「そ、それは困るんだよ!」
再びジタバタして暴れ出す。
しかしシロハさんの前では無力に等しいのだ!
「クロハさん! 中身をチェックしちゃってください!」
「だ、駄目なんだよー!」
「かしこまりました」
シロハさんが鞄を開け中身をチェックする。
すると大量の『はずれ』と書かれた紙が出てきた。
「これはなんですか!」
『はずれ』の紙をラビットに突き付けて尋ねる
「ひ、拾ったんだよ!」
「嘘を言わないでください!」
「ごめんなさい! 私がやりましたぁ~!」
鋭い目線で問い詰めるとあっさりと白状した。
やっぱりラビットさんが犯人だったか!
「お嬢ちゃんも案外おっかないな!」
「意外な一面だねー!」
「私は素敵だと思います」
各々俺について感想を述べる。
そんなに言うほどだろうか?
まあそんなことはいい、今はラビットを説教だ!
「どうしてこんなことをしたんですか!」
「だってぇ~!」
そう俺が問いただすと、今に至るまでの経緯を泣きながら話し出す。
「私だって元々は善良な冒険者だったんだよ!」
「遺跡に入っては普通にモンスターや魔物を倒してお宝探しをしていただけだし、こんなことはしてなかったんだよ!」
「じゃあ、なんで『はずれ』なんて入れるようになったんですか?」
「………きっかけはスライムの死骸が入った宝箱を開けたときなんだよ」
~ラビット回想~
<ノーリ遺跡、第15階層>
「ついにここまで来れたんだよー!」
この頃のラビットは、まだ駆け出し冒険者といっても過言ではなかった。
武器と呼べるような物は指輪の魔具一つだけだったし、自身で魔法が使えるわけでもない。
なので、この階層から手に入れられる魔具に心躍らせていた。
「絶対に見つけてみせるんだよー!」
だが、駆け出しにとって15階層は甘いものではない。
今までの階層と比べて格段に増えるスライム。
魔法を放ってくるワイト。
それらをたった一つの魔具で応戦し、遺跡を彷徨う。
正直大変だった。時には命の危険もあった。
そんな中ラビットはやっと思いで宝箱を見つける。
「や、やったんだよ! 宝箱だよ!」
喜びのあまり宝箱に飛びついた。
今思えばミミックだったら即死していたと思う。
だが、そんなことも忘れるくらい嬉しかったのだ。
だからこそ、宝箱の中身を見て心底がっかりした。
「……なんで?」
中には山ほどのスライムの死骸が入っていた。
でも魔具もあるかもしれない。
私は宝箱をスライムまみれになりながら漁った。
けれども魔具はおろか石っころ一つすらなかった。
「ま、まあ、こういうこともあるんだよ!」
私はめげなかった。
今回は運が悪かっただけ。
他の宝箱を見つければきっと魔具が入っている。
「そうなんだよ! そうに違いなんだよ!」
他の宝箱を探すために遺跡をさらに彷徨う。
全身スライムの死骸だらけになって気持ち悪い。
だけど、めげなかった。
ここまで来て諦めたくなかったからだ。
「見つけたんだよ……」
危険なトラップを掻い潜りながら再び宝箱を見つける。
正直、限界だった。ここまで道中で身体は悲鳴を訴えていた。
多分、今日探せる宝箱はこれで最後だろう。
そう思いながら宝箱を開ける。
「………なんで、なの?」
宝箱を開けると、またスライムの死骸が山ほど入っていた。
諦めたくなくてスライムの死骸を漁る。
けど何も入っているわけがなかった。
「……こんなのおかしい」
やっとの思いで来た第十五階層。
期待に胸を躍らせて開ける宝箱。
全て最悪だった。
「なんでこんな目に遭わなければならないの……」
そう思いながら私は仕方なく遺跡を後にした。
<クロスト・冒険者ギルド>
次の日、私は遺跡へ行かずにギルドを訪れた。
明らかに昨日のスライムの死骸はおかしい。そう思ったからだ。
情報を得るため、私は受付嬢の元へ訪ねる。
数多くの冒険者と接する彼女なら、何か知っていると思ったからだ。
「その話! 本当なの!」
「え、ええ、本当ですよ!」
受付嬢は期待通り、いやそれ以上にスライムの死骸の謎を知っていた。
何でも下の階層で集めて持ちきれなくなったスライムの死骸を、上の階層で手に入るアイテムと入れ替えるように宝箱に捨てる冒険者が数多くいるそうだ。
その話を聞いて私は許せないと思った。
私みたいに必死になって遺跡探索をしている人達を何だと思っているんだ!
だからスライムの死骸を宝箱に捨てるやつに文句を言ってやりたくなった。
<ノーリ遺跡、第15階層>
私は道中スライムの死骸を拾っている冒険者に当たりをつけて尾行した。
スライムの死骸を捨てた瞬間、文句を言ってやる!
そう思っていると男は宝箱に手を掛ける。
「あれ? スライムを捨てないの?」
男は宝箱を開けると、怒りながら宝箱を蹴りつける。
なんで怒っているんだろう? 既にスライムの死骸が入っていたのかな?
気になったので男が立ち去った後、私も中身を見てみる。
『はずれ』
そう書かれた紙が一枚入っていた。
なるほど、だから怒っていたのか。
イライラしながら遺跡を歩く男を再び追いかける。
今回は捨てなかったようだが、次はどうか分からなかったからだ。
しばらくすると男はまた宝箱を見つける。
開けると宝石の類が入っていたようだ。
男は喜びながら、入れ替えるようにスライムを捨てだす。
文句を言うなら今だと思った。
「す、スライムの死骸を捨てちゃいけないんだよ!」
「なんだお前? 悪いが俺が先に見つけたからこれはやらんぞ」
見当違いも甚だしい答えが返ってきた。
私はそんなことを求めているんじゃない。
そんな私の意図を一切汲み取らず、男はスライムの死骸を宝箱に捨てるのをやめない。
「だ、駄目なんだよ!」
「何をしやがる!」
私は男の腕に飛びついて阻止しようと試みる。
しかし身体の小さい私は力任せに壁に投げつけられた。
「い、痛いんだよ……」
「今は機嫌がいいからな、これぐらいで勘弁してやるよ」
男は笑いながらその場を立ち去った。
『はずれ』を見つけた時とは対照的に、上機嫌にだ。
「お前なんてずっと『はずれ』を見つければいいんだよ……」
私はその時、心の底からそう思った。
実際にそうなってしまえとさえ思った。
だから私は泣きながら叫んだ。
見えなくなった背中に―――
スライムの死骸を捨てる全て者に―――
「ずっと、ずっと『はずれ』を見つけてればいいんだ!!」
それからだった。私が宝箱に『はずれ』を入れるようになったのは―――




