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「随分と沢山釣ったわね」

「でしょー! 頑張ったんだよー!」

「どうしようかしら」


 お屋敷に戻ると困り顔のイロハさんが頭を悩ませてしまいます。

 ごめんなさい。流石に釣り過ぎました。

 こんなに沢山食べきれませんよね?


「ごめんなさい、楽しくて釣り過ぎてしまいました……」

「私も……………………楽しかった」


 この世界に来て早々、まさか釣りをするとは思わなかったがとても楽しかった。

 またやりたいなー。今度はみんなで! うん、絶対楽しいに違いない!


「心配なさらなくて大丈夫ですよ」

「そうね、どうせシロハが全部食べるでしょうし」

「任せてー! よーし! 美味しいご飯を作るからねー!」


 それでは私たちは調理をしますので、と三人揃って厨房へ向かうそうです。

 やっぱり厨房も大きいのでしょうか? 少し気になります。

 そんなことを思っているとイノリお姉ちゃんが服を掴んできます。


「どうかしたの? イノリお姉ちゃん」

「一緒に………………待つ」


 どうやら一緒に着いて来て欲しいそうです。

 厨房に着いて行きたかったですが、またの機会にしよう。


「うん!」

「こっち………………」


 掴むのを服ではなく俺の手にシフトし、案内をしてくれる。

 両開きの大きな扉、ここだろうか? 

 そう思っているとイノリお姉ちゃんが扉を開く―――。

 開けると長い大きなテーブルと沢山の椅子が目の前に広がります。


「ここ………………座って」

「ここですか?」


 屋敷の主を差し置いて上座に座れと言ってくる。

 それはちょっと心苦しいです。


「でもここは、イノリお姉ちゃんの席ですよね?」

「今日の………………主役」


 どうやら俺を歓迎してくれているらしい。

 でも本当にいいのだろうか?

 座っていいのか迷っていると、強引に座らせてくる。


「遠慮はいらない…………………」

「お言葉に甘えます」


 渋々、椅子に座る。多分一番いい椅子だろう。ふかふかだ。


「本…………………読む?」

「はい、是非!」


 どこからか取り出した本を私に渡してくれます。

 あっ! この本、あの時の『アリスと不思議な冒険』だ。

 実は気になっていました。丁度良いので読んでみることにします。


『アリスと不思議な冒険』


 鉄の塔が並び立つ不思議な世界。


 そこにアリスは、扉を開き迷い込みます。


 右も左も分からないアリスは、行く当てもなく彷徨います。


 ある時、アリスは大きなウサギさんに出会います。

「お嬢ちゃん、迷子かい?」

 ウサギは尋ねてきます。

「はい、ここがどこ分かりません」

 答えながら思わずウサギさんに触れてみます。

 表面は少し硬く、そしてふさふさです。

「お母さんやお父さんは?」

 再びウサギさんが尋ねてきます。

「どうしてそんなことを聞くの?」

 私がそう言うと、ウサギさんは困ったような声を出し始めます。

 どうしていいのか分からず固まっていると、真っ黒眼鏡の怖そうな男の人が現れます。

「いつまでサボってんだっ!!」

 私は突然の怒声が怖くて、無我夢中に走って逃げました。

 走って、走って、走って、気が付くと周りが暗くなっていました。

 とても怖いです、不安です。どうすればいいのでしょうか。

 そんな困っている時です。頭に布を巻き付けた男の人が声を掛けてきました。

「お嬢ちゃん迷子?」

 男の人はふらつきながら、ウサギさんと同じことを尋ねてきます。

「私をお家に帰してください!!」

 私は、怖くて、辛くて、訳も分からず男の人にお願いしていました。

 男の人は一瞬驚いた顔をしましたが、すぐに笑顔で、大丈夫だよ、と言ってくれます。

「本当に大丈夫?」

 私は涙目になりながら尋ねます。

「ああ、大丈夫だ! お兄ちゃんに任せて!」


 それが私とお兄ちゃんの出会いでした。



 ◇◇◇




「お待たせしましたお嬢様方」

「お待たせー! 美味しいのが出来たよー!」

「すぐに運びますね」


 本に夢中になっていると、どうやら料理が完成したようです。

 続きがとても気になるが、食事が先だ。

 読むのを止めて、目の前の料理に集中します。


「わぁ~!! とても美味しそう!!」


 テーブルに目を向けると、沢山のお魚料理などが色とりどりと並べられます。


「腕によりをかけたよー!」

「どうぞお召し上がりください」


 私はまず、アーユ―の塩焼きでしょうか? ともかく食べてみます。


「おいしい!」

「うん………………おいしい」

「それねー! シロハが焼いたんだよー!」


 シロハさんが自慢げに胸を張りながら、焼き方のコツを教えてくれます。

 確かに魚の皮がパリッとしていて塩加減も絶妙ですし、脂の乗りも最高です。

 こんなに美味しい焼き魚を食べたのは初めてかもしれない。

 だけど……、なぜだか寂しい。


「お口に合ったようで何よりです」

「皆さんは一緒に食べないんですか?」


 私がそう尋ねるとみんな困ったような顔をします。


「お嬢様方と一緒になんて恐れ多いです」

「私達はメイドだからねー、後で食べるよー!」

「お気になさらずにお召し上がりください」


 どうやら一緒には食べてくれないそうです。

 何だか申し訳なくなってきました……。

 こんだけ沢山の椅子も料理もあるのにおかしい気がします。そうだ!


「イノリお姉ちゃん! 私みんなと一緒に食べたいです!」

「釣りだって一緒にしたし、食べながらこの気持ちを分かち合いたいです!!」

「だから……我儘かもしれませんが……駄目ですか?」


 目を潤ませておねだりをしてみる。

 追加で可愛くお願いします……と懇願。

 これならばどうだ……。


「命令………………皆でご飯を食べる」

「イノリお姉ちゃん!」

「だから……………座る」


 イノリお姉ちゃんが目配せをすると、皆席に座ってくれる。


「……わかりました。ご一緒させて頂きます」

「ご飯ー! ご飯ー!」

「シロハは少し遠慮をしなさい!」


 メイドの皆が加わることにより、食事の場が賑やかになる。

 楽しいなー。あの頃は飯を食べるのも独りだったもんな

 あっ、だからか、こんなに必死になって一緒に食べたかったのは

 自分で自分に納得する。感情だけが先走って身体が動いたようだ。


「ごちそうさまー!」

「美味しかったです」

「お腹一杯…………………」


 食事が終わると、イロハさんとクロハさんは食べ終わった食器を片付け、厨房に持っていく。


「みんなで…………………楽しかった」

「そうですねー! シロハも温かいご飯が食べれて幸せですー!」

「これからは毎日…………………皆で食べる」

「やったー! これもアリスお嬢様のお陰だねー!」


 シロハさんが抱き着いてきます。

 お腹が一杯なのでちょっと苦しいです。


「うん………………アリスのお陰」

「そんな、むしろ突然我儘を言ってごめんなさい」

「なんで………………謝る?」

「そうだよー! シロハ感謝しているよ?」

「アリス…………………卑屈駄目」

「そうだよ! 悪くもないのに謝るのは卑屈な人間のすることだよー」


 謝るのは卑屈な人間のすること……か。

 そうか、社畜生活が染みついていたせいで謝るのが癖になっていた……。

 ああ……ここの人たちは本当に優しいな、そんな言葉を掛けられたら……。

 あれ……また涙が……、駄目だ、止められない……。


「……っ…ありがとうございます……っぅ」

「シロハ………………泣かせた」

「わ、私ですかー!」

「ぅっ……違うんです……嬉しくて」

「だから……ありがとう」


 せめて安心させようと精一杯の笑顔で感謝を伝える。

 俺、この世界に来てよかった。

 ありがとう、シロハさん、イノリお姉ちゃん。


「かわいい………………」

「イノリお嬢様!! アリスお嬢様をお持ち帰りしていいですかー!! 可愛すぎます!!」

「駄目…………………私の」

「そんなー!!」


 そんなやり取りをしていると二人が帰ってくる。


「食事も終わりましたし、お風呂にしましょうか?」

「みんなで………………入る」

「お風呂ー! お風呂ー!」

「お風呂も皆で、ですか?」

「みんなで楽しい………………命令」

「かしこまりました」


 あれ? これってもしかして?


「さあ、アリスお嬢様も参りましょう」


「えぇぇぇーーー!!!」


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