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多種族ばかりの傭兵団  作者: 竹永
23/27

ジャハーヌとの出会い その12

「この辺りは寂れてるわね、スラムに片足ツッコんでるじゃない、まあでも傭兵団の隠れ家らしいわ、あ、別に隠れてるわけじゃなかったんだっけ?」

「ああ、この辺りに……」

「でも人がいないのは良いわね、静かなところは好きよ、私、一応あんたに雇われている身だし、しばらくは住むことになるかもしないけど、私の部屋くらいは用意してくれるんでしょうね?」

「……着いたぞ」


このダークエルフについて少しわかってきた。

とにかくどうでもいいことをよくしゃべる。

おしゃべりとは少し違う。基本的にこちらのレスポンスはあまり期待していないようだ。本当にただ話すのが好きなだけなのだろう。


ジャハーヌのどうでもいい話を適当に聞き流している間にホームに着いた。


「ここ、あんたの家?」

「いや、空き家をそのまま使ってる」

「ふーん……埃っぽいわね、ちゃんと掃除くらいしなさいよ、団員はあんたとあのオーク以外の? こういうのは当番制にしときなさい、少なくともあんたが団長ならこのあたりしっかりしないと舐められるわよ? ……あ、でもなんかちょっとすでに舐められてたわね」


ホームの中に入っても、ジャハーヌのトークは止まらない。


俺は聞き流しながら二階に上がる。

ジャハーヌも独演会をしながらついてきた。


ペンテの私室のドアを開ける。

ベッドの上にはこんもりと盛り上がった布団があった。


俺はゆっくりと近づき、そっと布団をめくる。

ペンテが目つぶっていた。

あまりにも静かに目を閉じているので、一瞬こちらの心臓が凍りかけたが、寝息が聞こえてきたことですぐにホッとした。

よかった、ただ眠っているだけのようだ。


「もう時間はないわね」

「……え?」


横から覗き込むようにしてジャハーヌがペンテを見ていた。


「症状が落ち着いてるんじゃないのか?」

「違うわよ、抵抗すら力すら残ってないだけ、朝日は見れないかもね」


ジャハーヌの宣告は淡々としている。

先ほど『ドラゴンの前足亭』で『期限』を知ったが、それを実際に目の前にすると、もはや現実感が無くなってしまう。


「……明日までは持つって話じゃなかったか?」

「あくまで個人差の話だし例外もあるわ」

「……あっさり言ってくれるじゃないか」


俺はもう一度、ペンテを見た。

今、安らかに眠っているように見えるが、このままだとそのまま目を覚まさなくなるっていうのか。

ペンテシレイアとは出会ってからまだわずか一週間だ。


思い出らしい思い出もない。


出会い頭に狂霊憑きとなった馬車を切り倒して命を救ってもらったこととか、逆に俺が毒蛙の沼でこいつの命を救ってやったとか、その後大熊を素手殺したとか、初めて正当な報酬をもらったペンテは美味そうに飯を食ってたとか、予想以上にペンテは嫌われていて店に入るだけで嫌な顔をされるとか、そのたびに俺だけ謝罪してペンテは知らんぷりしてるとか……


……意図に反して、思い出そうとしたらといくらでも思い出が出てくる。


「……ボケッとしてると本当に死ぬだけよ」


ジャハーヌに言われて、俺の意識は表層に引き戻された。


「どうするの? 本格的に時間がないけど」

「……」


俺は窓の外を見た。すっかり夜のとばりが落ち、街を照らす光源は空に光る月と、建物から漏れるポツポツと灯る光だけだ。


「……おそらく、襲撃犯はエリスで間違いない」

「そうね」

「……そして、あいつが『毒』を持っているとすれば、下宿先である『ドラゴンの前足亭』のあいつの部屋だ」

「そうね」

「……おかみさんの協力は得られそうにない」

「そうね」

「……じゃあ、やることは一つだ」


俺の言わんとすることを察したらしく……というか、始めからジャハーヌはその気満々だったらしく、ふっと鼻で笑った。


「ジャハーヌ、暗殺者っていうからには潜入とかもできるか?」

「むしろ得意分野よ、私、ナイフ専門だもの」

「ナイフ専門?」

「対象に近づいて心臓を突くなり喉笛を裂くなりね」

「暗殺者ってのはだいたいそうじゃないのか?」

「そんなわけないでしょ、要は対象を殺せればいいんだから、殺す方法は限定されないわよ、魔法とか毒とか専門分野が違うと得意なことは違うわ」

「ジャハーヌは魔法も使ってたな」

「私のあれは母親からの形見みたいなものよ」


母親からの形見、か。あまりこの辺りの話はしない方が良いかもしれない。


「もう一度、『ドラゴンの前足亭』に向かうぞ」

「ええ」

「あと、もし潜入中に見つかったら、俺の事は放っておいていいから『毒』を見つけ出して、ペンテを治すことを優先してくれ」


これから行うのは住居不法侵入と窃盗だ。この世界に住居不法侵入罪なんてものがあるかは知らないが、窃盗罪は確実にあるだろう。

もしそれでおかみさんたちに見つかって捕まってしまった場合は仕方ない。罰は受けよう。領主に突き出されるだろうし、店も出禁されるだろう。

だがこちらの最終的な目標はペンテを救うことだ。それが達成されるのであればどんな罪でもなんでも受け入れようじゃないか。


「仮に見つかっても、無力化すればいいじゃない」

「無力化って具体的に何をするんだ?」

「別に殺しはしないわよ、ただ、喋れなくしたり、動けなくしたりするだけ」


ジャハーヌが短剣を弄んだ。


「……絶対何もするな、俺が何とか足止めするから、その間に探してくれ」

「それはなに、やっぱりあの店の人達は傷つけないって方針なわけね?」

「そういうことだ」

「あの店主のおばさんはあんたの仲間を見殺しする気みたいだったけど?」

「……それでもだ」

「あ、そう、まあそうして欲しいんならそうするわ、私はあくまであんたに雇われている立場だし、あんたの方針には可能な限り従うから」


話の分かる暗殺者で助かる。


俺はペンテに布団をかぶせ直した。




そして舞い戻ってきた『ドラゴンの前足亭』。

『ドラゴンの前足亭』は一階が大衆食堂、二階がおかみさんたちや従業員の下宿先となっている。

一階はまだ客たちが騒いでいるようだ。ちょうどいい。忍び込むとすれば、営業中……二階に誰もいないこの時間帯だ。


問題は誰にも見られずに下宿部屋に潜入することだが……


「どうやって二階まで行く?」

「普通に階段を昇ればいいじゃない」

「いや、簡単に言うな、中にはあんな客がいるんだし、誰にも見つからずに店の中を通って階段を昇るなんて無理だぞ」

「バカね、誰にも見つからない必要なんてないのよ」

「……どういうことだ?」

「怪しまれなければいいってことよ、それこそ私たちはただこの店の二階に上がるだけ、堂々としていればいいわ」

「だが、さすがにおかみさんたちに見つかれば咎められるんじゃないか?」

「そりゃあ関係者からは見つからないようにするわよ」


ジャハーヌとともに店の中に入る。

店の中を見渡すが……おかみさんとエリスの姿はない。厨房に引っ込んでいるか、休憩中なのか……


「……関係者見つからないようにするって、具体的にどうするんだ?」

「こうやるのよ」


ジャハーヌは手を払うような動作をした。

その瞬間、店の端にいて飲んだくれていたあのエルフ……レイブの椅子の足に炎がともる。炎自体はすぐ消えたが、火で燃えた椅子の足はすぐにガタンと壊れた。

バランスを崩して椅子から転げ落ちるレイブ。

その様子を見てキーロとブレストが笑い声を上げる。


「てめえら、何笑ってやがる!」


酒が入っていたからか、それとも元が短気なのか、レイブはすぐに沸点に到達し、自分を笑った仲間二人に掴みかかった。

そしてキーロとブレストも、やはりレイブと同じく酔っ払いのガラの悪い連中なわけで、すぐに喧嘩に発展した。


店内に明らかな怒号が混じり始めた結果、店中の客がそちらに注目し始める。

喧嘩を煽る者や、賭けの胴元が現れ始めた時、従業員たちが出張ってきて仲裁に入った。


「さあ、行くわよ」

「……今のは魔法か?」

「ええ」

「便利なものだな」

「こういうことくらいしか使えないけどね」


店中の客や従業員があの三人組に注目する中、俺たちは堂々と店の中を突っ切り、階段を昇って二階に向かった。



二階は簡素な造りで、一本の廊下を中心として、部屋が向かい合うように連なっている。


いくつかある部屋の中で、エリスの部屋を見つけるのは容易だった。ドアの前にネームプレートがかけられているのだ。


エリスの部屋の前に立ち、ドアに耳を当てる。

物音はしない。

下の食堂では姿が見えなかったが、部屋の中にいるわけではないようだ。


ドアノブを回すが、戸は開かない。


「まあ、鍵は閉められているよな……ジャハーヌ、開けられるか?」

「できるわよ」

「頼む」


さすが暗殺者だ。鍵開けの技能も習得しているようだ。

俺がドアの前からどくと、ジャハーヌは豪快な前蹴りでドアを蹴破った。


「……」

「どうしたの? 入るわよ」


あまりの事に呆けてしまった俺に、ジャハーヌは軽く声をかける。


「……俺は鍵開けとかできるかって聞いたつもりだったんだが」

「それも出来るけど、時間かかるのよね」

「いや、でもお前こんな派手にぶっ壊したら潜入したってすぐばれちまうぞ」

「『毒』を盗ったら、結局誰かが潜入したってばれるんだから、お行儀よく入ろうが乱暴に入ろうが結果はわらないわよ」

「……そんなものなのか」

「そんなものよ」


ジャハーヌは部屋に入った。俺も肩をすくめてその後に続く。



エリスの部屋は質素というか、物がほとんどない。ベッドにチェスト、それだけだ。

これは探す場所に困らなくて助かる。


俺はチェストの引き出しを開けた。

中には衣類などが入っている。


「ジャハーヌ、『毒』ってどんな形をしているんだ?」

「普通は箱に入っているわ、片手で掴めるくらいの大きさの」


衣類を手でどけてみるが、箱のような物は見当たらない。


ビリリと布を裂く音が聞こえた。

振り返ると、ジャハーヌがナイフでベッドを切り裂いているところだった。

そして、中に入っている藁を引っ張り出して部屋にぶちまけている。


「……お前、さっきから豪快だな?」

「は? あんたこそ何お行儀よく探してるのよ? 自分のお仲間が死にかけてるの忘れてない?」

「……!」


そうだった。何をやってるんだ俺は。

ペンテを救うため、あいつを殺そうとする暗殺者の部屋を探っている真っ最中なのだ。何を気を使う必要がある。


俺はチェストの中の衣類を全て部屋の床に放り投げた。

チェストの中を隅々と見てみるが、やはり箱はない。


「ジャハーヌ、こっちにはないぞ」

「ベッドにもないわね」


ジャハーヌによってベッドの中身の藁は全て出された。

部屋は藁と衣類で散乱している。


「ここにはないんじゃないか?」

「うーん……」


ジャハーヌは天井に目を向けると、ベッドの上に立った。


「ジャハーヌ、何をするんだ?」

「天井裏も確認するわ」


天井を短剣で壊し、木板を引っぺがす。

ある程度穴を作ると、ジャハーヌはジャンプをしてその中に入った。


「すごいな、家探しが手馴れる」

「それ褒めてるの?」


天井裏からくぐもった声が聞こえてくる。

もちろん褒めてるさ。ジャハーヌがいたおかげでこうして家探しが捗ってる。


天井裏に潜って数分が経った。そこまで広いわけではないだろうし、そろそろ探し終えてもいい頃だと思う。


「見つかったか?」

「……ないわね」


俺が声をかけると、ジャハーヌが穴から戻ってきた。

手をぱんぱんと叩く。相当埃っぽかったようだ。つばの広い帽子にも埃がついている。


俺はその帽子を取ると、埃をぱっぱと払った。


「あら、ありがとう、あんた意外と気を使えるのね」

「これくらいはやるさ」


ジャハーヌがいなければここまでたどり着けなかった。あともう一歩、何とかして『毒』を見つけなければならない。


俺は埃を叩いた帽子をジャハーヌの頭に戻した。

ジャハーヌはそれを少し傾ける。どうやら自分なりのお決まりの角度があるらしい。


「……しかし、参ったな、この部屋にはもしかしてないのか?」

「そうねえ……」

「他に隠し場所にできそうなところを探してみるか、他の部屋とか……」

「他の部屋にはおいてないと思うわ、あのマニュアル通りの事しかできない素人がそんな危険な事をするとは思えないし」

「そんなこと言っても、もう探すところはないぞ? 床下とかか?」


しかしここは二階だ。床下を引っ剥がしてもあるのは一階である。


「……」


ジャハーヌはしばらく考え、チェストに目をやると、引き出しを開けた。


「そこはもう俺が調べたぞ」

「……この引き出し、おかしいと思わない?」

「え?」


ジャハーヌは引き出しを戻し、今度は限界まで引き出しを開ける。


「チェストの奥行に対して、引き出しの長さが短いと思わない?」

「……確かに」


言われてみて気が付いた。

目測でもはっきりとわかる。チェストの奥行に比べて、引き出しの長さが数センチ分足りない。


「まさか……引き出しの奥に?」

「よくある仕掛けチェストね、アンタこんな子供だましに引っ掛かっていたの?」

「……家探しは始めなんだ」

「はっ」


俺の言い訳をジャハーヌは鼻で笑うと、短剣をチェストの裏面の継ぎ目に刃を突き立てた。

数回突き立て、継ぎ目を広げると、そのままチェストの裏面を破壊する。

予想通り、チェストの裏面に空間が現れた。

ジャハーヌはそこに手を突っ込む。


「よし、これで『毒』が手に入るんだな……」

「……」


ジャハーヌは顔を渋くさせる。


「どうした?」

「……何もないわね」

「え?」

「何もないわ」


残念ながら俺の聞き間違いではなかった。


「どういうことだ?」

「……ここに保管されていたのは間違いないわ、でも無くなってるわね」

「……気づかれて持って行かれた?」

「恐らくね」


ジャハーヌは手を引き抜くと、肩をすくめた。


「そういえば、店の方にエリスはいなかったが……逃げたか」

「そうでしょうね」

「……後を追おう!」

「待ちなさい、どこに行ったかわからないでしょ?」

「……二手に分かれる、一人が街の入口に向かって見張る、一人が街の中を探す、どうだ?」

「却下、あんたじゃ見つけても手出しできないじゃないでしょ」

「……じゃあどうするんだ」

「まあ、私に任せておきなさい、大体向こうの動きはわかるから」


向こうに先んじて動かれている感はあるが、なぜかジャハーヌは落ち着いている。今はこのジャハーヌの自信を信じるしかなさそうだ。時間はもうないわけだし。


「ひとまず、エリスを追うわ、多分もう街の外よ」

「わかった、すぐに行こう……」


俺がエリスの部屋を出ようとした時、部屋の外から足音が聞こえてきた。

階段の方だ。誰かが階段を昇って、二階に上がろうとしているらしい。


「まずいな、誰か来るぞ」


この部屋の主であるエリスが戻ってくるわけはないし、部屋に籠ってやり過ごすという

ことも出来ただろう……ドアが蹴破られていなければ。

さすがにこの壊れたドアを立てかけても誤魔化すことはできない。


「どうするか……」

「強行突破で脱出するしかないわね」

「待て、あまりこの店の人を傷つけたくない」

「じゃあどうするの? このまま大人しくてる?」


そうは言っていない。

幸いこの部屋には窓がある。


俺が窓を見ると、ジャハーヌが反応した。


「そこから出ろって?」

「そういうことだ、降りられるか?」

「それくらいはできるけど、あんたはできるの? あんたドンくさそうだし着地に失敗して逃げられなくなったってのはゴメンよ、そこまで面倒見きれないわ」

「……」


窓の外を見る。

二階ならばいける……かもしれない。正直二階から飛び降りたことなどないが、それでも下はコンクリートなどではなく地面なわけだし、足の骨が折れるとか、そこまでの大けがを負うことはないだろう。

危ないのは足をくじいてしまうことだが。


「ジャハーヌ、もし俺が動けなくなったら、その時は俺を見捨ててエリスを追ってくれ、そして『毒』を手に入れたらそれをペンテに処方してほしい」

「あんたがそうしてほしいのならそうするけど……言っとくけど、牢屋にぶち込まれたあんたを助けるのは私に依頼された仕事には含まれていないわよ、あのオークの子を助けるのまでは私の目的とも合致してるし最悪無報酬でもいいけど、そこから先は報酬がないとやらないわ」

「ホームの場所は覚えてるな? そこの中庭の一番大きな木の根元に俺の傭兵団の全財産を埋め込んである」


金庫なんて上等な物はうちの傭兵団にはない。

一応、玄関の鍵はかけられるが、そんなセキュリティもあってないようなものだ。結局のところ貴重品は「隠す」という原始的な自衛手段がない。


「そこから報酬貰って、あんたを助けろってことね、でも簡単にそんなことばらしていいのかしら? その全財産全部奪ってあんたの事なんか放っておくかもしれないけど」

「別にそれでもいい」

「……へえ?」

「俺の目的はペンテを治すことだ、ペンテが治るのなら全財産が無くなろうが関係ない」


全財産といっても微々たるものだ。一週間前まで無一文だったわけだし。はっきり言ってしまえば金よりもはるかにペンテの方が大事なのだ。


「……あんたもしかして、あのオークに惚れてる?」

「なんでそうなる」

「違うの? てっきり幼女趣味なのかと思ったけど」


だからなんでそうなるんだ。


なんてジャハーヌと話している間に、足音がこの部屋のすぐそばまで来ている。


「ジャハーヌ、早く行け」

「……」


しかし、ジャハーヌはなぜか動かない。


「ジャハーヌ? どうした?」

「傷つけなきゃいいのよね?」

「え?」

「まあ、傭兵でもない食堂の従業員程度の相手なら傷つけずに無力化くらいはできるでしょ」

「どういうことだ? そんな事よりもお前だけでも……」

「私でも、牢屋からあんたを救い出すのは厳しいのよね、こんな所と違って、警備もかなり厳重でしょうし、例え大金を積まれたとしても、物理的に無理だったら引き受けられないし」

「ジャハーヌ……」


もしかして、このダークエルフ、かなり義理堅い性格なのかもしれない。


足音が部屋の手前で止まる。


来るぞ、とジャハーヌに目で合図をすると、ジャハーヌは頷いた。


「……あんたらが欲しいものを持ってきたよ」


廊下から聞こえてきたのはおかみさんの声。明らかに、こちらに向かって話しかけている。


俺とジャハーヌは顔を見合わせた。


「……聞こえてるんだろ? アヤト」


俺が潜入したこともばれているようだ。


「……おかみさん、欲しいものっていうのは?」

「これが欲しいんじゃないのかい?」


おかみさんが壊れたドアの前にあらわれる。

その手には、片手で持てるくらいの木箱があった。


「ジャハーヌ……」

「……それ、こちらによこしてもらえる?」


おかみさんはジャハーヌに木箱を差し出した。

ジャハーヌは箱を受け取ると、それを開け、しばらく中身を凝視した後、ふたを閉じた。


「……本物のようね」

「マジか? それなら……いやちょっと待ってくれ、そもそもなんでおかみさんがそれを持ってるんだ?」

「……あんたのホームに案内連れていきな、これは今すぐあの子に使ってあげなきゃいけないんだろ?」


確かにそうだ。『毒』が手に入った以上、ここに長居は無用である。早くペンテの元に戻らなければ。


「あんたも聞きたいことがいろいろあるだろうけど、道中で全部話すよ……」


おかみさんは力なく言った。


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