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多種族ばかりの傭兵団  作者: 竹永
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ジャハーヌとの出会い その9

さて、といっても実際俺一人でできることなど限られている。

地道にエルフの暗殺者探しをする、というのはこの街に来たばかりの人間種ではかなり厳しいものだ。

だから、やはり他人に頼る。


「紹介して欲しい人材がいるんだが」

「それはつまり、傭兵の募集をするということですか?」

「そういうことだ」


ギルドの受付窓口に座るいつもの人間種の男性は棚から一冊のバインダーを取り出した。


今回の頼るべき相手はギルドである。

傭兵、および傭兵団に関わる一切の業務を請け負うこの機関ならば、俺の狙い通りの人材を紹介してくれるはずだ。


「この街に来たてで、暗殺を得意とするエルフ種を紹介してほしい」


餅は餅屋、暗殺者に対しては暗殺者で対抗する。

露店市場で出会ったマグナやジェーンの話を聞く限り、それが最良の手だろう。なんだったら、仲間にしたエルフ種から『禁忌の業』の特効薬が手に入るかもしれないし。


「そういうことでしたらご紹介できる人材はいません」


しかし、俺の考えとは裏腹に、受付の男性は開きかけたバインダーを棚に戻してしまった。


「え? な、なんでだ?」

「暗殺を生業とするエルフ種を紹介してほしいのですよね?」

「ああ……まさか、いないのか?」

「いません、そういう特殊な人材は、それぞれの共同体から紹介されて下さい」

「共同体……?」


『共同体』とは一体何だろうか。


「……同じ種族、同じ職業で作る組合の事です、ドワーフの職人共同体やエルフの暗殺者共同体などは有名だと思いますが……ご存じありませんでしたか?」

「……ご存じなかったな」


そんなものがあったとは。

確かにジェーンは閉鎖的な業界だと言ってたが、まさかこういう意味だったのか。


「共同体ってのはギルドとは全く違うものなのか? たとえば紹介状を作ってくれるとかして……」

「ギルドと暗殺者共同体に交流はありません、紹介状を作ることもできません」


受付はにべもない。

いつも通りの完璧なお役所対応だ。


「他にご用件は?」

「待て、本当にできないのか? エルフ種の暗殺者の紹介は」

「できませんね」

「……本当に誰もいないのか? ギルドに登録されている傭兵じゃなくてもいいんだ、なんだったらあんたが個人的に知っているやつでもいい」


何とか食い下がる。ここで諦めるわけにはいかない。

とにかく多くの傭兵と関わる『ギルドの受付』という仕事だ。もしかしたら、フリーの暗殺者に心当たりがあるかもしれない。


「私の個人的に知っている……?」

「頼む、その暗殺者共同体ってのは、俺でも利用できるようなものじゃないだろう、どうせ?」

「ええ、基本的に共同体は一見お断りです」


やっぱりな。名前からして部外者が関われるような組合ではないと察することができる。あいにくとエルフ種の暗殺者の知り合いなどいない。ジェーンは違うし、あのマグナという学者はもと暗殺者らしいが、この街でもう一度出会えるような奇跡は巡り合えないだろう。


ならば、薄い望みをかけてこの受付に頼るしかあるまい。


「……そうですね、ちょうど都合よく一人知っていますよ」

「マジでか!?」


正直、「知りません」、と容赦なく切り捨てられると思っていたので、その答えは予想外だった。


「だ、誰なんだ!?」

「……ただ、少しわけありですよ?」

「わけあり? どんな?」

「ギルドから傭兵団の創設禁止、傭兵登録の制限を受けています」

「……何かやらかしたのか?」

「ギルドの依頼案件を数回妨害しています、なのでギルドからの制裁措置ですね」

「なるほど、そんなことが……もしかして、ギルドに恨みかなにかが?」

「いえ、本人はそのこと知らずに依頼案件を妨害していたようです、暗殺者という家業は依頼主の命令が絶対ですから、依頼主がギルドの依頼と被っていることを承知の上でその暗殺者に命令を下していたようです」


本人はギルドに恨みなし。むしろ被害者的な立ち位置か。


「で、そいつはこの街に来たばかりのエルフ種の暗殺者なわけだな?」

「ええ」

「どこにいる?」

「傭兵団に入れるつもりですか? もしそうする場合、制裁が解除されるまであなたの傭兵団ごと監視処置を受けますが」


別に傭兵団に入れるつもりはない。ようは協力さえあおげればいいんだ。


「それと……これはギルドからの紹介ではありません、何かトラブルが起きたとしても、ギルドは一切の責任を負いません、当然、私個人もです」

「勿論だ、わかっている」

「そうですか、それで彼女がいる場所ですが……」


どうやら暗殺者は女性らしい。


「おそらくは、『ドラゴンの前足亭』にいるのではないですかね、口数の多い女性で、この街でご飯を食べられる場所を聞いてきたので、そこを紹介しておきました」


口数の多い女暗殺者、ね。


……あれ、なんだか最近そんなやつにあった気がするぞ。しかも、ちょうど俺とペンテがギルドの依頼をこなしている時に……


「それと、その女性を特徴ですが……」

「……黒いフリルの服を着てないか? つばの長い帽子に丸眼鏡をかけて」

「おや、お知り合いでしたか」


俺は肩をすくめてギルドを出た。


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