夕闇に迫る影ッ! 3
そんなこんなでホームルームも終わり、俺は今日も疲れたな、と、よたよたと教室を後にした。
階段をおり、下駄箱から自分の靴を取ろうと手を伸ばした時、
――ハラリ
何か四角いものが、俺の下駄箱から落ちた。
「……んだこりゃ」
拾い上げたそれは、汚れのひとつもなく、角のぴっしりとした手紙用の封筒だった。
「手紙……誰からだ……?」
――と、その瞬間、
「……あら兄さん、見慣れない物を持っていますね」
命の危険を感じた。ほんの30センチ先から。
「りりりりりり梨香っ!?」
まるで頬擦りをする寸前のように、かなり近い位置に梨香の顔があった。
「今日も一緒に帰ろうかと思ったんですけど……」
梨香の目付きが鋭い。眼力で俺を殺す気か。
「兄さん、それは何ですか?」
「う、うん、なんだろうな、何か連絡があるなら携帯か直接教えてくれればいいのにな!ハハハ」
「それは何ですか?」
「いや、本当梨香さんが気になるような物ではないと思うよ!?」
「それは、何ですか?」
ヤバい、俺死んだかもな……
梨香の目は鋭さをまし、今にも呪われるのではないかと思ってしまう。せっかくの可愛い顔が台無しだろう。
で、でもまだ梨香が思ってるような物じゃない可能性も――!
などというかすかな希望も、封筒の裏面が完全に玉砕した。
「兄さん……普通の連絡に兄さんはハートのシールで封しますか?」
「……しません」
そこからの俺の行動は決まっていた。
「命だけはお助けをヲヲヲヲヲッ!!」
通学鞄で頭を防御しながら、ほぼ土下座に近い格好をするという高度な体勢を繰り出す。
「いえ兄さん、私は兄さんを殺すなんてしませんよぉ」
「……ほ、本当か!?」
「はい、だって兄さんを殺したら私の生きる意味がなくなってしまうじゃないですか確かに私は兄さんを殺したいほど愛していると形容することが出来るかもしれませんしかし兄さんが私だけの物である間は兄さんも私だけを愛してくれる筈です仮に排除しなければいけないとしたらそれは――」
一瞬の間をおいて、
「相手の泥棒猫の方ですよねっ♪」
「いや誰も殺すなよっ!?」
猫のような、しかし雰囲気は獲物を狩る獣のそれで器用に笑顔を向けてくる。
て言うかどうやったらそんなアニメみたいに目からハイライト消せるんだよ!?
「兄さんは私だけのものですよ、代わりに私は兄さん専用ですけど……さぁ兄さん、その手紙を、いや、その汚物を早くこちらへ――」
「今のお前に渡したらとても危険な臭いがするんですが……」
「ならせめて相手の名前だけ教えて下さい♪」
「いや主にそれが渡せない原因なんだが!? ――あれ?」
外側の封筒には、名前もイニシャルも書かれていなかった。
中身を確認する。手紙の裏にも名前は書いてない。
ならば表か、早く教えてバーサーク梨香さんから離れるよう伝えなければ――
そして開いた瞬間、俺はその文面に凍りついた……