夕闇に迫る影ッ! 2
「ではーこれにて午後のほーむるーむを終了しまぁす。明日もまた各々色々頑張るよーにぃ」
教室に担任の井上那緒先生の、のほほんとした声が響く。
井上先生は2年前、つまり俺、健が入学した同時期に教員採用された先生だ。
年も25とまだまだ若く、茶髪がかったショートヘアーに整った顔、胸はあまり大きくはないが、スーツ越しからも形が分かる、いわゆる美乳と言うやつだ。
普通に街中を歩いていればモデルと間違われるほどの綺麗な容姿を持つが、性格ははっきり言って天然、どこか抜けた所がある。
なんか生徒から告白されたことがあるらしいという噂を聞いたことがあるが、今時そんなことをするやつが高校生にいるとは思えない。
「なぁなぁ、健もあの黒ストッキングに包まれた太ももの肉付きはたまんないと思うだろ?」
「……前言撤回、こいつなら今昔関係なく告りそうだわ」
「? 何の話だ?」
「お前の変態さにはついていけないって話だよ――太一」
後ろの席からかかってきた声――小野寺太一の声に適当に返事をする。
太一とは、2年生に上がってから同じクラスになったが、今では大変仲良しだ。
勉強はあれだが、スポーツ万能で、サッカー部では先輩をも圧倒するセンスだと聞いた。
顔立ちもよく、世にいうイケメンなのだが性格はと言うと……
「『変態』の一言で片付くよな」
「健よ、お前が心の中で何を思ってその答えに至ったのかはこの際置いとくが、変態は酷くないか!?」
……なぜ太一の性格を言っていると判ったんだろう……
「何かもっといいイメージで」
「え、じゃあ……残念系?」
「それも嫌だわ!!」
どうしろと言うのだ。
「とにかく! お前には分からないか? 井上先生から滲み出るお姉さん風の魅力が!」
「だってホームルームを毎日『各々色々』で片付ける人だぜ?」
「その整った見た目とは裏腹の乱雑さが垣間見える性格にギャップ萌えを感じないのか!?」
「あれってギャップ萌えだったのか!?」
「あの人ヤンデレにならないかなぁ」
「お前ギャルゲーやりすぎだよ!!」
「――おい健、俺らの話が最先端過ぎて彼女がついていけてないぞ」
気がつけば隣の席の加那がショートしていた。
「ぎゃ、ぎゃっぷもえ……? やんでれ……?」
「おーい加那さん大丈夫ですかー」
「かのじ……あぁ彼女は分かるわ……彼女っ!?」
「おい健! 彼女が頭から火ぃ吹いたぞ!!」
「お前わざとやってるだろ!?」
「タ、ケルハ、ギャップモエ、ヤンデレ……スキ……?」
「何か言葉覚えたてのロボットみたいになった!?」
「少しうるさいわよぉ健くん、太一くん。罰として課題追加ねぇ」
「「えぇ!?」」
教室に俺と太一の絶叫がこだました。