行ってきます。美香
学校に着いても授業中の教室は暑いし廊下に出ると寒い。
どちらを取っても考えようによっては二択とも地獄のようなものだ。
毎回お決まりのように売り切れの赤いランプを灯すコーンポタージュに一瞥をくれてやり二階にある下駄箱に行き、教室へと向かう。
その四階にある107教室のドアを横にスライドさせ今日も嫁探しが始まる。
薄暗い。パソコンのディスプレイが三台部屋を照らすもやはり足りない。
一昨日ほど前に一人あれを実行したのを確認した。
成功だったらしい。
こんな簡素な部屋もそれが成功すれば少しは変わるかもしれない。
先ずは何を請求しようか。パソコン、ドリンクサーバー、メイド、執事、欲しいモノが数多ある。
「まあ、今最優先で欲しいのは彼の実験の成功か」
クッションの上に落ち着かせていた体を持ち上げる。クッションが形を戻そうと膨らんでいくのが、何だか名残惜しさを感じさせる。
そんな誘惑をしないでくれ、俺だって労働は好きじゃないんだ。
よく言えば外回り、悪く言えば監視。
型崩れのしたこんなカッターシャツでも大丈夫だろうか。不格好だ。我ながらそう思う。
室内ならともかく、十分ほど経てば外だ。
クローゼットを開ける。
右にシワが濃く刻まれたカッターシャツ。左にはブレザーが五着、下にはカーディガンと未使用のカッターシャツが別々に籠にいれてある。チェックのズボンが折り目がきっちりと付けられその上に。そしてその上にベルト、マフラー、ネクタイ、手袋と続く。
まだ未使用のシャツから型紙を外し、袖を通すと新品独特のパリッとした感覚とは別にヒヤッとしたものを感じる。
外は五度から七度。ここらでは寒いほうだ。故にさっきまで着ていたものには体温が伝わるが、この氷のようなシャツには床の冷え切った温度しか伝わらない。
そこでふと気づく。シャツを着る前にヒートテックでも着ればいいじゃないか。
これば失念。壁に寄り添うようにして置かれている小振りな箪笥の下から三番目を開けヒートテックを取り出す。
黒と白、どちらにしようか迷ったが校則などという鎖がある事を思いだす。
結果的に白を選択する。
その他の身支度を済ませ、眼鏡をかけドアに触りガチャリと音をたてて開ける。振り向き巨大な水槽の方を見て、
「行ってきます。美香」
「だからさ、目玉焼きには塩なんだよ。塩。おーけー? メダマヤキ イズ ソルト」
目玉焼きは塩でできているのか。
「塩なんて口に入れたら直ぐに味がなくなるだろうが! 時代は醤油だ。わかったか、この野郎!」
今は平成じゃなくて醤油っていう年号だったのか。それは知らなかった。かなりふざけた名前だな。
英語が不十分なのが、皆森愛加。よく「ICカード」と言われるが、マナカをかざして改札を通れても、愛加をかざしても二枚の門番がすごい勢いで現れるだけだ。
口調が荒いのが喜多川俊二。声優さんではありません。以上。
「お前の意見は!?醤油だな!」
「馬鹿? 塩だよね」
いや、イヤイヤイヤ。もう少しで祭りみたいになりそうだけれども、家庭科の調理実習でそんなに議論することなのか?
「言いにくいんだが、俺は醤油……」
まだ言いかけなのに愛加が「イャッター!」と拳を突き上げ喜ぶ。
「……をかけた後に塩を振る」
「じゃあこれどうなるの?」とでも言いたげなキョトンとした視線を俺に愛加が俺に向けてくる。
俊二は、
「先に醤油かけてるから、醤油の勝利だー!」
と、叫んでいる。
それに対して愛加が反論して、それにまた俊二が意義を唱える。
こんな騒がしい家庭は嫌だけど、皆森愛加は一夫多妻制計画の一人だ。
二人の論戦を無視していつも通りに醤油かけ塩を振り箸で切り、口へ持っていく。途中半熟だった黄身がこぼれそうになったが、なんとか今はちゃんと口の中で咀嚼している。
でも、言っちゃ悪いんだけども、醤油って塩分多いんだよね。
遅い人と言いながら即効で出しました。
ですが、多分徐々に遅くなっていくかもしれません。のであしからず。
ここでキーを押す指を休めて、睡眠でもいかがでしょう?zzz……