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話の区切りが悪かったので、少し長めです。

 扉が開いた先に広がる広間には圧倒的な威圧感を放つ存在がいた。ぎろり、と魔族特有の赤い瞳が美女と勇者を捉え、にまりと面白そうに口元が歪む。

『む……お前は我が捕らえた人間か』

 おどろおどろしい声音は勇者の頭の中に直接響いてくる。実際言葉を発しているのではなく、意識を伝えるような魔法を使っているのだろう。魔王の前に立ち、美女は魔王を睨んだ。

「はっ、あのときの屈辱晴らさせてもらうぞ!」

『お前に我が倒せるのか? 一人ではあの部屋から出ることもかなわなかったお前に。しかもまだ我がかけた魔法を一つ解いたきりではないか。もう一つは解かなくてよいのか?』

 魔王は美女を小馬鹿にするような調子で挑発する。完全に放つ言葉には嘲笑の色が透けて見え、美女の方はそれに貴様、と声を上げる。空気が緊迫し、まさに因縁の対決といった雰囲気が漂っているというのに、しかし勇者はそんな真剣な空気など空気などやはり読んじゃいなかった。

「こんな薄汚い獣にハーレムなんて勿体ないです!」

 仮にも魔王を指差して叫ぶ台詞ではないそれを高らかに宣まう勇者に、完全にその場の空気が壊れる。確かに魔王と呼ばれた存在は人型ではなく、どころか灰色の毛並みを持った巨大且つ獰猛な外見の生物なのだが、その相手に向かって薄汚い獣などと言える存在がどれだけいようか。

魔王に煽られた怒りを削がれた美女は、何度も突っ込み続けるうちにとうとう慣れたらしく冷静に言葉を投げかける。

「だからハーレムじゃなくて食糧なんだが……」

 問題はそこではない。とうとう突っ込みの中にボケを織り交ぜ始めた美女に、しかし勇者の勢いは収まらない。

「いいですかケダモノ! 女性を囲ってハーレムにする美男子でも勿論私は許しませんが、女を食料扱いする獣のために女性が悲しむだなんて本当欠片も許せません! 誰が許そうとも私が許さないです! っていうかこの世に雄も男もいりません!」

「……つうか聞いちゃいねえな」

『……このみょうちくりんな騒がしいのは何だ』

 魔王ですら声音に呆れを滲ませている。だがそれが気に入ったのか、魔王を相手にふざけたことを述べるものだ、と魔王は嗜虐的な笑みで勇者を見る。女性である勇者ならばそれなりに美味だろうかと値踏みしているのかもしれない。

 二人分の呆れの視線を一身に受け止めながらも、勇者は全く意に介さず、腰に佩いた剣の柄を手に取った。手慣れた動作に魔王はそれまでの態度からす、と戦闘態勢を取る。戦闘態勢といっても獣なので大した体勢ではないが。

『ふ、我に剣で歯向かおうなど大した小娘だ。我の体は鋼鉄よりも硬い。人間の剣ごときがどうこうできるものでは』

 勇者は駆け出し魔王に近づき、そのまま滑らかな動作で鞘から抜いた剣を振り下ろす。ずどん、と理解しがたい轟音が鳴り響き、広間の床が割れた。

「……」

『……』

 それを見て凍りついたのは魔王と美女だ。どう考えても背は高めではあるが細身の女性から繰り出される力という水準を超えている。美女などは頬が引き攣っている。

そんなものはやはり気にしないのが勇者だ。攻撃が避けられたから、と二度目の攻勢に入っている。

「私のハーレム形成の為に成敗されて下さいっ!」

 勇者の剣に、今度は魔王も油断などしなかった。つまりは勇者の剣は魔王の体すら打ち砕ける、とそういうことだ。

 俊敏な動きで勇者の剣を避け、その動きのまま滑らかに勇者への反攻へと転じる。勇者の細い首に迫る魔王の鋭い牙を、しかし放たれた光線が弾く。光線の先にいるのは美女、人差し指を魔王に向け鋭い視線で魔王を捉えている。

 その光線に気を取られた魔王に、勇者が再度攻めかかる。勇者を援護するように、美女は魔王の放つ勇者への攻撃をその卓越した魔術で阻んでいく。初の共闘であるにも拘らず、勇者と美女は完璧なチームワークを誇っているといえた。

 二対一とはいえ個々の力は魔王に大きく遅れを取るはずの種族であるが、そんなことを感じさせないほど二人は魔王と対等に、いや、寧ろ優位にすら立てている。

そして、ついにその瞬間がやってくる。美女の魔法が魔王を撹乱し、その隙をついての勇者の剣が魔王を背から一突きにする。魔王の心臓を過たず貫いた剣を勇者が押し込める。傷口から緑色の液体が飛び散ったが、勇者は冷静だった。

 魔王の体が大きく揺らぐ。地に倒れ大地を震わせたその巨体は、やがて輝く光の欠片となり空に融けて行く。それと同時に魔王城も消え去り、気がつけば青々とした広い平原が足元に広がっていた。

 魔王を滅ぼしたことで、魔王が作り上げた魔法は全て解けたらしい。魔物の姿すらそこにはなかった。ただ生命が謳歌する空間だけが広がっている。

 閉じ込められていたらしい若い娘達も解放され、草原の上で己の身に起こったことに困惑している。皆が突然の解放に驚きながらも、それでも己を待つ婚約者の許へと歩むべく、手を取りその場から立ち去っていく。

 勇者はそれを少し切ない想いで見送った。顔を見たのも今が初めてだが、身寄りがなければハーレムに加えたかったのに、と思えるほどの美女ばかり。だが、勇者はそこでふ、と笑んだ。

 勇者にはまだいるではないか。契約を結ぶことが出来たとびきりの美女が。

 その辺りで勇者は漸く勝利の実感が湧いてきた。

 勝った。勝ったのだ。勇者は達成感に心を震わせた。魔王を倒した。これで美女との契約が発動する。ハーレムだ。勇者のハーレムの第一歩が今踏み出されるのだ。

 そう思ったとき、勇者に声をかける者があった。

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