表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/8

お気に入り登録ありがとうございます。思わず我が目を疑った……!

 結局、勇者の望みは折衷案で以て叶えられることとなった。折角魔王に攫われた女性達が助けられるというのに、その代わりに新たに別の者のハーレムに加えられることなど当人も家族も望みはすまい、ということで身寄りがない者だけ貰い受けることが許されたのだ。

 勇者は少し不満に思ったが、確かに家族と麗しい女性を引き離すのは不憫かと気がつき、その案に渋々承諾した。国王を初めとする面々はほう、と安堵のため息をついたが、勿論勇者はそれを知らない。

 そうして、今勇者は魔王城に潜入している。ここに来るまでは大変だった、と勇者は思う。何しろ道中の村や町で魔物が暴れていれば、勇者として戦わなければならないものだから、勇者はその務めをきちんと果たしていった。だが、勇者がいらないといっているのに村人や町人は一々勇者に感謝の念を表したがり、祝いを開いてくれた。

 別に勇者とてそれだけなら嫌な思いなどしなかったのだが、問題はその場にいる人間である。魔王軍によって美しい娘は多くが攫われてしまっており、残っているのは年配の女性か男ばかり。つまり、本当に勇者に感謝している彼らに全く罪はないのだが、勇者は全く祝われている気がしなかった。

 いくら見目が比較的麗しかろうが男を十人呼ぶのなら、たった一人でも可回らないから美しい娘がいい。そう考える勇者にとってはそれを行く先々の村で繰り返されて贅沢な悩みだといわれようとも、拷問に等しかったという訳だ。その度勇者はその遣る瀬無さを魔王への怒りに変え、何とか頑張ってきた。

 因みに、同じ理由で勇者は供を連れていない。何が悲しくて男を連れて歩かなければならないのか分からなかったし、彼女が知らないだけかもしれないが強い女はどうにも容姿が彼女好みでなかった。

 そういうわけで漸く彼女の求めるハーレムがある念願の城へと入ったのはいいのだが、余りに広すぎて魔王がどこにいるのか分からない。そもそもにして田舎者の勇者は勇者の国の城すら勇者になるそのとき以外入ったことがないのだから、況して他の城の構造など分かる訳もなかった。

 気の向くままに魔王城をあちこち歩きまわっていた勇者だが、狭い螺旋階段を上っている最中、上下から聞こえてきた足音に体を強張らせた。

 当然魔王とつこうが城なのだから魔物が何匹もいることは当たり前だ。それまですれ違わなかったのが不思議だったくらいなのだが、ただの廊下ならばともかく今ここで敵が現れるのは勇者にとって都合が悪すぎた。

 勇者の武器は長剣だ。女性にしては背が高めの勇者だからこそ扱える武器である。だが、この狭い階段ではその武器を扱うには幅が足りない。剣を抜くことすら叶わないだろうし、挟み撃ちにされてしまう。元々螺旋階段とはそのためのものであるのだが。

 考えている間にも足音は着々と近づいてき、どうしよう、と勇者にしては珍しく思考も纏まらないほどに焦っていたそのときだった。

 すっと背後から手が伸び勇者の腕を掴み、引き込む。完全に予想外の力に勇者の体は抵抗なしに引っ張られ、静かに扉が正面で閉められるのを見た。

 どうやら、螺旋階段の途中の壁に面した部屋の一つに匿われたらしい、と勇者が気がついたのは扉の向こうで足音が二つ近付き、そして離れていくのを聞いた後だ。そのときになって初めて勇者は自身のいた階段の中ほどに扉があったことを知った。

 暫くの間目の前の扉を茫然と見ていた勇者の耳に、凛とした声が届いた。

「お前、見ない顔だが何者だ?」

 その声にばっと振り返れば、勇者は己の目を疑いたくなるほどの美をそこに見た。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ