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第1章 第2話 ”少年と少女の現在”

「け、結構たくさん買うんだね・・・これ、全部君ひとりで持つつもりだったの・・・?」


私の右斜め後ろを歩く 荷物の塊(ネロ) が苦しげに声を上げる。


「普段から、このくらい買いますよ? ウチ、お店やってまして・・・お昼ご飯と夜ご飯はそこで働いてくれている職人さんの分も作りますから、いっぱい材料が必要なんですよ」


普通の人ならもてないほどの量なのに・・・ネロって、案外力持ちなんだなぁ・・・


「失礼かもしれないけど、見かけによらず力持ちなんだね、クーアって」

「それを言ったら、ネロだってすごいですよ 普通の大人の人だって音を上げる量でしょう?」


そう、私はもともと普通の子供ではなかった。小さいころから、筋力が人並み外れて強かったのだ。

本気でジャンプすると家の屋根にも手が届くほどの脚力があった私は、それはそれは両親を困らせたらしい。


「僕は一応、傭兵をやってるからね このくらいできないと、生きていけないよ」

「へぇ・・・傭兵・・・ですか」


私の住む町・・・というか村の周りにはほとんど何もないが、唯一の隣町であるシリアの町は、あまり大きくないとはいえ港町である。

交易のためとか、移住のためとか・・・時には武者修行、なんて妙な理由の人もいるが、結構な数の人の出入りがあるのだが、このシリア、実はそんなに大きくない。

結果、たくさん訪れた内の幾人かは私の住む村、リーゼに流れてくるのだ。


「ここって、比較的色んな職業の人が来るところですけど・・・傭兵をやってる方は初めてですね」

「まあ、ここは平和なところみたいだからね 僕も、今回は仕事で来たわけじゃないしね」


ふとネロの腰に目を落とすと、そこには不思議な模様が(つば)の部分に刻まれた長めの剣・・・ロングソードが一本。

一見すると特別貴重なものとかではないみたいだけど、握り手の部分の傷み方からわかる。

ネロは、幾度となくこの剣を握ってるんだって。


「じゃあ、どうしてこの村に?」

「実は・・・その・・・人を、探しにね」


・・・ん? なんだろう、この奥歯に物が挟まったみたいな言い方

ストレートに人を探してるでいいんじゃないかな・・・なんか、かっこいい理由だし

ああ・・・乙女心が刺激されて、さまざまな妄想が頭の中をよぎる・・・


「生き別れた恋人さんですか・・・それとも、子供のころに生き別れたご両親とか・・・?」

「・・・シリアの港ではぐれた、僕の師匠です・・・」


・・・・・ああ、なるほど


「それでそんな言いにくそうに・・・」

「僕も情けなくて涙が出てきそうだよ・・・」

「ネロの師匠ってことは、もう大人の方ですよね? え、それって迷子ならぬ迷大人・・・?」


ああ・・・なんかネロが小さく見える・・・


「あ、あの・・・人探しも大事ですけど、宿はとりましたか!?」


この話題を長く続けちゃいけない気がする。そう思った私は即座にほかの話題に切り替える。


「え、宿? まだとってないけど・・・」

「ネロ、今日の船でシリアに来たんですよね? それだと、確実に宿はいっぱいになってますよ?」

「それはまいったな・・・そうか、そういえば港でそんなことを言われたような・・・」


頭がいっぱいになってて気づかなかった・・・というため息交じりのセリフとともに、重いため息をついた。


「仕方ない、今日は野宿でも・・・」

「ウチでよろしければ、泊まっていきませんか? もちろん、両親にも聞かなきゃいけませんけど・・・」


あの二人なら、たいていのことは許可してくれると思う。

なにより、ネロには重い荷物を持ってもらった恩もあるし・・・


「でも・・・いいのかい?」

「私と、妹は間違いなく喜ぶと思いますよ あの子、いっつも外にあこがれてますから」


そう、妹が喜ぶというのが大きな理由の一つでもある。

私や両親、工場の職人さんたちが生きている世界だけではあの子の好奇心は満たしきれない。

きっと、あの子はネロの話に夢中で聞き入るだろう。そして子供のころ、おとぎ話を読んであげた時のような満面の笑みを浮かべてくれるだろう。


「ネロが見てきた世界のお話、あの子にしてあげてください・・・ダメですか?」

「・・・・・・僕のできる範囲でなら、喜んで」


なぜか私の顔を見てから穏やかな笑みを浮かべるネロ。やだな、なんかさっきぶつかったときのことを思い出しそうだ。

おそらく、うっすら赤くなっているであろう頬を隠すため抱えている紙袋に軽く顔を押し付けてみる。


「あっと・・・ここの路地を入ってもらって突き当たりを左に・・・はい、その奥が私の家です」


いろいろと話しているうちに、家にたどり着いていた。

ネロから荷物を預かり、そのままそこで待ってもらいつつ家に入り両親に許可をとってみた。

結果、二つ返事で許可をもらった。

・・・・・・・・おとーさん、仮にも年頃の娘が近い年頃の男の子を家に泊めてほしいって言ってるんだよ?もちろん変な気なんてないけどさ、もう少し焦ってくれてもいいんじゃないかな?


父親に対するわずかな疑問を胸にしまいこみ、ネロのもとへと向かう。


「やっぱり一発オッケーでした。 大したおもてなしもできませんが、家でよければ・・・だそうです」


もちろん、これはねつ造だ。

お母さんと妹が出かけており、あの父親しかいない我が家においてこのような常識的な言葉を発することができる人間は存在しない。


「ありがとう・・・それじゃあ、お言葉に甘えさせてもらうよ」


ネロが深々と頭を下げてくる。

そう丁重にされるとなんだか居心地が悪くなってしまって、感謝の言葉になんの言葉も返せないまま私はクルリとうしろを・・・


「もっと何かないんですか? 感謝の気持ちを表すには、あまりにありきたりすぎるんじゃないですか?」


・・・・・・・・・あれ?

私の・・・声? 今後ろから聞こえたよ? しかもほぼ初対面の私が投げかけるべきではないような高飛車なセリフをネロに投げかけてたような・・・?


「ち、ちがっ・・・! 私、そんなひどいこと言ったりしな・・・っ!」

「そうですね・・・とりあえず、有り金全部おいていってください」


な、な、な、なにこれぇ!?

私の口?が勝手に動いてるとしか思えない。こんなこと、思ってもいないはずなのに・・・


「違います! ネロ、信じてください 私、こんなこと思ったことないです!」

「大丈夫、わかってるよクーア 君じゃないってことも・・・ですよね、先生?」

「ばれちゃいましたか・・・・・・それは、仕方がありませんねぇ」


え?・・・せ、先生?

っていうか、この声いったい誰? 今まで私のそっくりだったのに・・・急に、大人の男の人の声に・・・


「クーア、紹介するよ このいたずら好きなおっさんが僕の先生だよ」

「辛辣な紹介ですねぇ・・・始めましてお嬢さん、私はヴァン・エル・フェンネルと申します」


ふと、ネロの左斜め後ろに目をやるとそこには茶色の髪を無造作になびかせた一人の男性・・・というか、おじさん・・・?


「これでも三十代なので、おじさんはちょっと・・・」

「え、あ、すみません!」


・・・あれ?なんで口に出してもないのにわかったんだろう、この人


「さて・・・どうしてネロはこの村に? てっきり、まだ港町で私を探し回ってるもんだとばかり・・・」

「僕だって学習しますから 基本的に、先生は僕をからかうために失踪しているんだと考えれば、同じ町にとどまっているはずがないと思うのは当然です」

「いい判断です 実戦でもそれを生かして頑張ってくださいね」


・・・・・なんだろう、この師弟 こんなんで本当に仲良く旅してるんだろうか?


「ところで、こちらのお宅に泊めていただくことになったというのは本当ですか?」

「ええ、まあ・・・クーア この人も泊めていただいても大丈夫かな?」

「ええっと・・・お父さん曰く『何人でも連れてこい、酒が飲める奴なら大歓迎だ!』・・・だ、そうです」


普段ならデリカシーとか礼儀とかを全く考慮に入れないお父さんの発言は人様には公開せず、自分の内で作った礼儀正しい建前を話すところだが、こういう風に気兼ねを感じさせないという点においてはお父さんの発言は素晴らしいと思う。

だから結局、ここぞという時にはお父さんの発言に助けられることも少なくないのだ。


「いやぁ・・・ありがたいですねぇ ちなみに、お義父さまはお酒は強い方ですか?」

「ええと・・・はい、結構強いみたいです よく飲んでますよ、一人で」


・・・なんかニュアンスというか響きに変なものがこもっているような気がするけど・・・ここは流しておこう。

追及すると、この人はなんだか面倒くさそうな気がする。


「それは楽しみです・・・ネロ、クーアさん あなたたちも一緒にいかがですか?」

「あまり強くないので遠慮しておきます・・・ネロは、どうなんですか?」

「僕は飲めるけど・・・今夜は遠慮しておきますよ クーアとの約束もありますし」


・・・あ、さっきのお願いのことかな?

うん、こういうところで誠実な人って信頼できそうだ。


「おやぁ・・・いつの間にそんな関係まで・・・?」

「クーア、やっぱり僕一人だけでいいや この人は野宿するってさ」

「あ、冗談ですよもちろん いやですねぇ、わかっているくせに、本気にしないで下さいよぉ」

「私の声でしゃべるのやめてください!」


やたら似てるのがまたむかつく・・・

はぁ・・・なんでこんな人のお弟子さんやってて、こんなまっとうな人になったんだろう、ネロって


「反面教師だからじゃないかな?」

「反面教師だからでしょうねぇ」

「心の中を読まないでください! もう!・・・・・まあいっか それじゃあ、ご案内しますね」


なんだか色んな事がおこりそうだなぁ・・・でもまあ、退屈だけはしないで済みそうだし、いっか

ネロとヴァンさんを引き連れ、長年住み慣れた家に入っていく。

きっと、もうすぐお母さんと妹も帰ってくるだろうし・・・そしたら料理、頑張らなきゃ!

これから先、できる限り10日おきの更新を心がけるよう頑張ります。

この作品を読んでくださっている方は、お付き合いよろしくお願いします。

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