とある長命種
「客人よ。せっかく訪れたのに申し訳ないがすぐにここを立ち去るべきだ」
古より伝わる深い森の中。
僕はようやく出会った神話の世界の住民に開口一言で拒絶された。
「我らエルフは人間を好まぬ。命の保証は出来ない」
「何故ですか」
問いかける。
しかしエルフは首を振る。
神話の通りに絵画のように美しい姿を。
風が吹く自然さと共に静かに動かし。
完成を想起させる迷いもなく。
それ故に決して覆らないのだと分かる。
「……客人よ。幾つか質問をしたい」
「はい。何でしょうか」
「人間が知るエルフの特徴を述べてほしい」
奇妙な質問だ。
しかし、もしかしたら何か分かるかもしれない。
僕は知る限りのことを伝える。
「不死に近い寿命を持つと聞きます」
「その通りだ。我らは不死に近い寿命を持つ。私もまた万を超える時間を過ごしている。他の者もまた」
その言葉に呼応するかのように森の隙間から幾人かのエルフが顔を出す。
神話の通りだ。
皆が美しい。
「……人と比して。皆が美しい姿形を持っていると聞きます」
「美醜のことは分からない。しかし、皆が同じ姿形をしている」
僕からすれば確かに皆が同じ姿形に見える。
だが、それはきっと僕がエルフと出会った事が初めてだからだろう。
「そして。人が既に失った魔法を用いることが出来ると聞きます」
「違う。私達は魔法を使えるのではない。人間よりもずっと世界に詳しいだけだ」
言うと同時に僕と話していたエルフは握っていた杖を上空に向けた。
それが何を意味するのかも分からない内に雷が落ちたかのような音が響き、空を飛んでいた鳥が一羽命を失い落ちてきた。
「稲妻の魔法?」
辺りに漂う奇妙な臭い。
それが何かを僕は知らない。
「違う。魔法ではない。科学だ」
「科学?」
問い返すとエルフは小さく肩を竦めた。
「そうか。この言葉を知らないのか」
「えっ? あっ、はい」
すると幾分かエルフの態度が柔らかくなった。
微笑みを浮かべている。
「ならば一つだけ教えよう。人間は私の知る限り、何度も隆盛と滅亡を繰り返している――我らと同じ『科学』を用いて」
「『科学』……」
「あぁ。人間は加減を知らない。だが、魔法を信じている程度が丁度良いと思わずにいられないのだがな」
僕の鼻を何かの香りがくすぐる。
まるでエルフの方から漂ってくるようだ。
これも魔法だろうか?
いや、それとも『科学』とやらだろうか?
「客人よ。早く去れ」
「何故ですか?」
「無知であると知った上で。我らはやはり人間を好ましく思えない」
強い拒絶。
固まる僕にエルフは言った。
「だが。一つだけ教えよう。我らが人間を嫌う理由。それは――人間が我らを奴隷として作ったからだ」
エルフは先ほど落ちてきた鳥を拾い上げると僕に近づいて手渡した。
「せめてもの土産だ」
「……ありがとう」
一瞬、触れた手が。
あまりにも冷たい。
まるで血が通っていないように。
「さらばだ。客人よ」
以後。
僕は二度とエルフに会うことはなかった。
*
その日。
僕は夢を見た。
奇妙な道具に囲まれた部屋。
これはエルフが言っていた『科学』の道具だろうか?
その中に雪よりも白いコートのような物を纏った人間が幾人も。
『新型のロボットは人間の形にしよう』
聞いたことのない言葉を交わしている。
『せっかくだ。全て美しく作ろう』
『買い替えの必要がないよう半永久的に動くようにしよう』
会話の内容は理解出来なかった。
――何となしに。
理解しない方が良いのだと思った。
『いっそ。エルフと名付けるか』
『面白いな。この時代に物語の存在を作るなんて』
『だが合理的だろう? ロボットより人間らしく。それでいて人間でないなんて』
『美しさも、劣化に対する耐性も、全部が全部まさにエルフだな』
『人をリラックスさせるためにハーブの香りを漂わせる機能も作ろう』
僕はこの日の夢をいつの間にか忘れていた。
きっと、それで良いのだと思った。
『いい加減。命を作れるようにしてほしいもんだがな――』




