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無言の魔女と消えゆくインク  作者: お試し丸
4/5

第4話 代償の影

夕暮れの聖灰学院。

赤く染まる空が、石造りの塔や廊下をオレンジ色に染めていた。

セリナは図書館の窓際に座り、手帳を開く。


ページには、まだ見ぬ文字が微かに浮かんでいる。

――前回書き込んだ代償の記憶は、誰かの心の片隅に静かに残ったまま。

それを思うと、胸が少し痛む。


「セリナ、大丈夫?」


結の声。論理的で落ち着いた彼女は、少しだけ心配そうにこちらを見つめる。

セリナは微かに目で応える。声はなくとも、意思は伝わる。


「……」


リンも席に座り、手元の薬草の本をぱらりとめくる。

「今日は代償のこと、考えてるの?」

無邪気そうに見えて、彼女もまた魔法の代償の重さを理解している。


セリナは手帳を広げ、黒いインクのペンを握った。

文字は生きている。書けば書くほど、世界がほんの少しだけ揺れる。


――『次の断片は、孤独の中に』


文字は、どこか冷たく、孤独を映すように光った。

セリナは覚悟を決める。代償を恐れてはいけない。

守るべき人のために、書き続けるしかないのだ。


廊下を歩く足音。

それは蒼崎だった。謎めいた青年教師は、ゆっくりとセリナのそばに来て、ページを覗き込む。


「その手帳……危険だ。君だけでは扱えない代物だ」

低く響く声に、セリナは目で答える。

言葉はなくても、意思は強い。


「でも、書くしかないの」

心の中でそうつぶやき、ペンを握る。

ページに触れると、文字が光り、消えた声の断片が浮かび上がった。


――『あの日の約束、覚えているか』


セリナの胸に、かつての記憶の影が差し込む。

手帳は導く。彼女に選択を迫る――代償を受け入れる覚悟があるかと。


黒いインクは、一頁分の記憶を奪う。

セリナは迷わず書き込む。

その瞬間、世界の一部が静かに変わった。


「……やっと、少しわかった」


セリナは目を閉じ、代償の影を胸に刻む。

その痛みは、決して無駄ではない。

失われた声の断片は、少しずつだが確かに近づいているのだ。


結とリンはそっと手を握り、セリナを見守る。

三人の絆が、静かに深まっていった。


夜が訪れるころ、手帳のページはまた微かに震え、次の文字を浮かび上がらせる。


――『真実はまだ、影の中にある』


セリナは目を開き、深呼吸した。

この先に待つ代償と奇跡の両方に、心を構えながら。


物語は、まだほんの序章に過ぎなかった。

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