24 思《おも》い出《で》があったばしょ
「ついたぞ、マコト。ここだ」
神社からしばらく歩いたところで、雪路がとまった。
「…………ここ? ほんとに? 道まちがえてない?」
私の目の前にあるのはコインパーキング。
スマホのマップアプリでたしかめても、コインパーキングのマークがついている。
「わしはまちがえておらん!」
「うーん……」
ユカリちゃんは、おやどもうないって言ってたから、かくごはしていたけれど。ほんとうになんにもなくなってる。
やどがなくなったのはここ一、二年のはなしじゃないんだ。
雪路がちょっとねていたら百五十年たっていたっていってたくらいだし、あやかしのいうちょっとは、人間とちがう。
やどさのものはなくなってしまったとしても、まわりはそうじゃない。やどのこと、長くこのあたりに住んでる人ならわかるかも。
雪路のリードをすぐ近くのポールにくくりつけて、そばにある、【江戸前みそ 百六十年の味】というのぼりがたっているお店に入った。
「ごめんください」
引き戸をあけて声をかけると、おばあちゃんが出てきた。
「おやまあ、かわいらしいお客さんだね」
「あの。へんなこときいてごめんなさい。このへんにあった、明治時代からやってた、古いおやどのことしりたいんです」
おばあちゃんは目を細めてわらう。
「さかえやさんのことだね。もう十年もまえにやめたよ。やどの主人とおかみさんが病気でたおれて、息子さんたちだれもあとをつぎたくないって言ってね。見ての通り、駐車場になっちまってる。さみしいもんさ」
「そうなんだ…………」
ツクモ神に会ったあとだからかな。
いらないって言われてつぶされちゃったおやどの話はなんだか悲しい。
うちも食堂をやってるから、やどをきりもりするのもすごくたいへんだってわかる。
息子さんがつげないのも、じじょうがあると思う。
「どうしてさかえやさんのことを知りたかったんだい?」
「……ええと、しんせきの子がむかし、さかえやさんでおみそ汁を食べたらしくて。すごくおいしかったからまた食べたいって言ってるの。やどのこと知ってる人がいたら、なにかわかるかなと思って」
「おみそならわかるよ。さかえやさんは、むかしからうちのみそを使ってくれていたからね。わたしのひいばあさんの時からの付き合いさね」
「ほんと!? じゃあ、そのおみそをください!」
当時のままの味をうけついだおみそ。
「おやどで出してたのは、どんなおみそ汁だったかわかる?」
「さかえやはむかしから、とうふ料理で人気があったんだ。汁ものにもとうふを使っていたよ」
「とうふのみそ汁か。ありがとう!」
お会計をすませて、リュックにみその包みを入れる。雪路のリードをつかんでいざ家路。
「あ、まちなさいおじょうさん」
「はい?」
ふり向くと、おばあちゃんは言った。
「あたしもよく食べていたけどね、さかえやのお汁は、とうふをようくつぶしてあったんだ。それがまたおいしかった」
「とうふをつぶすの? おもしろい」
固めてあるとうふをわざわざくずすなんて、かわった汁だな。
「あんまり役に立てなくてすまないね。その子がよろこぶといいねぇ」
「はい!」
作り方のヒケツもきいて、おみそも買えた。
あとは作るだけだ!




