23 浅草《あさくさ》のつくもがみたち。
東京に行くにあたって、山田のおばちゃんから使わなくなった犬用かごを借りてきた。
小町とユカリちゃんにはおるすばんしてもらって、私は雪路の入ったかごをかかえて電車にのった。
乗ったところまではよかったけど、ケージがガタゴトあばれている。
「ぬおー! なんでわしがこんな扱いをうけねばならんのだ!」
「おとなしくして、雪路。電車に犬をのせるときはケージってルールで決まってんの!」
雪路とケンカしていたら、隣の席のおばあちゃんがはなしかけてきた。
「あらぁ雪路ちゃんていうの? かわいいワンちゃんねぇ」
この声がふつうの人に聞こえてなくてよかった。
「マコト、やどに行くとちゅう、おおきな寺や神社がたくさんあった。浅草というところをとおったのだ」
「浅草、学校のえんそくでしか行ったことないや」
地下鉄浅草駅でおりると、人の波が押しよせてくる。
電車のなかに押し戻されそうないきおい。
うう。江ノ電もなかなかこんでるけど、東京のラッシュもすごい。
なんとか駅を出て、雪路を出した。雪路はじっとあたりを見回し、はなをひくひくさせた。
「ふむ……。時代のうつりかわりの、なんと早いこと。あのころは馬がはこををひいていたが、いまはてつのはこがかってに走っているのだな」
「馬車なんて日本にあったの? ファンタジーアニメの中だけだと思ってた」
「ふぁん? あにめ? というのはなんだ?」
「あー、えと、くうそうのの話でしか見たことないよ」
「そうであろう。馬車は、異国からきたものだと草凪が言っていたからな。とうとい身分のニンゲンしか乗れぬものだと」
「へー。明治時代ってそんな感じなんだ」
時代は変わるものなんだね。今じゃいっさいみかけない。
「やどはこのへんなの?」
「ここからもう少し歩く。道はかわってしまっているが、なんとかなるだろう」
リードをにぎって雪路に案内されるまま、神社の前にさしかかった。
石づくりのおおきなこま犬二ひきが、ちらりとこっちを見た。
まさかね。だって石だよ?
「おや、久しいな雪路。まだ草凪とあやかしはらいをしているのかい?」
「こま犬がしゃべった!?」
近くにいた人が、いっせいに私を見た。
まずいまずい。
口をおさえて、ごまかし笑いする。
雪路がこま犬にこたえる。
「おぬしたちはあいかわらずここにいるのだな」
「あたりまえさ。ここで人をみまもるのがわれらの役目」
「…………ねえ、なんでこま犬がはなせるの? 雪路、知り合いなの?」
小声でコッソリきく。
「前にこやつらとあったのは、草凪とあのむすめをはらいにきたときだ。こやつらはツクモ神というやつさ。人に長年大切にされたものには心がやどる。そういうあやかしだ」
「ツクモ神……」
何百年もここで人を見守っているうちに、こま犬たちに心が生まれたってこと? すごいな。
「草凪は前に会ったときよりも小さくなったな」
「これは草凪の血を引く子。当人ではない」
「そうか。草凪によくにておるな」
こま犬が”友だちの孫に会ったおじいちゃん”みたいなことを言いだした。
「して、どのような用向きかな。ただの散歩で来たわけではあるまい」
「あ、ざしきわらしがいた場所を、さがしてるんです。思い出のみそ汁を食べたいって言うから」
「おかしなことを考えるのだな。あやかしのために食事をつくるなど」
「そうかな?」
「あやかしをはらう人間はいくらでもいたが、おぬしのような人間はとてもめずらしい。だから、おもしろい。いつかわれらもそのみそ汁とやらを食べてみたい」
「いいよー。ここまで出前できるかどうか、父さんにたのんでみるね」
こま犬たちは大きな声で笑った。




