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空想夜 第一部 中編

 二杯目が無くなった。それと同時に、車掌はカウンターを離れた。私も席を立つ。車掌は懐中時計を取り出し、時刻を確認する素振りを見せた。

「さて、ここから先のお話はまた後でにしましょうか。もうすぐ駅に着きますよ」

 車掌は仕事の為に姿を消した。私は少し退屈になってラウンジを離れた。誰もいない客車をただ歩く。しばらく歩いて展望車まで来た時だった。どこからか車掌の声が列車内に響く。

「この列車はまもなく、歓喜の都市に到着いたします。列車が大きく揺れますので、立ち上がったり身を乗り出したりしないよう、お願い申し上げます」

 私は近くの椅子に座った。窓の外の景色が目まぐるしく変わっていく。夜空を映していたはずの窓は星の表層を映し始め、窓から入り込む空気はどこか懐かしい匂いがした。列車が揺れる。窓の外には高層の四角い建物が映り始め、排気の刺激臭が私の鼻腔に入り込んできた。懐かしさの正体はこれだった。

 列車の揺れが酷くなる。窓枠ががたがたと大きな音を立て、そして、止まった。列車は小さな駅に停車したようだ。私は車掌を探した。前方の車両へ歩いて向かう。途中窓の外を見たが、駅に人の影は無かった。

 ラウンジがある車両の一つ手前の客車で車掌を見つけた。彼は丁度列車を降りようとしていた。

「ここで暫く休憩します。次の発車はまだ先ですので、観光してきてはいかがでしょう。ご心配なく、出発する際は汽笛でお知らせしますよ」

 私は車掌の言葉に従うことにした。列車を降り、改札口へ向かう。隣に車掌がいないことにどうしてか違和感を覚えて後ろを振り返ると、黒で塗り潰されたような見た目の駅員となにか話していた。私は改札を出た。

 小さな駅の外は、何故か妙に見慣れていた。出口正面の商店街も知っている。商店街の入口にある露店も知っている。知っている道を辿る。歩いて行く。

 商店街の中に入る。景色と匂いが変わった。先程は見えなかった人の影が、途端に私の視界に飛び込んできた。どこかで見たことのある装いの人影ばかりだった。顔に仮面を着けている以外は。商店街を行き交う人影はどれも、歓喜の表情を象った仮面を着けていた。その光景がなんとも不気味で、私は顔を伏せたまま道を行く。

 商店街を抜けた先、少し視界が開けた場所にあるのは中学校だ。これも知っている。校庭に植えられた大きな桜の木まで私の記憶の中のそれと完全に一致していた。ここは私の記憶を映す世界なのだろうか。きっとそうだ、周りの人が仮面を着けているのも、私がその人の顔を見たことがないからに違いない。そう思うことで、私はこの不思議な都市のことを受け入れようとした。

 私は早足で校門まで歩く。その感覚は登校の時にとても良く似ていて、少し胃が重く感じた。私は学校が苦手だ。群れるだけで中身のない会話をする同級生も、仲間外れを見て見ぬふりをする大人たちも、私の四肢を舐めるような視線で見てくる上級生も、好きにはなれなかった。胃がさらに重くなる。

「あなたは本当に、嫌な気持ちしか持ち合わせていらっしゃらないのですか?」

 背後から聞いたことのない声がした。男性のように力強いが雰囲気はどこか女性的で、子どものように無邪気でありながら、大人のように落ち着きのある声だ。

「おかしいですねえ、ここは来た人の歓喜の記憶を映す鏡、即ち歓喜の都市であるというのに、あなたはこの場所になんの歓喜も感じていらっしゃらない。ふむ、実に不思議ですねえ」

 声の主が私を見つめる。その音が鼓膜を叩くたび視界が揺らぐ。揺れて視点が定まらない。脳が思考を止める。体の力が抜けてゆく。立っていられなくなって、その場に座り込む。瞼が重い。

「おや、これは失礼。わたくし貴方という不思議な存在に興奮して、そのまま出てきてしまいました。少々お待ちを」

 声の主は何やら訳の分からない言葉を繰り返し、やがて不気味な音は遠ざかっていく。同時に、嘘のように軽薄で中身を感じないような、軽い声が聞こえてくる。声の主は変わっていないようだった。

「これでどうですか? 不思議なお嬢さん」

 私は途端に軽くなった頭を動かし、声の主を見る。白い燕尾服に金の糸で刺繡が施された外套を羽織り、顔があるべき場所にはやはり仮面を着けている。それも一枚ではない。二枚、三枚、もっと多い。数え切れない程の仮面を従えた不気味なそれは、白い手袋を嵌めた手を差し出してくる。私はその手を掴み、引き上げられる力に身を任せた。

「あなたは何者なのですか?」

 白い仮面に問う。歓喜の表情の仮面の上から、疑問の表情が覆い被さる。白いそれは手のひらで疑問の仮面を払い除け答えた。

「わたくしのことは道化師、或いは貴方を唆す悪い悪魔とでも思っておいてください。ですのでお呼びになる際は、ぜひ道化と」

 白い道化師は杖を横にやり、軽くお辞儀をした。そしてすぐに校舎の方へ向き、こちらへ手を差し出しながら言った。

「さて。行きましょうか」

 私はその手を取り、校舎へ歩き始めた。背丈が頭一つ分ほど違う道化師との歩幅が合わず、半ば引きずられるようにして歩く。ちらりと隣を見ると、道化師の仮面の中の一つと目が合った。

「さて、まずは校内に入ってみたわけですが、何か思い出しましたか?」

 目を閉じる。私は何かを思い出そうと必死で記憶を辿る。校門を入ってすぐ、桜の木の下。嬉しかったこと、喜んだこと、何かあっただろうか。入学してすぐ集合写真をこの木下で撮ったことか。いや、他に何かあるのだろうか。私は数分間、記憶を巡った。しかし、特に思い当たるものは無かった。

「ここは、毎朝通ってました。でも、嬉しかったことはないです」

 私は学校が苦手だ。毎朝すれ違う大人たちは皆信用できず、同級生とも特に挨拶を交わしたことは無い。数人、上級生から声を掛けられたことはあるが、私はあの人たちの視線が嫌いだった。嬉しかったことなど、ない。

「教室へ行きましょう。わたくしは校内の様子など存じ上げませんので、ここからは貴方が先に歩いてください」

 仮面の道化師は一歩身を引いた。私は遠い記憶を思い起こしながら校舎内に入る。冷たい石でできた廊下に天上の照明が反射して少し眩しい。中央の階段を二階分登って、奥に二つ行ったところにある部屋。私の教室はそこだった。引き戸を開けて中に入る。仮面の道化師は少し目を離した隙に黒板の前に移動していた。いつも座っていた席を探す。奥から二列目の前から三つ目。中心でもなく端でもない、目立たない席だ。椅子を引く。

「起立、礼、着席。どうです? それっぽいでしょう」

 教卓に手を置いて言い放つ姿は本当に教師のようで、自分の表情が少し緩くなったのを感じた。

 冷えた木の椅子に腰を下ろす。視界に映る全てが記憶で埋められるように移り変わっていく。映像の早回しのように同級生や教師の姿が入れ替わり、何かを思い出しそうになる。私は机の中に手を突っ込んだ。視界の外で何かに触れる。引っ張り出してみると、私の手に触れていたものは乾いた再生紙の切れ端だった。美術室で待ってる、と書かれたそれを見て、当時の自分に立ち戻るのを感じた。

 これは確か、私の絵が表彰された日の思い出だ。普段交流が無い同級生からは羨まれ、活動を共にしていた友人からは数えきれないほど称賛された。絵は入口の所に飾られ、私の名前が書かれた横断幕が校舎の壁から外に見えるように掛けられた。私の名前はほとんどの街の人に知られた。私を知る人は皆私を褒め称えた。両親も例外ではなかった。しかし、私は知っている。羨望や賞賛に隠れた嫉妬や憤慨があることを。実際にその標的になったことを、私は憶えている。

「行かないのですか? 美術室へ」

 白い道化師が手元を覗き込んで言う。

「行くと、辛い思いをするので」

 焦点が定まらないまま答える。美術室で待ってる。その言葉は、当時私が好きだった人の名前で机に入れられていた。淡い期待を胸に抱いて美術室の引き戸を開いた私を待っていたのは、陰湿で執拗ないじめだった。それを大人に相談してもどうにもしてくれなかった。級友に言っても助けてくれなかった。両親へは心配をかけたくなくて言うことができなかった。

「そうでございますか。それでは、この場所のものは歓喜の記憶とはとても言えませんねえ」

「どこか、他の場所に行きませんか? ここはもう十分です」

 席を立つ。思い出が生み出した人影や再生紙の切れ端は音もなく消え、静かになった。消え損なった親友の影を無視して教室を出る。色褪せた廊下の冷たさが心地良い。道化師は表情を変えないまま私の後に続く。

 どこへ行こうにも絵という私の存在意義が世界に反映される記憶を支配していた。体育館、全校集会で表彰された時の記憶。羨望、嫉妬、憤慨、賞賛。様々な視線を直に受けたその時の思い出が映し出される。更衣室、例えば体育の授業の時、絵具で汚れた体操着に周りの視線が集まった。白い体操着に付着した様々な色は、私にとっては当然でも周囲にとっては不自然だった。他にも、職員室、放送室、など様々な場所へ歩いた。

 私は日が傾くまで道化師と共に校内を巡った。行ったことの無い場所にも行ってみたが、思い出がない場所にはそもそも何も無いようだ。本当に何も無かった。

 遠い空に星が浮かび始めた。最後に一つ残った場所はとうとう、美術室だけになってしまった。

「本当に行かなくて良いのですか?」

「嫌な思い出しかないので、行きたくないです」

「しかし、他の場所に貴方の歓喜の記憶は存在していませんでした。となれば残るのはこの美術室だけでございます。心当たりはありませんか?」

 思い起こす。探す。遠くに行くにつれて曖昧になっていく記憶を辿る。最後に美術室に入った時のことから遡っていく。呼び出されていじめに遭った日、賞に応募するために何日も通って絵を描き続けた日々、絵に興味を持って美術部の体験をした日。最初にこの部屋に入ったのは、夜の学校に興味本位で忍び込んだ時だった。

「そう、貴方は夜の美術室に忍び込んだのです」

 もうじきこの世界の日が暮れる。廊下に差す夕日も弱くなり、誘導灯の緑色が不気味に揺れ始めた。徐々に、あの日に近づき始める。私の記憶の蓋が開いていく。

「貴方は偶然、美術室の扉に鍵が掛かっていないことに気が付いた」

 道化師の言葉を聞きながら、私は目の前の引き戸に手を掛ける。思い出が扉から溢れ始める。あの時の高揚感、罪悪感、幸福感、様々な感覚、感情が蘇り始める。色褪せていた私の思い出を彩り始める。

「貴方は扉を開いて、暗い室内へ入り込んだ。そして貴方は見たのです。絵を描こうと思った、始まりの絵を」

 言われるがままに私は扉を開いた。突如として窓の外の空間が揺れる。高層の建物の隙間から覗いていた朱色は瞬く間に濃紺に呑み込まれ、空はやがて昇ってきた月の灯りに照らされ始めた。光が差す。差した光が空気中の塵に当たり、時折ちらちらと輝きを放った。

 光の中心に一枚の絵が見えた。薄青の月灯りの下で鍵盤を叩く奏者の絵。周囲は崩れた教会のようで、よく見ると割れた色硝子などが散乱している。じっと見ていると、絵の奥からピアノの音が聞こえてくるようで、今見てもその様子に強く惹きつけられた。私はこの絵を見て、自分も絵を描きたいと思ったのだ。絵を描き始めてこの絵に近づく実感を得るたび、私は喜びを感じていたのだ。

「そう、それが貴方の歓喜の記憶でございます」

 あの音だ。体の力が抜けていく、あの不気味な声。逃げなければと思った時にはもう遅かった。いや、思い出の中の学校に入った時点で手遅れだったのだろう。道化師は体勢を崩した私の腕を掴み、適当な椅子に座らせた。体が上手く動かせない。重たい。腕が動かない。足が動かない。頭でどれだけ命令しても、私の体は思い描く通りに動かない。私は思い出したかのように、車掌のことを呼ぼうとした。叫ぼうとした。だが、薄れていく意識の中では声すら出せなかった。

 道化師の手が伸びてくる。その手には、商店街に居た人々と同じ表情の仮面が収まっていた。

 遠い意識の底で思い出す。車掌の話の続きは、あの旅人はどうなったのだろうか。花の惑星の炭酸香草茶、どうして車掌がそれの作り方を知っているのだろうか。列車に帰ったら聞きたいことが沢山ある。他の飲み物だって飲みたい。しかし、私の体は悪魔の声に抗えなかった。

 汽笛。私の意識を呼び覚ます音が、遠くの方で響く。それを合図に、奪われていた体の感覚が戻り始める。ゆらゆらと揺れる月灯りの下で、私の空想が浮かび上がる。炭酸の泡が、弾ける。今もぱちぱちと口内を刺激しているような、そんな妄想を抱く。ぱちん、と大きく泡が弾けた瞬間、私の意識は完全に覚醒した。

 白い悪魔を押し退ける。後ろによろけた悪魔の腕をすり抜けるように、私は駆けだした。走ると怒られていた廊下を全速力で駆け抜け、階段を一つ飛ばしで降りる。何度か転びそうになりながら誘導灯の下をくぐった。

 後ろから悪魔の呻き声が聞こえてくる。私という恰好の獲物を逃すまいと、死力を尽くして追ってくる。いつもより長く感じる廊下を駆け抜け、徐々に苦しくなってきた肺を無理やりにでも動かしながら逃げる。学校を抜けた先の商店街は夜に似合わず人の影で溢れており、それらは仮面越しに走る私のことを見つめていた。羨望、嫉妬、その他。様々な感情が入り混じる視線の網を突き抜け、ただひたすらに駅を目指した。

「お待ちなさい」

 踏み出した足の力が抜けた。体勢を崩した私はそのまま地面に倒れ込む。もっと走らなければならないのに、足がもう言うことを聞かない。地を這ってでも列車に帰りたい、その気持ちが腕を動かし、私の体を無様にも引きずっていた。

 仮面の人影が一人、私の傍に寄る。立っている時の私とそう変わらない背丈の人影は這いずる私の肩を支え、立ち上がらせた。

「一緒に走ろう」

 聞き覚えのある声だった。折れそうになった私を支え続けた親友の声だ。涙が頬を伝う。私は親友に支えられながら、言うことを聞かない足を前へ前へと動かし続けた。しかしやはり悪魔の方が速い。開いていた距離が縮まっていくのを肌で感じる。

「諦めないで、さあ」

 親友の声が私を支える。商店街の出口が近づいていた。周囲の影が皆揃えて拍手喝采を送っている。その音が悪魔の声をかき消して、これ以上私が倒れないように護ってくれていた。その喝采の中を親友と二人で駆け抜けた。

 喝采の音が遠ざかっていく。駅のホームはすぐそこだった。涙は風が吹き飛ばしてしまっていた。

「もう少しだよ、頑張って」

 仮面を着けた親友に励まされ、私は駅のホームに駆け込む。そこには蒸気を上げる列車と、乗客がいないか確認したり、しきりに時計を調整したりして出発を後らせようとする車掌が待っていた。

「待っていました。汽笛の音が届いたみたいでよかったです。おや、そちらの方は」

 車掌が仮面の方を見て言う。どうしてだろうか、親友の輪郭が滲んで見える。泣いていないのに、その存在が酷く遠く感じる。

「私の親友です。一緒に行けませんか」

「行けません。その方はこの星の住人です。申し訳ありませんが」

 寂しそうな顔で車掌は言う。親友が私の手を離した。

「僕は一緒には行けない。できることならあなたともっと一緒に居たいけど、それはできない」

 歓喜の仮面が変わらないまま、悲嘆の声で私を突き放す。

 改札の向こうから悪魔の声が近づいてくる。感覚を失っていく体を列車の壁面に預け、懇願する。親友も共に連れて行って欲しいと、車掌に頼み込んだ。しかしどれだけ頼んでも、車掌が首を縦に振ることは無かった。

「時間がありません、行きましょう」

 車掌の細く柔らかい腕に掴まれる。道化師と違い確かな優しさと暖かさを感じた。私は崩れていく親友に手を伸ばした。この手を取って欲しい、一緒に来て傍にいて欲しい。それだけでよかったのに、最愛の友は首を横に振った。その姿が遠くなっていく。車両の扉に引き入れられ、もう手が届かない。

 改札の向こうから悪魔が走ってくるのが見えた。列車は走り始める。止まる気配は無い。私は親友の名を叫びながら、過ぎ去って景色と同化していく駅を眺めた。悪魔は、もう追って来なかった。

「すみません。あの星のことをきちんと話しておかなかったのは、私の落ち度です」

 車掌は私を車内に引き入れ、頭を下げた。

「いえ、そんなことは。私も不注意でした」

 扉に全体重を預けて言う。この様子では、しばらく歩けそうにない。ただ、体中の力が抜けていく嫌な感覚は、もう襲って来なかった。

「ラウンジまで移動しましょう。ここでは体が冷えてしまいます」

 頷く。私はよろけながら、天鵞絨の椅子に手をつきながら、先頭の客車まで歩いた。車掌は私の傍で体を支えながら、歩幅を合わせて歩いてくれた。

 ラウンジは列車を降りた時と何も変わらなかった。車内にはまだ花の香りが残っており、はっきりしなかった視点が快復していく。脳内に掛かっていた霧が晴れ渡っていく。車掌は私をソファに座らせ、すぐにカウンターの奥へと入って行った。

 しばらくして、カウンターから珈琲の香りが漂ってきた。花の香りが塗り潰されていく。少し寂しさを感じながら、私は豆を挽く音を聞いていた。

 先程まで停まっていた星はもうすっかり見えなくなり、列車は再び夜空の中を駆ける。行く先は夜空の果て。何があるかもわからない。しかし、不思議と恐怖は感じなかった。

「少し落ち着きましたか? すみません、あの星があなたの記憶を映す場所だと伝えていれば、このようなことにはならなかったのですが」

 香りの元が手元に置かれる。白い陶器のカップとシュガーポットが乗せられたトレイだ。角砂糖を一つ、珈琲に入れる。匙で焦げ茶色をかき混ぜながら私は車掌に話しかけた。気になっていたことを、訊ねてみた。

「降りる前のお話、あの旅人はどうなったんですか」

「あの旅人のお話ですか。彼は結局、友を助けることはできませんでした」

 車掌は正面のソファに腰かけ、私の目をじっと見た。数秒間その状態が続いたが、車掌はすぐに他の所に目を遣った。そしてゆっくりと、悲しい声で続きを語り始めた。


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