無能と蔑まれ、辺境に左遷された俺はハズレスキル【サボテン操作】で無双する
魔物の脅威から民を守り続けている王都。
騎士団長室にて、その代表とも言える騎士団長が声を荒げて言った。
「ギムレット、お前のような無能は地獄の辺境に左遷だ!」
「ちょ、変な冗談はやめてください、ケープ・コッダー騎士団長。笑えません」
冗談交じりに言葉を交わす。
しかし――
「それは本気で言っているのか? 今までのお前の態度を思い出してみろ! 魔物との戦闘はクソの役にも立たず、かといって事務雑用はいつも人より遅れている」
期待していた返答は、散々な言われように様変わりして返ってきた。
俺は騎士としての誇りを感じ、負けじと反論する。
「確かに事実ではありますが、まだ新米騎士です。慣れない業務に――」
「……慣れないだと、慣れようとしていないだけだ! 戦闘中も事務雑用の時もいつもお前を見かけない、サボって逃げているのだろう!」
「そ、それは……」
言い返せない俺を見ると続け様に言い連ねる。
「その点を鑑みて、お前をアイス・ブレーカーへ左遷する! 前線中の前線、地獄のような場所だ! 大した実力を持たない、努力もできないお前では到底生き残れない実力主義の戦場。……だが、生きれば英雄だ。俺の厚意に感謝しろ、ギムレット」
「は?」
有無を言わさず騎士団長室を追い出された俺は、既に纏められていた荷物とともに王都を追い出された。
同時に俺は誓った。
必ず生き残って、俺を追い出したことを後悔させてやると。
***
ここは地獄だ!
いや、地獄ですら生ぬるい!
無限地獄のような場所だ!
当たり前のように喰われて死んでいく仲間。
それをものともしない自分。
倒しても倒しても矢継ぎ早に湧いてくる魔物。
わずか三日の短い時間で俺の価値観は一変していた。
「プハぁ~! もっと、持ってこい! 酒だ! 酒樽持ってこい!」
劇的環境変化による急激な肉体疲労、いつ死ぬかわからない精神的疲労が頂点に達し、夜になると酒豪のように酒場を渡り歩いていた。
「ちょっと、飲み足りないんじゃないの? いっきよ、一気! 酒で酒を流し込みなさい!?」
「し、死ぬ! いや死なない、人はこんな酒ごときで! ごぷっ、じ、じにゅ、じんでしばふ……」
酒で溺れさせようとしてくる、同じ価値観になってしまった女。その名はキール。
サファイアブルー色の髪をハーフアップにして、わずか三日でボロボロになった衣服を身に纏っている。目立つ点は付き合いたいくらいの美人なところだ。
この女も同じ日に左遷されてきた、悲しき同類である。
何とか死なずに飲みきった俺は、さらに酒を煽る。
「ングっ! ……ぷはぁ~! なぁ、キールぅ! 俺もさぁ、スキル使った方がいいかなぁ!」
「あったりまえじゃない! スキルを使わず生き残ってる、あんたがおかしいのよぉ!」
「そうかなぁ!」
誉められて意気揚々になる。
「それで、あんたのスキルってどんなスキルなのぉ?」
「…………サボテン操作」
酒を飲んだ状態でも中々言い出せなかった。一生に一つのスキルが、こんなふざけたスキルなら間違いなく……
「ぶっ、ハッハッハッ! さ、サボテン操作ぁ! おっかしい! ぷぷぷ」
ほら笑われた。
そもそも、こんな魔境に左遷される奴が、まともなスキルを持っているわけがないだろ。
「そっちだってぇ! 水操作なんてショボいスキルのくせにぃ!」
「あんたよりはマシですよぉー! この地獄に来て、水の性質を変える能力を身につけたんだからぁ! 生き残るためにぃ!」
水の性質を変える能力か……あれには助けられたな。強酸に変えたり、ネバネバになったり……もしかしたらサボテンを急成長させる水を作れるかもしれないな――ん?
「……なぁ、その能力って、植物を急成長させることもできるのか?」
「なによ、藪から棒に。できない……ことはないでしょうね! ――きゃ!」
衝動に駆られてキールの腕を掴み、会計を済ました後、土のある場所に連れていく。そこは人気のないところでもあった。
「キール! 俺はこれからも仲良くしていきたいと思っている。……だから俺のわがまま聞いてくれ」
「……こ、こんな人気のないところに連れ込んで。まさか――だめよ! 会って三日で告白なんて――……?」
ポケットから一つの種をキールに見せつけた。
「この種ここに蒔くから、水で急成長させてくれ」
種を蒔くと、キールはいつも携帯している水筒を取り出し、突然俺にぶっかけてきた。
「なっ! い、いきなり何を! か、痒い、めちゃくちゃ痒い!」
次第に皮膚が痒くなってくる。
たらふく酒を飲んでいたのに、これで完全に目が覚めてしまった。
「水の性質を痒くなるに変えたわ。乙女心を弄んだ罪よ、後悔なさい」
「えぇ?」
そう言いつつも、ちゃんと水を種にかける。
すると、不自然に急成長を始める種。
一秒もかからず立派なサボテンが誕生した。
「それで、このサボテンをどうするの?」
「?」
「? ――じゃないわよ! 何かしたくて連れてきたんでしょ!」
まずい、何も考えてなかった。
とりあえずスキルを発動させてみるか。
「……スキルって、どう使うの?」
「赤ちゃんか!」
ぐうの音も出ない!
生まれてこの方スキルを使う機会なんてなかったからなぁ。
「……私の場合、頭の中で念じれば水の性質が変わるわ」
教えてくれるんだ、優しいな。
「同じ感じでやってみるか、えい!」
「…………何が変わったの?」
「まぁまぁ、急がないで」
すると、サボテンの棘が一本とてつもない速さで目の前の木を貫いた。
「す、凄いわね! この威力なら魔物にも通じるわ! ……どうしたの考え込んで?」
「……これ、前線で役に立つんじゃないか?」
「え?」
***
魔物と人間を遮る砦にピリついた空気が漂っていた。そろそろ魔物が律儀にやってくるからだ。
しかし同時に、防壁の近くにある物体を騎士たちは不思議がっていた。
「なんだあれ? さ……サボテンか? 砦がサボテンに囲まれて、これじゃ前に出て白兵戦が――」
一人の騎士が叫ぶ。
「魔物だ! 魔物が攻めてきやがった!」
しかし、騎士たちはある違和感に気づく。
遠くに見える魔物が中々攻め込んでこない。
いや、攻め込んでこないように見えた。
「な、なんだ! 魔物が次々と倒れていっている!?」
そして、ようやく一人の騎士がその正体を掴む。
「サボテンの棘がとんでもない速さで魔物を撃退しているんだ! 目を凝らして見たらわかるぞ!」
魔物が倒れていく理由はわかった騎士たちだが、一つだけ不可解な点があった。
「棘の大きさ的に致命傷にはならなくないか?」
いくら威力があろうと、元の大きさを上回る傷を与えられない。それに加えて、魔物はしぶとい。
外傷だけならそう言えるだろう。
「致命傷になっているのは毒だ」
一斉に振り向く兵士たち。
「なぜ……わかるんだ?」
「俺がこのサボテンを作ったから」
周りはドッと驚く。
魔物をまるで寄せつけない圧倒的な力は、たった一人による所業だった。
その後、魔物が現れなくなる日没まで棘の連射は止まらず作動し、この日、英雄が誕生した。
***
一年後、英雄と呼ばれた男は結婚していた。
「いやぁ、あの日は大変だった。独断専行でお偉いさんにめちゃくちゃ怒られたからなぁ。……でも、それ以上に感謝もされた」
「私は朝の方が大変だったと思うわ。酔いで吐きながらサボテンを蒔いて、私が急成長させる。それを城壁を囲うように走り回って、……思い出したくもない」
愚痴を吐いているのは妻のキール。
本当に頭が上がらない。
だいぶ無理をさせてしまったのは承知していたが、相当根に持っているのか一年経っても言われ続けている。
「その件に関しては本当に申し訳ない!」
「まぁ、責任は取ってもらったからいいですけど……。それよりもよく思いついたわね、毒と無限の棘なんて」
「あぁ、あれね。たまたま思いついただけなんだよ! ほんとに本当!」
水が痒くなるあれで、もしかしたらと思って試したらいけたとか。痒いのが一生続いたら嫌だなとか。そんなこと言ったらまたどやされそうだ。
「ふーん……あっそうだ! この話聞いた? 王都が大打撃を受けたって話」
「えっ、王都が? かわいそうだけど、俺あそこから左遷されたから、ざまぁみろとしか思えないなぁ」
「それがね、ただ単純な話じゃないそうよ」
何か訳ありそうな話になってきた。
王都が大打撃を受けた理由……気になるな。
「そもそもの始まりは、一人の優秀な騎士が左遷されたことが原因らしいの」
俺たちみたいに左遷されちゃったのか。
「その人は事務雑用を全てこなしていたらしいんだけど、他の騎士に手柄を奪われて騎士団長から逆に一番の無能扱いされてしまっていたらしいの」
酷いな、手柄を横取りするような奴が一番悪いが、正しく真実を見れていなかった騎士団長も酷い。
「そして、優秀な騎士を失ってしまった王都は片手間で済んだはずの事務雑務に人員を割き、本腰を入れるべきだった魔物との戦いで大敗。王都は大打撃を負ったの」
負けるべくして負けたな王都。
「ギムレット、左遷された人に見覚えない? 同じ王都から左遷されたんでしょ?」
「さぁ、そんなに優秀ならわかると思うんだけど、知らないなぁ」
「それもそっか、だって手柄奪われてたんだもんね」
「だな」
……そういえば王都を出た時、俺を追い出したことを後悔させてやる……とかなんとか誓ったな。
まぁ、今回の件で十分後悔してるだろうし、許してやるか……。
見知らぬ騎士に感謝しろよ。




