後編(3/3)
そして、陽子とのランチの日がやって来た。早速空が切り出す。
「あの‥‥陽子さんが最近投稿されたものって‥‥僕のこと書いてますよね?」
「ええ、そうよ」あっさり認めた陽子。
「僕が小説投稿サイトに投稿しているって‥‥どうしてそんなことを書かれたのですか?」
「空くんの小説、見つけたからだよ」
「どうやって‥‥」
「今までどれだけあなたの成果物を見てきたと思ってるのよ。あなたの文章の癖、改行の仕方、考えそうなこと‥‥全部わかってるんだからね?」
「え‥‥」
嘘だ‥‥陽子さんは、文章ひとつで僕のことがわかったのか‥‥?
「あなたと働くようになったのは少し前だけど‥‥私は空くんのこと、入社した時から知ってた。飲み会であまり話もせず、ゴルフも断って‥‥色々言われていたのも耳にしていた」
「‥‥」
「でも‥‥実際のあなたはすごく機転がきいて頼りになると思った。ここまで想像力を働かせることのできる人っていないわよ? 小説投稿サイトを紹介されたときにピンときたの。あなたはこのサイトに潜んで日々想像力を高めてたのかなって。ファンタジーやヒーローなんて私には書けない分野だから、尊敬する」
空は目元に涙を浮かべそうになったが必死で堪えた。ここまで褒められたのは初めてだ‥‥自分はてっきりつまらない男だと思っていたのに。
「あの‥‥このことは‥‥」
「もちろん、誰にも言わない。空くんの小説は私以外の人に見せたくないから」
「ありがとうございます‥‥」
「だからさ、私の作品に評価マーク入れてくれない?」
「え? 仕方ないですね」
「私も応援マーク入れるから」
「評価は入れてくれないんですか‥‥」
「まだ完結していないでしょう? ちゃんと毎日読んでるわ‥‥応援してるからね」
空はスマホでサイトを開いて「陽炎 光」の作品に評価マークを入れた。
「できたらレビューメッセージも欲しいんだけど。空くんの言葉で私の作品を紹介してほしいな」
「分かりました。家に帰ってから書きますね」
「ありがとう!」
そしてランチが終わり陽子が右手を差し出す。
「これからも仕事でも小説仲間としても、よろしくね」
「はい‥‥陽子さん」
2人は握手を交わした。思っていたよりも柔らかい彼女の手の感触にドキっとする空。
これからも‥‥上司として、小説でも尊敬できる人として‥‥陽子さんに付いていかせてください。
そしていつか‥‥
※※※
家に帰った陽子。
「空くんのペンネームが『陽炎の空』って‥‥よっぽど私に気づいて欲しかったのかしら? フフ‥‥」
そう言いながら‥‥陽子は今日もスマホ片手に小説の執筆をするのであった。
終わり