ヲタッキーズ174 ヒロインゲーム
ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!
異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!
秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。
ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。
ヲトナのジュブナイル第174話「ヒロインゲーム」。さて、今回はスーパーヒロインになってスパイ気分が味わえるゲームの最中にゲーマーが殺されます。
捜査線上にゲームに没入するゲーマー達の人間模様が浮かび上がる中、捜査は難航しますが…シーズン最終話です。大物"元カノ"が登場します。
お楽しみいただければ幸いです。
第1章 元カレといえば親も同然
東秋葉原の夜道を走る。彼女はセーラー戦士だ。公園に迷い込んで振り返る。街灯の下には誰もいない。スマホを抜く。
「ブラックムーンだ」
「セーラーオリオンょ。正体がバレたわ。コード7」
「セーラーオリオン、この通信は安全ではない」
何、言ってんの?緊急事態なのょ?!
「セイフティハウスを教えて」
「規則違反だ、セーラーオリオン」
「ブラックムーン!」
通話は切れる。振り返る。誰もいない。小川を跨ぐ橋の下に逃げる。突然ライトで照らし出され、甲高い音波銃の銃声w
「ぎゃ!」
絶命し、水溜まりに倒れるセーラー戦士。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
御屋敷のバックヤードをスチームパンク風に改装したら居心地が良く常連が沈殿。売上激減でメイド長はオカンムリだw
「テリィたん。スマホ、鳴ってる」
「うん。わかってる」
「今度は何から逃げてるの?」
カウンターに居座るハッカーのスピアは常連だ。
推しのミユリさんはカウンターの中でクスクスw
「ジーンだw」
「元カノNo.272の?」
「いや。元カノとしてではなく、編集者としてのジーンだ。実は締め切りが過ぎてる。でも、どーにも登場人物の方向性が決まらナイw」
元カノ会長スピアの反応は明快w
「方向性を変えれば?」←
「え。今から変えたら…あれ?スピア、今日はオーディションじゃなかったっけ?」
「だから、勝負メイド服を取りに来たの…やったわ!」
スマホを見て歓声を上げるスピア。
「アキバ工科大学の春季プログラムに合格ょ!急にキャンセルが入って、今週末のプログラムに空きが出たの」
「え。今週末は…」
「わかってる。"メモリアルすき焼きデー"ょね?毎年、テリィたんの元カノが一堂に介して、妻恋坂の"いひ橋"で過ごす。でも、今やMITをしのぐアキバ工科大学の春プロょ?」
トランジスタグラマーのスピアは、スイカ級の胸を張るw
「明治創業の老舗より学歴を取るのか」
「テリィたん、書類にサインお願いね。元カレと言えば親も同然だから」
「待て待て待て。寮は男女共同だぞ?」
虚しい抵抗。何とミユリさんが反旗をひるがえすw
「テリィ様。テリィ様も学生時代に月世界旅行をされたのでしょ?」
「その時の出来事をミユリさんが知ったら、僕は一生"出禁"になるょ」
「つまり、知らない方が良いコトもアルのです」
彼女には永遠に勝てナイ。ココでスマホが鳴る。
「あ。ラギィからだ」
「ホントはジーンでSF小説の執筆催促じゃナイの?」
「違うょ…テリィだ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原の和泉パーク。
「アキバに"リアルの裂け目"が開く前からの恒例ナンだ。腐女子達が"裂け目"の影響でスーパーヒロインに"覚醒"スル前の話さ。もちろん、ミユリさんも"ムーンライトセレナーダー"に"覚醒"スル前から参戦してる」
「秋葉原が萌え始めた頃の遺物?楽しそう」
「ラギィも来いょ。アフターすき焼きは、神田亀住町の"クアハウス燕"で朝までノンビリだ」
我ながら素晴らしいイベントだ!
「え。何?どーかした?」
「テリィたん。そんなに元カノ達の水着姿が見たいの?」
「貸切だ。水着が嫌なら、裸でもOK」
夜のせせらぎの中にセーラー戦士の死体が横たわる。
胸の大きな青いリボンが音波銃で撃たれてズタズタw
「ただし、彼女は"blood type RED"。スーパーヒロインじゃない生身の腐女子ょ。1時間前に見つかった」
「強盗かな?」
「いいえ、テリィたん。時計も現金もある。あと5発も撃たれてるけど、音波銃の薬莢に当たるカートリッジが見つからない」
早くも厄介フラグだw
「セーラー戦士を音波銃で5発も撃った後、現場をクリーンにして姿を消すナンて、相当冷静な奴だ。普通なら逃げるぜ。訓練を積んだスーパーヒロイン専門の暗殺者の仕業に違いない」
「そのプロが非スーパーヒロインの生身の腐女子を撃っちゃったワケ?…死亡時刻は?」
「体温や死斑から昨夜11時から12時の間ね」
僕のタブレットをハッキングした超天才ルイナの声。車椅子の彼女は、ラボから"リモート鑑識"して手伝ってくれる。
「ション・コドル。ポケットのIDによると、GM社のコンサルタントみたい。後は社用車のキーと…家の鍵は無いわね。
何処かのホテルのキーカードもあった」
警官がビニール袋に入った証拠品を見せてくれる。
「GM社か。その実態は内閣調査室だな…ホテルのキーカードは、出張でアキバに来たコトを示してる」
「惜しい。GM社の住所が秋葉原なの。じゃウチの鑑識は証拠集め、ヲタッキーズのエアリとマリレは周辺の路上生活者に聞き込みょ」
「もうやってます」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋に捜査本部が立ち上がる。
「老舗の霜降りスキヤキだ。最高の眺めだろ?」
コーヒーを渡しながら、去年の写メを見せる。
が、ラギィはスマホを切って頭をヒネってるw
「データベースもネットも見たけど、何の情報もない。"グローバル萌え社"って何なの?」
「やっぱり内調のダミー会社だ」
「あのね!」
ラギィにニラまれるw
「冗談だょ。宣伝下手なだけじゃないの」
「私もそう思ったんだけど、会社の住所を調べたら神田リバーの真ん中だったわ。彼女の財布を調べ直したけど、ID、ジムの会員証、保険証、銀行カード…全てニセモノだし」
「名前は?」
両肩をスボめお手上げポーズのラギィ。
「全国に同姓同名が17人いたけど、誰とも一致しない」
「指紋も該当ナシか」
「ラギィ!テリィたんも」
名を呼ぶ順が逆だが、ヲタッキーズのエアリとマリレが帰って来る。因みに2人はメイド服だ。ココはアキバだからね。
「おかえり。どーだった?」
「先ずホームレスだけど、昨夜現場付近のホームレスは何も聞いてないそうょ。音波銃を5発も撃ってるのに銃声はナシ」
「サイレンサーか」
うなずくエアリ。彼女は妖精でメイド服の下には羽根w
「そして、身元を隠してたセーラー戦士を殺した。しかも、
プロの殺し屋だ」
「ホントにプロかしら?…とにかく!先ず被害者の正体を突き止めましょ。彼女の車がないか公園の入り口付近を探しましょ。スーパーヒロインじゃないなら移動は車のハズだから。あと彼女の写真を近所のホテルに流して。誰か見覚えがあるカモ」
「ROG」
写真を受け取るヲタッキーズ。出掛けて逝く。
「ラギィ。暗殺とか逝ったのは冗談だから」
ナゼかムッとした顔のラギィ。スマホが鳴る。
「ルイナだわ。テリィたん、検視局へ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局は、署の地下にアル。
「相変わらズ被害者の正体は不明だけど、犯人の手がかりがあったわ。薬莢カートリッジは回収されてたけど、アバラに撃ち込まれた音波がお土産を残した」
僕のタブレットをハッキングしたルイナは雄弁だ。
「骨に音波の波形が刻まれた。このライフリングは、グロッキー社の音波銃ね。口径は不明だけど、多分45Hz」
「グロッキーの音波銃はプロ仕様だ。ソレに…遺体の画像を出してくれ…5発の弾痕が密集してるだろう?」
「擦り傷や火傷がナイわ。傷口を見る限り、かなり遠くから撃たれている。コレは相当の腕前だわ」
ココでラギィのスマホが鳴る。
「はい、ラギィょ…直ぐ行くわ。ご苦労様」
スマホを切るラギィ。
「車が出たわ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
和泉パークの近くの路地裏。パトカーの車列が出来てるw
「被害者はレンタカーを使ってたわ」
「やっちまったな。保険が下りると良いけど」
「車の後部がメッチャ凹んでる」
マリレが指差す。因みに彼女はロケットガール。
「レンタカーの借主は?」
「なんとGM社の長期レンタルょ」
「ソレって架空の会社だろ?」
首を横に振るエアリ。
「一応存在する。通信や支払いの請求書は上海のオフショア口座を通じて行われてるわ。ソレにトランクにはコレが」
「ユーロ?」
リアル札束だ。多分モノホン…だと思う。
「5000ユーロある。あとコッチはリアルっぽいけどモデルガンみたい」
「個人携行火器?しかも、サイレンサー付き?」
「軍用ょね。かなりマニアックだわ」
ドライバーズシートに折り畳まれた短機関銃だw
「ユーロにハイテク銃にスーパーヒロイン専門の殺し屋?」
「おや、その箱は?」
「お洒落なペンが入ってる…」
彫刻の入った万年筆だ。ところが、突然!
"セーラーオリオン。情報提供者に接触せょ"
何とペンからAI風の声w
"13時15分、バッジをつけて’@ポエムカフェ’に行け"
「何もしてないのに音声がw」
「テリィたん、静かに!」
「わ、わ、わ」
"暗号はこうだ"推しはチビうさか?""いやチビうさは元カノだ"と答えろ。幸運を祈る"
次の瞬間、ペンから焔が噴き出るw
「あぢぢぢ!」
ペンを取り落とすw
「彼女はスパイ?スーパーヒロインの」
…にしても、チビうさが元カノ?ロリかょw
第2章 裸のギャバ子
万世橋の捜査本部。
「内調も公安も別班も、どこも彼女の存在を否定して来たわ」
「そりゃそうだ。殺された瞬間に存在は抹消される。ソレにしてもクールな展開だ。あ、クノイチの線も忘れないでね。黒のミニスカだったし」
「…とりあえず、いつも通り上層部からstopされない限り、普通の殺人として捜査は進める。もし、モノホンのスパイなら誰かが絡んで来るでしょ」
ソレもソーダな。
「さしあたり、メイドカフェに御帰宅して情報提供者の話を聞き出してみる?」
「でも、情報提供者って、どうやって探スンだ?」
「ペンの指示に従うの。私達も"お嬢様"と"ご主人様"になって御帰宅ょ」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「おかえりなさいませ!ご主人様にお嬢様…あら、テリィたん?何やってんの?」
@ポエムは"潜り酒場"と並ぶ老舗の御屋敷だ。国民的メイドの"ひろみん"が在籍。
僕とは彼女が家電量販店の前で大根足で元気に歌ってた黒歴史?時代からの付き合い。
「お仕事中だ。邪魔スルな、ひろみん。息子さん、元気?」
「余計なお世話。ソッチこそミユリは元気?スーパーヒロインに飽きたら私のTOやってょ。あー私も"覚醒"したかったなぁ。で、何やってんの?」
「極秘任務だ」
御屋敷は大繁盛で、ちょうどインバウンドの団体が御帰宅、さらに騒然となる。白い服の男。恋人2組。読書中のRQ。
「ビンゴだ」
「彼女?」
「連れのいないお一人様のRQだ。間違いナイ」
早速、話しかける(ナンパじゃナイょ)。
「推しはチビうさ?」
「え。なんですって?」
「貴女は、チビうさ推し?」
女性は目を剥く。
「ロリコンなの?私、アラフォーだけど?」
金髪に緑のジャケット、紫のブラウス。オレンジのネッカチーフ。セレブ女性は読書に戻る。挫けズに正面の席に座るw
「ホントに?チビうさの元カノじゃない?」
「消・え・て!」
「喜んでー」
追い払われるw
「ラギィ。人違いだった」←
「みたいね。でも、なんだか変だと思わない?」
「何が?」
ラギィの感想はこうだ。
「この流れ全体が変。暗号ナンて今どき古臭くナイ?そもそもナゼ危険を冒してまで会うの?今なら暗号化したメールを交換すれば済むのに」
「メールが使えないケースだってあるさ。ソレはソレとして、僕は週末のスキヤキ&クアハウス、真剣だから」
「真面目に私の水着を見たいのね?」
声を落として小さな声でささやく。
「図星だ。しかし、おかしなコトは絶対しない。単に元カノの1人として接スル。楽しいぞ」
「でしょうね。でも、ダメ。私はテリィたんと違って今宵も仕事がアルの」
「重要な"メモリアルすき焼きデー"に?」
ラギィは大袈裟に天を仰ぐ。
「休みの日には引っ越し先を探すの。この前、マンションを吹っ飛ばされたから」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地下アイドルの御帰宅だ。甘ロリのピンク服。耳元で囁く。
「推しはチビうさか?」
「いいえ。チビうさは元カノょ…私はハスブ・ラウワ」
「ション・コドル」
甘ロリに似合わない緊迫した表情w
「ターゲットは入国したわ。ポイントβに進んで。でも、敵国のスパイも確認された。もし狙われたら逃げて。そして、狙えそうだったら…迷わズ撃て。OK?」
「わかった…あ、待ってくれ」
「何?」
足早にお出掛けスル地下アイドルを呼び止める。
「その…ターゲットの名前を教えてくれ」
「何を言ってンの?」
「ターゲットの名前を確認したい」
突然僕の胸ぐらをつかみ壁ドンする地下アイドルw
「あんた、何者?」
「ソレは…」
「私の元カレょ!」
ラギィが音波銃を構えている。
「手を挙げなさい!…テリィたんじゃなくてw」
慌てて手を下ろす僕w
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。
「貴方達。自分が何をしてるのか、まるでワカッテナイわね。全く持って何も」
「話して」
「知らない方が良いわ。私の見てきたコトを知れば、貴方達は必ズ後悔スル。知らぬが仏」
単刀直入に尋ねる。
「政府の仕事をしてるのか?雇い主は誰だ?」
「モノホンのコドルは?」
「死んだわ」
ラギィが即答。が、顔色1つ変えない。
「いつ死んだの?」
「昨夜」
「知られたのね」
視線を落とす地下アイドル。
「何の話?ターゲットを撃つ話のコト?」
「ターゲットは誰?」
「私は、マリウポリからシベリアに送られ3週間拷問に耐え抜いた。こんな生ぬるい取り調べじゃ、何も話す気にならないわ…この先の流れはこうょ。貴方達が会ったコトもナイ高位の人物から電話がかかってくる。そして、ブラワは解放だ、全ては手違いだった、と指示される。貴方達は嫌かもしれないけど、従わざるを得ない。やむなくそれに従い、私は秋葉原の夜の闇に溶けて消える。その後、私達が会うコトは2度とナイ」
戦慄スル僕。唇を噛むラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室を出る僕とラギィ。
「どうなってルンだ?何事だ?」
「桜田門も捜査中ょ」
「期待薄。どちらにせょ計画は止まらナイ」
エアリが駆け込んで来る。
「ラギィ!テリィたんも…コドルのホテルが判明した。2日前にチェックインして、未だチェックアウトしてナイw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「万世橋警察署!万世橋警察署!」
音波銃を構え、ホテルの部屋に突入!
「クリア!キッチンもクリア!」
「テリィたん、デスクを調べて。貴方は金庫の鍵を開けてください!」
「わかりました」
ホテルの係員が金庫を開けに行く。
「チェックアウトは明日。計画実行は今日だった…あら。またIDだわ」
札入れからIDカードを出すラギィ。
「メイソ・ジナス?」
「どうせ、またニセIDだろう」
「テリィたん!」
ベッドの下を探ってたラギィから呼ばれる。
「調査書類ょ。多分ターゲットだわ。写真も入ってる。コピア・マンド?」
「誰だ?」
「シャンバラ共和国の大臣だって」
誰かと誰かが国連本部の前で握手してる写真だ。
「コレは…NYにある国連本部ね。恐らく彼が連中のターゲット、暗殺対象だわ。国務省に連絡しなくちゃ!」
「…その必要は無さそうだ。ラギィ。シャンバラなんて国、聞いたコトあるか?」
「いいえ、ないわ」
僕はスマホの検索結果を示す。
「"no results for Shumballa"検索結果の一致なしさ。シャンバラは幻の地底王国だ。実在しない。モチロン、その国の大臣も実在しない」
「いいえ、シャンバラは存在スルわ!…って話はさておき、なぜ架空の人物を殺そうとスルの?」
「そうか、わかったぞ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の中をドシドシ歩く。
「テリィたん、弾道分析に拠れば、被害者の車にあった音波銃は…」
「ニセモノだったんだろ?」
「え。何でワカルの?」
振り向きもせズ、地下の留置所に直行スル。ピンク担当の地下アイドルが顔を上げ、檻の中から不敵な笑みを浮かべる。
「どう?首相官邸から電話があった?」
「ニセIDもシャンバラも大臣も、全部ゲームなんだろ?」
「…ヤメて!ゲームが台無しになるわ」
動揺スル地下アイドルw
「良く聞け。君の本名は知らないが、彼女は、前の職場じゃ"新橋鮫"と呼ばれて恐れられた敏腕警部で、ココはモノホンの留置所だ」
ヒラヒラ手を振るラギィ。
「君はリアルに逮捕されている。質問に答えないと蔵前橋にぶち込まれるぞ。モノホンの重刑務所だ」
地下アイドルは1発でパニックに陥る。
「コレはリアル?」
「YES」
「ココもリアル?」
「YES。君はリアルに逮捕され、留置場に入ってる」
地下アイドルが同房の赤バンダナの巨漢を振り返ると、巨漢にギロリと睨み返されて、地下アイドルは心底震え上がるw
「ま、ま、ま、ま、ま、待ってください!ただ、アタシ…コレも体験だと思って」
「体験?」
「何の話?キャバの体入?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「会社名は"ヒロインベンチャーズ社"。誰でもスーパーヒロインになり切ってスパイ体験が出来るみたい。"ハイセンスでスリリングなスパイ体験を提供する"ですって!」
「スーパーヒロインのスパイ?70年代かょ。とてつもなくレトロ」
「"誘拐や尋問の体験、スパイ体験が出来ます"だって」
ヲタッキーズのエアリもマリレも、もうキャアキャアだ。
「スーパーヒロインに"擬似覚醒"するパッケージもアルわ。かなりリアルみたいょ」
「海外講座や偽ID、偽の武器までご用意だって」
「何なの?この会社。責任者に話を聞きに行きましょう!」
ラギィは顔をしかめるw
「ゲームのリアルさに殺人まで含まれるの?」
第3章 裸のギャバ子
"潜り酒場"で次作のタイトルは"裸のギャバ子"に決定。
「テリィ様。せっかくタイトルが決まったのに、未だ編集のジーナから逃げ回ってるの?」
「ミユリさん、彼女はしつこいんだょ」
「テリィ様の担当(巨乳)編集者だから…私が話します」
今カノ vs 元カノ?マ、マズい!
「ちょちょちょちょっち、待った!」
「わかりました。ところで、テリィ様。私、"メモリアルすき焼き"に行けなくなりました。春のメイドミュージカルで役をもらえそうで」
「スゴい!おめでとう!」
カウンター越しにハグ。
「小さな役だけど、舞台が好きなのです…でも、テリィ様は大丈夫?」
「何で?」
「私もスピアも色々忙しくなりますが」
TOの度量が試されてる。ココは胸を叩くシーンだ。
「平気だょ。僕は"裸のギャバ子"を仕上げる。べストセラーになった"宇宙女刑事ギャバ子"シリーズ化の方向性が決まる第2作は重要…」
「来て!カタァ、うふふ。きゃー!」
「よーし。オオカミだぞ!わぉ!」
ホットパンツ姿の僕の元カノ会長が男と雪崩れ込んで来るw
昭和レトロがキテる?ソファに転がり込んで僕達に気づく←
「あ、あら…みんないたの?」
慌ててソファから立ち上がり衣服を直す。
傍らに、思い切り気不味い顔のイケメン。
「誰もいないと思ったのか?」
「だって、姉様はオーデ(ィション)、テリィたんはスーパーヒロイン殺しでしょ?…カタァよ。彼もアキバ工科大学の春プロに参加スルの!」
「よろしくね、カタァ」
早速イケメンと握手するミユリさん。何なんだw
「カタァ、ちょっとバックヤードに行ってて」
「わかったょスピア」
「…カタァとは、アキバ工科大学の春季プログラムのサイトで知り合った。で、1度会うコトになったワケ。ホラ、キャンパスで友達がいれば、何かと心強いでしょ?彼とは寮の部屋も真向かいなのょ」
コーヒーを吹き出す僕。
「アイツと部屋が真向かい?おいおいスピア…」
「どーせ私はアラサーですょ」
「楽しんで」
楽しそうなミユリさん。ますます気に入らない。
「何もかも閉ざされた夜だ」
「そう…パタソさんが遅刻するって伝言でした。確か今宵はSF作家仲間の大貧民大会でしたょね?」
「くそっ。奴は執筆が進んでるのかw」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
昼下がりの"秋葉原マンハッタン"。摩天楼の谷間の万世橋警察署。僕は立哨の制服警官に愛想よく手を振り中へ入る。
「じゃあまたね」
あろうコトか、ラギィのデスクに腰掛け、ヒソヒソ話をしているのはトムデだ。またまた気に入らない景色だぜ。厄日?
「邪魔して悪かったな」
「おはよう、ラギィにコーヒーは渡しといた」
「テリィたん、貴方を待ってたのょ」
トムデは去りがてら僕と笑顔ですれ違う。
赤いジャケットを手に立ち上がるラギィ。
「今からヒロインベンチャーズ社に行く。ソレからさっき元カノNo.272から電話があった。早く小説を描けって。テリィたん、新作のタイトルは"裸のギャバ子"ですって?私に黙って…受けそうなタイトルだけど、何でインスパイアの私に黙ってタイトルを決めるの?」
「実は…話すタイミングを伺ってたンだ」
「ソレで私の水着姿を見たがってたのね?」
「ま、まぁね」
くるりと振り返りながら赤ジャケを羽織る。
「素敵だけど…私、また馬鹿にされるわ」
とか逝いながら、颯爽と出掛けて逝くラギィ。後を追う。
「フゥ助かった」
第3章 ヒロインベンチャーズ社
ヒロインベンチャーズ社。
「死亡されたセーラー戦士は、ロシフ・アラデさん。44日間の秘密暗殺ミッションに挑戦中でした。最後は、国連の外交官を暗殺します」
「乙女ロード在住。緊急連絡先は、夫のメリダさんね」
「捜査を混乱させて申し訳ありません。ただ、こちらも大変驚いています」
青いスーツの女性が対応。赤ジャケのラギィと対照的だ。
「ニセIDも、海外口座も?」
「はい。全てがゲーム用のガジェットです」
「特に海外口座への送金は、自慢の大興奮アイテムで」
CEOのハゲ頭が加わる。ドヤ顔だw
「夢中になり過ぎて、リアルな殺しに発展する可能性は?」
「テリィたん。我が社は、顧客の安全を何よりも重視しています。武器もリアルだが、決して撃つコトは出来ない。全てゲーム用のガジェットです。ロシフさんの殺害には、自前の武器が使われたハズだ」
「でも、ユーロの札束はモノホンだったぞ」
今度は、僕がドヤ顔だ。
「ユーロ?」
「車にあった5000ユーロさ」
「札束を使うコトもあります。大抵はニセ札を使いますが…」
顔を見合わせるハゲ頭と青スーツ。
「しかも、5000ユーロ?ゲーム代よりも高いですね。モノホンですか?」
「YES。ウチの鑑識が確認してます。彼女が芳林パークにいたのはミッションですか?」
「あり得ません。夜の公園は危険です。ましてや、東秋葉原でしょ?当夜のミッションは、何時間も前に終わってました」
ゲーマー目線の捜査が必要だ。
「彼女の最後のミッションは?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
コンピューターブースが遥か先まで続いている。それぞれに1人1人オペレーターが配置され、PC画面とにらめっこだw
「ロシフ・アラデ?担当は僕です。あの日、最後のミッションは、コインロッカーでのペンの受け取りでした。夜10時に見たらロッカーが空だったので、彼女はペンを受け取ったハズです。つまり、夜10時にはミッションは終了しています」
「ペンって…指示が録音されてる奴?」
「YES。昨日はカフェでのミッションでした」
利発そうなオペレーターだ。矢継ぎ早に質問を浴びせる。
「10時から真夜中まで、貴方は何処にいたの?」
「なぜ彼女は大金を持ってたンだ?」
「最後は共同ミッションじゃなかったのか?」
最後はCEOだ。ココで、僕とラギィが異口同音。
「共同ミッション?」
またまたCEOはドヤ顔だ。
「プレイヤー同士が協力してミッションを行います。ただし、お互いに敵か味方かは明かしません。なかなかスリリングですょ」
「相手は、半島から来たスパイの145です」
オペレーターの声にファイルを確認スル青スーツ。
「ドレア・ドレア氏です。何か知ってるカモ」
「この写真に見覚えアル?」
「この女性は…」
青スーツから、ヒロインベンチャーズ社のロゴが入った写真を見せられる。半島系だ。この整形美女には見覚えがアルw
「アンニョン!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
東秋葉原のタワマン57階。
「いやだわ。カフェでは変な行動をとってしまって」
ダージリンが出て来る。no thank youのジェスチャ。
「自分を忘れられるの。誤解しないで。私は、夫も子供も愛してるわ。でも、どこで何をしても、私が妻と母親であるコトに変わりはないの。そしたら、夫が自分で費用を持つなら行っても良いって言ってくれて。頑張ってクーポンで節約してスパイ体験をしてみるコトにしたのです」
「被害者のロシフ・アラデさんのコトは、どの程度ご存知でしたか?」
「何回か会ったけど…ゲーム中でお互いに演技をしていただけです。共同ミッションもやったけど、役を演じてるだけですから」
ロシフも、ドレアみたいな主婦なのだろうか。
「ロッカーのミッションとか?」
「はい。一緒に暗号を解いてペンを受け取りました」
「その後、彼女はどこへ?」
スラスラ答える。
「ブリーフケースを届けに行きましたけど」
「何のブリーフケース?」
「ロッカーに入ってました。てっきり、ボーナスミッションかと思ったのですが」
「ブリーフケースの中身は?」
ドレアは、肩をスボめ掌を上に向けるポーズ。
「さぁ。ソレは会社に聞いてください」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。
「ヒロインベンチャーズに聞いたトコロ、例のロッカーにはペンしか入れてなかったそうよ。なぜブリーフケースが入っていたのかは謎」
「うーんブリーフケースは金と関係してそうだ」
「ヲタッキーズ、コインロッカーの周辺に防犯カメラが設置されてナイかを調べて」
うなずきエアリが出掛ける。代わりにマリレが駆け込む。
「ねぇ!被害者の夫と従兄弟が遺体の確認に来たわ!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の検視局は、署の地下にアル。
「妻は、ゲームだから心配ナイと言っていたのに」
「殺人とヒロインゲームが関係してるかは、未だ不明です」
「奥さんに悪意を持ってた人物などはいませんか?」
従兄弟がクルリと振り返る。
「ロシフは誰からも好かれる女だった。仕事も優秀で成功してた。車のディーラーは人に好かれないと出来ない商売だからな」
「ロシフさんがヒロインゲームに参加しているコトを知っていたのは?」
「私達だけだ」
夫は力説スル。涙目だw
「8年ですょ警部さん。妻とは結婚して8年。その妻がスーパーヒロインのコスプレしたママ死んだ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の捜査本部。ホワイトボードの前。
「変われば変わるモンね。中年の危機には、普通はフェラーリを買ったり、愛人を作ったりスルと決まっていたのに」
「ところが、彼女は大金を持って殺された。よっぽど刺激が欲しかったンだろーな」
「彼女の口座を調べてみる。何か不審な点が出て来るかも」
ん?嫌な予感がする。
「出て来ると言えば…やぁトムデ!」
にこやかにキャッスル。
「やぁテリィたん!」
僕達は握手。ラギィもデスクから立ち上がる。
「例の僕のビーチハウス近くのレストランなんだけど、金曜日の予約が取れたんだ」
「あら、素敵。夕方からお店を開ける、太ったおばあさんが1人でやってるお店?」
「行ったコトあるの?ねぇ出来るだけ早く出発しないか?」
何だって!デートか?
「挑戦してみるわ」
「わかった。じゃあまたね」
「じゃ」
トムデを目線で追うラギィ。振り向くと…ニコニコ顔の僕w
「週末は仕事じゃなかったのか?」
「テリィたん…ハッキリ言えば良かったわ。気マズくなりたくなかったの。実は私、今トムデと付き合ってるから…」
「え。」
衝撃の告白w
「え。そっか、ふーん。なるほどね。僕も私生活には口を出さナイ主義さ」
「私は、ただ誰も不快にしたくなかったから黙ってただけ」
「誰も不快にナンかなってナイょ」
不快の塊だ!内心グラグラ怒ってる僕←
「ラギィ。ソレを聞いて、僕もラギィに話そうと思ってたコトがあった。次回作を描き上げるために、しばらくリサーチを中断しようと思う」
「え。中断?何で?」
「ラギィも僕にウンザリだろ?僕も執筆に専念スル。アキバから離れ、しばらく乙女ロードで過ごすコトにスル」
僕は、海外ドラマをマネてラギィのデスクに腰掛けるw
「しばらくって…テリィたん、どのくらい?」
「しばらくは暫くだ。とにかく!この事件が最後だ」
「ラギィ!あ、テリィたんも!ロッカーの…」
エアリが飛び込んで来て…言葉に詰まる。マリレも同様だ。赤ジャケを椅子にかけて、振り向くラギィ。背を向ける僕。
「平気?」
「平気ょ」
「平気さ」
顔を上げるラギィ。
「ソレで…どーだった?」
「ロッカー近くの防犯カメラを確認して来た。彼女は確かにブリーフケースを10時前後に取り出してたわ」
「あら、そう」
塩反応だ。顔を見合わせるエアリとマリレ。
「…で、誰が置いたと思う?」
「あ。そーだったわね。ごめん…誰?」
「画像はナイのか?」
スクショ画像を示すエアリ。一目見てラギィ。
「ヒロインベンチャーズ社にいたロシフ担当のオペレーターだわ!彼は、ブリーフケースはゲームに含まれてないと証言してたのに」
「男って、どうしてウソをつくの?」←
「そーゆー生き物なのょ」
尻馬に乗る僕w
「だょな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。オペレーターの名はヒュガ。
「ブリーフケースには何が入ってたの?」
「あのブリーフケースがゲームには関係ナイってコトは、君のボスに確認してアル。念のため」
「ところが、貴方はプレイヤーにブリーフケースを運ばせた。そして、その直後にプレイヤーは死んだ」
ヒュガは、ブルブル震え出す。
「知らなかったんです」
「何を?」
「こんなコトになるハズじゃなかった。単に運び屋が欲しかっただけなのに!」
運び屋?
「ヒュガ。ブリーフケースの中身は何だ?薬?金?」
「…IDです」
「ID?IDの運び屋?」
呆気なくヒュガは完オチw
「ヒロインゲームに使う偽IDは、全て僕が作ってました。最初は、組織のバッチや架空のパスポートなどチマチマ作ってた。もともと、僕はレイヤーに人気のガジェット屋でした。でも、他に実在する国の偽IDも、その、何というか、まぁ勢いで作るようになり…裏で作ったら、結構売れるようになってしまった」
「おいおい違法行為だぞ」
「で、ソレを誰に売ったの?」
涙目で語るヒュガ。
「最初は、主に外国籍の大学生でした。恐らく飲酒用に酒を買うのでしょう」
「それをプレイヤーに配達させてたワケ?」
「僕に足がつかないように…外国の大学生はすぐ裏切るから。母国の家族も売り飛ばすから」
何処かで痛い目に遭ってるよーな口ぶりw
「でも、殺人ょ?未成年の大学生が犯人ではナイわ」
「確かに最後の仕事は大学生じゃありません。大金をくれたモノで…」
「じゃ誰?」
詰め寄るラギィ。怯えるヒュガ。
「月面ナチスです。ネットで依頼があって、金はロシフが受け取った。パスポートの偽造を頼まれました」
「5000ユーロ?」
「Yes。ロシフにはヒロインゲームの一環だと思わせるように仕向けたんだ…あぁ!」
ココから顔を曇らせるヒュガ。
「でも、彼女から黒っぽいセダンに追われていると連絡があったのです」
「黒っぽいセダンね。その電話は何時のコト?」
「11時半頃です。ヒロインゲーム中に顧客が妄想を抱くコトは良くアルのです。その場合の対処法もマニュアル化されてる。だから、彼女もヒロインゲームに夢中になり過ぎただけかと思ってました。だから、ホンキにせズ、マニュアル通り標準的な対応をしました。でも…彼女はリアルで死んだ」
泣きそうになるヒュガ。
「彼女は午前0時頃、再び電話を寄越して正体がバレたと言って来た。フザけてると思って、僕は突き放して相手にしなかった。そしたら…彼女は死んでしまった」
悔恨の表情を浮かべ、泣き出すヒュガ。
「僕が、何かヘマをしたンだ。手違いがあった。奴等を怒らせて、そして、彼女が殺された。パスポートの出来が悪いとか、それで、きっと、恐らく奴等を怒らせて…」
「ヒュガ!彼女は、ブリーフケースを何処に運んだの?ヒュガ、月面ナチスのアジトの場所は?」
「アドレスを逝え!今すぐ!」
涙目で僕をチラ見するヒュガ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
神田佐久間河岸町の安アパート。薄いドアを蹴破って、完全武装の警官隊が突入。音波銃を突きつけられ室内は騒然だw
「クリア!」
「全員手をつけ!
「壁の前に立て!顔を見せろ」
萌えステッカーを斜めに貼った窓の前に1列に並べる。全員が半島系のアジアンだ。突入班の班長が無線で叫ぶ。
「全員、ガキです」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋でのガキの取り調べは夜まで続く。
「全員、兵役逃れの学生でした。ヒュガのコトは、アキバ工科大学の夏季プログラムの仲間から聞いたらしい。酒を買うのにIDが必要だったと話してます」
ラギィへの取調官の報告だ。
「夏季プログラムだって?」
「アキバ工科大学のプログラムょ。なんで?」
「別に」
沢尻エリカみたいにトボける。
「偽IDを入手して即、飲みに行ってる。黒いセダンどころか自転車も持ってない。あの連中は、犯人じゃナイ」
そう僕が漏らしたら、ラギィは溜め息をついて回れ右スル。ホワイトボード前まで歩き、考える人のポーズでつぶやく。
「ロシフは、ホントに誰かに追われてたのかしら」
「撃たれる直前の11時半と死ぬ直前にスマホしてる。車は損壊してたから、走って芳林パークに逃げ込んだ」
「車は確かに損壊してた。でも、誰から逃げてたの?」
ホワイトボードの前で首だけ僕の方に向け小首を傾げるが…
かつて、鉄壁を誇った僕達の妄想シンクロ率も今やゼロだw
「ラギィと一緒に秋葉原中の黒っぽいセダンを1台残らズ調べたいけど、今日はSF作家仲間と賭け大貧民大会の日だ。またな」
「お疲れ。じゃあね」
「…ラギィ。今のでテリィたんとは、もうおしまいなの?ねぇせめて送別会はやろうょ」
恋愛系だと急に口下手になるラギィを口説くエアリ。
「…でも、いずれまた戻ってくるんじゃナイ?」
「ホントにそう思う?テリィたんは、いつもラギィにピッタリくっついてた。リサーチのためだけに同行してたと思う?ソレなら、もう楽に50冊描ける位、リサーチしてるわ。どんな理由にせよ、ラギィが別の男子といるのを見るために同行してたワケじゃナイ」
「そ、そうね」
考え込むラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
月に手が届くタワマンの最上階で賭け大貧民大会。
「ヒロインゲームの最中に謎の殺人事件?真相は闇の中か。良い滑り出しだな」
「半島の整形美人も要素としては意外だ」
「金も道具もブリーフケースも説明がつくけど…リアルで未だ1つだけ解けない謎は、殺された理由だ」
僕は、疑問を投げかけてみる。
「恐らくテリィたんの着眼点が間違ってルンだ」←
「じゃ何処を探せば良いと思う?」
「私の作品なら、犯人はヒロインゲームとは関係ナシ。犯人は、自分の殺人にヒロインゲームを利用スルって筋立てだ」
SF作家同士の妄想がハレーションを起こすw
「自分につながる証拠を残りにくくしないとな」
「それが実際に起きたコトだ。いくら執筆に苦労しても、殺人の理由は3つしか選べナイ。"愛"か"金"か"犯罪の隠蔽"だ」
「その通り。いくらコスプレ好きとはいえ、ヒロインゲームに目を奪われるな。被害者に目を向けろ」
最後に辛口コメント。
「とにかく!私なら例の女警部ナンかにかまってないで、執筆に専念スル。君の元カノ編集者から何かもらってるワケじゃナイが、率直に言って1年1冊は少ないと思う」
「少な過ぎる」
「彼女は、テリィたんの女神と言うよりも、執筆の神とハレーションを起こす疫病神だ」
ウマいコトを逝うなw
「そうカモな。どっちみちリサーチはもう充分出来たしな」
僕は、チップを投げる。
第4章 また、アキバで
万世橋の捜査本部。既に日付が変わり、1人で残業しているラギィ。デスクサイドの椅子は空席のママ。
足音に振り向く。
「やぁもう行ける?」
「あ、トムデ。えぇ行けるわ」
「さ、行こう」
立ち上がるラギィ。赤ジャケを椅子の背から取って2人で歩き去る。後に残されたのは、デスクサイドの空席の椅子だ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
翌朝の捜査本部。ホワイトボード前には既にスタメン集合。
「テリィたん、おはよう!」
「ラギィ?やぁ」
「…え。」
ふと言葉に詰まるラギィ。僕が…自分のマグだけ持って来たからかな。ラギィだけがコーヒーを持ってナイ。トムデは?
「ラギィ。考えたンだけど、ココ座っても?」
「えぇどーぞ」
「多分、着眼点が違ってるんだ。犯人はヒロインゲームとは関係ナイ。関係ナイと逝うか、恐らく、犯人はゲームを隠れ蓑として利用してるだけだ」
ラギィの顔がパッと輝く。
「驚いた!私も朝、起きて同じコトを考えてたの。私達は、多分ヒロインゲームに気を取られ過ぎて、重要なモノを見てなかったと思う」
「被害者だ」
「…その通りょ。ねぇコレを見て。被害者の従兄弟で、共同経営者のコプリに経済的な問題がアルわ。2ヶ月前に不動産投資に失敗して破産申請している」
そりゃ知らなかったな。
「となると、ロシフが死ねば会社はコプリのモノか」
「5000万円以上の価値があるわ」
「そっか…確かヒロインゲームのコトは、コプリとロシフの夫のメリダしか知らなかったハズだょな…で、コプリの車を当ててみようか」
僕とラギィは異口同音w
「黒のセダン!」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋の取調室。従兄弟のコプリを任意聴取。
「ロシフは幼馴染だ。幼馴染を殺す理由がナイ!」
「そんな理由はゴマンとアルさ」
「私に経済的な問題があるからか?破産者を差別スルな!」
そりゃ無理だ。
「コプリさん。欲は最も純粋な動機なの」
「バカバカしい」
「コプリさん、事件の日は何処に?」
斬り込むラギィ。
「家のベッドで寝てた」
「あら。どーしましょ。コレは駐車場の防犯カメラの画像どけど、事件の日の夜8時、貴方が自宅を出る時の写真、御帰宅は翌朝の7時みたいね」
「自宅のベッドにいたと逝うのはウソだな。真実を話せ」
珍しく命令口調で迫ってみたが、鼻で笑われるw
「貴方は、秋葉原まで来る時間は十分にあった」
「何をしてた?ロシフがコスプレしてヒロインゲームに興じるまで後をつけたのか?」
「フン。まるで違う。誓って言う。そんなコトはしてナイ」
やたらフテブテしい。何か変だw
「ねぇあくまで自宅のベッドで寝てたと言い張るの?」
「私は、家のベッドとは言ったが、自分の家のベッドとは言ってない。だが、間違いなくベッドにはいたさ。彼女の夫とな」
「なんですって?」ベケット
動転スル僕達。さらに、トドメを刺されるw
「ロシフの夫、メリダと寝てた」
何と…ゲイ?受け手はどっち?まさか…思わズ顔を見合わせる僕とラギィ。目を瞑り10数えてから聴取に戻るラギィ。
「つまり、こーゆーコト?友人が殺された夜、その友人の夫と禁じられた行為をしていた?」
「ゲイが禁じられてると言うのか!」
「ソッチはともかく不倫は禁止でしょ。あぁ神様」
天を仰ぐラギィ。僕の感想は、もっと現実的だ。
「ヤルな」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
万世橋のラウンジ。"夫"の任意聴取。
「警察に謝る気もナイし、社会的に恥ずかしいコトだとも思ってない。妻は、ビジネスとヒロインゲームに夢中で、私達夫婦はズッと(セックス)レスだった。だから、あの晩も私はコプリと寝たのだ」
「しかし、そんな夫婦仲だったらなぜ離婚しナイの?」
「愚問だ。財産を失いたくなかったからさ」
果たして君は"夫"なのか"妻"なのか。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
取調室を出た僕達は、ギャレーに"逃げ込む"w
「ロシフもアレじゃ現実逃避したくナルな」
「あの晩、妻の家にはコプリの車が駐められてた。防犯カメラで確認出来たわ、ラギィ」
「そんなの意味ナイわ、エアリ。現場には、別の車で行ってた可能性もアルし」
マグカップのコーヒーを飲みながら、防犯カメラの画像を見て呟くラギィ。ところが、聞き込みしたエアリが口を挟む。
「ソレが…あの夜はアパートの窓が開いてたみたいょ」
「ウソでしょう?」
「リアル。情熱的なヲス同士の営みの声が丸聞こえだったらしいわ。しかも、正午過ぎまで。ご近所は、誰も眠れなかったみたい」
良いと声が出ルンだろーな。何ゴトもw
「2人共、立派な動機がアルし、ロシフの居場所も知ってる。必ず何か関わってるハズだわ」
「だな。アリバイがナイからと逝って犯人じゃナイとは逝い切れないぞ」
「傭兵を雇ったとか?あの射撃の腕前はプロっぽいわ」
うん。ラギィは"立ち直ってる"。発言がシャープだ。
「でも、破産したコプリに人を雇う金はナイな。モチロン、傭兵を雇う費用が破産裁判所から出るハズもナイ」
「でも、テリィたん。アラデ家の口座の大きな動きは、ロシフが上海にあるヒロインベンチャーズのオフショア口座に参加費の100万円を払ったぐらいょ?」
「100万円?」
僕とラギィは顔を見合わせる。
「え。そうだけど…」
「エアリ。ヒロインゲームの参加費はその半分だぞ。確かヒロインベンチャーズの女性がそう言ってた」
「確かに。車にあった5000ユーロは参加費よりも高いとも言ってたわ」
マリレから、まるで泉のように良い情報が湧き出る。
「でも、銀行の明細書によれば、50万円の参加費を2度支払ってるの」
「1つのゲームに2度、支払いをしてる?」
「YES」
コピーした口座書類と照合しながら頭をヒネる僕達。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
和泉橋南詰めにあるヒロインベンチャーズ社。
「確かにロシフ氏は、別の参加者の分を払っています」
「別の参加者の分?」
「誰ですか?」
ラギィの問いに、慌てて調べるCEO。
「ドレア・ドレア氏の分です」
「彼女は、ヒロインゲームで組むまで、ロシフを知らなかったと言っていたわ」
「じゃ何でソンな人のゲーム代を払うの?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「何かの間違いだわ!」
自宅の応接で書類を見せられたドレアが激高スルw
「ドレアさん、銀行に確認しました。誤解じゃありません。貴女はヒロインゲームの参加費を、自分では払ってませんね?」
「払ったのはロシフだ。君のクーポンの節約話はリアルだった。スッカリ騙されたょ」
「ドレアさん。貴女は、ロシフ・アラデとはどーゆー関係だったんですか?」
唇を噛むドレア。ココで完ヲチw
「私達は…友人でした」
「初めて出会ったのはいつ?」
「去年です。私は、毎週末、娘をダンス教室に連れて行き、いつも美術館で教室が終わるのを待っていました。彼女とは、ソコで会ったの。彼女は、いつもセーラー戦士のコスプレでマネのオブジェ"make me crazy"の前にいたわ。その1時間は、妻や母であるコトを忘れ、ホントの自分自身になれた。数週間すると、自然にホテルで逢うようになってました。でも、その頃に娘のダンス教室も終わってしまった」
何処にでもアル、小さな不倫の物語。ただし、ゲイw
「もう秋葉原に来る口実がなくなった?」
「YES。初対面の時、私達はスーパーヒロインのスパイのフリをしてた。だから、ヒロインゲームで最後に2人で楽しもうと…ロシフが提案をしてくれたの」
「ただいま」
何と夫が帰ってくる。狼狽するドレアw
「大変ょ!夫には言わないで!」
「ムリ。ソレに今さら私達が言うまでもナイわ」
「彼は、知ってルンだ」
息を飲むドレア。夫がリビングに顔を出す。
グレーのジャケットに、青いワイシャツだ。
「お客か?コチラの方々は?」
「私は警部のラギィ。万世橋警察署ょ」
「警察?どーゆーコトだ?」
ラギィはソファ立ち上がり、バッジを示す。うなずく夫。
「貴方は2019年製の黒いセダンに乗ってますね?」
「YES。でも、どうして?」
「今、セダンはどちら?」
誰かがウソをつく時の独特の空気感w
「スーパーの駐車場で柱にぶつけて今、修理中です」
「射撃に比べるとウソはヘタだな」
「貴方は、秋葉原D.A.で音波銃登録をしてますね」
息を飲むドレア。
「グロッキー社の45Hz口径」
「…ウソでしょ?アナタ!あの人に何をしたの?」
「当然の報いだ」
ヲタクな夫がリア充に変わる真実の瞬間だ。口を押さえて、ソファに座り込むドレア。指と指の間から嗚咽が漏れ出る。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
南秋葉原条約機構は、アキバに開いた"リアルの裂け目"から降臨する脅威に対抗するために結成された秘密組織だ。
ミユリさん率いるスーパーヒロイン集団"ヲタッキーズ"はSATO傘下の民間軍事会社。つまりSATOは僕達の雇主w
「ムーンライトセレナーダー。結局、ロシフは追われていたってコト?」
「YES。レイカ司令官。ドレアの夫は、ドレアの浮気に気づき、ヒロインゲームを利用して浮気相手のロシフを探し出し、追い詰め、そして殺したの」
「夫婦ともにダブル不倫。しかも、ダブルでゲイ。あらゆる面で愛のない結婚だったのね。切ないわ。みんな、怖くて自分の気持ちや性癖をパートナーに伝えられなかったから、起きた事件ょ」
SATO司令部はパーツ通りにあるゲーセンの地下深く秘密裡に作られてルが、僕はスマホを切りながら足早に歩いてる。
「OK。じゃ切るょ…悪い。今からちょっと元カノ会長をAITに送って来るトコロさ。万世橋が企画してる僕のサプライズ送別会までには、戻らなきゃ…ミユリさん、何?」
「いいえ。テリィ様。別に」
「沢尻エリカ?」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
メイド長のいない"潜り酒場"。
「スピア。そのスーツケース、全部持って逝くのか?」
「テリィたん以外はね。ねぇホントに大丈夫?ミユリ姉様もメイドミュージカルだし、秋葉原で1人になるの初めてでしょ?」
「ソレは、元カレが元カノに語るセリフだ…ソレに、あんまり1人じゃなくなるカモしれない」
目を剥くスピア。
「新しい元カノ会長候補が現れたの?」
「いや、会長はスピアさ。ただ大物元カノが…」
「え。私が知ってる元カノ?」
僕は、ちょっちドヤ顔だ。
「今は秘密な」
「ふーんロマンスを味わうのは、どうやら私だけじゃなさそうね…ウソウソ。私を信じて」
「笑えない冗談だ」
思わズ、スーツケースを取り落とす僕。死者の前で、その杖を落とした…なんちゃって。ジーク・ジオン!
「面白くナイょスピア」
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
その頃、万世橋ではトムデが唇を噛んでいる。
「今週末の話だけじゃナイな?」
笑いながら首を横に振るラギィ。
「僕は、何か変なコトでもしちゃったかな?」
「いいえ。貴方はとても素晴らしい人だし、大好きだわ。でも、今はこーゆー関係を求めていない気がスルの」
「じゃ何を求めてるんだ?」
遠くを見るラギィ。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
照明を落とした万世橋のギャレーに、キャンドルとビール瓶が並ぶ。僕のサプライズ送別会だが…ドッと笑い声が沸くw
「辛くて泣きまくった。ところが、元カノ会長のスピアはケロッとしてたけど!」
「改めて言うけど、ヲタッキーズのCEOであるテリィたんの姿が見えなくなったら、少し寂しいカモ」
「僕もさ」
フト目を伏せるエアリとマリレ。
「あの特製パーコレーターは置いてってね」
「モチロンさ。寂しさを癒してくれ」
「検視局にも欲しいわ。テリィたんがいなくなったら検挙率が落ちそうょ。謙虚率は上がるけど」
リモート参加の超天才ルイナの珍しい冗談に座が沸く。ソコに内心僕が気に入ってる白いお嬢様ブラウスのラギィ登場。
「おっと。やっと誰かさんも仕事が上がったみたいだ」
「あら、テリィたん。私だって楽しむ時には楽しむわょ」
「飲み比べはダメょ。彼女はザルを超えてワクだから」
強気でメイド達を挑発するラギィ。
「飲まなくてもメイドさん達には負けないわ」
「おっと厳しいコト」
「テリィたん。ちょっと?」
みんな帰って真っ暗な廊下に連れ出される。ギャレーのみんなが一斉に目で追い僕達を見守る中、ドアを閉めるラギィ。
「どうした?」
「あのね…自分がとっつきにくい腐女子だってコトは、十分にわかってる。リアルに本音を明かせないし、でも、秋葉原に来て、テリィたんと一緒に働けてホントに楽しかったわ」
「そっか。僕もさ」
廊下に呼び出した理由はなんだろうSHOP。
「だから、私、ちゃんと気持ちを伝えようと思って…ええっ!エリゼ大統領閣下?!」
「あら?お取り込みだったかしら。テリィたん、行ける?」
「やぁエリゼ。みんな、アキバD.A.大統領のエリゼだ。僕の元カノ会員No.001」
ラギィは直立不動の姿勢のママ握手。ギャレーから飛び出して来た面々も次々と直立不動の姿勢で敬礼(僕にじゃナイ)。
「私の元カレ。タマに子供みたいに隠れるの。私は噛み付いたりしないのにね。でしょ?」
僕は力なく笑う。
「さぁ行きましょう。遅れるわ」
「え。テリィたん、どこへ?」
「衛星軌道だ」
ショックを受けるラギィ。
「この週末?」
「いいえ。D.A.のミッションだから、もう少しかかるわ。まぁ衛星軌道に上がれば時間が出来るから、執筆は進むカモね」
「失礼ですが、お2人はとっくに別れたモノと…」
笑って首を振るD.A.大統領。
「そうょ。だから、元カノ」
…な割には、僕の腰に手を回し、私のモノょと引き寄せるw
「そうだ。ラギィ、話の途中だったょな?」
「え…こう言おうと思ったの。ミッション、頑張って。今日まで楽しかったって」
「僕もラギィと同じさ。繰り返すがホントに楽しかった」
僕が手を上げると、みんなもビール瓶を上げて応える。立ち尽くすラギィを残しEVに向かうが、背中から一声かかる。
「テリィたん。またアキバで」
僕も振り返り、はっきりと応える。
「ROG。また、アキバで」
おしまい
今回は、海外ドラマによく登場する"街を借景したゲーム"をテーマに、スーパーヒロインのコスプレをしたゲーマー、暗号名で呼ばれるゲーマー達、ヒロインゲームを運営するスタッフ、ゲーマーの多彩な人間模様を彩るリア充達、シーズン最終話を飾る、これまた多彩な元カノ達、特に"大物元カノ"、コスプレ殺人を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。
さらに、主人公の元カノ会長の留学騒ぎ、シーズン最終話ならではの"大物元カノ"の登場などもサイドストーリー的に描いてみました。
海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、すっかりインチキ英会話を交わす機会が増えた秋葉原に当てはめて展開してみました。
秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。