47.ブリザードの夜
翌朝、今朝も朝からばっちり吹雪いている。
完全にブリザードの来襲だ。
シーラは癖で、早くに起きてしまって大部屋に行ってみると、まだ誰もいなかった。
しょうがないから、食堂でお湯だけ貰って引き返し、自室でゆっくりとパンとチーズの朝食にする。
窓の外は猛吹雪だ。完全に日は上がりきっている筈なのに薄暗く、時折、風でガタガタと窓が震え、雪がガラスに叩きつける。
これは、確かに仕事にならないわね。
納得して、のんびり朝を過ごしてから大部屋に行ってみると、ちらほら人が居た。暖炉に火も付いていて暖かい。
昼前には、ほとんどのメイド達が集合して、分厚いカーペットを重ねた上に座り込んで手仕事に励む。
特にノルマはない。
メイド達の目的は暖かい部屋と、おしゃべりで、おしゃべりのついでの手仕事だ。
シーラもせっせと、ナターシャとリリー、サニーと共に刺繍や、サラマンダーの端切れを使った中敷きの作成に励んだ。
おやつ時には、ラム酒入りのコーヒーをウェストンが持ってきてくれる。甘くて美味しい。シナモンのたっぷり入った薄いクッキーが添えてあって、これも美味しかった。
夕食は、ウェストンがスープを作ってくれたので、スープとパン、干し肉、を皆で食べた。
夕食後、再び大部屋に戻る。ブリザードの日は、夕食後も大部屋に残る者がほとんどらしい。
リリーによると、自室に帰っても寒いから、寝る直前まで皆でここでダラダラ過ごして、部屋に戻ったら、さっと体を清めてベッドに入るのが基本だという。「明日も休みだし、夜は長いですよ」とリリーは楽しそうだ。
ナターシャは早めに引き揚げたけれど、シーラは基本に従ってリリーとサニーと何となく夜更かしをしてから部屋へと引き上げた。
大部屋では、最後はゴロゴロしながら、皆の恋の話なんかを聞き、ご満悦のシーラだ。
楽しかった。
ふふふ、と上機嫌で戻ってきたシーラだったが、その上機嫌は部屋に入ってしぼむ。
え、さむ。
自室が思っていたよりずっと寒い。夜更けまで留守にしてたので、部屋はすっかり冷えきっていた。
少し早めに戻って、暖炉に火を入れれば良かった、と後悔するが、もう寝るだけなので暖炉は諦める事にする。
うーん、でも、この寒さの中、寝れるかなあ、嫌な予感だわ。
そう思いながらも、シーラは体を清めて、寝巻きに着替え、ベッドに入ってみる。
布団は氷のように冷たかった。
ひゃあっ。
あまりの冷たさに悲鳴が出そうだ。
しばらく布団にくるまってみたけれど、シーラの体が冷えてしまった。
寝巻きが綿の薄い物のせいもあるだろう。
ガウンを羽織ってみたが、ガウンとて、綿の薄いもので、あまり暖かくはない。
実家から持ってきた寝巻きとガウンは、冬仕様に出来ていないのだ。
困ったな、、、。
手足が完全に冷えてしまって、このままでは眠れないだろう。
暖炉に火を付けて、部屋を暖めてからじゃないと寝るのは無理ね。
シーラはそう決めると、そっと部屋を出て1階まで薪を取りに行った。
城の廊下は最低限のランプだけ灯されていて薄暗く、寒いし、外の風の音が、ひゅー、ひゅー、と聞こえて何だか心細い。
薄い寝巻きとガウンでは、部屋よりも寒さがしみて、ますます体は冷えていく、歯がカチカチして鼻の頭がひんやりしてきた。
食堂でお湯を貰って帰った方がいいかしら?
でも、薪を持って、ポットも持てるかな、、、難しいわね。お湯は諦めよう。
シーラは、パタパタと小走りで薪を積んでいる玄関ホールまで行き、ひと束掴んで引き返す。
暗い廊下を食堂まで来た所で、食堂の暗がりから声を掛けられた。
「シーラ?」
「きゃあっ」
びっくりして、身を竦めると、暗がりから出て来たのはディランだった。
「ディラン様」
何だ、良かった、ディランだった。
心細い上に、びっくりしたので、ディランが出てきた事でシーラの顔は、へにょりと綻ぶ。
こんな夜更けに会うのは初めてで、変な感じがする。
「すまない、驚かせたな。何してるんだ」
「薪を取りに来てました」
「こんな時間に薪なんて、寒いのか?」
ディランは、シーラの持つ薪の束をひょいと掴んだ。持ってくれるみたいだ。
「はい。1日中、大部屋に居たので、部屋がすっかり冷えていて、このままでは寒くて眠れないので暖炉を使おうと」
「そうか」
すたすたと歩き出すディランの横をシーラは歩く。
「ディラン様は?眠れないんですか?」
「今朝はゆっくり寝たからな。もう少し起きてようかと思って。何か飲もうとお湯を貰いに来た」
「何か淹れましょうか?」
自然にそう提案すると、少しぎょっとされた。
「いや、こんな夜更けだし、いい」
「あ、、、そうか、そうですね」
時間が時間だけに、馴れ馴れしかったとシーラは反省する。
執務室に紅茶を持って行く訳ではないのだ。
変な提案をしてしまったな、と思いながら2階へと上がり、2階に着いた所でディランが言った。
「俺の部屋に来るか?」
「へっ?」
思わぬ申し出にシーラは変な声が出た。
「唇が紫色だ。俺の部屋なら1日中、籠っていたから暖かい」
「いえ、あの、でも、」
「凍えるあなたを置いていくのは心苦しいし、あなたは俺と2人でも、どうせ気にしないんだろう?」
少し、じと目で睨みながら言われた。
“何か淹れましょうか”発言が良くなかったみたいだ、やっぱり馴れ馴れしすぎたんだわ、とシーラは思う。
「心配しなくても、好きな女を傷付けるような事はしないし、嫌われるような事もしない」
「すっ、、、」
“好きな女”にシーラは、ぼっと赤くなった。
「いいから、来い」
ディランはすたすたと3階へと上り出した。
手にはシーラの薪ひと束を持ったままだ。
私の薪、、、、。
シーラは一瞬、逡巡したが、結局、廊下の寒さに負けてディランの後を追った。




