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【電書化】元侯爵令嬢の辺境使用人ライフ  作者: ユタニ


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43/52

43.告白と可哀想なジェラート


王都からサッハルトに戻ってきて1週間が経った。

ええ、戻ってきて、1週間、経っている。


シーラ達は、国王と王妃との面会の日は王都に泊まり、その後10日かけてこちらに戻ってきたので、、、、馬車でのキスからは18日も経った。


サッハルトに戻って3日後には今年の初雪が降り、しっかりと雪に閉ざされたサッハルト領内で、シーラは今日もどんよりと働いている。


もう一度言おう、馬車でのキスからは、18日経った。

シーラはちゃんと、18日も経っている事を把握している。毎日きちきち数えているのだ。


キスをされて、シーラはとても混乱した。

何が何だか、分からなかった。これは怒るべき事のような気はしたが、怒っていいのか分からなかったし、そもそもシーラは怒ってはいなくて、そこからして、もう混乱の極みだった。


キスの後のディランはというと、無言で体を離して、その後もずっと無言。

2人は宿へ戻り、ばらばらの部屋で休み、翌日、ばらばらの馬車で帰路に就いた。


帰り道もずーっとばらばら。


そして、18日経った。


18日間、あのキスは放置である。


サッハルトに戻ってからのシーラは完全にディランを避けているせいでもある。

帰還後の2日間の休みは自室から出ないで過ごし、その後は、留守の間に溜まっていた書類仕事をする、という名目でほぼずっとメグの執務室に居た。


だから、まあ、仕方がないといえば仕方ない。


え?そうかしら?

本当に仕方ないかしら?

と、シーラは自問自答する。


ノーだ。

仕方なくなくない。

キスしといて、避けられてるからと放置?

あり得なくない?

私、ずっと悩んでるのに?


そう、都で宿にいる間からずっと、シーラは悶々と悩んでる。


あの、キス、なんだった?

と。


そう、あの、キス、だ。

あの、馬車での、キス。


あのキスは何だったんでしょうね、あの後、説明も詫びも何も無かったですよね。

何だったんですかね。

何度も反芻している問いかけを、今日も空に投げ掛ける。


よく分からないけど、詫びくらいあっても良いのでは?

空に問いかけてから、シーラは思う。


強引ではなかったけれど、一方的だったと思うのよ。

え?待って、あれ、私、ファ、ファーストキス、では?


ファーストキス奪っておいて、詫びもなし?

ファーストキス奪って、、、、


かあっと顔が熱くなる。

柔らかい唇の感触を思い出す。優しいキスだった。

国王と王妃の前でシーラの手を上から握り返してくれた、大きな手の感触も思い出す。


思わず、自分の手を見るシーラ。

大きな手だったな。

その手が、シーラを閉じ込めるように顔の横に付かれて、髪に触れて、、、キスされた。


「~~~」


いやだから、あのキス、なに!?

私の夢とかじゃないわよね?

何で、あれから何も言わないの?

どうしてキスなんてしたの?

してきたの、そっちよね?

避けてるけどね、避けてるけどさ。

18日もあったのよ?何か出来たでしょうよ。


なにか、説明は、あるべきじゃない?



「せめて接触はあるべきでしょうよ!」

「都で何かあったかい?」

思わず声を上げたシーラに、少しびびりながらメグが声をかけた。


「いえ、すみません。大丈夫です」

シーラはきっと顔を上げた。

こうなったら、私から行こう。正面から聞いてやろう。

うじうじうじうじ、悩んでいてもしょうがない。

あのキス、何だったんですかね?

聞いてやろうじゃないの。


大体、春には妻として迎えたい、という話の方もちゃんと詰めないといけないと思っていたのに、キスのせいで全く話せていないのだ。

どこまで本当の夫婦っぽくするのか、を相談しなくてはいけないのに。

人前でどれくらい仲良くするのか、とか、し、寝室どうするの、とか、いろいろ決めておく事はあるはずなのだ。

それに、もう1つ、シーラはディランに伝えておかなくてはいけない事もあったのに、伝えてられていない。


あの、馬車でのキスのせいだ。

とにかく、このモヤモヤを解決しなくては。


「メグさん、本日のディラン様のお茶は、私が淹れます!」

シーラは力強い口調で宣言する。メグは「あ、ああ、じゃあ、お願いしようかね」と言ってくれた。




午後、シーラは粗い手振りで紅茶を用意すると、ディランの執務室へと向かった。





***


すーっ、はーっ、深呼吸をしてから、ノックをしてディランの執務室へと入る。

シーラが部屋に入ると、ディランは明らかに動揺した。

バサバサと書類が飛び散る。


動揺するなら、あのキスの説明をしろ。

じとっとディランを睨むシーラ。


ワゴンを中まで入れて、シーラはディランに向き合うと、お茶の用意は後にする事にして、単刀直入に聞いた。

後回しにしては決心が鈍る。

気もそぞろで紅茶を淹れては、紅茶が渋くなる。

先手必勝だ。


「ディラン様、どうしてキス、したんですか?」


散乱した書類を集めていたディランが固まる。

そして、あろうことか、こう聞いてきた。



「、、、なぜ、拒まなかった?」


それはまるで、拒まなかったシーラが悪い、みたいな言い方だった。



「、、、、、」

シーラは頭をはたかれたようなショックを受ける。

ポロリ、と涙が零れた。


「、、、、えっ」

涙を流したシーラにディランは慌てて、すぐにオロオロとシーラの前まで来た。


「シーラ?」

「揶揄かったんですか?」

シーラは涙を流しながらディランを睨んだ。


18日間も、人を悶々とさせておいて、「なぜ、拒まなかった?」は無いだろう。

乙女の唇を奪っておいて、それは、ない。

揶揄かわれたのだ、と思った。

こんなに、思い悩んでいたのに、馬鹿みたいだ。1人で、馬鹿みたいじゃない。


「揶揄かったんですね?」

ポロポロと勝手に涙が出てくる。


ディランは、それを拭おうとしてぐっと止まると、シーラの手をそっと取った。


シーラはその手を払おうとするが、ぎゅっと掴まれる。


「離して、」


「離さない。シーラ、揶揄ってキスはしない。そもそも冗談で、嫁に来るか、とか、子供を生まないか、とは聞かない。シーラ、俺はあなたが好きなんだ」

掠れた声でディランは言った。



「、、、え?」

私を?

ディラン様が?


涙が引っ込む。


「念のために言うが、愛してる、の好きだからな」


「、、、、なぜ?」

「あなたは可愛い」

「かわ?、、、、嘘」

「嘘じゃない」

「私はずっとディラン様に冷たかったんですよ、被虐趣味がおありですか?」

「そんなものはない。この執務室から、リネンを干す空地が見えるし、声が聞こえるんだ。そこでよく歌っていただろう?」

ディランの指摘にシーラは赤くなる。


「その姿が可愛かった。くるくる歌っていて」

ますます真っ赤になるシーラ。


「好きになったのに、最初の俺の愚かな振る舞いのせいで、あなたにずっと冷たくされて辛かった」

「えぇぇ、、」

「好きなんだ、シーラ」


シーラはどうしていいか分からなくなった。

途方に暮れて、ディランを見上げる。


「、、、その、俺の自惚れかもしれないが、揶揄われたと思って、泣いたという事は、つまり、」

ディランが、狂おしい顔でそのように言葉を紡いでいる時だった。



コンコン!とノックがして、がちゃりと扉が開く。


「失礼しま、、、、」

部屋に入ってきたのはジェラートだった。シーラとディランの2人を見て固まる。


ジェラートは、しっかりと、頬を涙で濡らしたシーラを見て、その手をディランが握って何やら真剣な顔で迫っており、部屋の空気がただならぬ様子なのを確認した。


「、、、、お取り込み中でしたね」

ぽつり、とそう言うと、入ってきた姿勢のまま後退して、パタン、、、と扉を閉めた。



「いえ!ジェラートさん!待って!待って下さい!」

シーラはディランの手を力いっぱい振りほどくと、涙を拭きながらジェラートを追いかける。


「待って、大丈夫です!何ですかっ!何かご用ですよね!」

閉められた扉を開けて、ジェラートの腕を必死に掴むシーラ。


ちょっと、今のシーラにディランの告白はキャパオーバーだった。

あのまま、ディランと2人きりでは頭が爆発する。一旦落ち着く必要がある。しっかりと落ち着く必要が。


「ええっ、いや、でも無理なさらないで下さい!」

腕を掴んで引き留められて、ジェラートが慌てる。


「いえ、ほんとに、だいじょーぶです!」

「いやいやいや、私、とても間が悪かったですよね、流してください、続けてください」

「続けるって何ですか、続けません」

「シーラさん、しかし、さすがに、、、」

ちょっと泣きそうなジェラートの元に、ディランもやって来た。


「ジェラート、大丈夫だ。用件は何だ?」

「ええー、、、」

途方に暮れまくる、可哀想なジェラート。


「いいから、、、いいんだ。何だ?」

「あー、シーラさん宛でお客様がお二人、見えられています」

ジェラートは観念して、そう告げた。






お読みいただきありがとうございます!

ブクマに評価、いいね、感想、とても嬉しいです。


展開が焦れ焦れですみません。そろそろ大詰めですので、もう少しお付き合いください。

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― 新着の感想 ―
おいディラン!wwおまwwちょwおまフザケんなよ?www18日間て!!。゜(゜^Д^゜)゜。
ディランちゃんヘタレすぎる!笑18日間放置。2週間と四日!ヤバっ! ジェラードウケる!そして酷い!お疲れ様です!
ジェラートのタイミングがあまりにも良すぎて、おなか痛くて、く、く、苦しい~(笑)
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