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【電書化】元侯爵令嬢の辺境使用人ライフ  作者: ユタニ


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32/52

32.執務室の場所は、、、


部屋の引っ越しも終わり、シーラは翌日より仕事に復帰した。

エラスタスの件を知っているのは、ディランとジェラート、メグ、ナターシャ、リリーだけで、他の皆には疲れが出て熱を出していた、という事になっている。


エラスタスがサッハルトを去ったのも家の事情で、とされた。


メイド達は皆シーラを心配してくれて、侍女への昇進を祝ってくれた。

ウェストンからは、滋養強壮に良いという謎のドリンクをもらい、ハンスはお見舞いの花束をくれた。




仕事に復帰して3日目、シーラは少し後方が気になりながら、洗濯済みのシーツを干している。


シーツをぴんと張って、はたいて洗濯ばさみで止める。晩夏の爽やかな風が吹き抜ける。

いつもなら、大熱唱の時間なのだが、この3日間、シーラは静かだ。


「お暇なんでしょうか?」

シーラが歌えない理由。

後方の壁に背をもたせかけて、こちらを眺めている男にシーラは話しかけた。


「暇ではない、領主なんだぞ。息抜きだ」

「こちらでされなくても」

「ここが、執務室から近いんだ」

サッハルト辺境伯、ディランは憮然とした顔で言う。


それにしたって、シーラがやって来てから、わざわざディランはここへ降りて来ている。

シーラがサッハルトにやって来てそろそろ半年にもなるが、ディランがここに現れるようになったのは、この3日間の事だ。


息抜きな訳がないだろう、何が目的なのかしら!

と思って、シーラは、はた、と考え付く。


「、、、、あの、もしかして、気を遣ってます?」

シーラは、ここでエラスタスに絡まれて、その後、部屋までつけられたのだ。


あの事は、ディランにも大分堪えたようだったし(何せ、シーラに懺悔して和解を懇願するくらいだ)、事の発端となった現場でシーラが怖がらないようにしてくれてるのだろうか。


そしてシーラは、この3日間、後方のディランが気になって、エラスタスの事なんか思い出しもしなかった事にも気付く。



「ただの息抜きだ」

ディランは、ふいっとシーラから目を逸らした。その仕草は照れてる時のメグとそっくりだ。


この人、私を気遣ってわざわざ降りて来ているんだ、、、。


「ふふ、つまり、お暇なんですね」

シーラは、少し微笑んだ。


「ふん、確かに、騎士団関連の帳簿や備品の管理をあなたとナターシャがしてくれるようになって、少し楽にはなってるがな」

「とんでもないです。侍女になり、給料も上がりましたし、その分の働きです」


「だが、暇ではない。新しい事業も始めようかと思っている」

「新しい事業?」


「サッハルトの領民の、識字率を上げる試みだ。あなたとナターシャで、城の図書室でやってる事を、町の教会で出来たら、と思ってるんだ」

「!」

「あなたは、王宮に居た時、都の貧民街でそれをやろうと尽力したらしいな。実現しなかったようだが」


「私について、調べたんですか?」

少し身構えるシーラ。


「王宮からサッハルトに来た文書の内容と、実際のあなたが全然違うから、都でのあなたの様子を調べた。主に仕事振りや、社交界での様子を聞いただけだ、そんな気持ち悪そうな顔はしないでくれ。通常の結婚なら普通にする調査の範囲だ」

貴族同士の婚約や、結婚の際、相手の家や評判を調査するのは普通の事だ。


「、、、確かにそうですね。なるほど、それで誤解していたとなったんですね」


「まあ、そうだ。それで識字率の件だが、秋は冬の準備に追われるから、次の春くらいから何か出来たらと考えていて、その、、、シーラに力を貸してもらえたら、と思っている」


「私に?」

「ああ、あなたには経験があるから。もちろん嫌なら無理にとは、」


「いえ、嬉しいです。お力にならせて下さい」

ディランから助力を請われて、シーラは単純に嬉しかった。公務で頑張ってきた経験が、お世話になっているこの土地で役に立つとは。

頑張っていた事が報われるようで嬉しい。声が少し弾む。


「ありがとう、助かる」

「いいえ」

にっこりしながら、シーラはディランとこんな風に穏やかに話している事に驚く。しかも、サッハルトでの、事業の事についてだ。

少し前までは考えられなかっただろう。


そこでシーラは、ディランにまだ助けてもらったお礼を言ってないな、と気付いた。


「あの、領主様、遅くなりましたが、このあいだは助けていただいてありがとうございます」

お礼を言い、ぺこりと頭を下げる。


「そんなの当然の事だ、礼なんていい。誰だって助ける」

「それでもありがとうございます。でもなぜ、西棟に居たんですか?」


「あー、えーと、それは、あれだ、()()()()、執務室の窓を開けてたら、あなたとエラスタスのやり取りが聞こえて、不穏だったから気になって覗くと、エラスタスがあなたを追って行ったから、様子を見に行ったんだ」


「そうでしたか」

執務室、、、、って、ここからだと、どの部屋かしら?とシーラは何となく上を見上げる。


会話って、どれくらい聞こえる、、、


「と、ところで!あなたの冬の準備は進んでいるか?メグが防寒着を持ってないのでは、と心配していた。そろそろ用意した方がいい、こちらの夏と秋は一瞬だ」

シーラの考えを遮るようにディランが聞いてきたので、シーラは思考を中断した。


「大丈夫です。次のお休みに一揃え買うつもりなんです」

笑顔でそう答えてから、シーラはしまった、と思う。

今のディランは、シーラにとても甲斐甲斐しいのだ、甲斐甲斐しいモードの中でこの流れは、、、


「一緒に行ってもいいか?」


ぐう、、、、

しかも、疑問形、、、、


「前の外出でも絡まれただろう?心配なんだ」




「、、、、構いません」

「ため息と共に言うのは止めないか?」


という訳で、次の休みはディランと外出する事になった。






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― 新着の感想 ―
ぐぅて……w シーラは上から男には強いが、こういうのには弱かったのね
アホな子は可愛いなぁ。 全部疑問系でくるからずるいわぁ!
[良い点] なんとか、なんとかここまで! 領主様、少し成長しました? [気になる点] 先代辺境伯夫婦、何やってるんだろう? 奥様が調子を崩したとは言え、このレベルの跡継ぎに、教育できる大人を誰も付けず…
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