21.プレゼントについて
「あのさ、シーラさんに相談したい事があるんだ」
2人で空を見上げた後、ハンスはシーラの黒髪の王子様の説明を待たずにそう切り出した。
どうやら、こっちが本題のようだ。
王子様が黒髪の説明は次回、機会があればにしよう。
「何ですか?」
「えーと、あの、何かプレゼントを貰えるとして、シーラさんなら何が嬉しい?」
「プレゼント?何のプレゼントですか?」
「誕生日なんだけど」
プレゼント、誕生日、、、、、ふむ。
「お相手は女性なんですね」
「あー、うん」
「親しい方ですか?」
「いや、親しくは、、、、知り合いではあるんだけど」
ハンスがもごもごする。
ふむ。
「お若い方?」
「僕よりは年上かな」
「きれいな方」
「うん、きれいな人だよ」
「金髪の?」
「うん、、、、、えっ?」
ふむ!
「ナターシャさんにですね」
指摘すると、ぷしゅー、とハンスから湯気が立ち上った。
可愛い子犬だわ。しかも、ちょろいわ。
シーラは、うふふと笑う。
「えっ、シーラさん、なんで?」
「ハンスさんがナターシャさんに憧れているのは多分、皆さんにバレバレだとは思いますよ」
「そうなの!?」
「分かりやすいので」
「がーん」
「大丈夫です。微笑ましい範囲です。それにしても、プレゼントなんて、結構本気だったんですね」
「いや、本気っていうか、、、」
「きれいなお姉さんに憧れてるだけなのかと思っていたんですけど」
「相手にはされてないんだけどね。それは分かってるんだ」
ハンスがしょんぼりする。
残念ながら、きっと相手にされてないので、「そんな事ないですよ」とは言えない。
ちょっと、シーラの技量ではしょんぼりしている子犬を慰めるのは難しそうだ。
「でもプレゼントはしたい、と」
慰めるのを諦めたシーラは、話題を戻した。
「、、、うん、少しでも喜んでもらえれば、と。でも、却って迷惑になったら嫌だし、それにナターシャさんはきっと、かなりのお嬢様だったろうから何をあげたら喜ぶのか見当もつかないし」
「なるほど、、そうですねえ」
ううむ、とシーラは考える。
考えながら、さっきほどではないけれど、やっぱり何かの気配を感じて、辺りを見回す。
誰もいない。
気のせいかしら?
鳶とかリスとかかしら?
まあ、いいか。
「恋人や婚約者なら、アクセサリーが常套ですけど、何とも思ってない人からそんなの貰ったら引きますね」
「だよねえ」
「趣味の物とか、小物、、、、、、あ、私は最近、冬に備えて手袋を貰って嬉しかったですよ」
ガタッと、何やら上の方から音がした。
「?」
上を見てみるけれど、何もなさそうだ。
「手袋?誰から?ジェラート団長?」
「いいえ、ウェストンさんとメグさんからです。こちらの冬は寒いらしいので」
「そっか、シーラさんは防寒服なんか持ってないよね、大丈夫?」
「大丈夫です。夏の間にお給金を貯めますので。古着屋も教えて貰いました」
シーラは、むんっと胸を張る。
「ほんと、見かけによらず逞しいなあ、厳冬期には領地からは出られなくなるよ。一番酷いブリザードの期間は城からも、部屋からも出ないんだ」
「えっ、部屋からも?」
「うん。吹雪が続くからね。冬には皆、食糧を溜め込んで1週間くらい籠れるようにするよ。メイドさん達は日中は暖炉のある大部屋で手仕事だけして、夜、自室に寝に帰ってる人が多いかな」
ブリザードの期間は外出は危険で、水場も凍てついて使えないので、領民も家に籠って過ごすらしい。
町は全ての機能が停止し、魔物の出没も無いので、騎士もメイドも仕事は休みだ。
城の大部屋での手仕事は強制ではなく、自室でのんびり過ごしても良いが、使用人の個室には暖炉はないので、暖かい大部屋で過ごす人が多い。手仕事しながらのおしゃべりがメインだ。
「何だか、楽しそう」
「そうだね、騎士も上官以外の部屋は暖炉ないから、皆で彫り物とかする」
「北国っぽいですね」
「そう?恋人同士とか仲良し同士で、どっちかの部屋に籠る人も居るよ」
「まあ!」
「だからサッハルトでは、冬前にカップルになる事も多いんだ」
「まあ!」
まあ!
じゃあウェストンさんは冬前に、メグさんにアタックしたのかしら?
確かに、ウェストンさんならくっついてたら暖かそうだし、有利だわね!
ウェストンの小太りの体型を思い浮かべて、シーラは納得する。
「とにかく寒いから気をつけてね。毛布の支給もあるけど、大部屋用に膝掛けとかも用意してるといいよ」
「へえぇ、ありがとうございます!
あ、ナターシャさんに、膝掛けとかはダメですか?何枚あっても良いものですし」
シーラの提案にハンスの顔がぱあっと輝く。
「そっかあ、、そうだよね。こっちの人だともう何枚も持ってるんだけど、シーラさん達は持ってないもんね」
どうやら、良い仕事が出来たみたいだ。
満足するシーラ。
ついでに、もうひと仕事しておく。
「後は、とってもベタにお花でしょうか」
「花?」
「はい、品物は贈った後に使ってくれるかドキドキしてしまいますしね。お花なら消えものなので、後腐れはないです」
「好きでもない男からの花って嫌じゃない?」
「薔薇の花束なんかは気持ち悪いですけど、小振りのさりげない物なら、嬉しいと思いますよ」
「なるほど」
ハンスは、ふむ、と顎に手を当てて考え込む。
「ところで、ナターシャさんの誕生日っていつですか?私も何かしようかしら」
シーラが聞くと、ハンスは笑顔で教えてくれた。