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プロローグ

よろしくお願いします。

王道ラブストーリーが書きたくて、、、、王道になるはずです。

「シェラサール・ドルトン侯爵令嬢、貴女との婚約を破棄する!」


ライオネル第一王子の執務室でシーラはそう告げられた。

ライオネルの横には栗色の巻き毛の大きな瞳の愛らしいティアナ男爵令嬢が、目をうるうるさせながらぴったりとくっついている。


シーラは小さくため息をついた。


「理由をお伺いしておいてもよろしいですか?」


「分からないのか?公務の怠慢、城の使用人への虐待、ティアナへの数々の嫌がらせ、あまつさえ昨日はティアナに毒を盛ったというではないか。申し開きはあるか?」

ばーん、という感じでライオネルが言う。

ばばーん、だ。


「ございますが、、、、、。まずは殿下の言い分を全てお聞きしましょう。そのように恐ろしい罪を私が犯していたとして、婚約破棄だけでは済まないと思うのですが」


申し開きならある。

しっかりある。


公務の怠慢、は怠慢ではなく単に公務が1人でできる業務量の上限を越えたのだ。次期王妃として自分に求められる業務の他に、本来ライオネルがこなすべき業務が回ってくる日が増え、ティアナが来てからはティアナの身の回りを整えるあれこれまでさせられて単にパンクしただけだ。

私はスーパーマンではない。



城の使用人への虐待、虐待?

注意であれば行ったが、あれを虐待というのなら私だって日々虐待を受けている。おそらくティアナ付きの使用人が何か言ったのだろう。



ティアナへの数々の嫌がらせ、、、、してない。こちらは注意すらしてない。無視だ。無視だけだ。

無視が嫌がらせに入るなら無数の嫌がらせはしているが、、、、。



毒?

毒????なにそれ、だ!!!



だが、ここはライオネルの執務室で、居るのはその取り巻き達。現在陛下と皇后陛下は外遊中で、戻られるのは、早くとも半年先だ。緊急時の権限は目の前にいるライオネルに与えられている。


この婚約破棄が緊急時とは思えないが、わざわざこのタイミングでこんな事してくるのだ、何かあるのだろう、ライオネル(こいつ)だってアホじゃない。


今、申し開いても無駄だろうし、変に証拠を固められるのは困る。もし申し開きをするなら陛下が戻られてからの方がいい。



「流石に聡いだけあるな。もちろん、これだけの罪、本来であれば侯爵家の取り潰しの上、貴女は良くて修道院送りだろう。だが、私にも温情はある。そこまでは考えていない」


そこまで出来ないのだろう、とシーラは思った。

きっと先ほどのライオネルがあげたシーラの罪に証拠などない。証拠もなしにそんな事したらシーラの父が黙っていない。シーラへの愛はないが家門への愛と誇りは存分にある人なのだ。

ライオネルもそこは分かってるのだ、なんせ、アホではないのだから。


「貴女に緊急時の王命使用権限で、サッハルト辺境伯との結婚を命ずる」


ライオネルはどうだ、とばかりに宣言した。


シーラは動じない。


「サッハルト辺境伯は粗野で野蛮で女好きだ。貴女はその妻となるのだ」


もちろん、シーラは動じない。

シーラが全く動じないので、ライオネルがちゃんと説明してくれる。


「山あいの寒さの厳しく、不毛な土地だ、魔物も多い。貴女はそこへ嫁ぐのだ」


更に説明してくれる。


どうやらライオネルは純粋にシーラだけを辺境に追いやりたいようだ。王命の結婚。

シーラだけが王宮と侯爵家から出ていくことになる。


シーラは考える。




これは、、、、



もしかして、久しぶりの、、、、






自由では?



「私と家門への罰はそれだけでしょうか?」

シーラはうっそりと凄みのある笑顔で、変に甘ったるい声でライオネルに聞いた。


ライオネルがちょっと後ずさる。

「あ、ああ、私の温情溢れる措置だ。神殿での婚姻の儀の手配もしてあるぞ、辺境伯は不在だがな」


「承知いたしました。私の罰がその結婚を被るだけであればそれらの罪について申し開きは致しません。甘んじてこの身に罰を受けましょう。殿下は先ほどのお言葉をゆめゆめお忘れなきように願います」


そういい放つと、シーラは叩き込まれた見事なカーテシーを披露した。執務室の時間が一時止まるほどのすごい迫力のカーテシーを。


シーラは迫力のカーテシーを終えると、圧倒されて呆然としているライオネル達を置いて優雅に執務室を出る。



「まっ、待て、貴女はこのまま神殿に行き、身1つで辺境に、、、おいっ、聞け!」

ライオネルが慌てる声が聞こえた。





***


シーラは用意されていた簡素な花嫁衣装に着替えて神殿で1人、神官から結婚の祝福を受けた。ご丁寧にライオネルが立ち会ってくれる。


そしてそのまま用意された馬車に乗せられた。


「お嬢様!」

馬車にシーラ付きの侍女サニーが駆け込んで来る。

「サニー、どうしたの?何故?」

「屋敷にお嬢様の身の回りの品をまとめるようにと伝令がありました。サッハルト辺境伯に輿入れとは真でございますか?是非、サニーも一緒に、」


「それは、ならん」

サニーをぐいっと引き剥がしながらライオネルが言った。サニーの持ってきた鞄だけ馬車に入れてくれる。


「侍女を連れて行く事は認めない」

ライオネルが薄く笑う。


サニーが反抗的な目をしているので、シーラは慌てた。

「サニー、殿下の言う通りになさい。貴女など不要です」

サニーの目が見開かれる。


シーラはサニーに目で訴える。ダメよ、と。

ライオネルは王子だ。もしサニーが何かすればただでは済まない。


「そんな、、、」

サニーはしょんぼりしながらも、シーラの意図は汲み取ってくれたようだ。素直に引き下がる。

良かった。



「シーラ」

ほっとしているとライオネルに名前を呼ばれた。

驚いてライオネルを見る。愛称で呼ばれたのなんていつぶりだろう。


「何か、私に言う事や、すがる事はないのか?」


「?ございません」

心底、真意が分からずにそう返す。


すがる事?

ない。


「そうか」

ライオネルはそれだけ言うと馬車の扉を閉めた。




***


数時間後、シーラはサッハルト領へ向かう馬車に揺られていた。服は簡素な花嫁衣装のままだ。


がたん、がたん、がたん

ごとごとごと、、、


ライオネルはまあまあ良い馬車を用意してくれていたので、乗り心地は悪くない。クッションまである。

シーラはぼんやりと馬車の揺れを感じた。


「、、、、、、」

目を瞑り、ふつふつと湧いてくる幸せの粒を噛み締める。


「、、、、、、」

もう少し噛み締める。




「、、、、、」

更に噛み締める。




ああ!!

シーラはかっと目を開いた。


自由だ!!



妃教育の勉強をしたり、公務の資料をチェックしたり、リストの漏れを確認したりせずに馬車に揺られているのは何年ぶりだろう?


シーラは律儀に計算した。


ライオネルの婚約者になったのは12才の時で、13才の時には妃教育と並行して公務をやりだしている。シーラは今、17才だから、いち、にい、さん、しい、ご!

5年ぶりだ。


5年ぶりのただの馬車旅。



無意味に窓を開けてみる。

シーラを祝福するように美しい緋色の夕焼けが見えた。


その美しさに涙が出そうだ。


シーラはずっと自由がなかったのだ。







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