【瑞祥】私◯◯なので【漫才】
「はいどうも! みなさんが、ほんのり幸せになれるような笑いをお届けしたい! 〖瑞祥〗で~す」
「いやいや! 何で“ほんのり”なのかとか、“お届けしたい”って希望なのかよ、とか言いたい事盛り沢山で始まった件について――」
「え? じゃあ、ささやかな幸せはいらない? 微笑ましいなぁって心が温かくなったりしない? それは人としてどうなの?」
「そんな事言ってないよね? お笑いを提供する場で求めるものじゃないって、ツッコんでるだけなんですけど――」
「……はぁ」
「なんでそんな深いため息をついたのか、教えて貰っていいかな?」
「――相方の人間性を嘆きつつ、まずは自己紹介を! 私が知能犯担当の瑞姫です!」
「いや、聞いて!? って言うか知能犯って何!? 犯罪者なの!? 今のアンタから溢れているのは、知能じゃなくて、残念さだよ! ……と……こんな感じでいつも相方に振り回されているツッコミな祥子です」
「「よろしくお願いします」」
「んでさ、いきなりなんだけど、私、ずっとやってみたかった事があるんだ」
「ん? 何?」
「ほら、私ってさ、勉強も、受験も、就職も、なんだかんだ言って壁にぶつからずに生きて来たじゃん?」
「はいはいそうね。 今考えると、すごく殺意の波動に目覚めそうだけど、あんまり苦しんでたイメージ無いわ。 周りが苦しんでる中で、のほほんとしてたもんね」
「逆に祥子は毎回苦しんでたよね、就活。 面接もそうだし、履歴書とか書くの、とにかく苦手なんだっけ?」
「そうそう。 ホンット苦手だったわ。 『志望動機は?』なんて聞かれても、働きやすそうだからです、以外に思い浮かばないのに、色々言葉を足さなきゃいけないんだもん」
「簡単だと思うんだけどね、ここが良い、って言うのを、人が聞いて良く感じるように言えばいいだけでしょ」
「あのねぇ……学生時代に、企業向けのグループ研究発表を、原稿覚えるのめんどいからって、フルアドリブで乗り切ったアンタと一緒にしないでくれる!? 大抵の人はあんたみたいに、そんなポンポン言葉が浮かんで来るようにできていないの!」
「いや、あれは発表用のパワポを私が作ってたからで――」
「だからと言って! 原稿に無い参加者への問い掛けやら、相手の反応見ながらの説明の深堀、ジョークを交えた場の空気作りなんかを、その場の、勢いで、突然するな! それだけでも大概なのに、それに加えて、多少のアクシデントでは動じませんとか、あんたはその業界の玄人か!」
「でも、私の担当はあの一回だけだったから、目の前のお客さんにちゃんと理解と楽しさを提供しないと――」
「あんたのそのサービス精神が、私を含め後に続く説明担当の評価に直結して、可哀想な事になってたんだよぉぉ!」
「んー、でも……」
「……なに?」
「それって、私関係なくない?」
「む゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛!!」
「まぁ、それはさておき」
「さておきっ!?」
「やってみたい事があってさ」
「……一応聞いてあげる。 何?」
「今までが順調に来たからと言って、これから先も、全てが順調に行くとは限らないじゃん?」
「なんだろう、この腹の底から湧き上がって来るドス黒い感情は……」
「え? 大丈夫!? 病院行く?」
「その白々しい態度が尚更に腹立つ」
「えっ!? ……ごめん、私何か気に障るような事――」
「あ~、もういっそ、思いっきり挫折を味わってくれないかなぁ。 そしたら私達はもっと仲良くなれそう。 ……とりあえず、それで?」
「あ、うん。 だから、次に訪れるだろう一大イベントの、予行演習をしたいなって」
「一大イベント?」
「結婚」
「あ~ね。 さすがの私も、そこで失敗しろとは言いにくいなぁ……。 オッケー、付き合うからやってみ?」
「ありがと。 こんにちは~」
「……こんにちは? あ~、えっと……瑞姫、いらっしゃい。 ついに僕らの結婚式だね――」
「カーット! 待って待って、彼の実家にご挨拶に行ったハズなのに、何でお義父さんと結婚する事になってんの!?」
「いや、アンタが待て! 結婚の予行演習って、式じゃなくて、両親へのご挨拶の方なの!?」
「当たり前でしょ」
「当たり前じゃねぇわ! せめて状況は先に説明して!?」
「じゃあ、まぁ、そう言う事だから。 こんにちは~」
「む゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛! ……はーい、どちら様?」
「はじめまして、祥君とお付き合いさせていただいています、瑞姫と言います」
「はい、はじめまして。 祥なら部屋にいるわよ」
「あ、いえ、今日は、ご両親に聞いて頂きたい事があって――」
「……なぁに?」
「えっと――その……必ず幸せにしますので、息子さんを私にください!」
「…………ちょっと待った。 これ、普通逆じゃない? 彼氏の方から言う物な気がするんだけど」
「祥子、世の中は今、ジェンダーレスの時代よ?」
「え? いや、そう言う問題? 肉食系女子過ぎない?」
「まぁまぁ、いいから、続き続き」
「…………息子のどこを好きになってくれたの?」
「優しくて、気配り上手で、料理も美味しくて、いつも私の事を支えてくれる、そんな祥君が、全部大好きです!」
「……これアレだ……彼氏の方が女子力高いやつだ。 えっと、そんなに好きになって貰えて嬉しいわ。 瑞姫さん、息子の事、よろしくお願いしますね」
「いえ、こちらこそ、不届き者ですが、よろしくお願いします」
「ん~、待って瑞姫~。 不届き者だと成敗されちゃいそうなんだけど。 ……不束者じゃない?」
「どっちでも良くない? 似た意味でしょ?」
「確かに似た意味を持ってる言葉だけど、似て非なるものなんだよ! 特に、結婚の挨拶しに来た相手から、急に『不届き者です』なんて言われたら、間違いなく『ん?』ってなるからね?」
「ん~、でも……」
「何が納得行かないのさ?」
「いや、だって、私って不届き者じゃん?」
「自己申告する不届き者なんて初めて見たんだけど!?」
「愛する彼に貢いで貰いながら、ご両親からの信頼も勝ち取って、搾れるだけ搾り取ったあと、カードと通帳を頂いてドロンすれば――」
「不届き者ー!! って、待て待て待て待て! それ下手な振り込め詐欺より、よっぽどたち悪いよ!」
「ほら、私って、〖瑞祥〗の知能犯担当だから、ちゃんとそれっぽい事言っといた方が良いかと思っ――」
「――〖瑞祥〗を犯罪グループみたいに言うなぁ!! って言うか、そのネタまだ引っ張ってたの!?」
「自分で言ったキャラ設定は、ちゃんと最後までやりきった方がいいと思ったので」
「いや、キャラ設定って……むしろ初っ端からキャラブレまくってると思うけど?」
「そんな事無いわ。 私は、私だもの(キリッ)」
「この滲み出る残念さよ」
「ちょっとくらい残念な方が、男ウケ良いと思うんだけどさ」
「急に生々しい話題~」
「祥子は隙が無さすぎるから、男が寄り付かないんだよ、きっと」
「余計なお世話だ! しかも彼氏いるわ!」
「あれ? そうなの? どんな人?」
「え? えっと……その……優しくて、頼り甲斐があって、カッコよ――」
「いやいや、そう言うのじゃなくて具体的に、どんな仕事してて、どれくらいの年収があって、ご両親が――」
「人の彼氏とその家族を、特殊詐欺のターゲットにしようとすんな、この不届き者がぁぁ!!」
「……ほらね? やっぱりそうだったでしょ?」
「なにが!?」
「アイ・アム・フトドキモノ」
「胸を張って言う事じゃないんですけど!?」
「やっぱキャラ作りは大事だね」
「キャラ作りとか言うな! もういいよ!」
「「ありがとうございました」」