魔本回収助手 ケンスケ 後編
髪長過ぎ姫の魔本を回収した後、ブラウンモルトの戻った俺達は事務からレベル測定をするように促された。
測定室の台座の宝珠に触れて測定する。
俺のレベルは12から15に、ディンのレベルは13から15に、フルッカさんの剣士としてレベルは10から12に上がった。魔本師としてレベルは17から18に上がっていた。
俺とフルッカさんに関しては昨日のアルター遺跡の戦いも加算されたんだと思う。
普通に活動していて、ミスリル製の装備がボロボロになるまで連戦する、ということも少ないだろうからいいトレーニングになってるんじゃないかな?
測定後、これ、給料上がるんじゃないの? 等と冗談めかして3人で廊下を歩いていると何やら忙しそうなゼンミン係長とヒロシさんに出会した。と、
「明日は1係のボウトゥーメに面倒見てもらってね」
ゼンミン係長に擦れ違い様に言われる俺達だった・・。
トレーニングになってる、というか訓練、なのかな??
翌日、昨日と同じ3人で今度はブラウンモルトから南西の街イゼアンの転送門にテレポートしてきた。
魔工製品工場と繁華街ばかり発達した、ちょっと荒っぽい雰囲気の街だ。
「まさか、休み無しとは・・」
髪長過ぎ姫の魔本の調整もあって、寝不足でふらふらしているフルッカさん。
「3係のスケジュールってこんな感じなのか?」
「いや俺も半年前に入ったばかりだけど、何かない限りそうでもないはず。やっぱ遺跡関連で何かあったのかな?? あ、ポーションどうぞ。桃味です」
実はこの3人だとフルッカさんしかまともに飛行絨毯を操れない。ポーションでなんとか回復してもらい、俺達は街外れの操業廃棄地区に向かった。
いやここ空気が悪いね! 廃棄地区は風の属性の魔除けの陣で囲われていたから外から見てヤバい雰囲気はあったが、酷いもんだった。
「うっ、俺、大気に敏感だから無理だっ」
ディンは日傘をしまって防毒マスクを付けた。まぁ顔への紫外線も防げそうではある。
「大半の工場が国や州の基準を守らず操業を続けた結果ですね。モンスターも出ますが、犯罪者の巣窟にもなってるようです」
「案内人のいるポイントまで急ごう。対人だと絡まれた時の厄介さがモンスターよりよっぽどヒドいぜ」
俺達はちょっと高度も上げて急いだ。
案内人は折れて橋のように掛かったまま放置されている煙突の真ん中にいた。
「こっちこっち!」
跳び跳ねていた。黒毛の狐人族だ。女子? かな??
俺達は降下した。
「絨毯移動はここまでだ! こっからヤバいとこばっかり通り抜けるっ。狙撃されるか逃げられちまうよ?」
俺達は降りて全員名乗った。フルッカさんとディンも初対面らしい。
「わっちはエビィーユー。元人喰いだけどさ」
いきなり牙を見せるエビィーユーっ! 俺達が少し身構えると、「ケンケケッ!」と奇妙な笑い方をした。
「今は1係のサポーターとして飼われてんのさっ。犯罪者絡みのヤバい場所への案内なら任せなっ!」
俺達は顔を見合せたが致し方なかった。蛇の道は蛇ってヤツか・・
食材として人や亜人を捕獲し、捌いて販売する血族で固めたマフィア、モザ一家が魔本を1冊持ってるらしい。数ヶ月前に獲物にした下級貴族のコレクションだったようだ。
モザ一家には使いこなせなかったが、希少な上に貴族が所持していた魔本は売り払い難く、処分に困って同類業者に相談したところそのルートから1係に話が漏れたようだ。
エビィーユーの案内で俺達3人はモザ一家のアジトの廃工場の側まで来れたが、なんだかんだ俺達は臭くなっていた。
「らしくなってんな?」
物陰から刀等で武装したボウトゥーメと制服の上から僧服状の防護服を着た女の子が現れた。
「ボウトゥーメさん」
俺が話そうと思ったが、エビィーユーがスッと前に出てきた。
「きっちり案内したぜ? 約束通り一咬みさせてくれよ?」
「いいぜ?」
左の籠手を取り、袖をまくるボウトゥーメ。え? 一咬みって・・
「いっただきまーすっ!」
ボウトゥーメさんの左腕に飛び付いて噛み付くエビィーユーっ! 恍惚の表情で血を啜る。
俺達3人が唖然とする中、暫く啜っていたが前触れなく、
「いい加減にしろ」
黙って横に立っていた僧服の女の子がエビィーユーを蹴り飛ばしてボウトゥーメから引き離した。
「吸い過ぎだ。ケダモノがっ」
「げほっげほっ・・ケンケケッ! 旨かったぁっ。じゃ、わっちはこれで! またの御贔屓にっ」
「おう、またな!」
エビィーユーは崩れ掛けた路地の陰へと身軽に消えていった。
「ヒール」
僧服の女の子がボウトゥーメの傷を癒す。
「水分も取って下さい」
「わかった」
大人しくポーションの小瓶を取り出しつつ、ボウトゥーメは俺達に向き直った。
「ケンスケ! 彼女は神官戦士のネッサリア・カシナートだ」
「ネッサリアと呼んだらいいわ」
「あ、はい。ケンスケ・ナツキ。守護兵ッス!」
なんか迫力のある人だな・・というかジョブが神官戦士? 何神の神官なんだ??
軽く動揺させられつつ段取りを確認した。
そう複雑でもない。突入後、ボウトゥーメさんとネッサリアさんが2階のモザ一家の首魁、父と母と側近達を仕止めに向かう。俺達は魔本の保管された幹部、兄、弟、姉のいる1階の部屋に行って纏めて片付け、魔本を回収する!
俺達が突入するた同時に1係の外のメンバーやサポーター、州警察からの応援等が閉じ込めの魔方陣で地下を含むアジトを覆って1人も逃がさないっ! といった具合だ。
「連中は相当殺して喰って鬼人化している。もう法の外だ。こっから喰えば喰っただけ手が付けられなくなる。モザの外道一家は今回でキッチリ終わらせるぜっ?!」
「了解っ」
俺達は申し合わせ、実行に掛かった!
アジトの入り口には鬼人化で身体醜く変質したモザ一家の構成員達がたむろして、人や亜人の身体を1部を漬けた酒等を呷っていた。
物陰でボウトゥーメは禍々しい刀を抜いた。
「スキル・剣難颪」
神速で入り口まで間合いを詰め、連撃で鬼人化構成員達と入り口の金属扉を小間切れにするボウトゥーメ! ネッサリアさんが無反応で続き、俺達も若干あたふたしながら続いた。
俺達が中に突入すると同時に圧迫感が建物全体を覆う! 閉じ込めの陣だっ。
ロビー周辺の鬼人化構成員達は既にボウトゥーメが斬り捨てていた。もう血溜まりだよ、うげぇっ。
「フルッカ、魔本の使い所を誤るなよっ!」
「はい!」
忠告して、ボウトゥーメさんはネッサリアさんと共に2階へとあっという間に駆け上がって行った。
「俺達必要かな? まであるよね」
ディンが肩を竦めると、俺とフルッカさんも苦笑するしかなかった。
そこから鬼人化構成員や飼ってる魔物、殺人魔工ゴーレム等を仕止めつつ、兄、弟、姉のいる部屋の側まできた。
総じて竜骨の洞窟のアンデッド達より手強くはあったが、そう広くもないアジト内でのこと。規模は大したことはなかった。俺ら、レベルも上がってるし連携も取れるようになってる。装備の損耗や回復アイテムの残量も余裕があった。
今回も掛けたプロテクトとブレッシングの持続にも余裕あり、だ。
「幹部3人は相当手強いみたいだ。魔本、初手で使って2体は封じれないか? ディンは背負ったまま風は飛ばせるだろ?」
「1体とタイマンする気か?」
「髪長過ぎ姫は火力が低い分、意識は保ち易いです。段取りは組めますが・・」
俺達は手短に打ち合わせをした。
俺とディンが扉を突き破り、モザ一家の兄、弟、姉の部屋に雪崩れ込み、即座に既に髪長過ぎ姫に変化しているフルッカさんが髪の大渦を放って出遅れた弟と姉を渦に沈めて捕獲した。
「なっ?!」
「ちょっ?!」
千切れた髪は2つの毛の玉となって弟と姉を転がし、そのまま圧殺して血を染ませたっ! 火力あるじゃん!
髪長過ぎ姫の変化が解け、ディンが素早く介助に入るっ。
「可愛い弟と妹に何しやがるぅっ!!!」
「兄から見ると妹なんだっ?!」
デカいハサミ型の武器で襲い掛かってくる巨漢の兄っ! 変質し過ぎてもはや魔族その物だっ。
部屋の中の様子も酷い。死体だらけだが、明らかに食用に加工されている。わざわざ生きたまま解体されて殺された様子の者も多数いた。調理された者達も。
老若男女種族、美醜、分け隔てなく平等に地獄を与えられていた。
クッソがっっっ!!!!
「スキル・デッドスピンんんんっ!!!」
巨漢で回転しながら飛び付いてきてハサミを拡げてくるっ!
「鉄亀っ!」
一発で盾はブッ壊されたが、どうにか弾けた。そして俺は今回・・盾を何枚も持ってきてるっ! すぐにポーチから取り出し構え直すっ。
「守ってばっかかよっ?! スジ肉みてぇなヤツっ!!」
「誰がスジ肉だっ!」
「援護するっ!」
フルッカさんを背負う段まで持っていったディンが小剣で小さな風の刃で支援してくれる中、2枚目、3枚目、4枚目を砕かれ、そこでようやく兄よハサミを砕いてやった!
「俺のハサミがぁああっ?!!」
「盾でも喰っとけっ、銅鑼打ちっ!!」
鮫みたいに変質した顎と歯と鼻を砕いてやった。人間ならこれで昏倒してあとは逮捕だが、気絶しねぇしっ! 逮捕してももうどうにもならねぇっ!!
俺は兄の胸を蹴って宙に跳び上がった。兄は両手をハサミ化させて迎撃の構えを見せたが、ディンが風の刃で肘裏の腱を切って阻止し、フルッカさんがグレネードガンで兄の下腹部に炸裂弾を撃って仰け反らせた!
「岩断ちっ!!」
俺は鬼人、兄の頭部を叩き割った。
「おぱぱぱっ???」
兄は錯乱しながらまだ死なず、よろめいて転倒し、焦げた骨の浮かぶ煮え立つ油の大鍋に割れた頭部を突っ込ませたっ。
「っ?! っ! っ!! ーーーっっ!!!」
鬼人は幾度か痙攣し、ようやく死んだ。
「はぁはぁ・・魔本は金庫か? 取り敢えず、換気しよう」
元々部屋は酷い臭いだったが、素揚げの臭いは兵器の部類だった。
魔本、デイダラ指姫、は金庫から回収し、ボウトゥーメさん達も鬼人の父と母を仕止め、残り構成員達も片付け、モザ一家は壊滅できた・・
ボロボロのドロドロになって俺達3人はブラウンモルトの転送門に戻ってきた。付けっぱなしだったマスクに気付いて緩慢な動作で取るディン。
「昨日より最低だね・・」
「最低を更新しました・・」
「暫く、ベジタリアンになるぜ・・」
ヨロヨロ分室に戻ると、
「うん! 魔本は回収したし、またレベルも上がったみたいだね」
ゼンミン係長がロビーで待ち構えていた。
「正直、冥王信奉者の件。悪い状況でね、技量の足りない子達は外そうかと思ったんだけど、大丈夫そうね」
トレーニングかと思ったらテストだった・・
「えーっと、具体的には今、どんな感じになってるんッスか?」
「そうね・・わかり易く言うと、私達の対処がマズいと世界がピンチになるかも? ってくらいよくないわ」
係長はむしろ朗らかに言い、俺達は絶句するしかなかった。