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男子棟の人々

遺跡から撤収後にアマネさんが水晶通信でゼンミン3係長に報せ、調査隊が組まれることになった。

応急措置として飛行絨毯でアルター遺跡上空から霊木の灰を撒いて浄め、調査隊の拠点になる番所には持続時間は8時間程度だがアマネさんに人型アイスゴーレムを十数体造ってもらい警護に当てさせた。

それからブラウンモルトの遊撃班分室に戻り、ゼンミンさんは調整の為に既にいなかったので事務の方に来ていたギルド本部職員に改めて口頭で報告済ませ、俺達はようやく一段落っ!

使用許可の下りた高価なエリクサー入浴剤を使った風呂に男女それぞれ入り、体力と魔力を回復させた。

風呂上がりに4人浴場前の休憩中で合流し、瓶の自販機のミントスカッシュポーションで「どさくさになったけど、お疲れっ!」といった感じで乾杯した。

この流れで打ち上げでもしたいところだったが、研修用の隊のリーダーだったアマネさんは詳細な報告書を書かなくてはならず、フルッカさんも使った魔本を鎮めなくてはならないと作業があり、歓迎会を兼ねた打ち上げはまた今度となった。

俺も荷物を部屋に入れないといけない。

サンダルに訓練着に首にタオルを掛けた楽な格好で、俺はドラドッジさんの案内で男子棟に来ていた。

分室に戻ってきてから装備部に預けていたウワバミのポーチは整備が済み、2人とも腰に緩めに身に付けていた。


「係長さん方はそれぞれ執務室の隣が私室になっとる。男子棟の部屋は24部屋じゃ、2階と1階は特に区別は無いの。3係の男子の内ここを使っておるのは4人。村で暮らしておるのも2人おる。1係と2係もそんなもんで部屋はスカスカじゃが、客室としてもよく使われるの」


「造りが教練所の寮と似てるね」


「まぁの。じゃが個室じゃ。部屋、余っとるからの。ケンスケ、お主の部屋は1階じゃ」


「うッス」


行ってみるとベッド、棚、クローゼット、蛇口と洗面台、カーキ色のもっさりしてカーテン、魔工冷風機が備え付けられていた。

うん、2段ベッドじゃない以外は教練所とほぼ同じだ。殺風景だからポスターとか貼ろっと。


「魔工冷風機はブッ壊れない限り自分で管理するんじゃぞ? ちゃんと掃除しないと燻製みたいな臭いがして具合悪くなるぞい?」


「了解!」


「よし、取り敢えず荷物を置いて、次じゃ次っ!」


エリクサー湯に入ったとはいえ、数時間前にゴーレム群とガッチガチに戦ってたのにドラドッジさんは元気だな。近接戦してない俺の方はもう立ってるだけで寝落ちしそうだぜ・・

俺はそれから1階と2階のトイレと備品庫を案内してもらい、2階の談話室に来た。

ここで始めて男子棟の住人が2名いた! 魔工ラジオの鳴る談話室にそれぞれ離れた位置に座っていた。


「ボウトゥーメ! カリント! 新人じゃぞ?!」


「ども、3係に入ったケンスケ・ナツキです。守護兵レベル12です」


俺はペコっと頭を下げた。


「・・ボウトゥーメ・モガミだ。魔剣士(まけんし)で所属は1係。ボンバーアップルパイは美味かったぜ?」


身長は180センチちょうどくらい。オーガ族のハーフで20台中盤の、垂れ目気味の男だった。肌は褐色。かなりの手練れだ。そしてかなり着崩して訓練着を着ているっ。


「カリント・メープルトーチやっ! 格闘士(かくとうし)やでっ?! 2係やさかいなっ! アップルティラミスっ! メープル使ってへんやんっ。メープル使わなっ! メープル足らんで自分っ!!」


凄い西部訛りっ! 名前に掛けて怒涛のメープルシロップ推しっ!! 身長は170センチメートル。癖っ毛だ。なんらかの猫系? 獣人の血が入っているようだった。


「あ、はい・・ええっと、ボンバーアップルティラミスはまた作ります! メープル入れますっ!」


「俺はメープルは別に」


「どんどん入れっ! どんどん入れたらええんやでっ?! ごっつメープル入れときやっ!!」


「はい、頑張りますっ。入れてる方と入れてない方も作りますっ!」


「ケンスケ、人数もおるしあまり安請け合いするもんじゃないぞい?」


「・・うッス」


俺達はこっからアルター遺跡の件等を軽く話し、談話室の魔工ラジオや隣接する給湯室の仕様や、談話室の魔工保冷庫に安易に飲み物や食べ物を入れておくとトラブルがちだから注意するようにと忠告されたりした。



ボウトゥーメさんとカリントさんのいた談話室を出て、俺達は再び1階に降りて奥まった角部屋にあった遊戯室に向かった。


「また誰かおるようじゃぞ?」


遊戯室にはバーカウンターとダーツの的、ビリヤード台、魔工ジュークボックス、あとはソファやテーブルがいくつかと本棚があった。

魔工ジュークボックスのナンバーは、リーラとゲンコツの魔女、だった。

バーカウンターにぽっちゃりした大男が1人何か食べていて、ソファにはいかにも戦士職といった黒い肌のマッチョな男が新聞を読んでいた。


「ユッチェ! オロロ! 戻っておったのか? ウチの係の新人じゃっ!」


「ども、3係に入ったケンスケ・ナツキです。守護兵レベル12です」


2度目だから滑らかに言えた!


「君かぁ、さっきボンバーアップルティラミス食べたよ! 美味しかったなぁ、あむっ」


と言いつつ、特大ハンバーガーに被り付くカウンターにいた大男!


「んぐんぐっ、僕はユッチェ・サイレントベル。祓魔師(ふつまし)だよ?」


「よろしくお願いしますっ!」


祓魔師。ユッチェさんは対魔族、対アンデッドの専門家か。


「俺はオロロ・ラージフフ。銃槍兵(じゅうそうへい)だ。ケンスケ君、アップルティラミスも旨かったが、君が働いていたバーベキュー屋! 俺の同胞が多く働いていて、何度か行ったことあるんだよ?」


「マジっすか?」


ソファで新聞を読んでいたマッチョな人、オロロさんはまさかのお客さんだった! 言われてみると見たことあるような、ないような・・俺、厨房だったからなぁ。

そこからバーベキュー屋やファジーネーブル市の雑談。遺跡の件、遊戯室のカウンターの奥が食糧庫になっていて、係ごとに棚があることなんかの話になった。


「よしっ、食糧庫の材料で特製スムージーを御馳走しよう! だが、せっかくだっ。アルター遺跡では補助に専念していたんだろう? ここは1つっ、皆で腕立て伏せ4千回していい汗かいてから一杯やろうじゃないかっ!」


「うっ・・」


俺、既にすんごい疲れてるんですがっ?!


「僕、パスで」


「面白そうじゃのっ!」


ユッチェさんは断ったが、俺に選択肢は・・無いっ!


「頑張りますっ」


俺、ドラドッジさん、オロロさんは、いい汗かいてスムージーを飲む為にっ! 腕立て伏せ4千回することになった。なったんだよっ。横並びで床に構える!


「魔法やスキルや道具を使うのはダメだぞ? ケンスケ君!」


「了解ッス・・」


「遺跡で一暴れしたからあったまっとるぞいっ?!」


いや、ほんと元気だねっ、ドラドッジさん!


「じゃあ僕が合図と回数数えるね。僕もスムージー飲むからね!」


「ユッチェ! 早くっ」


「わかったよ・・始めっ!」


「っ?!」


俺もそれなりの速さで始めたが、オロロさんとドラドッジさんの腕立ての速さたるやっ!


ババババババババッッッッ!!!!!!


凄まじい速さで風を切って腕立てをするオロロさんとドラドッジさんっ! なんかそういう機械みたいになってるよっ?!


「ケンスケ君、1人遅れてるよぉ~?」


「ぐぅ~っっ、うぉおおーーっっ!!!」


ユッチェさんに軽く煽られつつ、俺は必死でくらいついていった。

この後、2人に遅れてどうにか4千回できたけど、もうボロボロだよ・・スムージー飲み干すのも四苦八苦してしまった。

男子棟の案内はこれで最後だったが、俺はドラドッジさんとオロロさんと結局また風呂に入り、その後、ヨロヨロしながらベッドメイクだけして魔工目覚まし時計を掛けて目を閉じた。

時間だけ見ればまだ午後8時前だったが、もう限界だぜ。というか、遺跡の調査隊、大丈夫だったのかな?

俺は、眠りに落ちていった・・



アルター遺跡深部に防毒マスクをした3係長のゼンミンと3係長補佐の大剣士(たいけんし)のヒロシは、奇妙な発光を伴う、割れた卵を前にしていた。ちょうど人の赤子が入るくらいの卵だ。

他に同行している東方エリアの上位の冒険者やサポーター達も防毒マスクの中で息を飲んでいた。


「マズいわ。盲点を突かれた。状態の良さや規模があっても掘り尽くされ管理されたすぐ側のアルター遺跡地下の環境で、育てていたとはね・・」


卵の粘液のサンプルを採取しつつ苦々しげに言うゼンミン。


「ギルド本部と州軍と国の諜報部、教会の聖騎士団には伝えてあります。なるべくいい条件で、遊撃班の再編を急がせます」


ヒロシは言った。


「今日来た新人君を含め、実戦慣れしてない子達の訓練を急がないとね」


ゼンミンは疲労感の強い口調で立ち上がり、他の冒険者達とサポーター達にも指示を始めた。

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