母 後編
やがて、淡く発光する数えきれないのニーベルングの卵で埋め尽くされた空間に出ると、レイミは飛行を止めた。
卵には封印術が利いているようだが、全ての胎児達は岩の肌の特徴が無く、一方的で額に結晶があった。全個体、進化している!
「レイミ。ヤバそうだけど、卵は諜報部が」
(ネフィートといったな、個人は嫌いではない。だが、組織としての諜報部はそこまで信用していない。それに我々が母に敗れてもこのフロアの卵だけでも殲滅していれば最低限度の仕事はしたことになるだろう)
我々と、考えるんだ。
「・・わかった。やっちまうか!」
俺はウワバミのポーチから雷属性のイエロージェムをありったけ取り出し、宙に放った!
レイミはそれを対価に猛烈な電撃を発生させたっ!!
「ケェエエーーーンッッッ!!!!」
吠え、全ての卵を雷で打ち砕くレイミ!
(・・哀しみを知らず、冥府に還れ)
「大丈夫か?」
(今さらだろう)
俺達は先へ進んだ。
そこは、鈍く輝く結晶その物の臓物でできた広間だった。
中心には結晶の巨大な柱があり、そこに巨人化し岩の肌の特徴を持たず額に紫色の結晶を持つ女が、柱と一体化して目を閉じていた。
(ケンスケ、状況を作れるまではこのままだ。私を・・援護してくれ)
「任せろ、相棒っ!」
「・・トゥーーーイ・・・」
その女、母が目覚めた。
「レイミ、混血の末子。冥翼王が雛。裏切り者。私達に匹敵する、祝福」
母は前触れ無く、滅びたニーベルング達の死霊の大軍勢を喚び出した!! 広間全てが逆巻く死の軍勢に埋め尽くされるっ!
「面白くなってきた! 使えるだろっ? レイミっ!!」
俺はありったけの光属性触媒、ゴールドジェムをバラ撒いた!
「ケェエエエーーーンンッッッ!!!!」
レイミはゴールドジェムを対価に輝く大旋風を巻き起こし、群がる死霊達の半数近くを消し飛ばしっ、さらに黄金の風の刃で母本体を覆っていた魔力障壁も2撃! 斬り付けたっ!
「光を纏うのか? 卑屈だな・・」
残る半数の死霊の群れは2つの塊になり、それは2体の翼と大鎌を持つ女の魔神の姿に変わった!
魔神達は大鎌と負の魔力弾で襲い掛かってくるっ。
「どぉおっ? ふうっ、スタイル抜群だが! 身長10メートルくらいあるのは、ちょっと俺の好みと違うかなぁ?」
(真面目にやれ)
「やってるってよ、ボックス!」
俺は収納魔法の空間から、追いすがって大鎌を振り上げた魔神の1人に今度はありったけの霊木の灰の小袋をぶつけてやった。
聖なる灰に身体焼かれて苦しむ魔神!
「レイミ!」
(わかってる!!)
レイミはもう1体の魔神が放つ負の魔力弾の連打を掻い潜り、無理矢理体勢を立て直して大鎌で斬り付けてきた焼かれた魔神に突進しっ、交錯様に魂を引き裂く鉤爪で焼かれた魔神の上半身を消し飛ばした!!
「しゃあっ! 案外いけてるっ」
(まだだ!)
上半身を失った魔神は元の死霊の群れに戻ってもう1体に吸収された!
「おお?」
もう1体の魔神は鎧兜を纏い、大剣を二刀流に持った姿に変わり魔力が大幅に増大している!!
(来るぞ!)
魔神は双剣で猛烈に斬り付けてきたっ! 速いっ、高精度! さっきと段違いだ!! 当たらないとみた魔力弾はもう撃たず、ひたすら斬り付けてくるっ。
レイミも回避しながら風の刃を撃つが簡単に剣で風を斬られ、通らない!
攻防の速度に俺はレイミにしがみつくだけで手一杯になっていた。
「うぎぎっっ」
(この形態では勝てないようだ。お前もパテになってしまうだろう。光で牽制し、お前は離れる。後は生き残ることだけ考えろ。・・旅をして、いつか、日々が楽しいと思えた時間があった。こそばゆい気がしていたぞ、ケンスケ)
「ぎっ・・了解っ! んんっっライトボールっ!!!」
俺は全魔力で照明魔法を使い、激しい閃光で魔神を怯ませ、安全帯を切り離して自分から落下していった!
レイミはすぐに鳥人形態に変化してより小さな的で、より素早く魔神に挑み掛かってゆくっ。
「お~しっ!」
俺は落下しながらウワバミのポーチから魔法道具、カメレオンマントを取り出し着込んで魔力を込め、姿を消すと浮遊の腕輪の力で落下を止めた。
魔法石の欠片で魔力も回復する。
今、勝手に話、終わらそうとしたよな? レイミ。冗談じゃないぜ~っ。
「っ!」
見れば結晶の臓物の床から、不定形気味の結晶の身体のニーベルングもどき? のような連中はうじゃうじゃ涌きつつあった!
「死霊じゃないようだが、また集まると厄介だな」
ウワバミのポーチと収納魔法の空間の中身をあれこれ確認した。
チラっと見ると、レイミは鳥人形態でも押されてる! クソっ、他の隊どーなってんだ?!
「ええいっ、フライト!」
おおよそ算段がついた俺は姿を消したまま、下手くそな飛行魔法で飛び回り、油類、爆薬、火属性のレッドジェム、魔除けの香を広間中の床にバラ巻き、グレネードガンで炎上弾を連射してあちこちで爆炎を上げさせた!!
出来損ないのニーベルングどもには魔除け香も利いたはず! なんならこの煙は魔神と母にも有効だろっ?
次々燃え尽きてゆくニーベルングもどき達!
「問題は酸欠とガスだなっ」
大気の腕輪をしてマスクはまだしてるが、長引くとヤベェな・・
「そこ、だな」
黙ってレイミだけ見ていた母が突然っ、槍のような結晶の触手を多数に俺に撃ち込んできた! カメレオンマントもすぐ剥ぎ取られて姿を晒されちまったっ。
「捨て置いていれば、小賢しい真似をっ!」
「ケンスケっ!」
レイミは助けに入ろうとしてくれたが双剣の魔神に阻まれた。
「ぐおおっ?!」
どうする? 鉄亀とリフレクトの2段弾きで弾けば広間から脱出ぐらいできそうか? いや、それならレイミの方に1段援護しないと、ジリ貧だっ。
よ~しっ、1発はレイミ。もう1発は俺自身っ! やるぞ、やるぞ! やる
「っエルレイっ!!」
天井近い壁面の横穴から声が響き、上位熱線魔法が放たれ、母の触手が焼き払われ、母の魔力障壁もくだかれ、顔面と額の結晶を浅く焼かれた!
「くっ?!」
魔法を撃ったのは見慣れないエルフの魔法使いだった。その隣には2人、冒険者らしき人物がいる。1人は有名人だ!
ヴィマ・アランバ、氷の冥翼王を撃退した火属性の戦士っ。
「因果だな」
ヴィマはレイミを見て言い、既に返却された太古火の矛ではなかったが、炎属性のハルバートに広間の燃え盛る浄めの炎を全て吸い集めた。
「支援と調整を。来いっ、キリン!」
もう1人の初老の同行者が鹿と龍の中間のようなモンスターを召喚し、烈風を纏いながら双剣の魔神に突進してレイミを援護しだした。
キリンの纏う風には浄めの効果があるらしく、魔神の皮膚を焼いていた。
「もうマスクを取れるよ、君!」
「あ、うッス」
空気も浄化できるらしい。凄いぞっ、キリン! 俺は飛行したままマスクを取る。
「オオォッッ!!!」
2体1になると一気に攻勢に周り、双剣を砕き、キリンの雷を受けて耐性を崩した魔神をレイミは鎧ごと鉤爪で両断し、消滅させた!!
「プラスヒール!」
取り敢えず離れてるが、魔法石の欠片を数個対価にレイミの回復を始めるっ。
「・・もう1段、もう1段の強い娘達を産めばっ、お前達地上の兵全てを越えられる!! 生存こそ祝福っ!」
母の身体は崩れ去り、額の焦げた結晶だけが浮き上がった。
「これでしまいか、マナバースト!」
横穴からヴィマが飛び降り消えぬ炎を宿すハルバートを構え、爆発的に魔力を高めたっ。
焦げた結晶が急速にヒビ割れながら拡大して砕け散り、中から禍々しい魔法陣を膨らんだ腹に印した、女のような竜が現れた!
「トゥゥ・・・イ。滋養に、なれ」
母の竜は拡散する波動のブレスを吐いたっ!!! コイツ、ノーモーションばっかりだっ。
キリンが前面に飛び出して強力な光属性の魔力障壁を張り、これを相殺したが、キリン自身も身体が崩壊しかける程消耗した!
「戻れ!」
使役で消耗した様子の初老のヴィマの仲間は即、キリンの召喚を解いた。回復しようと思ったが、回復効果の指輪を使うようだった。
「エル・フレアっ!!」
上位爆裂魔法を母の竜の竜に撃ち込むヴィマの仲間のエルフっ! 母の竜の体表には何重にも魔力障壁で覆われていたが、それを1枚1枚砕いてゆくっ。
「マナバーストっ!」
強引に魔力を高め全ての障壁を砕き、母の竜の体表を焼いて押し退けるエルフ! 凄っ。誰か知らないけど!
「ブリンク・ドレイクハントっ!!」
分身して空中を蹴って打ち掛かる超高速攻撃で畳み掛けるヴィマ! 母の竜は多数の魔力の剣を操って反撃しているようだが、もう攻撃がどうなってるか? 速過ぎて目で追えんっ。
俺が浮いたままあたふたしてると、
「形態を変えるっ! 一緒に来るかっ?!」
レイミが側に舞い降りてきた。
「土壇場で置物になるかならないか、って? 決まってるじゃん?」
「ククッ、わかった」
レイミは笑って、巨鳥化した。
(乗れ)
俺は迷わずレイミの背に乗った。
「仕込むだけ仕込もうぜ?」
風属性のスカイブルージェムをありったけ、残りの魔法石の欠片もありったけ宙にバラ巻き、レイミがそれを風で巻き取ると、俺は聖骸の盾を構えた。
「エアブレッシング! エアブレッシング! うう~っっ、もういっちょ! エアブレッシングっ!!」
俺は限界まで風の加護を自分とレイミに掛けた。ゴーグルだけはキープしとく!
(行くか、ケンスケ)
「おうっ! レイミ!!」
レイミは全ての触媒を対価に最大の旋風を纏い、翼を広げ、羽ばたいた!!
「っ!!!」
瞬間的には音の速さを軽く越えたが、即応した母の竜の魔力剣の連打に阻まれた!
風と剣が押し合うっ!
「鉄亀っ!! リフレクトっ! んっがぁーっ!!!」
ガード技と反射魔法の併用で、剣の連打の壁を突き破った!! 反動で聖骸の盾が砕け、ゴーグルが取れ、両手で持ってた指全部折れちまった!
(屈めっ!)
突入ルートはヴィマが作ってくれていた! 俺は指がダメだから手首で固定具を抱えて身を屈め、レイミは旋回しながら母の竜の膨らんだ腹に纏った風ごと直進し、そのまま貫いていった!! すると、
(キャッ、キャッ)
(ばぶばぶぅ)
(だーう~)
「っ?!」
貫きながら、まだ産まれない、形も無い未来の可能性達の無邪気な声を数え切れない程聴いた。
俺とレイミは母の竜を貫き、力を失った母の竜はヴィマの炎の連打によって小間切れにされてゆく。
(勝てなかったか、選ばれたのは、お前なのか? それとも私達から離れた仔達の中から・・トゥイ・・・)
母の竜は滅び去っていった。




