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将来有望新人!!

7月、海竜王の月入った赴任初日、東方のワッペンの付いた遊撃班の制服を着てギルドの汎用シルバーショートソードと汎用リボルバーを装備し、後の細々とした荷物は全てウワバミのポーチに詰め込んだ俺は転送門から出た。


「あっつ。というかめちゃ田舎っ!」


雨季が明け、バリバリに夏が始まっていた。蝉も鳴きまくり。

リーラ州冒険者ギルド東方遊撃班の分室のあるブラウンモルト村は普通の農村だった。魔工ゴーレム類や機械類はあまり導入されていない感じだ。

村名通りの今は青い麦畑も魔除けの城壁まで見えた。湖のようだ。

農地を除けば小ぢんまりとした村だから、居住区の端の高台にあった転送門から全体が簡単に見通せる。分室の施設も見えた。

ブラウンモルト村は交通交易の要所でもなんでもないが、物理的にリーラ州の東部エリアのちょうど中心にあって、仕事があれば転送門や飛行道具や飛行獣(ひこうじゅう)でサクッと移動する遊撃班に都合のいい立地のようだ。


「都会に憧れて1回就職したんだけどな。ロドリーだな、アイツが大体悪い。ちゃっかりノイノイさんと文通してるしっ。ノイノイさんかぁ」


・・アレ? 声や口調やタンクトップのお胸は思い出せるが顔がハッキリしない。俺は、乳と喋ってるつもりだったんだろうか??

自分の人間性に若干不安なモノを感じつつ転送門施設で手続きを済ませ、高台から居住区へと降りていった。


「分室は、こっちか」


高台からは見えたが降りると建物や緑地や地形で隠れる。

俺は「新人さん? 頑張ってね」とか言ってきてくれる村民の方々に「うぃッス」「どもッス」「頑張るッス」等とペコペコ頭を下げつつ、土と草と水路と作物と家畜の匂いが強い村内を歩いていった。


「あったあった」


分室も居住区の端だ。一応、緑地を間に挟んでいる。

本館は2階建ての簡素な兵舎といった具合だが、塀で囲われた敷地はそこそこ広く、平屋の面積のある建物も多かった。グラウンドも当然ある。

ここの敷地を確保する為に村の城壁の拡張もしたらしい。農地や宅地削ったりすると揉めちゃうからな。

正門で人型の魔工ゴーレムが2体、門番をしていた。結構新しい上位型だ。さすが分室。兜ではなく、日除けの陣笠(じんがさ)を被せられていた。


「あ、ども。今日から配属になったケンスケ・ナツキです」


冒険者ギルドのミスリルギルドカードを出しつつゴーレム2人に挨拶する俺。


「ピピッ、かーどヲ認証シマシタ。右手ト両目ヲオ出シ下サイ」


「はいよ」


大人しく右手を広げつつ、両目をパッチリ開けて顔を差し出してみせる。


「ピピッ、虹彩ト右掌、まなばいたるヲ認証シマシタ。けんすけ・なつき様、貴方ハごーれむデハアリマセンネ?」


「はい、私はゴーレムではありません」


ゴーレムに調べられると大体コレを聞いてくるけど、意味あるのかな、と。


「ドウゾ、オ入リ下サイ」


「失礼しまーす」


俺は正門から中に入っていった。



事務の方から、俺は3係長の執務室に案内された。


「本日付けで配属されました! ケンスケ・ナツキですっ! ジョブは守護兵っ、レベルは12っ! 元料理人ですっ。こちらの保冷箱に」


俺はウワバミのポーチから大きめ保冷箱を取り出して開けた。甘い香りが執務室に拡がる。


「ボンバーアップルティラミスを作って参りました! 12ホールありますっ、皆さんでお召し上がり下さいませぇっ!!!!」


「凄いね。業者さんの物量だよ? ふふっ」


その華奢だが俺と同じくらい身長はありそうな30代前半くらいの人は机の上で手を組んで苦笑していたが、すぐに立ち上がった。

資料では男性のはずだが、女性に見えるのだが・・


「ケンスケ君。私は東方遊撃班3係長のオシロ・ゼンミンだ。君には私の3係に入ってもらうからね」


「ハッ! よろしくお願い致しますっ!!」


俺は全力で畏まった。


「ふふふっ、別に軍隊じゃないからね? アップルティラミスは1係と2係、事務や他の職員にも配ろう。気難しい人もいるから、初手でいい仕事をしたね」


「あざーッスっ!!」


どうやら判断に間違いはなかったようだ。レンタルキッチンを借りたり作業で2時間しか眠れなかったが、よくやった俺! よしっ!

3係用以外のボンバーアップルティラミスは職員の方に預けられ、俺はゼンミン3係長さんの案内で3係の詰所に向かうことになった。

廊下を歩きながら話を聞く。3係長さん、少しヒールのある靴履いてる。


「資料は読んでると思うけど3係は君と私を入れて13人。ただ治療専門の人と錬成(れんせい)専門の人は前線には基本的に出ないから、現場は11人だね」


「1係と2係もそれくらいですよね?」


「大体同じ規模だけど、1係は凶悪犯罪者対策が専門、2係は凶暴なモンスター対策が専門。我々3係とは主な仕事は違うから活動の仕方も随分違うよ? ウチは遺跡対応ね」


リーラ州東部エリアは滅びたニーベルング族の遺跡が多く、管理が必要だった。


「スクールや教練所の講義以外だと、博物館で安全な出土品なんかを見たくらいです」


「普通はね。必要無いからね。まぁ3係は何でも屋だから。最近、冥王信奉者達がまた活発に動いてるから、今は遺跡対応を御上(おかみ)に押し付けられた感じ」


「州軍や教会の聖騎士団辺りが対応すべきな気もするッスね」


「それね~。ま、色々あるんだろねぇ」


他人事みたいに話すゼンミン3係長さんだった。



そうして詰所前に着いてしまった!


「緊張しますっ」


「いや、皆忙しいから今日は3人だけだよ?」


「えーっ?!」


「他のメンバー用のアップルティラミスは氷温庫(ひょうおんこ)にしまっておこう」


ゼンミン3係長さんはそう言って、さっさと詰所のドアを開けてしまった。途端、吹雪っ! え? 冷たっ。


「アハハッ! 凍結っ! 寒冷っ!! 霜焼けっ!!! 氷属性魔術師にして氷属性召喚師っ!!!! 天は二物を与えたっ! ハイブリッド魔法職っ! 新人より1年パイセンっ!! 身長が低くとも魂はギガンティスっ!! 速過ぎた初雪っ! アマネ・ノーザンロードっ!! 既に着任っ!!」


詰所内でやたら吹雪を起こしテーブルの上でポーズを決める、おそらくフェザーフット族の血が入った小柄な女の子っ! だいぶアレンジした遊撃班の制服を着ている。

さらに、


「フハハっ、フハっ、フハハ! わ、我こそは、2ヶ月前に中途採用されし、元魔法書店員っ! レアひょく、あっ?! レア職っ!! 魔本師(まほんし)にして剣士っ! 圧倒的剣技っ! 圧倒的読書量っ! 我の名はフルッカ・ストーンフルートっ! わ、わわ、我を侮るようであれば本の栞にして挟んでくれるわぁーーっ! こんな風にぃっ!!」


縁眼鏡のハーフエルフらしい女の子がちゃんと靴を脱いでソファの上に立ち、生意気悪新人、と書かれた栞を分厚い本で綴じたり開いたりしだした。

制服は特にアレンジしてない。

・・もう1人いた。


「ふぉおおーーっ!!! 弾ける筋肉ぅっ!! ワシは土建屋兼サポーターから昇格っ! 筋肉と筋肉が語らいっ! マッスルとマッスルが共鳴するぅぅっ!! この筋肉の塊にあえて名を付けるならばっ、ワシの名はドラドッジ・ムシュシューっ!! ジョブは巨人砕(きょじんくだ)きぃっ!! 新人よっ、今こそ肉の声を聴こうぞっ?!!」


ドワーフ族らしい、制服自体は普通だが上半身裸でオイルを塗ったボディビルなポーズを決めまくる男っ!


「・・・」


先に詰所に入ったのがゼンミン3係長さんだったので、3人の強めの自己紹介をまともに受ける形になった。


「・・・」


「・・・」


「・・・」


「・・一旦、出るね」


ゼンミン3係長さんは、そっと、ドアを閉め、廊下に戻った。


「歓迎と、新人に軽く見られないぞ、という気持ちが先走ってしまったようだね」


「3係って濃い人達が多いッスね」


「ん~っ、組み合わせによるかな? じゃ、そろそろいいかな?」


ゼンミン3係長さんは中にハッキリ聞こえるよう大きめに咳払いをしてから、改めて詰所のドアを開けた。

小柄なアマネ・ノーザンロードさんは辺りを霜だらけしながら何事無かったような顔でテーブルの近くの椅子にふんぞり返っている。

眼鏡のフルッカ・ストーンフルートさんは靴を脱いだまま赤面して身体を丸め本を抱え、両手で顔を隠して「だから嫌だと言ったんです」と小声で呟きながらソファに転がっていた。

マッチョなドラドッジ・ムシュシューさんはオイルをタオルで拭き取ったはいたが、特に動じず上半身裸のままどっしりとその場に立っていた。


「え~と、君達の方の自己紹介は済んだね。こちらは将来有望新人っ! 守護兵のケンスケ・ナツキ君っ!! これからいいチームワークでっ、頑張って東方エリアを守ってゆこうじゃないの!」


「ども。将来有望な新人ですっ!! ケンスケです! 元料理人ですっ。よろしくお願いしますっ!! あと、ボンバーアップルティラミス作ってきましたっ!」


「・・いい心掛けじゃん。食べるけど?」


「筋肉にも良さそうだのっ」


「紅茶、淹れます・・」


取り敢えず、この場に居合わせた俺達、東方遊撃班3係メンバーはモソモソとお茶会を始め、最初は当たり障りなく、最近税金高くなったよね? みたいな話から始めるのだった。

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