母 前編
父個体が討たれ、400体余りの眷属のニーベルング族が投降に応じていた! 結構投降してるっ?!
連中は無人の僻地への移住を求めてきているが、世論は割れてるようだ。
父、母、教団から離れて消息が不明の個体も数百体はいるとみられていて、まだ情勢は落ち着きそうになかった。
そして・・
「1発殴らせてくれよ?」
よれよれの白衣を着た細っちろいカナヒコが魔工飛行船の船内通路で言った。冷や汗をかいている。
「俺?」
隣のレイミではなく、俺が言われてる!
「女子の顔は殴らない主義なんだ。だがっ! 仲間や知らない人達もっ、死んだのは1人2人じゃないから! マジでっ」
「ケンスケで気が済むなら好きにしろ」
「おーいっ?」
知らん顔してるレイミ。捻りの入った抗議に困惑してるようだ。
「・・はぁ、まぁいいぜ。指怪我しないようにな? ほら」
俺は左の頬を差し出した。カナヒコは背も低いので軽く屈む。
「行くぞ! ケンスケっ、・・ゆ、ゆるさんパンチっ!!」
ペチっ、と細腕で殴られた。
「っ?! 痛たたっ」
指と手首を痛めてしまったらしいカナヒコ。
「あ~、言わんこっちゃない」
カナヒコは涙眼でレイミを見た。
「これが技術部の怒りだっ、思い知ったかよっ?! 迷惑過ぎる自分探し、いい加減にしろ!!」
「わかった、わかった。今までで一番億劫だ。行くぞ、ケンスケ」
レイミはもう勘弁、という顔で歩きだした。
「じゃあな、カナヒコ。飛行ゴーレム軍団! 頼んだぜ?」
「仕事はするさっ」
俺達は飛行船団を組み、苦労して突き止めた母個体の牙城、飛行遺跡、の攻略に取り掛かっていた。
空戦の初手は、午前中の日差しの中でもお構い無しに飛行遺跡から放たれる無数の合成飛行アンデッドモンスター群を、カナヒコ達の飛行ゴーレムで相殺しつつ、飛行ゴーレム群に忍ばせた結界破壊仕様の特攻ゴーレム200体が飛行遺跡を覆う高出力結界にぶつけられた!!
これまで経験も物を言って、合成飛行アンデッド群の相殺及び飛行遺跡の結界の破壊に成功っ!
続いて障壁特化飛行船団を前衛、砲撃特化飛行船団を中衛にした飛行船団本隊が飛行遺跡に迫る!
遺跡からは大型の竜の骨をベースにした合成飛行アンデッド群数百体が迎撃に出てくるっ。
合成竜アンデッド群の猛烈なブレス連打は前衛の障壁特化船団の魔力障壁で受け、その隙に中衛の砲撃特化船団の遠距離攻撃の連打で合成竜アンデッド群を撃破っ!!
ここからが俺達の出番だ! 後衛の揚陸特化船団が飛行遺跡への強引な着陸を狙う!
俺と巨鳥化したレイミはそんな船の1つの後部ハッチから大空に飛び出したっ!
「やっほぅっ!」
高度がかなり高いからゴーグルに加えてマスクもして、エアブレッシングを掛け、今回の連合軍から大気の腕輪と万一に備えて浮遊の腕輪も支給されている俺は、レイミの背で絶好調だ!
(余り調子に乗らないことだ)
「レイミ! 生き残ってさっ、捕まりもしなかったらっ、ファジーネーブル作ってやるよ! 俺のバーベキュー屋時代のとっておきだぜっ?」
(もう酔っ払ってるのではないか? そう・・何もかも都合良く上手くゆくというのなら、私は一輪車にでも乗ってやろう)
「レイミ、ちょいちょい一輪車推すなよな? なんだっけ??」
サーカス小屋で大変だったという話はざっと聞いたが、簡単にしか話さないからなぁ。
(もういい! 集中しろっ)
俺達やヤッポちゃん達が召喚した飛行型の召喚モンスター群と各地の州軍や国軍の小型強襲飛行船群は、飛行遺跡の対空砲台の破壊ミッションがあった!
まぁ俺は変化に対応した鞍と安全帯を付けて貰ったレイミの背で補助魔法や回復魔法や魔法道具類を使いまくるだけなんだが。
「任せ」
「ゴラァーっ! 鳥女ぁーーっ!!」
俺が言い終わらない内に一隻の小型強襲船が近付いてきてスピーカーで怒鳴ってきた。知ってる声、国軍の断罪派の自称少尉の鉄使いのマッチョ女だっ。
(鉄女か、去ね)
「厳命されているから見逃してやるがっ、手柄はこの黒金のディモーがぁっ」
(去ね)
辺りにいくらでもある雲から一筋の電撃を招いてディモーの小型船に通電させ、機体不良で後退させるレイミ!
「どぉあっ?! おのれぇーっ! 鳥ぃーっっ!!!」
「・・レイミ、大人げない。まだ絡まれそうだから離れよう!」
(そのつもりだ)
レイミは翼をひらめかせ、進路をズラした。
粗方、砲台が破壊されると揚陸船団が次々と飛行遺跡の端に取り付いてゆく!
残存の障壁船団と砲撃船団は取り付き面以外に威嚇攻撃を断続的に始めた。
陸戦に関しては遺跡からは武装した幼体のニーベルング族数百体と中型の四足獣に見える合成アンデッド群数百体!
これには砲台の相手をして残った小型船団と召喚モンスター達が応戦したが、俺達は揚陸船団の方に下がった。
揚陸船団は障壁を張って兵員や搭乗型のゴーレムを降ろす最中だ。
その障壁の1つを拝借し、変化を解いて魔法石の欠片を使いつつポーションを飲んでいるレイミに、マスクとゴーグルを取った俺は回復魔法を掛ける。
「プラスヒールっ!」
急回復は部分的に治りきらなかったり負担も大きい。じっくりめに掛ける。レイミの回復を確認すると俺も魔法石の欠片を使い、ポーションを飲んだ。
2人の回復が済むとほぼ同時にザルビオさん達、封印術隊の準備が整った!
「ニーベルングを封じるっ!」
飛行遺跡全体を対象に封印術を掛けるザルビオさん達!
幼体のニーベルング族は一気に力を失い、小型船団と召喚モンスター達によって倒されていった。
「軽くテストはしてたけど、レイミは封印術、大丈夫か?」
「なんともない・・いよいよ、混血ですらないとわからされるな」
あまり表情は変えなかったが、寂しげに見えた。かな?
突破口が開くとアマネさん達、陸戦型の強い召喚モンスターを使える召喚術隊がルート取り用の召喚モンスター群を大量召喚して遺跡内部へと侵入させた!
程無く内部状況が明らかになると、
「決戦力のある者達は18隊に分かれ突入っ! 卵の始末は後続の諜報部に投げていいっ!! 各自、離脱判断は早めにっ、大規模戦はこれで最後! 死んで出世するより、家に帰って報酬数えなさいっ!!!」
「オオオォォーーーッッッ!!!!」
状況の規模が大きくてどこにいるかはさっぱりだが、魔工スピーカーで指示ついでに発破を掛けたゼンミン3係長に、ここまで撤収も、制御可能な墜落も、撃墜も無くたどり着けた連合軍の兵達は沸いた。
すぐに進軍は始まり、俺達はヒロシさんが率いる隊に入っていた。ユッチェさんとオロロさんもいる。
「ユッチェさん! オロロさん! お久し振りッス!」
ヒロシさんは前衛でガシガシと戦っているので、魔法や銃撃で対応している2人に話し掛けてみた。
俺はグレネードガンで妨害系の弾を使い、温存の指示が出ているレイミは風の刃を飛ばして無難に攻撃していた。
「無事でよかったね!」
「何よりだっ、通常任務に戻れるようになったらまた腕立て伏せ勝負しようじゃないか!」
「いや、まぁ・・はははっ」
取り敢えず笑っとく。
「・・ケンスケ君。レイミさんとはいいコンビになれたみたいだね」
「どうでしょ? なんか立場につけ込んでるようでちょっとズルい気もしてます。そもそも、色々な意見があるんでしょうが・・」
「我々も、様々なニーベルングを見てきたぞっ? 確かに災いではあったが、彼らは彼女達は、何かの形になろうと足掻いているようでもあったな。敵だが、一概に悪とは思ってないぞ?!」
オロロさんがレイミに聞こえるように言うと、レイミは顔を背けて戦いだしてしまった。
「突入するっ! 総員っ、備えっ!!」
ヒロシさんの号令と共に俺達は飛行遺跡内部に飛び込んでいった!
遺跡内部は血管のような物に浸食されている。天井に損傷がない限り、内部はほぼ暗闇で、照明魔法の灯りが頼りだった。
内部には機動性や日の光の影響を考慮しない肉塊系や霊体系のアンデッドや、成体のニーベルング兵が大量にいたはずが、先に突っ込んだ召喚モンスター群に蹂躙されてほとんど残っていなかった。
トラップもほぼ破壊されている。
事前の潜入と内通者の情報にルート取りの召喚モンスター達からの情報で内部構造は、召喚モンスターがたどり着けなかった深部以外は丸裸だ!
俺達ヒロシ隊は効率よく素早く、遺跡内部を踏破していった。
そのまま1割程度の離脱者で概ね順調に内臓感の強まった深部近くまで来れたが・・
「っ! 止まれ!!」
ヒロシさんの指示で隊が止まるのと同時に、前方に液体の渦とガスの渦が発生した!!
「マスク装備っ! 可能な者はバーストっ!!」
レイミ以外はマスクやゴーグルを装備し、マナバーストが使える者は全員使って魔力を高めた!
俺もマスクとゴーグルをしながらエアブレッシングを自分とレイミに重ね掛けした。液体の方は微妙だが、ガスは取り敢えず有効だろう。
対して2つ渦はそれぞれ圧縮して人の形を成した。人間の女見えるが、額に結晶のような物があった。
どちらもデタラメな量の魔力を持っている!
「見付けた。鳥の仔」
「私達と違う可能性」
2人、いや2体ともレイミだけを見ている!
「新手の進化体か、封印術は利いていないっ!」
魔力を高めるレイミ!
「関係無い雑魚は・・」
「邪魔だっ!!」
液体の方は大量の液体の渦を、ガスの方はガスの渦を俺達に放ってきた!
「シュトルムブレイカーっ!!」
「ストームバレッドっ!!」
「プラスキュアポイズンっ!!」
「散れっ!!」
ヒロシさんは水の斬撃で液体の渦を打ち、オロロさんが烈風を付与した弾丸でガスの渦を撃ち、ユッチェさんが2つに解毒魔法を掛け、レイミが風の刃を進化体ニーベルング本体に放った!!
2つの渦は押し留められ、ガスの方は消滅した。風の刃は進化体を捉えたが、2体ともそれぞれ液体とガスに身体を変換してすぐに復元してしまった。
「ガスは致死毒っ! 引火性じゃないっ。液体はただの水だけど、その場に溜まり続けてる! 本体は流動し再生っ!」
解毒時に探知したユッチェさんが警告した。
「・・殺され続けた姉さん達の情報が、私達世代の身体を造った」
「冥翼王の力さえ古い、私達の勝ちだっ!!」
進化体達は2つの力を合わせて毒液の大渦を起こし始めた!
「消耗戦か・・レイミとケンスケは先へっ! 総員援護っ! 毒個体優先だっ!!」
「プラスキュアポイズンっ!!」
「ウェイブバレッドっ!!」
全員が毒渦を解毒して押し止め、液体個体に牽制しつつ毒個体への火系攻撃の連打を始めた!
「・・・」
レイミは迷う素振りを見せた。
「レイミ」
「・・いいだろう」
レイミは巨鳥化し、俺は素早くその背に乗って安全帯を付けた。乱戦の隙を突いて飛び立つレイミ!
「鳥の仔ぉっ!!」
液体個体は半ば水と化した身体を巨人のように肥大させて掴み掛かってきたっ。
「アイスブレイカーっ!!」
凍結の剣技で水の身体を斬り付け、凍り付かせて仰け反らせるヒロシさん!
「ギィッッ??!!!」
「片割れくらい自分でケリをつけてこいっ!」
「・・上等だ!!」
「うおっ?」
レイミは一気に加速にしてその場を離れ、安全帯だけに頼ると腹が絞られちまうから俺は慌てて鞍周りの固定具にしがみ付いた。
奥へ、奥へ。俺達は臭いが薄まり代わりに薄暗く光りだすようになった、どこか金属質な臓物の壁が続く飛行遺跡の最深部へと向かっていった。




