竜の谷 後編
崖崩れを想定して配置してなかったらヤバかったっ。
「手筈通りだっ!! 初撃は、耐えろよっ! マナバースト!!!」
ボゥトゥーメさんは魔力は爆発的に高めつつ叫ぶと、呼応するようにトライエレメントヒュドラはそれぞれ火、氷、雷の属性3本首の口の開け、3種の強大な魔力を高めた。
3属性を合わせた不安定な力の奔流を吐き出すトライエレメントヒュドラ!! この地の叙事詩によれば、この渓谷の少なからずの谷は、このイカれたブレスで造られてるっ!
「大獄格子っ!!!」
巨大な格子状の斬撃を放って3種混成ブレスの相殺に掛かるボゥトゥーメさんっ!
格子の隙間からいくらかは散ってくるっ。俺は鉄亀の技でネッサリアさんを守り、レイミは回避しつつ宙に飛び上がった!
トライエレメントヒュドラのブレスが・・途切れた!! 宙から急降下するレイミ!
「散れっ!!」
鉤爪で、激しく首その物が放電している雷に撃たれつつ、雷の頭部から首の付け根まで引き裂いて消し飛ばす!!
「プラスヒールっ!!」
「ストロングっ!」
ネッサリアさんは全員の体力を回復させ、俺はボゥトゥーメさんに剛力の力を付与した!
「白夜斬りっ!!」
氷の斬撃で炎の首の付け根から頭部まで斬り上げて凍結、粉砕するボゥトゥーメさん!
「ザァアァァッッ!!!」
激昂して吹雪のブレスを放つ氷の首!
レイミは羽ばたいて烈風を起こし、吹雪のブレスを逆流させ、トライエレメントヒュドラの巨体の内、氷の属性を持たない部位を冷気で損耗させ怯ませたっ!
氷の首に飛び掛かるボゥトゥーメさんっ。
「灼火鼓っ!!」
炎の連撃技で頭部から首の付け根まで斬り裂き、焼き払われた!
が、全ての首を失ってもトライエレメントヒュドラの胴体と尾は混乱した様子で動いているっ。
俺は慌てて収納魔法の陣からボウガンと古めかしい矢を取り出した。石化の矢+2だ。
「ケンスケっ!」
「うッス」
着地したボゥトゥーメさんに促され、俺は石化の矢を放った。まだ動いてるとは言っても小山みたいな相手だ。さすがに外さない!
矢がトライエレメントヒュドラの胴体の表面に突き刺さると、そこから一気に石化が拡がり、トライエレメントヒュドラは岩の小山となってようやく沈黙した。
そこに降り立ち、様子を伺うレイミ。
ボゥトゥーメさんも一息ついた。
「再生力も高いらしいが、しばらくは持つだろ? あとは後続隊に任せよう!」
俺達はポーションを飲んだり、魔法石の欠片を使ったりしながら一旦集まった。
「技量を上げたんだな、ケンスケ」
歩きながらネッサリアさんが言ってきた。
「いや、まぁ」
そう俺たぶん今レベル20台中盤くらいあると思う。俺、頑張ってます!
「図に乗らないことだ」
レイミも隣に舞い降りてきて囁いてきた。
「んだよっ、いちいち言わなくていいだろ?」
「くくっ」
なんだかんだでこの地の叙事詩の古竜、トライエレメントヒュドラを俺達は完封した!!
谷の結界内部は奇妙に歪んだ空間になっていた。
「元々谷の聖域にあった迷いの術を拡大した物だろうな」
「ネフィート・・諜報部から迷宮化対策の魔法道具はあれこれもらったけど、どれが有効ッスかね?」
俺は収納魔法の空間からあれこれ道具を取り出した。だが、
「大した強度の迷いの術じゃない。物理的な遮蔽物も無い、ゴリ押しで抜けられるだろう」
レイミは巨鳥化した。
(全員、乗れ)
「マジかレイミ?」
(ニーベルングはアンデッドの扱いにも長けている。眷属を多く倒しても、時間を与えれば始末に負えなくなる)
「強引なヤツだ」
「ケンスケ! 補助魔法をっ、この案で行く」
行くんだ。
「うッス。じゃあ・・エアブレッシング! プロテクト!」
俺は全員に補助魔法を掛け、俺達はレイミの背に乗って飛び、谷の迷いの術を直線で強行突破することになった!
「おおおっ?!」
ゴーグルを付けて必死で掴まる俺っ。風の魔力を纏った巨鳥のレイミが次々と中空にまで拡大した半透明の迷いの回廊を体当たりでブチ抜いてゆくっ!!
「・・レイミ、と言ったな」
不意にボゥトゥーメさんが話し掛けだした。
(なんだ?)
「物言いや振る舞いだけじゃない。身体に漲る力からして、お前は後先を考えていないんだな」
(立場を心得ている、ということだろう?)
「皮肉を言うなって。お前さ、立場をわかってないよ。お前は何かが砕け散った、最後の欠片みたいなもんだろ? そこにゃ、これから改めて滅ぼすニーベルング達も含まれてんじゃないか? お前の後先、そういうことだぜ」
(・・知らない。今は暴れたいだけだ!)
レイミは加速し、ついに迷いの術の迷宮構成力の限界を振り切り、最後の回廊を突き破った!!
そこは、崩れた祠を中心に異形の骨が散らばる奇妙な場所だった。祠からは一筋、小川が下流へと流れていた。
崩れた祠の上には爬虫類の特徴を持つニーベルングが、日傘を差して座っていた。
舞い降りたレイミを俺達を降ろすと鳥人の姿に変化した。
「大陸西部の竜の墓にようこそ。裏切りの鳥も久し振りだね」
「馴れ馴れししいぞ?」
「西部の竜の墓、というにしては随分骨が少ないようだが? 殆んどワーアリゲーターだろ?」
確かに、大型の骨は少なかった。
「ん? 母さんの船の守りに殆んど譲ったよ。妹達を守ってもらわないとね」
「母だの妹だのバカバカしいっ! 冥府からの転生の便宜上の物だろう? 手勢を他の勢力に譲った! 貴様は間抜けだということだっ」
「君、そんな好戦的だっけな? ヤケになってない? 鳥ちゃん」
「・・もういい。やるぞっ!」
レイミは烈風を纏いだしたっ。
「ネッサリア、ケンスケ」
「はい。グランブレッシング!! プラスレジスト!!」
「プロテクト! ストロング!」
ボゥトゥーメさんに促され、ネッサリアさんと俺は補助魔法を発動させた!
「ははっ、ロクに話せなくて殺し合うしかないって・・興奮するよね。起きろ! 竜どもっ!!」
ニーベルングに応じ、数十体のスカルドラゴンと数百体のワーアリゲータースケルトンがアンデッドとして目覚めだした!
「ネッサリア!」
「・・マナバースト! 水の聖杯!!」
ネッサリアさんはブルージェム5つを対価に宙に水の杯を出現させ、雨雲を招き、聖水の雨を降らせた!
ワーアリゲータースケルトンは為す術なく崩れ去っていったが、スカルドラゴン達は動きを阻害された程度だっ。
「ケンスケはネッサリアを守れ! レイミはスカルドラゴンにとどめをっ。俺はニーベルングを止めるっ! マナバースト!!」
支持を飛ばし、魔力を高めるボゥトゥーメさん!
レイミは従って、動きの鈍ったスカルドラゴン達を仕止めて回りだしたっ。
「的確な指示! いいねっ、ちょっと食べていい?」
ニーベルングは日傘を捨て、聖水の雨に焼かれるのも構わず、大口を開け、超高速でボゥトゥーメさんに飛び掛かった! 着地と攻撃の衝撃で周囲を吹っ飛ばしながら激しい攻防となった!
口だけでなく、全身のあちこちに牙を持つ口を発生させて喰い付こうするニーベルング! 対するボゥトゥーメさんは、
「羅刹幻陣」
加速を繰り返しながら残像を作りだし、ニーベルングを翻弄しだした!
「・・ケンスケ、見惚れてないでっ。ずっとこっちを狙ってる!」
「え?」
戸惑った側からニーベルングの身体から牙を持つ触手が飛び出し、ネッサリアさんに襲い掛かった!
「亀ぇっ!」
俺は人生最速の鉄亀でこれを受けて打ち払ったっ。
「あっぶねぇっ」
「しっかりしてくれ。聖杯を使ってると私は置物だ」
「うッス」
一瞬でも観戦モードになった自分を恥じ、必死で警戒しだしたっ。
「・・あの鳥と打ち解けてるな」
ネッサリアさんはこちらを水に戦況に集中しながら話した。
「最初に比べれば」
「ボゥトゥーメ様は欠片と仰った。多くの被害を見てきた。冥府教団も敵だ。あれは随分勝手に見える。・・私は狭量か?」
「いえ、普通ッスよ」
「そうか。しかし、何か残ってほしいとも、思ってはいるよ」
「ッスね」
いい人だな。
・・やがてレイミは全てのスカルドラゴンを屠り、俺の盾とボゥトゥーメさんの太刀にヒビが入ると、状況が動いた!
「ケンスケ!」
「プラスヒールっ!!」
レイミに呼ばれ、察してレイミとボゥトゥーメさんに上位回復魔法を掛けるっ。
纏った風と鉤爪ですぐに再生するニーベルングの全身の口を切り裂きながら割って入るレイミ!
「一旦下がれっ」
「お? 気を遣ってくれるんだな? へっ、だがこのまま押すっ!」
ボゥトゥーメさんはヒビの入った太刀をあっさり捨て、代わり収納魔法の空間から打ち刀を2本取り出して構えた!
「レイミ! うっかり噛られるなよっ?」
「こっちの台詞だ!」
2人は連携してニーベルングを詰めだした! ダメージが重なり、聖水の雨に焼かれ、再生が追い付かなくなり始めるニーベルングっ。よし!
「プラスヒール!!」
もういっちょ、回復させると2人はさらにもう1段加速した!
「白夜斬り・重っ!!」
凍結の斬撃で十字に斬り付け、凍り付かせて動きを封じるボゥトゥーメさん!
「散れっ!!!」
凍った首から下の全身を鉤爪で魂ごと打ち砕いてとどめを刺すレイミ!
跳ねた頭部もすぐに掴み取ったっ。
「・・噛れなかったけど、いい情報を母さんに送れた。ふふふっ」
「貴様は個を棄てたのか?」
「そんな重要かな? それにボクらはまだ途中にいる生物だよ。生き残れた仔達がどこまでたどり着けるのか? ちょっとワクワクしない?」
「無責任に未来を託すな」
「あっ」
レイミは伸ばした爪をニーベルングの脳まで通し、情報を引き出すとそのまま握り潰した。
休憩はトータル10分程度だったが、母個体に居場所の情報が伝わっているのはマズい気がした俺とレイミは、諜報部の用意した次の隠れ家までトンズラすることにした。
「諜報部は便利使いしてくるだろうが、休息も取れよ?」
「鳥をしっかり見張れ」
「ケンスケ~、またなっ」
「フルッカさんは俺に任せろ!」
「何をだよ? 不安しかねーわ」
(行くぞ? ケンスケ。早くしろ)
俺は巨鳥化したレイミの背に乗り、ゴーグルをしてエアブレッシングを自分に掛けた。
「それじゃっ!」
俺達は聖水の雨もとっくに絶えた晴れた空に飛び上がり、竜の墓を護っていたらしい今日滅びたワーアリゲーター達の住まいだった渓谷地帯を後にした。




