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将来有望冒険者ケンスケっ!!  作者: 大石次郎


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竜の谷 前編

俺とレイミは山地の比較的高所の森の中の放棄された魔除けの安全地帯を諜報部が手を回して使えるようにしてくれた所で1泊していた。

貯水タンクだけでなく簡単な浴槽を用意してくれたから昨日の夜はさっぱりした。

特に要望は何も言わないがレイミは風呂に入れると大体機嫌好かった。


「よしっ」


早朝、身支度を整え、火の消えた炉の前で軽く体操を終えた俺はまだレイミが眠っているはずの撥水(はっすい)布のテントの方を1度振り返ってから、安全地帯近くの木まで歩み寄った。

近くなると軽く跳んで幹を蹴り、いくつか枝に飛び上がってゆき、程好い枝まで来ると、そこから山の北側の申し訳程度に整備された山道の方を見る。

まだ無事に持ってる姉夫婦から買ってもらった懐中時計を確認し、俺は虫除けの香を焚いてから煎りナッツを摘まんで地下でジョモーンが魔工ラジオでよく掛けていた曲をハミングしていると、


「お」


予定の時刻よりやや早く、ネフィートが歩いてきた。向こうも気付いていたらしく、片手を上げてくる。俺も手を振った。

しばらくしてネフィートは安全地帯に着いた。

炉に火を点し直して、好みらしい砂糖と粉ミルクをたっぷり入れたコーヒーを出すと結構喜んでくれた。


「ふぅ、五臓六腑に染み渡りますね・・」


「ネフィートも近くの山にいたのか?」


「いえ、一番近い我々で管理している転送門から、わりと近い所まではヒポグリフに乗って来ました。少し景色の良い所を歩きたい気分だったので」


「ふん?」


「・・別のチームが数十体の幼体のニーベルング族を捕虜にしたんですが、凶暴過ぎて結局非公式に処分にすることになりました。実行された拠点に居合わせてしまいましてね」


「ああ~、キツいな」


俺に話していいのかともの思ったが、まぁ今の俺は幽霊みたいなもんだからな・・

連中は数が多い。中には話せる個体群もいてほしいな。


「・・アーモンドのクッキーあるぜ?」


「頂きます。それから、ボックス」


ネフィートは収納魔法の魔方陣の中からあれこれ荷物を取り出した。


「次の仕事の資料と物資です。しかし場合によって、父個体の討伐作戦に参加しませんか?」


アーモンドクッキーを袋を出していた俺はギョッとした。


「あれ? もうそっちはそんなフェーズなのか?」


「父個体はとにかく好戦的でして、向こうから突っ掛かってきますからね。冥府教団も手に負えないからあれこれリークしてくるくらいですよ?」


「繁殖個体と教団もギスってんだな」


ヨズーとかいうヤツの勢力はニーベルング族自体には感心薄いのか?? 俺が戸惑っていると、


「断るぞ?」


テントから寝癖の付いたレイミが出てきた。


「父個体対応は国軍主体だろう? 関わりたくない。ヨズーに利するならなおさらだ」


せっかく風呂で機嫌好くなってたのに、また仏頂面になってきた。


「ウチの鳥姫(とりひめ)様はヤダってさ」


「そうですか。それならそれで・・」


ネフィートは特に食い下がらず、すました顔でミルクコーヒーを飲んでいた。



昼過ぎになってしまったが、鰐人(ワーアリゲーター)族のテリトリーの渓谷地帯の端の辺りの上空まで来た。

巨鳥化したレイミの背からゴーグルを外して見下ろし、双眼鏡も取り出した。

距離はあるが、谷の中心部の結界も見えた。


「ん~、取り敢えず慎重に、まずはエビィユーと合流しよう」


(吸血癖があると聞いたが?)


「大丈夫だよ。遺跡で分断されて、それっきりになっててさ」


(お前達、東方遊撃班はよく生き残ってる)


「そりゃどうも」


(もっと本気で潰しておくべきだったな。クククッ)


「・・反応し辛いよ」


不穏なイジられ方をしつつ、俺達は渓谷地帯の端に降下していった。



降りて変化を解いたレイミとほんの数分進むと、エビィユーと護衛らしいディンとすぐ合流できた。どうも飛んでいるのを見付けて向こうから来てくれたようだ。

そしてエビィユーは飛び付いてきた!


「うぉっ?」


「ケンスケぇ~っ!! わっち、絶対あの時、ケンスケ死んだと思ったじゃん?!」


「まぁだよな、なんなら俺も思った!」


「ケンケケっ! なんかムラムラしてきた! 籠手取りなよっ、一噛みさせなよっ?!」


「えーっ? 嫌だよっ、あ、取るなっ」


あっという間に右の籠手を外されて俺は慌てた。


「なーに、イチャイチャしてんだよ? そんな仲良かったか??」


呆れるディン。得物が薙刀から上下に穂先が付いたツーヘッドスピアに変わっている。


「ディン、久し、痛ぇっ?!」


エビィユーに籠手を剥かれた右手を咬まれて血を吸われ始めた!


「ボゥトゥーメさんじゃないんだから勘弁しろっ」


どうにか引き剥がせたっ。


「庶民的な味がした!」


「どういう意味だよっ?」


「比べると、ってことだろ?」


「はぁ?」


「おほんっ!」


レイミが咳払いしてきた。やや離れた場所で腕を組んでいる。そっちのけで盛り上がり過ぎたか。

エビィユーとディンもレイミを見た。


「レイミだ。ニーベルングの上位個体の撃破率はたぶんトップだぜ?」


「自作自演じゃん」


「経緯はともかく、もっとやり方があったろ?」


レイミは腕を組んだまま深々と溜め息をついた。


「新しいヤツに顔を合わす度の同じやり取りになるな」


「はぁ?」


「そっちは飽き飽きでもこっちはようやくだからな!」


「まぁまぁっ」


俺は間に入った。


「今は仕事に専念しようぜ? ここのは厄介なんだろ?」


「そうだけどさ・・」


「案内はするって」


エビィユーとディンは不服そうに目配せし合っていた。



この渓谷を根城にしたニーベルングは母個体と繋がりが強いらしく、進化を促進させた結果、補食して他の種族を取り込む特性を獲得していた。

ワーアリゲーターの首魁(しゅかい)を襲って喰い殺したニーベルングはその力を取り込むと共に、首魁の座、その物を奪ったらしい。

この間の教主個体もそうだったが、上位個体は手っ取り早く組織力を得ようとするヤツは少なくない。

被害を出してはいても自分達は狩られる側だという認識があるんだろう・・



エビィユーの案内が適切だったこともあり、俺達はほとんど野生のモンスターとも交戦せずに渓谷地帯を進んだが、谷のワーアリゲーター達との接触はとにかく避けていた。


「見な、アレだよ」


谷の高所の陰から河原を見ると、2人組のワーアリゲーターがいた。フード付きのマントで肌を隠していたが、所々に岩のような特徴があった。


「元は辺境のただの蛮族だけど、進化体に血を分けられて強化してる。何よりアイツら意識がある程度繋がってるんだ。1人にバレると全員にバレちゃう。ノーミスで待機ポイントまで行くっきゃないね」


「了解」


「面倒だな。周りくどい。地上を歩くのは遅い」


「・・結構、愚痴多いな」


ディンが耳打ちしてきた。


「まぁ、なぁ」


「聞こえているぞ? チッ」


軽くギスギスしつつ、俺達はワーアリゲーターを避け続け、随分遠回りして谷の中心部近くの林の中に造られた待機ポイントにたどり着いた。3時間は掛かってしまった。

ボゥトゥーメさんとネッサリアさんがいた。


「ケンスケ! 生きてたな」


「うッス。ボゥトゥーメさんは父討伐じゃないんスね」


「実はこの間、国軍のお偉いさんと揉めてな。軽くギルド選抜から外されちまったぜ? へへっ」


「愚物を構う必要はありません。・・それより、お前」


ネッサリアさんがスッと目を細めてレイミを見た。


「申し開きできるのならばしてみろ」


「無い。結果は結果だ。死ねと言うのであれば死んでやろうか?」


「想定の随分下の回答だ」


ネッサリアさんは立ち上がった。


「お前に気に入られる為に生きてきてはいない」


目が据わってるレイミ。相性悪っ。


「ネッサリア、そういう話は今はいい」


「レイミもっ、すぐ、死んでやろうか? とか言うのやめろって」


「チッ」


「私は話が合いそうにありません。任せます」


ネッサリアさんはそっぽ向いて座り直した。

ボゥトゥーメさん苦笑していたが、


「え~と、そうだな。取り敢えず今日は今からだと途中で日が暮れちまう可能性がある。明日だ。ここ、火を起こせないのと加熱機(かねつき)もあまり使えないからちょっと居心地は悪いかもしれないが・・水出しで紅茶作ったんだよ、飲むか?」


俺達は水出し紅茶にレモンの蜂蜜漬けを落とした物を御馳走になることになった。



翌朝、日の出と共に俺達は動きだした!

谷の中心部を塞ぐ結界は出入りの警護が厚く、結界自体が範囲を狭めた強固な物を張っていた為、先んじて内部に侵入して短距離転送門を設置することは叶わなかった。

外部に露出した結界の展開器も無い。

となるとなるべく警備の薄い所から直接結界を破壊するしかないが、この結界には攻撃されると元々この谷のワーアリゲーター達を守っていた守護モンスターを自動的に召喚する条件付けがされていて、厄介だった。

外部との出入り口には専用の守護モンスターもいて、ここに召喚守護モンスターも加わるというのはリスキーだった。

と、いうワケで俺達は人気の無い岩場の側面を狙った。


「あらよっと!」


結界対策用の大刀(たいとう)で結界を三日月型に切り裂いて丸ごと破壊するボゥトゥーメさん! 大刀も砕け散った。

これを合図に谷のあちこちで州軍とギルド選抜と諜報部による陽動攻撃が始まるっ!

ディンとエビィユーは出入り口の方の陽動に回っていた。


「っ!!」


結界が消滅した宙に魔方陣が発生し、そこから巨大な色違いの3本の首を持つ竜が現れたっ。谷の守護モンスターだ!!


「グランブレッシングっ! プラスレジスト!!」


上位補助魔法を全員に掛けるネッサリアさん。


「プロテクトっ!!」


全員に防御魔法だけでもガッチリ掛ける俺っ。


「さてさてっ、トライエレメントヒュドラ! この地方の叙事詩で出てきちまう竜を、前菜にしようかっ?」


大刀の代わりの太刀を抜くボゥトゥーメさん。


「望むところだっ!」


鳥人化するレイミ。


「ザァアアアァァァッッッ!!!!」


古竜、トライエレメントヒュドラは3本の首で吠えながら着地し、岩場を砕き、崖を崩し、大地を揺らした。

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