地上へ 後編
カトラスの話から小一時間後、ミュ103の公共宿泊施設はもとからミュ103に潜んでいた者達と日が暮れるまでは下層エレベーター上部簡易拠点周辺に潜んでいた者達、合わせて100名あまりの国軍の特殊部隊員に囲まれていた。
俺達とディモー達以外の施設内にいた者達はデンバと自警団の手引きで床下の避難通路で安全圏まで逃れていた。
ラジオに出ていたジョモーン達に連絡はついてる。
俺達は早々には離脱しなかった。
理由は中層エレベーター上部簡易拠点に50名あまり、地上のエレベーター付近にも200名あまり強硬派の兵員が控えていたからだ。
まず一番下のミュ103まで降りてきた御苦労さんなディモー達を早々にノして、上の連中にミュ103の制圧が不可能だとわからせる必要があったのと、混乱に乗じて俺を人質にしてレイミが離脱した体を建前上は取る必要があった。
「・・最初にお前達に見付かったのが間違いだった。面倒なことになった」
部屋にはレイミ以外に俺とノイノイさんとドラドッジさんとドルタマだけがいた。他のメンバーは配置に付いてる。
「俺達がいなかったら国軍かニーベルング。最悪、地下から出られずそこら辺のディープフィッシュ達に突撃して終わってたんじゃないか?」
「お前、私のことを猪か何かとでも思っているのか?」
「いや、猪というよりかは鷹とか鷲・・まぁまぁ」
めーっちゃ睨まれたので茶化すはやめておこうっ!
「連れてゆくならゴーレムスーツ女の方がマシだ」
「ノイノイだよ? いい加減覚えて」
「チッ」
「ギルドの冒険者で人質に取る設定がギリ成立するの俺かドルタマだけだろ? 支援要因のドルタマを連れてゆくのも微妙だし、やっぱ俺だよ」
「吉と出てますしね!」
「ケンスケはおちょけるところがあるからよろしくの」
「いやいやっ、むしろ俺がお目付け役ですからっ!」
「うるさい」
「・・来ますっ!」
話を遮り、言ったドルタマの前に即、ミスリルシールドを構える俺!
直後に部屋のドアが壁ごとブチ破られた! 破片から、鉄亀、のスキルで自分とドルタマを守るっ。
「人気が無さ過ぎる。準備してやがったな! 諜報部かっ。目先の有利不利に惑わされる愚か者どもめっ!」
6名の手勢を率いて、全身に防具が変質した甲虫のような鋼鉄の鎧を纏ったディモーが粉塵の向こう現れた!
カトラス情報ではコイツの能力は鉄っ! アマネさんの氷の力同様、自身から発する鉄を自在に操る!!
「凶鳥を今、墜とさずいつ墜とするのか?! その女は冥翼王の雛、他ならないっ!!」
「せぇいっ!」
「ええいっ!」
ドラドッジさんとノイノイさんが突進し、双手持ちの戦鎚とゴーレムスーツの拳で打ち掛かったが、鉄を拡大させて巨人の手のようにしてこれを受け切るディモー!
「気まま惚けて暮らす冒険者どもにっ、この黒金のディモーが屈すると思ったかっ?!」
手勢がディモーやドラドッジさん達の脇をすり抜け突っ込んでくるっ。ガンランスも撃ちまくりだ!
「ブレッシング! プロテクトっ!」
避けて受けつつ、味方全員に補助魔法を掛けるっ。
「バインドロープ!」
精神耐性の兜を被っていることは把握済みだったから捕獲魔法をつかって3名のディモーの手勢を拘束するドルタマ!
「まったくっ」
加減した鉤爪の蹴りで残る3名の手勢の気力を奪って昏倒させるレイミ!
「デカブツっ! 表に出ろっ」
レイミはそのまま交錯様にディモーの兜を翼で粉砕しながら通路に飛び出してゆくっ。
「小癪なっ!」
ディモーは巨人化させた鋼鉄の両手の装甲部員のみを切り離し、そのまま巨大な手錠のような拘束具に変形させてドラドッジさんとノイノイさんを捕え、レイミを追っていった!
「大丈夫ッスか?!」
ノイノイさんがちょっとセクシーな感じで捕獲されてるっ。
「っ! ケンスケがエロいことを考えていると出ましたっ」
「そこ占わなくていいわっ」
「ワシらはいいからっ、はよ追わんとっ」
「レイミさんを頼んだよっ!」
「・・うッス!」
俺とドルタマは2人を残し、レイミとディモーを追って壁もドアもブチ抜かれた部屋を飛び出していったっ!
施設の外では30名程度の残存らしい雑兵をロドニーが1人で相手し、冷気を操るアマネさんと黒頭巾さん化したフルッカさんは、召喚されたらしい氷の下位竜アイスワイバーンとガス状の魔物イービルアイスモークに苦戦していたっ。
鳥人化したレイミは両手の装甲を復活させているディモーと激しく争っている!
「現状を確認します」
「おおっ?」
2人で施設から出ようとしたら物陰に潜んでいた若年の方の諜報部員が話し掛けてきて、びっくりさせられたっ。
「避難補助を終えたデンバ氏は自警団を率いて施設に向かってます。中層上部増援隊はジョモーン氏と優越会の2人が現地の警備担当と共に抑えに掛かっています。地上部隊は我々が手引きした地神教会の司教様の説法で時間を稼いでいます」
「そっか・・カトラスさんは」
「各所に仕込んだ諜報部の者達の指揮を取っていますが、主に事後処理の準備です」
「時間を掛けると凶と出ています!」
「だろうなっ。ええっと、まずは・・」
レイミは相手が多重装甲で気力を奪う攻撃を防いでくるのに戸惑ってはいたが、苦戦はしていない。
氷属性のアマネさんがアイスワイバーンの相手をし、物理主体の黒頭巾フルッカさんがイービルアイスモークの相手をしていることの方が問題だった。
ロドニーは・・まぁ筋肉あるしデンバ達ももうすぐ来るみたいだし、問題無しっ!
「交代させるかっ?!」
「それは吉! 私がフルッカさんの元へ向かえばなお、吉っ!」
「俺がワイバーンかっ、やるっきゃねーかっ」
「御武運を」
駆け出す俺とドルタマに一礼する若年の諜報部員。手伝ってくれないんかいっ!
「おりゃああっ」
俺は駆け寄りながら、グレネードガンで炎上弾をアイスワイバーンに連発して怯ませた!
「アマネさんっ、フルッカさんと交代ッス!!」
「よしきたっ。マナボム!」
爆破魔法でさらに威嚇しつつ、その場から走りだすアマネさんっ。結構脚速い!
「引っ張りますっ!」
牽制をファイアーボールを連発するドルタマに任せ、逆方向から駆けてきた黒頭巾フルッカさんが鎖でアマネさんを引っ張り上げるっ!
「わぁおっ!!」
そのままイービルアイスモークの近くの物陰に移されるアマネさん。引き替えにドルタマは反撃の煙の槍のラッシュから慌てて遁走していった。
俺はグレネードガンを連発しつつ、避け切れなきゃ鉄亀で受けていたが、すぐにフルッカさんが参戦してくれた!
「いきますっ!」
「初雪食らいなっ!」
フルッカさんは鎖鎌の猛烈なラッシュでアイスワイバーンの氷の身体を斬り刻み、アマネさんは猛吹雪を巻き起こしてイービルアイスモークの煙の身体を集束させながら凍結させだすっ! さらに、
「おーいっ!」
ミュ103の自警団を引き連れたデンバが隊列を組んでロドニーの援護に入ったっ。
「よしっ、いけそうだな」
俺はいい感じにワイバーンの尻尾で盾ごと後ろに弾かれたのを潮に、
「抜けますっ」
とだけフルッカさんに言って、レイミの方に向かった。こっちは膠着したままだった。
「レイミ! 早くっ」
「コイツっ、気絶しないぞっ? 殺していいか?!」
「いやっ、・・一応やめとけ!」
「手加減だとっ?! ふざけるなぁああーーーっ!!!」
ディモーは頭部以外の全身の鋼鉄を肥大化させて大暴れしだした! ミュ103の街を好き放題破壊してゆくっ。
「にゃろうっ! 頭丸出し要注意って教えてやんぜっ?!」
俺は必死で攻撃を掻い潜って可能な限り接近し、狙い済まして臭い玉を顔面に投げ付けて炸裂させてやった!
「ぐっ、臭ぁーーーっっ??!!!」
仰け反るディモー! この隙をレイミは見逃さなかったっ。
「もうっ、寝ろっ!!!」
頭上から急降下し、鉤爪の拳を固めた拳打でディモーの頭頂部を殴り付け、衝撃で地面を陥没させた!
「ガッパァッッッ???」
白眼を剥いて昏倒するディモー!
「やったかぁ・・」
アイスワイバーンとイービルアイスモークも倒され、雑兵達も制圧されていた。
「ケンスケ!」
「レイミさん!」
拘束から解放されてらしいドラドッジさんとノイノイさんも宿泊施設に空いた穴から飛び出してきた。と、
「中層上部と地上の抑えが限界のようです。お早く!」
携帯水晶通信機を手に、どこからともなくまた現れた若年諜報部員が急かしてきた。
「ああ、じゃあ・・」
俺がレイミを見ると。
「はぁ」
心底、面倒そうにため息をつくレイミ!
「ちょっ? そんなため息つくかな? 舌打ちよりダメージ大きいぜっ?」
「・・この形態では難しいか」
呟いたレイミは淡い光に包まれ、人が数名は乗れそうな風切り羽根を持つ巨大な、完全な鳥の姿に変化した。
「おお~」
(乗れ)
テレパシーで呼び掛けてくるレイミ。俺はおずおずとレイミの背に乗った。思ったよりフカフカしている。
(大気のコントロール等は不慣れだ。当面補助魔法は維持しろ)
「了解・・じゃあ、皆! ちょっと行ってくるよっ!!」
「気を付けんとのうっ!」
「レイミもっ、ちゃんと地上の世界を見てね!」
「死なねーようになっ」
「吉は自分で掴む物っ、と出ています!」
「私達も頑張りますからねっ」
「しっかりやんな!」
「途中、遠距離攻撃される可能性が高いですからね?」
「達者でな~」
(もう、いいな)
「おう!!」
俺は、皆に呼び掛けられながら、羽ばたくレイミの背に乗って上昇を始め、軽く旋回して角度調整をすると一気に大穴を昇り始めた!
すぐに中層上部エレベーター前で破壊された搭乗型ゴーレムの陰でボウガンを撃って、増援部隊相手に防衛しているジョモーンとバガチョとアズミン達が見えた。
「レイミ!」
(ああ)
レイミは増援部隊の銃撃砲撃を避けながら錐揉み滑空し、風圧で大半を吹っ飛ばして転倒させた!
「頑張るんだぞ?!」
「完全に鳥ではないかっ!」
「地上人達はやっぱり野蛮だわっ!」
ジョモーン達はそう叫びつつ、即座にエレベーター前の簡易拠点の敷地から飛び降り、パラシュートを開いていった。
レイミは増援部隊が立て直す前に再上昇を始め、ついに星空の下の地上へと出ると、どうやら地神教会の司教達を威嚇してエレベーターを制圧した大部隊と鉢合わせした。
猛烈な対空攻撃に晒される!
「うおっ? ブレッシング! 宗教関係者はまぁ大丈夫だろっ! ズラかろうっ!!」
(構わないが、行いには代償が伴うとヤツらにもわからせておこう)
「ええ?」
「ケェエエエーーーンッッ!!!」
レイミが間近で鐘を突いた音量で鳴くと、空が曇り、落雷が発生して部隊のほぼ全員を昏倒させ、側の司教達も腰を抜かさせた。
(ハハハハッ!!! 司教の顔を見ろっ)
「いやっ、レイミ! 世話になったのにっ!」
(どうせ金で動いたんだろ? 教訓だ。ゆくぞ、ケンスケ!)
「おおお、そうそう。俺、ケンスケ」
テレパシーとはいえ初めて名前呼ばれたな。
俺を乗せたレイミはすぐに晴れてゆく雲の高さまで上がり、月明かりの中を、近くに街のある大穴から離れ、飛び去りだした。
(美しいな。これは果たして罰なのだろうかな?)
「地下で倒したニーベルングはあんたに対抗していたと思う。罰か、災いか、生存か、もしかしたら誰かの祝福か。立場によるのかもな」
(他人事だな)
俺は少し考えた。
「・・結局、俺はどこまでいってもただのバーベキュー屋ってことだよ」
(例えがまったくわからない。おそらく上手くもないのだろう。やり直せ)
「返し、酷くないっ?!」
(チッ)
テレパシーで舌打ちされた! 先が思いやられるが、とにかく俺達は夜空の先へと飛び去っていった。




