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シンプルな指針

年が明け1月、聖竜王の月の後半、気が付くと俺は戦士科で推薦枠を取って週2日、受講料免除で通うようになっていた。

勿論、冒険者ギルドの戦士職試験かサポーター認定試験を受けること前提だ。

俺は当初、無難にサポーター登録して暫く様子を見る感じで冒険者業界を体験してみるのもいい思い出になるかもな、くらいの考えだったのだが・・


「おおっ?! 何かと思ったらケンスケ・ナツキかよっ! 俺より背が2センチも低いから見えなかったぜっ?!」


模擬戦の稽古で木製武具で身を固めた俺と、金髪ロン毛の身長178センチメートルの男っ! ロドリー・ウッドアッシュが俺の前に対峙していた、というか鼻先まで迫っていた。

エルフ族のクォーターらしいが品はゼロの男だっ。

俺より2ヶ月も早くスクールに通い出していたが、最初は上級者ぶって適当にトレーニングに参加していたが、がむしゃらに頑張る俺がすぐに推薦枠を取って、ちょいちょい指導員のノイノイさんと雑談とかできる距離感になると急に張り合ってきて遅れて推薦枠を取り、そっから事あるごとに突っ掛かってきやがるワケよ。


「俺も埃と枝毛まみれのモッサリロン毛で視界が悪くてしょうがないぜっ?!」


「ああっ?!」


「おお~っ?!」


「2人とも離れてっ! キスしちゃいそうになってるよっ?!」


ノイノイさんが間に入って俺達を引き離した。


「いい? ロドリー君もケンスケ君も、ただの模擬戦だからね?」


「わかってますよノイノイさん。勝った方と一緒に、この後プロテインポーション飲みませんか?」


「そりゃあいいアイディアだっ。ロドリーは今から1人で寂しくポーション飲む場所キープしとけよ?」


「オメェは大人しくバーベキュー焼いてろよぉーっ?!!」


「うっせっ、ニートっ! 家が金持ちだからって無駄に筋肉鍛えてんじゃねーよっ?!」


ロドリーは普通にニートだった! 不動産屋の末っ子らしい。暇人なんだよっ。


「ニートじゃねーよっ! まだ俺が本気だす時じゃ」


「はいはい、とにかく模擬戦っ、始めっ!」


素人じゃないノイノイさんは号令と共に素早く飛び退いた。

砂地の訓練場の1つだ。他にも何組が既に模擬戦を始めてる。


「よーしっ! ケンスケっ。50戦23勝23敗4引き分けだっ! 決着つけよーぜっ?!」


ニヤリとするロドリー。


「50回も勝負したか? 早食いとか装備の手入れ実習の時のヤツもカウントしてねーか?」


「勝負は勝負だっ!」


ロドリーは突進してきた。お互い獲物は木製の盾と片手剣。助走とウェイトの差でこのまま喰らうと向こうのパワーがかなり上回る。リーチもちょっとあるしな。

俺もロドリーも右利き、セオリー通りなら盾を持っていない向かって左手に避けて勢いを殺して有利を取る。

って思ってるよなっ?! 俺は右斜めに詰めながら避けた。


「っ?!」


虚を突かれたロドリーの斜めから入れた。パワー差、リーチ差は埋めたっ! 後は、


「スキル・銅鑼打(どらう)ちっ!」


俺は盾の打ち払い突進技を掛けた。これに、


「スキル・鉄亀(てつがめ)っ!」


ロドリーは角度の悪さを防御技で補いに掛かった。互いに魔力を込めた木製盾をぶつけ合い、盾が砕けるっ!

勿論、俺達は下がらない!


「スキル・岩断(いわだ)ちっ!」


「スキル・岩断ちっ!」


互いに斬り下ろし技を発動し、魔力を込めた木製剣同士をぶつけ合い、互いの剣が砕ける。向こうの方がパワーはあるが、俺の方が回転が鋭いから互角だっ!

砕けた破片でお互い頬等、露出した部分が浅く切れるが知ったこっちゃねぇっ!


爆拳突(ばくけんづ)きっ!!」


「爆拳突きっ!!」


互いに踏み込み、右の拳に魔力を込め、ノーガードノー回避で相手の木製鎧のドテっ腹に中断ストレートパンチを打ち込んだっ!!!


「ごふぅっ?!」


「かはぁっ?!」


俺達はお互いブッ飛び、その場にゲロを吐いてダウンしたっ。


「引き分けっ!! ちょっとやり過ぎだよ? ポーション持ってきて下さい!」


指導補助員にポーションを取りにゆかせ、ノイノイさんは俺とロドリー、どっちの介抱に行くのが正解か? 困惑して、溜め息をついていた。


「ひゅー、ひゅーっ、・・ケンスケ! お前、サポーター志望らしいなっ。半端なヤツ! 俺はプロになるぞっ? 就職だっ! 本気出すぜっ。ギルドサポーターになったら、俺の仕事、手伝わせてやるぜ? へへへっ」


カチーンっ! あったま来たっ。


「げほげほっ、・・はぁっ?! サポーターになんかならねーしっ! 来月、俺もギルドの戦士職試験受けるしっ!!」


「まねっこするんじゃねーよっ!!」


「まねっこしてねーしっ! むしろお前が被って来てんだろっ?! 無理せず家の金でキャバクラとか通っとけよっ?!!」


「何ぃっ?!」


「おおぅっ?!」


互いに喰って掛かりたいが、2人とも膝が笑ってまず立てない。


「2人ともその辺でっ! はいポーションっ」


ノイノイさんは迷った挙げ句、俺達2人にポーションを投げ渡した。

この後、結局3人でプロテインポーションではなくプロテインケーキを食堂で食べる流れになって微妙な空気だったぜ。

まぁ、こんな具合で俺は結局戦士科試験をスクール推薦枠で受験することになっちまった。うーん、ロドリーごときの為に俺のライフプランが左右されるとはっ! 不服だっ。



で、この年の6月、天竜王の月の末。リーラ州の州都リーラティアラ近くの平原にある冒険者ギルドリーラ支部中央教練所の講堂に俺はいた。


「・・え~、ここに第78期、リーラ州冒険者ギルド教練所、訓練生の卒業を認め、称えるものでありますっ!!」


あまり施設で見掛けたことのなかった教練所所長が送辞を読み上げ、そのまま校歌の演奏が始まりなんやかんやで、


「あー終わったぁーっ!!」


式服を着た俺達78期生はワラワラと行動から出てきた。雨季の終わりの名残雨(なごりあめ)の降る中、屋根付きの広い渡り廊下を歩く。州全体、戦士科以外も全員だから200人以上いる。

まぁ全員がいわゆる冒険者として(パーティー)を組んで活動するワケでもなく、冒険者資格を獲得した上で就職したり、元々していた活動を深化させたりする人が半数以上だ。残90名くらいが州全体の散らばって活動することになる。


「ケンスケ」


「おう、ロドリー」


さすがに顔馴染みになったロドリーも合格している。ジョブは竜殺(りゅうごろ)し、あのすぐにピョーンっと跳ぶヤツだ。


「配属希望どうしたんだよ? ファジーネーブル市か?」


「いや、ファジーネーブル市も含むけど、俺は東部遊撃班(とうぶゆうげきはん)に登録した。人手が足りないってさ。ロドリーはファジーネーブル市か?」


「勿論だ! ノイノイさんと文通してたからなっ!」


「文通してたのか・・」


指針がシンプルなヤツ! もはや感心する。まぁ俺も成り行きで転職することになって職場でも親族からも呆れられたけどさ。

ちなみに俺のジョブは守護兵(しゅごへい)だ。回復や補助魔法とか使いつつ盾を利かせて戦う感じの地味なジョブ。

普通は信仰心が厚いタイプがやるらしいけど、俺、そうでもない。盾が得意で、回復、補助魔法もそこそこ得意だったから無難にいくとこうなったぜ。

ヌルっと進路選らんじまう辺りは俺っぽい、かな?


「専任じゃなくても同じエリアだ! 俺達は宿命のライバルと俺は思ってるからなっ! これからもよろしくだ! もう200戦以上したが取り敢えず引き分けにしといてやるっ、ガッハッハッ!!」


肩を組んでくるロドリー。なんだかなぁ。


「つーか、東部遊撃班、今期登録したの俺だけみたいだから、サポーターからの繰り上げとか他の州からの転籍、あと転職組も受け入れる、みたいな話になってるみたいなんだ。なんか聞いてないか? 知らないヤツばっかりになっちまうからさ~」


州の冒険者ギルドはスクールから選抜されてから纏めて教練所、という流れだから最終的に同期は知り合いばっかりな感じになる。

何しろ特異な商売だ。よく知らない魔法をブッ放つヤツとか、よく知らない必殺技をブッ放つヤツとか、よく知らない異能をブッ放つヤツというのはちょっと腰が引ける感じはある。


「なんだ、ぼっちからスタートか? 悲しい2度目の社会人デビューだなっ! ガッハッハッ!!!」


「・・・」


アレだな、コイツはほんと、アレだなっ!

よ~しっ、東部遊撃班にはなんか美味い食べ物作っていってフレンドリーな感じでいこう。元料理人のスペックをフル活用するぜっ?!

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