邪血 前編
入口で絡んできた地底優越会の連中を問題無くボッコボコにした俺達は、連中を縛り上げてニョ042の自警団詰所まで引っ立ててゆくことになった。
042のアンダーピープル達は地底優越会の連中がやらかすのは慣れっこらしく反応は薄かったが、
「あっ! DJジョモーンだっ」
「ジョモーンっ!」
「あたしの便りも読んでぇっ!」
魔工ラジオのDJをやってるジョモーンが大人気だった。
「くっそぉ~~っっ、邪血を連れた地上人に媚を売りっ、DJで大人気とはっ、許せんっっ」
悔しがる、この地底優越会グループのリーダー格らしいワーアンフィビア男。名前はバガチョ、というらしい。DJ云々はただの嫉妬じゃないか?
「モグモグモグーンのアシスタントオーディションで落とされた恨みは忘れませんんっっ」
唸る副リーダーでミーアキャット型のワーマングースの女、アズミン。もはや俺達関係無い。というかアンダーピープル達、めっちゃラジオ好きだな。
「審査は適切だぞ? 不審者は採用しないんだぞ?」
「不審者だとっ?!」
「キィーーッッ!!」
ジョモーンに益々絡みだす地底優越会の2人だった。
「なんだかな・・」
俺とロドリーとノイノイさんで分けて全員のロープを持っているが、手下達もバガチョ達の呼応して「地底優越会の番組を始めろ!」とか騒ぐから始末に負えなかった。
バガチョとアズミン達を自警団に引き渡したが、法治の概念が希薄なアンダーピープル達は入口でちょっと暴れたくらいだと数日牢屋に入れる程度の罰らしい。
また、絡まれそうな予感・・
ともかく俺達は宿屋代わりの宿泊施設に向かった。ここで、
「手錠よりマシだ」
封印具を手錠から042拠点で用意されたベルト型の物にレイミは切り替えた。
旅装も「どうせ魔法は使わせないのだろう?」と動き易い物に変えていた。結構、背が高いな。
「風呂から上がったら札は張り直しとけよ? 優越会の連中じゃなくても警戒はされる。保守的な拠点だと立ち寄り拒否を食らったりするからな」
デンバが忠告する。
「いいだろう、トカゲよ」
「・・・」
基本、上から来るレイミに鼻白むデンバ。
「まぁこれで1人で背中も洗えるね」
「チッ」
素で煽ってくるノイノイさんに舌打ちを入れるレイミでもあった。
男湯にロドリーに向かうと1人だけ先客がいた。この風呂は、ニョ042拠点運営の特別な来客用であるはず。
穴熊人族だ。アンダーピープルだろう。貧弱ではないが特別鍛えてるワケでもない。ぬいぐるみが自分で自分を洗っているようだった。
何者かな? 俺が身体を洗いつつチラチラ見ていると、
「あんた、アンダーピープルだよな?」
ロドリーがロン毛を洗髪用のシャボン粉で洗いながらあっさり聞いた。
「はい? あ、はい! 3代前から地下暮らしです」
「旅行者か? なんとか優越会じゃねぇだろうなぁ? おお?」
「違います・・」
髪洗いながらちょっとカツアゲみたいになってるぞっ。俺も話に入ることにした!
「俺達は見ての通り、地上から来たんだ。ちょっとワケがあってまた地上に戻るところなんだけどさ」
「そうですか・・ここらだとミュ103ですよね? 安全なルートだとあと10日くらいですね」
「いやっ、俺達は最短で攻めてる! あと6日で行くっ!」
ロドリーはそのつもりだったが、俺はそこまで急がなくてもな、と実は思っていた。
「凄いですね。僕も時折地上にも出ますが、中々・・あ、そうか。う~ん」
泡まみれのワーバジャーは何やら考え込みだした。
「どうかしたのかい?」
「いや実は僕、地下の茸学者なのですが、移動のついでに護衛を頼めませんか?」
まさかの風呂場での仕事の依頼だった。
ワーバジャーはクリフ・シルクリバーといった。茸学者でニョ042近くで亜種化したとある茸の調査をするはずが、遺跡の崩落や冥翼王の出現によるモンスターやディープフィッシュ達の活性化で雇っていた護衛がビビって仕事をキャンセルしてしまい困っていたそうだ。
調査地は俺達の次の目的地、ミュ034までの近道のルート上にあるらしく、護衛込みでの同行を希望していた。
風呂から上がってから他のメンバーにも確認したが、俺達は引き受けることにした。
クリフは前衛職としの能力はレベル4程度で素人ではないくらいだったが回復魔法や補助魔法が使えたから、まぁいけるだろうと。
ずっと穴蔵だから時計を見ないと判然としないが翌朝、俺達はクリフも加えて出発した。例によって緊急離脱用の転送門である程度ショートカットし、陰火のカンテラで照らしながらの旅だ。
辛気臭いから大声で歌でも歌いたいくらいだが、モンスターやディープフィッシュ達が寄ってきてしまうのでせいぜい小声で喋るくらいだ。
「泊まる部屋ではちゃんとサンストーンの光を浴びとかないとダメだぞ? 地上人は特に地下にいると具合が悪くなり易いし、闇の属性も強まっちゃうぞ?」
「あれ、そういう意味だったのか。取り敢えずパン一でポージングしたりはしといたが」
確かになんかやってたな、ロドリー。
「別にパン一にならなくていいぞ?」
「おう?」
「というかジョモーン、ラジオはいいのか?」
人気のようだが。
「実は昨日も042のラジオにゲスト出演してたぞ?」
「出てましたね~。水晶文字通信でわたくしが渾身のネタを投稿したのにスルーしたでしょう?」
リスナーというか投稿者だったドルタマ。
「ネタがマニアック過ぎるぞ? 今のオイラは他の人の番組に出させてもらってるんだから場を荒らすような投稿は読まないぞ? ペンネームも、薄幸美少女エルフ預言者(あるいは夜風の娘)、とか、触り難いぞ? 番組は友達とのお喋りとは違うぞ?」
ぬいぐるみみたいな顔で淡々とガチダメ出しされて「くぅ・・」と唸って静かになるドルタマ。
一方、クリフはなんと! たまたま隣を歩いていたレイミにめちゃ話し掛けていたっ。
微妙に話が広まってる感じもあるが、クリフにはややこしいから「レイミは特異体質で、左腕に変身能力があり、気難しい」としか伝えていない。
人当たりのいいクリフはムスっとしているレイミとむしろ積極的にコミュニケーションを取ろうとしてるっ。
そしてこんな時に限って比較的レイミと話せるノイノイさんはデンバと一緒に先導役を担当して位置的に距離があった!
ぐおおっ、そこそこ危機だと認識しているのが俺しかいない??
「いや~、レイミさん。実は実家が祖父の代からお酢の醸造をやってまして。僕、跡取りだったんですけど、どうしても茸学者になりたくて、茸大好きなんですよ」
「茸の方はお前を好きではない」
「いやぁ、でもなんだかんだで、僕、この間、結婚できたんですよ」
「何? 知らん。チッ」
「その嫁が結構キツくて! なんかこう、気のせいか、結婚してから人生の尺を半分嫁に持っていかれているような・・」
「別れろ」
「まぁでもこうしてフィールドワークを認めてくれているからいい嫁だな、とは思ってるんですよ。可愛いし」
「黙れ」
「レイミさんはどんな茸が好きですかぁ?」
「チッ!」
・・いや、ハート強いなクリフ! ハラハラさせられるぜっ。
そんな調子で? 多少は会話もしながら俺達は基本的にモンスターの避け進んでいったのだが、クリフが目指している亜種化茸の群生地近くで、ディープフィッシュ達に詰められてしまった!
勝手の知られた閉所で、しかもヤツら水脈を高速で泳いで移動できるから、逃げきるのは難しい。
それでも俺達は既にこれまでの交戦で対処方を心得ていたのと、今回はクリフの魔法支援も入り段取りよく仕止めていった。
昨日で懲りている。魔法の使い手は優先的に始末した。いい手際だったと思う。だが・・
「ジァアアァーーーッッッ!!!!」
吠えるディープフィッシュの大型化個体! 最初からいたから出現を防ぎようがないぜっ。
「プラスヒールっ!」
クリフが回復に回ってくれるから俺も前衛で戦えてはいる!
ジョモーンとデンバと武器携帯を認めることになったレイミがボウガンで、先読みできるドルタマが大型個体が避けた先に攻撃魔法を撃ち込んで牽制している。
ロドリーとノイノイはわりと正面がカチ込んでる。伏兵の俺がいること前提のゴリ押しだっ。期待されてんな!
俺は大型個体がデタラメに放ってきた水のブレスを躱し、踏みつけてきたデカい左足を、
「鉄亀っ!」
盾の受け技で弾き、
「岩断ちっ!!」
浮いて隙のできた左脚の膝裏に飛び付いて深々と斬り裂いて転倒させてやった。後は、
「リザードハントっ!」
「メガ爆拳突きっ!」
無防備になった大型個体の側頭部にロドリーとノイノイさんが大技を撃ち込んで仕止めた! よしっ。
亜種茸の群生地はすぐそこだった。ディープフィッシュ達の死骸は1ヶ所に集めて消臭剤をたっぷり撒いておいたので暫くは持つだろう。
「ああっ、ありました! この子達ですっ。忍のトリュフ亜種です」
紫色の茸はいずれも地面からわずかに傘の頭を出していた。
「高級珍味食材だが亜種か~?」
「バーベキューにしないのか?」
「まずこれが食べられる亜種か、だぜ?」
普通の忍のトリュフ自体高くて、働いてたバーベキュー屋では使わなかったなぁ。
「栄養価がとても高く、忍者と呼ばれる職の人達の携帯食の材料の1つとされています。あ、食べないで下さいね。近付くのもダメですよ? まだ調べてないんで・・」
クリフはゴーグル付きマスクをすると採取器具を持って群生地の端に近付き、慎重に亜種茸を採取すると、離れ、
「キュアポイズン!」
浄化魔法を自分に掛けてからマスクを外し、魔工写真機で群生地撮影して戻ってきた。
「僕は茸学者なので持ち帰ってからが仕事の本番ですっ!」
誇らしげに言うクリフ。と、
「・・何がそんなに楽しいんだ? アンダーピープルに学会等無いだろう。ヘタに資料を纏めても地上の学者どもに成果を横取りされるだけだ。大体茸等、くだらない。今の社会で知られている物だけで誰も困らないだろう。命を懸ける程ではない。気が済んだら実家で酢の醸造でもしていろ」
レイミ、変なスィッチ入ったぞ?
クリフは、ふぅっ、小さく息を吐いた。
「学会なんて知らないです。さっきも言ったけど、僕は茸が好きなんです。茸が好きになったこれまでの時間や繋がりも好きです。お金にならないし、危ないし、あまりお嫁さんに逢えないし、正直、時々実家に支援してもらってますけど、僕は今の仕事が好きなんです。これがパン屋だったり、もしかしたら銀行員でも、好きになった仕事なら僕は満足です。そんな人が世の中の多くいれば世の中全体の幸せが、少しだけ底上げされる気もします。悲しいことも多いから・・好きなことをできる人はできる時間に命を懸けても、何も失ってなくて、怖くないです」
「めでたいヤツだな。死と無は、平等に、どこにでもある」
レイミは突然左手の封印を弾き解いて、冥翼王化した手でクリフの首を掴んで持ち上げた! 魂は奪っていないようだが、
「レイミっ!」
俺は聖水の瓶を取り出し、ロドリーは槍の穂先をレイミの喉元に当て、デンバはボウガンを構えた。
「貴女の、噂は少し、聞いていました。話して、みて、思いました。貴女の、人生は始まった、ばかり、なんですね・・お、おはよう、ございます。・・レイミさん」
「チッ」
レイミは手を離し、自分で冥翼王化を解いた。変化が左頬に至った影響で、左頬までの岩のような特徴が消え、多くの傷痕も消えていた。
俺とノイノイさんとジョモーンはすぐにクリフに駆け寄って介抱を始めた。
「ケホケホっ・・知られていない、茸は見付けてあげないと。その茸を知っている、僕達の、世界は、少し拡がるんです」
「黙れ。・・さっさと移動しないのか?」
レイミはうるさそうにロドリーの槍を押し退け、デンバのボウガンは無視して来た道を戻り始めてしまった。
「ノイノイさん」
「うん」
俺は比較的レイミと話せるノイノイさんに先に行ってもらい、ジョモーンとクリフにヒールを掛けたりポーションを飲ませたりした。
人生は始まったばかり、か・・




