太古火の矛
骨董品の金魚型飛行艇に乗り込んだ俺達は、チュウベエさんの操縦で、太古火の矛が納められたカグチ火山の禁域へと進入を始めた。
「頼んだぞ、チュウベエ。ショートカットできないと片道だけで下手をすると3日は掛かる、船外活動は氷の方の護りが持ちそうにない」
「氷属性の舟ならあたしが操縦したんだけどさ!」
「操縦者と護りの水の制御者がセットになった構造は欠陥だと思いやすがねっ!」
引き続き滝の汗のチュウベエさんに、水分を取らせたり、魔力を回復させたりしながら俺達は狭い抜け道や溶岩の上、ガス帯、火炎の回廊を抜けてゆく。
火属性のモンスターはあちこちいたが、舟の護りの水と大神官のグランブレッシングの効果で、その気にならない、らしく、遠目に様子を見ているばかりだった。
小一時間後。あと一息で予定の着陸ポイント、というところで、高熱の管のような抜け道の先が塞がっていた。・・いやっ、
「っ?!」
壁じゃない! 壁に見えた斜め上に、ギョロリとした目玉があり、それが俺達を捉えていた!
「こりゃ火山蓋じゃの、育ったもんじゃ」
火山蓋はマンボウのような姿の火の浮遊モンスター。基本的にデカく育つが、これはデカいにも程がある!
「どうするん? マナバーストでも使わんとなんともならんでこれ」
「目に銃撃技を撃てばあるいは」
「いや2人とも、ちょっとここは船外の環境が悪過ぎるな。チュウベエ、迂回できないか?」
「相当大回りになりやすが」
「あたしが遠隔発動で凍結魔法を目玉に撃とうか?」
「あっ、ヤッポが、お話ししてみる」
ヤッポちゃんがおずおずと名乗りでた。
「ヤッポ・・わかった。やってみな、ケンスケ! 相手は意識も大きいからヤッポにレジスト掛けてやってよっ」
「うッス・・レジストっ!」
俺は慎重にヤッポちゃんに魔力対抗魔法を掛けた。
「ありがと、ケンスケ・・じゃあ」
ヤッポちゃんは目を閉じ、両手を火山蓋の方に向け、集中しだした。
魔力はアマネさんが段違いで高いが、召喚師としての適性そのものはヤッポちゃんは抜けている!
「っ!!」
火山蓋の視線が舟や俺達ではなく、ヤッポちゃん個人に向けられた。
「・・・・・っっ、っ!・・・っ!!!」
通路に揺れが伝わり、ゆっくりと火山蓋は高熱の抜け道の出口から離れ、1度反転してもう1度ヤッポちゃんの方を見ると、超巨大な身体で飛び去っていった。
「ふぅっ、なんとか、なったよ?」
「偉いっ! 2係の神童や~っ!!」
カリントさんがヤッポちゃんの両脇を抱え上げて大喜びし、俺達も安堵した。
「わぁっ? やめてカリントっ!」
金魚船はそのまま、禁域の着陸ポイントへと抜けていった。
神殿残骸のような場所に魔除けの魔法陣の描かれた大きな円形台座があり、そこが着陸ポイントだった。
残骸の先には比較的形の保たれた建造物があった。周囲の高温環境もマシな様子だ。
金魚船は着陸後、纏った輝く水を輪状に変化させた。
「チュウベエ、通信はどこも上手く利かない。3時間で戻らない場合は積んだ素材や道具は全て使いきっていいから、なんとか神殿まで戻って救援要請を頼む」
「もう少し待てやすが?」
「ここからの進入でも内部に避難可能は場所が数ヶ所健在なはずだ。3時間で切り替えてくれ、共倒れは避けたい」
「・・わかりやした」
俺達が金魚船から出ると、輪状の輝く水は角張ったドーム型の結晶構造に変化し、防御待機モードに変わった。
「時間内限定だが、脱出の鏡の転送ポイントは取り敢えず台座の手前にしておこう。内部で避難場所を確保できたらいくつか分けて再指定してゆく。場所の魔力が強過ぎる、近距離テレポート以外安定しない可能性もあるからな」
「了解っ!!」
俺達は手持ちの脱出の鏡を調整し、氷の護りと大気の護りの動作も確認し、禁域の建造物の中へと入っていった。
禁域の建造物その物の構造に変質は無く神殿でもらったマップ通りだったが、カグチ火山の地形の変化や経年劣化で崩壊や、高熱やマグマや高濃度ガスの浸入等が各所で見られた。
火属性の守護モンスター達も嫌という程涌いてきた! 俺達は避け、退けながら魔除けの利いた避難場所も確保していった。
そうしてマップによれば太古火の矛の納められた広間に一番近い避難場所にたどり着いた。
ここまで約50分。悪くないタイムだ。帰りは確保した避難場所を結ぶ形で脱出の鏡で繰り返しテレポートすれば、かなり手早く着陸ポイントまで撤収できそう。
「ここ、なんだろね? 氷と大気の護りがなかったら何もされなくても、蒸し焼きか中毒か酸欠ですぐ死ねそうだけどさぁ」
アマネさんが半分凍らせたピーチ味らしい甘い香りのポーションを飲みながらぼんやり呟いた。元々過労な上に明らかに相性の悪い場所に連れてこられて具合は悪そうだった。
「過激派だった旧火神教会が管理していた、とか。軍国主義だったリーラ公国時代の遺跡だった、とか。カグチ火山にドワーフ族の宗教都市国家があった頃の名残だった、とか。色々言われてるが、前回の大噴火後の火神教会の衰退期が200年もあったからなぁ。州政府的には諸説ある、とした上で一番マイルドなドワーフ宗教都市国家説を推してるが」
煙草を吸わない人が多いので、そんなに? というくらい離れた位置で煙草を吸っているオロロさん。
「ワシが言うのもなんじゃが、そのドワーフの宗教国家も生け贄の儀式をしたり相当だったようじゃがの・・」
持ってきた二刀流のアイスウォーハンマーの損傷を確かめて補修を試みていたが、諦めてボックスの魔法にしまい、代わりに両手持ちのアイスモールを取り出すドラドッジさん。
「今の火神教会が禁域とか言うて、ハッキリしたこと言わんと放置してる時点でロクなもんやないんちゃう? けったくそ悪いし、もらうもんもろたら、ふぁ~っと知らん顔で帰ったらええんやて」
結構言うカリントさん。近くに座っているヤッポちゃんは無心で持ち込んだ大きな蒸しパンを食べていた。
「・・太古火の矛は本来ワードラゴン族の武器。旧教も現在の火神教会もワードラゴンが仕切っている。彼らの中でもしこりはあるんだろうが、将来のことを見据え、今回借り受ける太古火の矛はそれなりに損耗させて返却する。他の宗派の教会やギルド本部、州政府や国の宗教統括部ともそれで話がついている。これは、そういった工程でもある」
ヒロシさんは開示することで、教会関係者の前でも不用意な噂話をすることを牽制したのかもしれない。
全体的に皆、疲労が蓄積していて、それからは無口になってしまった。
今日、ブラウンモルトから出発するまでにあと2時間でもあればゼリーかパンケーキくらいは拵えて持ち込めたんだがな。
俺は仕方がないから、分室の売店で売ってる色んな味が入ってる炭酸グミを密かに皆に配って回り、最終的にヒロシさんにも「グミです」と見りゃわかることを言って1個渡しといた。
太古火の矛の間の守護モンスターはバーニングスカルドレイクだった!! その名の通り、めっちゃ燃えてる骨の竜っ!!!
猛烈な火炎のブレスで3体召喚されたアマネさんのアイスギガースの1体が瞬殺されたっ。
「ヒロシさんっ! 合わせるでっ」
「おうっ!」
アイスギガースがさらに1体が破壊されている内に、カリントさんとヒロシさんがバーニングスカルドレイクの前に飛び込んでゆき、声を揃えた!
「スキル・マナバーストっ!!」
一時的に魔力を大幅に増大させる2人っ。
「ミスリルブレイカーっ!!!」
「流星爆拳っ!!!」
魔力の刃を拡大させたアイスクレイモアでバーニングスカルドレイクの左腕と左の翼を凍り付かせながら破壊するヒロシさん!
カリントさんも膨大な魔力を纏わせたアイスストライクガントレットで凄まじい拳打を連発で撃ち込みバーニングスカルドレイクの右腕と右の翼を凍り付かせ粉砕した!
「お願いっ! ウィンターアンクルっ!!」
雪だるま型モンスター7体に吹雪を吐かせ、魔力を使いきったヒロシさんとカリントさんを後退する隙を作るヤッポちゃん!
「マナバーストっ! ブリンクバレッドっ!!」
魔力を込めたアイスガンランスで撃った凍結弾を分裂させてバーニングスカルドレイクの顔面を撃って凍り付かせながら穴だらけにし、さらなるブレスを阻止して仰け反らせるオロロさん!
「おっらぁーっ!!」
既に両腕を失っている最後のアイスギガースに右のハイキックを放たせるアマネさん! アイスギガースの右脚も砕けたが、バーニングスカルドレイクの下顎を完全に砕き、ブレスをまともに吐けない状態にしたっ! が、
バーニングスカルドレイクは燃え盛る炎を纏う尾を槍のように打ち出しっ、アイスギガースを貫いて粉砕するっ。
「マナバーストっ!」
ここでドラドッジさんが突進するっ! 俺も出番だっ。マナバーストは使えないがずっと魔力を練っていた!
「レジストっ!! プロテクトっ!! マナフローっ!!」
ドラドッジさんに補助魔法は既に掛けているが重ね掛けするっ! 魔力もついでに補給するっ。
ヤツからすると小さ過ぎるドラドッジさんを迎撃の為に全身の火力を上げるバーニングスカルドレイク!
ドラドッジさんは止まらず、燃える骨を変質させてトゲの山のようにしてきても止まらず、胸骨を駆け上がり、頭上まで飛び上がった!
「コメットスタンプっ!!!」
アイスモールに最大の魔力を注ぎ、バーニングスカルドレイクの眉間に振り下ろすドラドッジさんっ! 凍結の一撃が頭部だけでなく、鳩尾の辺りまで全ての燃える骨を打ち砕いた!!
「よっ、?!」
俺は勝ったと思ったが、バーニングスカルドレイクの下半身がまだ生きている! 落下するドラドッジさん燃える骨の尾の槍を正確に打ち込もうするっ。
「エルグレイシャっ!!」
アマネさんの上級凍結魔法がバーニングスカルドレイクの尾も、下半身も全て凍り付かせ砕き、今度こそ仕止めた。
「速過ぎた初雪、って言ってるじゃんか? ヒヒっ」
氷の魔力が高まり過ぎて魔法式の痕跡自体が氷の結晶化しているアマネさんだった・・
守護モンスターを倒したことで広間奥の祭壇の炎の封印が解け、太古火の矛が姿を表した! 圧倒的な火の魔力っ!! 近付き難い程だった。
「神器、だな」
ヒロシさんは持参した火の属性のウワバミの指輪に太古火の矛を収納した。
「これ1つ納めるので手一杯だ」
「使いこなせる人いるんッスか?」
「隣のマハ州に、アマネ君が氷の祝福を受けているのと同じように、火の祝福を受けた槍の使い手がいる。彼に託す予定だ。なんにせよ・・」
俺達の方を振り返るヒロシさん。
「帰ろう。戻ったら酒か氷菓子を奢るよ」
ヒロシさんはカグチ火山に来てから初めて気の抜けた顔をした。




