第四章 4話 多言語話者
ハシムは、モモタウロスに対して、いくつか疑問に思うことがあった。
そのひとつが言語である。
ハシムは、行商人で世界を渡り歩いて取り引きをしてきているが、ついぞモモタウロス程に色々な言語を喋り、ましてや読み書きが出来る人間を彼と知り合うまで見たことが無かった。
多分だが、これから先も彼の様な人間には出会う事はないだろう。
航海初日の夜に、昼間の船酔いの癒たモモタウロスに対してハシムは、先の疑問を聞いてみた。
ハシムから貰った酔い止めが効いて、少し気分と機嫌が戻ったモモタウロスはこう答えた。
「そこの荷物にある本とかを読んで覚えた。
親父が、昔お袋と駆け落ちした時にアレクサンドリアの大図書館から売れそうな蔵書をたらふく盗んできたって言ってて、その本を親父に読んでもらったり、慣れたら今度は読んだり写本したりして覚えた。
で、本に無い喋りは、お袋に習ったり、攫って来た娘とかに習ったりした。
だからか時々、外から来た連中に喋りかけたら気味悪がられる事がある。
こいつらもそーだ!」と言うや、近くで作業している従者のノルマン人の股関を鷲掴みした。
跪いて泣きながら許を乞うノルマン人は、何か言いながら首を横に振り、後退りでケツを押さえて距離を取ったら即、振り返って小走りに甲板を後にした。
ゲラゲラ腹を抱えて爆笑するモモタウロスと、横目でやれやれと呆れ返るハシム。
月明かりが甲板を照らす静かな海の夜。