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第26話 魔法学校へ潜入!

 体験入学の初日がやってきた。

 リットーの町近くにあるブレス魔法学校は、ラトレア王国トップクラスの学校である。

 校舎は大きく、設備は充実しており、生徒数も多い。そして、今は元宮廷魔術師であるバルドロスが牛耳っているという。


 カッツらはこの学校に「今まで魔法塾に通っていたが、入学金や授業料の目処も立ち、やはり本格的に魔法学校で魔法を学びたい」という体で体験入学することになる。

 こういった名目で体験入学を希望する生徒は年に何人もおり、別段怪しまれることはなかった。


 シュストが三人に告げる。


「お前たちにはバルドロスが校内で何をしているか調査してもらう。バルドロスは生徒を成績ごとにランク分けすることを徹底しているらしい。つまり、お前たちが学校内でいいところを見せれば……あいつから接触してくる可能性が高い」


 ただし、と付け加える。


「絶対に無理するな。お前たちに何かあったら……俺はもう……」


「任せてくれよ、先生!」


 胸を叩くカッツ。

 シュストも黙ってうなずく。


 カッツ、ルブル、メラニーは魔法学校の校門に向かった。



***



「ブレス魔法学校へようこそ。さっそく校内を案内しましょう」


 三人を出迎えたのは神経質そうな外見の男。いかにも営業スマイルといった笑みで、校舎内の案内を開始する。

 敷地は広く、屋敷や城といってもいい規模であった。


「まず、ここが魔法研究室。さまざまな最新器具が用意されています」

「こちらは実技室。魔法の実習を行う時に使用します。壁が魔法を吸収する素材で出来ており、」

「図書室です。豊富な資料が揃っています」

「食堂です。全てのメニューは一流の料理人が調理します」


 説明内容は事務的だが、学校を誇るような口調は隠さない。

 魔法を学ぶための箱庭ともいうべき充実した設備の数々にカッツたちはただただ感心するばかりだった。


「どうです、塾などとは比べ物にならないでしょう。魔法塾を営んでいる魔法使いなど、魔法使いとしては落伍者ですからねえ」


 この言葉にはカチンときたものの、受け入れるしかない。ここでトラブルを起こしてもなんにもならない。


 ルブルが質問をする。


「ところで……この学校は成績によるクラス分けを徹底してるようですね?」


「よく知っていますね」


「事前に調べてはいましたから。僕たち、そんな厳しい環境でやっていけるか心配なんですが」


「心配無用ですよ。君たちのような塾通いは下のクラスになるだろうが、下の生徒には下なりの教育をちゃんと施しますから」


「ほっとしました。ありがとうございます」


 ルブルは笑顔で礼を言うが、他の二人は顔をしかめる。


「さて、そろそろ君たちにも授業に参加してもらいましょうか」


 三人は同じ14歳の生徒がいる学年の中で、もっとも下のクラスに入れられた。

 体験入学生なのでこの措置自体は妥当と言える。

 緊張しながら教室に入り、最後尾に用意された席に座り、三人は授業を受け始める。



***



 魔法学校から下校した三人を、シュストが出迎える。


「お帰り、三人とも!」


 笑顔で応える三人。


「魔法学校はどうだった?」


 シュストの質問に、


「でかくて綺麗だった!」目を輝かせるカッツ。

「設備が整っていて、充実していましたね」と真面目に答えるルブル。

「入学金や授業料が高いのもうなずけるわぁ。維持費も大変そうだし」独自の目線から答えるメラニー。


 やはり俺の塾とは大違いだな……と内心穏やかではないシュスト。

 ところが――


「でも授業は先生の方がずっとうまかったし、分かりやすかった!」


 このカッツの言葉に驚くシュスト。


「え、マジで?」


「だって、魔法学校の授業、テキスト読み上げさせるだけの繰り返しだぜ? 教室もピリピリしてて全然質問できる雰囲気じゃないし。みんな無駄に疲れてたよ」


 ルブルも苦言を呈する。


「先生みたいに雑談で授業が脱線するようなことはなかったですけど、その分単調でしたね……。何かを学ぶというより作業をさせられてる気分でした」


 メラニーも肩をすくめるポーズをする。


「もっと楽しい場所だと思ってたけど、案外そんなことなかったわねぇ。先生見てる方が面白いわぁ」


「よし、今度からはさらに授業にギャグを取り入れるか」


「入れなくていいわぁ」


 三人とも魔法を学ぶ場としては、シュストの塾の方がいいと評価していた。

 シュストは嬉しさのあまり「俺ひょっとして今日で死ぬんじゃないかな」と思ってしまうほどだった。


「みんな、お疲れさん。今日は帰ってゆっくり休んでくれ」


 笑いをこらえつつ、三人をねぎらうシュスト。嬉しくはあったが、危険な地に生徒達を乗り込ませているという不安も拭えなかった。



***



 翌日も、三人は魔法学校に通う。

 ある男子生徒が三人に話しかけてきた。


「お前ら、塾通いのくせに体験入学してるんだって?」


「だからなんだよ」


 カッツが面倒そうに答えると――


「無駄なことはやめとけよ。今のこの学校はマジで厳しくなってるんだ。塾通いなんかがついてこれる環境じゃねえんだよ」


 やはりこういう見下しからは逃れられないのかと沈黙してしまうカッツとルブル。

 しかし、メラニーはというと自慢の紫髪をかき上げ――


「あんたにとやかく言われる筋合いはないわぁ」


「う……」


「あたしらがついてこれないかどうか試してみる?」


 ぎょろりと睨まれ、男子生徒は後ずさりしてしまう。


「ウフフ……どうしたのぉ? さっきまでの威勢は」


「い、いや……悪かったよ。ごめん……」


「分かってくれたところで、せっかくだから、あんたにこの学校について色々教えて欲しいんだけど」


「わ、分かったよ……」


 この光景を見ながら、カッツとルブルは顔を見合わせる。


「もうメラニーって魔女を名乗ってもいいんじゃね?」


「僕もそう思う」



***



 数日間、三人は校内で情報収集を続け、色々なことが分かってきた。

 シュストに報告する。


「なるほどなるほど……」


 やはりバルドロスは学校を牛耳っているということ。生徒達は口々にバルドロスへの畏敬の念を口にする。

 さらに、バルドロスは年齢に関係なく素質のある生徒を集め、時折「特別授業」なるものを開いていることも分かった。ただし、その授業がいつ開かれるかは分からないし、場所もどこでやるかは極秘のようだ。


「その“特別授業”ってのがいかにも怪しいな……」


 腕を組むシュスト。


「でしょぉ? 絶対なんかやってるわよ」


 メラニーが笑い、ルブルも自分の考えを述べる。


「今度、学校の行事で“魔力測定”というのをやるみたいです。僕たちも出られるとのことなので、もしそこで好成績を残せれば、バルドロスさんが僕たちに接触してくる可能性は高いんじゃないかと……」


「だから先生、魔力測定でいい結果出せるよう特訓してくれよ!」


 せがむカッツにシュストは手と首を振る。


「んなことしなくていい」


「なんでだよ!?」


「お前たちはただでさえ今魔法学校で勉強してきてるんだ。それに加えて俺が特訓までしたら、さらに疲れちゃうよ。バテバテになっちまう」


「そうかもしれないけど……」


「それに、そういうテストってのは自然な状態で受けた方がかえっていい結果が出るもんなんだ。不思議なもんで『いい結果出すぞ』なんて力むと大抵いい結果が出ない。いつも言ってるように魔法ってのは精神が大きく影響するからな」


「なるほど」とカッツがうなずく。


「先生も、もしかして力み過ぎて失敗した経験があるのぉ?」


 メラニーが舐め回すような視線で言う。


「あ、あるわけないだろ! 俺はいつも平常心だから、魔法の実技試験なんかそれはもう、いつもいつも完璧で……!」


 焦り出すシュストに、三人とも「経験があるんだな」と察した。


「とにかく……バルドロスに無理に取り入ろうなんて考えるな。せっかく魔法学校を体験できるんだから、大いに楽しんで、大いに学んで……ちゃんと復習すること! いいな!」


 三人は元気よく返事し、家路についた。

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