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第22話 王都からの来訪者

 リットーの町に一台の馬車がやってきた。

 若い御者が乗せている人間に告げる。


「到着いたしました」


「うむ、ご苦労」


「しかし、あなたほどのお方がわざわざこんな町に出向かれるとは……」


「こればかりは他の者に頼むわけにはいかないのでな。それに久しぶりにあの男に会いたかった」


「どうかお気をつけて」


 馬車から降り立ったのは――



***



 塾では、シュストが講義を進めていた。


「いつも言ってるように、魔法は精神による威力の上がり下がりが大きい。心の状態によってムラができやすいってことだ」


 三人とも熱心に聞いている。


「だから魔法使いは常に平常心を保つことが大事なんだ。大事な時にへっぽこな威力な魔法しか出せなかったら困るからな」


 うなずく生徒達。


「そこいくと俺なんか、どんなことがあっても驚かない――」


 ドアがノックされる。


「うわっ、ビックリした!」


 驚くシュスト。いきなり説得力がなくなってしまった。


「ど、どなた?」


「ヤッホー」


 アメリアが入ってきた。


「なんだアメリアか。どうした? まさか、また親父さんが逮捕された?」


「違うわよ。ええとね。今日はもう一人いるの」


「もう一人?」


 教室に入ってきた“もう一人”に目を見開く。入ってきたのは――


「エリッツ……!」


「久しぶりだな、シュスト」


 ラトレア王国筆頭宮廷魔術師エリッツ・フォードその人だった。

 王都で演説をしていた雲の上の人間の登場に、生徒達も驚いている。


「なんでお前がここに……!」


「お前がこのリットーの町で塾講師をしているとの情報を得てな。それで、アメリア嬢に案内してもらってここまで来た」


 町までは馬車までやってきて、まず居場所がはっきりしているアメリアのところに行き、彼女に案内を頼んだようだ。


「そうじゃねえよ。俺なんかになんの用があるんだよ」


「元は宮廷魔術師だったお前の腕を見込んで、頼みがある」


「バッ……!」


 自分が宮廷魔術師だということは生徒達にも教えてない。驚かせてしまうし、どうせ披露するならものすごくドラマチックに披露しようと思っていたのだ。

 ところが、生徒達のリアクションは薄かった。みんな涼しい表情をしている。


「……あれ?」


 おかしい。俺が宮廷魔術師だったって知った三人は驚き、感動で号泣するはずだったのに……と踏んでいたシュストは完全に当てが外れる。

 そして、自分から聞いてしまう。


「みんな、俺が宮廷魔術師だったことに驚かないの?」


 まず、カッツが答える。


「だって先生の魔法の腕はすげえし、元々どこかで魔法の仕事やってた人なんだろうなってのは想像ついてたよ」


「あ……そう」


 ルブルも答える。


「それに、この間の王都旅行でも町の地理に詳しかったですしね。地図も見ないで僕たちを案内してくれましたし。お勧めの店も教えてくれて……」


 メラニーもニヤニヤ笑っている。


「そうそう。それに王宮に行きたがらなかったのも、何か理由があるんだとは思ってたしねえ」


 自分から散々ヒントをバラまいてた状態だったので、今更彼らがシュストの正体に驚くことはなかった。

 生徒に自分の正体をバラす瞬間をずっと楽しみにしていたシュストにとって、これは痛恨の出来事だった。


「あ、あうう……こんなはずじゃ……」


 ショックで青ざめ亡者のような顔つきになる。事情がよく分からないエリッツも心配そうに見つめている。

 アメリアがすかさずカッツらに耳打ちする。


「もっと驚いてあげて」


「分かったよ」


 驚く――というか驚いたふりをする三人。


「マジかよ! 先生が宮廷魔術師だったなんてー!」

「ビックリです! 今年一番の……いや人生で一番の驚きです!」

「信じられないわー!」


 言われたから言いました感満載だが、それでもシュストは喜んだ。


「ありがとう……! ありがとう、みんな……!」


「あんな喜ばれ方でも嬉しいんだ……」呆れるアメリア。


「俺はたとえお世辞丸出しでも褒められればメチャクチャ嬉しいし、たとえいらないものでもプレゼントは確実に喜べる人間だからな」


「相変わらず、お幸せな精神構造だこと」


 ため息をつくアメリア。


 カッツがシュストに質問する。


「だけど先生、どうして宮廷魔術師を辞めちゃったんだ?」


「うーん……。辞めたというか、クビになったんだ」


「え、クビ?」


 メラニーがニヤリとする。


「なんだかそのクビになった背景には、恐るべき陰謀が隠されていそうねえ……」


「いや、陰謀もクソもないんだけど……」


「じゃあ、どうしてクビになったのよ」


「えーと……」


 一瞬口ごもってから、


「王宮で……小火ボヤ起こしちゃって……」


 唖然とする生徒達。


「それ先生が悪いじゃん!」

「逮捕されなくてよかったですね……」

「なにか濡れ衣でも着せられてクビにされたのかと思ったわぁ」


「大人には色々あるのさ……」


 しみじみ語るシュスト。


 アメリアが割って入る。


「みんな、エリッツさんのこと忘れてない?」


「あ、悪い! せっかく来てくれたのによ」


「いや、構わない。急な来客は私なのだから、生徒とのコミュニケーションを優先するのは当然だ」


 エリッツはさして気にしている様子もなく、こう答えた。


「相変わらずクソ真面目な奴だな」


「ああ、そうそう。生徒と言えば……キースにお灸をすえてくれて感謝している」


「キース……あいつか! 『俺は宮廷魔術師候補だ!』ってものすごくイキってたぞ! エリッツさんに目をかけられてるとかなんとか……」


「見所のある男だったから褒めたら、すっかり天狗になってしまってな。すまなかった」


「ホントだよ。筆頭宮廷魔術師から褒められたら、誰だって調子に乗っちまうよ」


「うむ、気をつける。それで、誰に懲らしめられたか聞いたら、お前の名前が出てきてな」


「ああ、それで俺の所在を探したってわけか。あいつはどうしてる?」


「すっかり自信を失って、今では真面目に修行している。酒場通いもやめたようだ」


「ホントかよ……そんなタマには見えなかったけど。まぁいいや、本題に入ろう。俺に頼みたいことってのはなんだ?」


 シュストもエリッツも真剣な表情となる。


「我々の同僚だった“バルドロス”のことだ」

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