表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/30

第20話 恋人のお父さんが逮捕されました

 曇り空のある日、塾では回復魔法の講義が行われていた。

 シュストが“ヒール”という回復魔法を実演し、生徒三人もそれを真似する。


「回復魔法は魔力の練り方がちょっと特殊でな。普通の魔法以上に素質の差が出やすい。俺も正直、回復魔法はあんまり得意じゃなくてな……」


 シュストが三人のヒールを見て回る。


「うん……ルブルは優しいからか、回復魔法と相性がいいのかもな。メラニーもまあまあだ。カッツは……うん、ドンマイ」


「ドンマイの一言で済ますのやめてくれよ!」


「アハハ……まあ、お前は俺と似たタイプなのかもな。攻撃魔法は得意で、回復魔法は苦手」


 メラニーがカッツの肩を叩く。


「よかったわねぇ、カッツ。先生に似てるって」


「嬉しくないなぁ」


「おーい! そこは嘘でもいいから喜べ! 嘘でいいから!」


 シュストの懇願口調に皆が笑う。

 ルブルが尋ねる。


「ところで先生、回復魔法が得意なタイプというと、どんな人が多いんでしょう?」


「やっぱり聖職者の類は得意な人間が多いなぁ。だからこそ教会勤めになるってのもあるだろうが。しかし、俺の知ってる中でもっとも回復魔法が得意な人間は……」


「人間は?」


「アメリアだな。あいつは天性のものを持ってる。回復魔法選手権なんて大会が開かれたら、マジで優勝狙えるんじゃないか」


「ウフフ……恋人の話となるとテンション上がるみたいね」


「コ、コラ、大人をからかってはいけませんよ!」


 妙な口調でメラニーをたしなめるシュスト。

 突然、教室のドアが開いた。


「うわぁっ!?」四人の中で最も驚くシュスト。


「あ……ごめん。驚かせちゃって」


 入ってきたのはアメリアだった。


「アメリアか……ビックリさせるなよな。ちょうど回復魔法の講義をしてて、お前の話をしてたところなんだ。で、なにか用か?」


「あのね……」


 シュストは心の準備をする。アメリアがこういう憂いを含んだ表情をするのは珍しいからだ。


「私のお父様が……逮捕されちゃったの」


「ええっ!?」


 結局驚いてしまう。なんのための準備だったのか。


「ラングさん、いったい何をやらかしたんだよ」


「国家反逆罪の疑いだとか……」


「こ、こっかはんぎゃくざい……!?」


 シュストの頭の中は真っ白になってしまった。



……



「状況を整理させてくれ。何があったんだよ」


「うん……今朝の話なんだけど、いきなり屋敷に憲兵隊がやってきてね」


「憲兵隊……ああ、『毒狼の牙』事件の時も微妙に活躍できてなかったっけな」


 シュストは憲兵隊にあまりいい印象を持っていなかった。


「それで、お父様が反乱を企てた疑いがあるから来て欲しいって」


「そんなもん断ればよかったじゃねえか。ラングさんは伯爵だろ? 貴族特権ではねのけられないのかよ」


「それが憲兵隊も来てもらわないと困るってしつこくて。それにお父様も面白がっちゃって……」


 アメリアの父ラングが「面白い! 連行されてあげよう!」などと言い出す光景が容易に想像できてしまう。想像できすぎてため息が出る。


「分かった。とりあえず、俺もお前の親父さんに会いたい。連れていってくれ!」


「お願い!」


「お前たち、悪いけど今日は自習しててくれ!」


「うん!」

「分かりました!」

「ウフフ……恋人同士、仲良くね」


「からかうんじゃない!」


 生徒らには自習をさせ、シュストとアメリアは塾を出発した。



***



 屋敷に向かう途中、シュストとアメリアは憲兵達によって馬車で連行されるアメリアの父・ラングに出会った。


「おお、アメリア」


「お父様!」

「ラングさん!」


「シュスト君も一緒かね。今日は塾だろうに、見送りすまないねえ」


 ラングは連行されているというのに、いつもの調子である。余裕ぶっているというより、こういう性質なのだろう。


「見送りに来たわけじゃありませんよ。いったい何があったんです!?」


「私にもよく分からんのだよ。まあとにかく、これから取り調べを受けようと思うから、とりあえず楽しんでくるよ。ハッハッハ」


「ハッハッハって……」


 そのまま憲兵はラングを連れて行ってしまった。駐屯地には取り調べ室もあるので、そこで尋問が行われるのだろう。


「どうする、アメリア……」


「シュスト、ひとまず私の家に来て。お母様もいるから」


「そうだな。エマさんも色々心細いだろうし……」


 意見がまとまり、二人はアメリアの屋敷に向かった。



***



 フローライト家の邸宅にやってきたシュスト。

 アメリアの母でありラングの妻であるエマが紅茶を出してくれた。


「シュストさん、よく来て下さったわねえ」


「いえ……」


 夫が連行されたにもかかわらず、エマはいつもの調子である。穏やかに微笑んでいる。

 シュストは思わずこう聞いてしまう。


「……ずいぶんと落ち着いてらっしゃるんですね」


「もしかすると爵位剥奪もあり得るかもしれないけど、それもまた面白いかもね。オホホホ……」


 なにがオホホホだと思いつつ、あの夫にしてこの妻ありなのだなぁ、と感心するシュスト。

 対してアメリアはやはり父が心配らしい。青ざめた表情をしている。


「どうしよう、シュスト……」


「うーん……」


 いくら悩んでも妙案は思い浮かばない。が、こうしている間にも取り調べは進んでいるかもしれない。ラングがどんな目にあっているか分からない。


「俺、憲兵隊のところに行くよ!」


「あんたが?」


「ああ、こんな逮捕は明らかにおかしいし、俺が抗議してくる」


「でも……あんたまで逮捕されちゃったら……」


「その時はその時さ」


 シュストは立ち上がった。

 リビングから出ようとすると、エマがシュストを呼び止める。


「憲兵隊の駐屯地に行かれるの? でしたら憲兵さんたちにお土産をどうぞ」


 菓子折りだった。中には高級なクッキーやビスケットが入っているのだろう。


「はぁ……渡してきます」


 シュストは戸惑いながらも菓子折りを受け取った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ