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第11話 生徒のお父さんと共闘だ!

 シュストは盗賊たちに占拠されている町役場にやってきていた。

 盗賊団『毒狼の牙』が建物を占拠しており、逃走資金や食料を要求しているという。おそらくここで蓄えを得て、そのまま国外にでも逃亡しようという腹積もりだろう。

 ラトレア王国のある程度大きな町には憲兵隊が配備されており、彼らが町の治安維持を担うことになる。

 その憲兵隊が役場を取り囲んでいるが、人質がいる以上、なんら手出しができないという状況だ。


 シュストは憲兵隊の隊長らしき人物に話しかける。


「あのー」


「なんだ貴様は」


「魔法塾講師をやってるシュストと申しますが」


「魔法塾? 塾講師が何の用だ」


「魔法使いとして盗賊退治のお手伝いができないかな、と思いまして……」


 隊長がシュストを睨みつける。お呼びでないという内心を隠さない鋭い目つきだ。憲兵隊としてはなんとしても自分たちだけで盗賊団を撃退したいところだろう。そうしなければ面目が立たない。


「おおかたここで手柄を立てて、それを宣伝にして生徒を増やそうなんて考えてるのかもしれないが、魔法使いの出る幕ではない。すっこんでろ」


 手柄を立てて宣伝したいというところはちょっと当たってるじゃねえかよ、と思いつつカチンとくるシュスト。


「じゃあ、あなたたちにここからどうにかする手立てがあるんですか? ただ囲んでるだけにしか見えませんが」


「なんだと……」


「だってそうでしょう。相手は盗賊団の残党、決して理性的な集団じゃない。時間をかければかけるほど、役場の中の危険度は高まっていきますよ。ヤケクソになって中の人たちに危害を加えてもおかしくない」


「くっ、言わせておけば!」


 ここで揉めても仕方ないんだがな、と内心呆れるシュスト。

 そこへ、聞き覚えのある声が。


「おおっ、あんたは先生じゃねえか!」


「この声は……!」


 シュストが振り返ると、ルブルの父ルガンがいた。


「ルブルのお父さん!」


「おお、こないだは世話になったな。俺が殴ったとこは大丈夫か?」


「ええ、まあ」


 言われたとたん、あの殴り合いでの痛みがよみがえる。おかげでトラウマになってますよ、などと言いそうになるのを慌てて自制する。


 憲兵隊の隊長が驚く。


「ルガンさん! この町にいたんですか!」


「おお、トール隊長。久しぶりだな」


 ルブルの父――ルガン。

 リットーの町憲兵隊長――トール。

 二人は知り合いだったようだ。

 国中を渡り歩く戦士団とある一定の地域を守る憲兵隊。違いはあれど、互いに治安を守る組織。面識があっても不思議はない。


「『毒狼の牙』が役場を占拠してるみてえだな。ああいう連中は戦士団の俺の方が慣れてる。ここは任せてくれ」


「……分かりました」


 しぶしぶ了承する憲兵隊長のトール。

 確かに盗賊や山賊の相手は町を守る憲兵隊より、あちこちを転戦する戦士団の方がはるかに慣れている。


「じゃあ先生、あんたも協力してくれるかい?」


 ルガンから協力を要請され、シュストは嬉しくなる。


「えっ、いいんですか!?」


「ああ、あんな連中は俺たち二人で十分だろう、先生」


 トールが抗議する。


「ちょっと待って下さい。彼は塾講師なんですよ。盗賊団と戦わせるわけには……」


「この人は俺に殴り合いで勝ったほどの男だぜ。絶対頼りになる」


「な……!?」


 一目見れば分かるほど屈強なルガンに、シュストがよりによって“殴り合い”で勝ったことに驚愕しているようだ。

 まあ、あれイカサマだったんだけどね……ちょっと罪悪感に浸るシュスト。


「というわけで先生、作戦会議でもしましょうや!」


「ええ!」


 場所を変えるシュストとルガン。役場の見取り図を広げながら、作戦会議をする。


「人数は決して多くない。俺と先生の二人でも十分イケるだろう」


「あとはどう突入するかですね。人質に危害が及ばないようにするためにも、上手く虚を突かなきゃならない」


「ああ……。先生、やっぱあんたただの塾講師じゃねえな。いくらルブルのためとはいえ、俺に殴り合いを挑む胆力も普通じゃなかった」


「ええ、まあ……」とシュスト。


 そう、シュストは元宮廷魔術師。只者ではないのである。


「まあ、無理にあんたの正体を聞こうとは思わねえ。塾講師として接することにするよ」


「……」


 別に隠してるわけじゃないし、聞いてくれたら普通に答えたのに……と思うシュスト。

 この町でシュストの過去を知る者はほとんどいない。宮廷魔術師時代に知り合ったアメリアとその家族ぐらいであろう。

 とはいえ、今はこんなことを考えてる時間ではない。

 気を取り直してシュストが言う。


「俺たちは長年チームを組んできたわけじゃないですし、作戦はシンプルな方がいいですね」


「そうだな」


「俺が正面から行きます。魔法使いなので手ぶらを装えますし、交渉役として出向けば、相手もさほど警戒しないでしょう」


「確かにな」


「ルガンさんは裏口から入って下さい。俺が暴れたら……すぐ音で分かりますんで、一気に乗り込んで下さい」


「分かった! 大暴れしてやる!」


 シュストが虚を突いて暴れ、ルガンが乗り込む。

 作戦は決まった。

 憲兵隊長トールに伝え、協力を仰ぐことにする。


「……分かりました。まずは、盗賊団に交渉役を送ると伝えましょう」


「お願いします!」


 いよいよ盗賊団討伐作戦が始まる。

 まさか、生徒の父親と共闘することになるなんてなぁ、と塾講師という職業の面白さを嚙み締めるシュストだった。



***



 シュストは気弱な交渉役を装い、おそるおそる町役場の入り口に近づく。

 さっそく中からバンダナをつけた『毒狼の牙』のメンバーが現れる。下っ端と思われるが、盗賊に相応しい凶悪な人相をしている。


「ああ? なんだてめえは?」


「はい……。憲兵隊の方々から交渉役を任された者でして……」


「へっ、てめえみたいなチンケな奴が交渉役か」


「チ、チンケ……」


 そういえば前にもチンケって言われたことあったな。俺ってそんなにチンケなのかな、と内心落ち込む。

 交渉役が来たということで、他の盗賊メンバーもゾロゾロと集まってくる。


 前方に直線状に盗賊たちが並んだのを見て、シュストはぼそりとつぶやく。


「うん、これぐらいでいいか」


 盗賊の一人が言った。


「人質を解放する代わりの金や食料は用意できてるのか?」


「誰がんなもん用意するかよ」


「あ?」


「お前らみたいな“虫歯”にゃ、これで十分だ」


 シュストの右手がバチバチと音を立てる。


「虫歯さんたち、しっかり歯を食いしばってくださ~い」


「な……!? 魔法使いかこいつ!?」


雷槍魔法サンダーランス!」


 右手から放たれた槍のような雷撃が、7~8人はいた盗賊どもをまとめて感電させる。


「んぎゃああああっ!」

「ぐええええっ!」

「ひいいいいいいっ!」


「お~、我ながら上手くいったな。気持ちいい!」


 倒れた盗賊たちを踏みつけつつ、シュストは役場内へ走る。残りの盗賊がいるのは業務が行われている部屋だ。


「残る奴らはルガンさんと協力して……」


 すると――


「ぐぎゃあっ!」


 残る盗賊が部屋からすっ飛んできた。目を丸くするシュスト。


「ビックリした……! なんだ!?」


「先生、中は片付いたぜ!」


 部屋の中にはルブルの父ルガンがいた。中の盗賊は全滅させてしまったようだ。


「あ……どうも」


「さっきの……すげえ音だったな。もし先生と魔法アリで戦ってたらと思うとぞっとするよ」


「いやぁ、こちらこそ……」


 恐るべきパワーで叩きのめされた盗賊たちを見て、「これ本気で殴られてたら俺の首折れてたんじゃねえの……」などと思うシュスト。顔から血の気が引いていく。


 人質は全員無事。盗賊も倒された。これで一件落着かと思われたが――


「一人……逃げました!」


 町役場の職員が言う。


「え!?」


「凄まじい音がした瞬間、盗賊団のボスらしき男が、部下たちを見捨てて一目散に逃げてしまったんです!」


「マジかよ……。なんつう判断の早さだ」


 シュストは心の中で舌打ちする。さすがは長年国を手こずらせた盗賊団の頭、尻尾を切ってでも、首から下を切ってでも、頭である自分だけは逃げ延びるつもりらしい。


「ぐあっ!」

「ぎゃあっ!」


 外から悲鳴が聞こえる。

 役場から逃げた盗賊団ボスは、憲兵隊の包囲を突破してしまったようだ。


「あいつら何やってんだ! 囲んでた意味がないじゃねえか!」


 不甲斐ない憲兵たちに毒づくルガン。

 シュストは冷静になだめる。


「この町は平和が続いて、戦い慣れてない憲兵も多い。彼らを責めても仕方ありません。とにかく俺たちも後を追いましょう!」


「ああ、そうだな……すまねえ先生」


 二人が町役場を出ると、首領が逃げた方角には傷ついた憲兵らがいた。死人は出ていないようだ。


「うぐ……! 盗賊団のボスは……向こうに逃げました!」


 傷を負った憲兵が指差した方向に、シュストは覚えがあった。


 もしまっすぐ逃げたとしたら……俺の塾があるじゃねえか。シュストの中で急速に嫌な予感が膨らんでいく。

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