ハーブ畑と謎の植物
エルフの区域で問題が発生したため、視察に来たクリスタルとルーグ。
謎の植物がハーブ畑に生えていて・・・。
「国王様、閣下。ここまでご足労でございました。どうぞ椅子に腰をおかけ下さい。」
「すまないな、そうさせて貰おう。」
「ありがとう、エルフの族長。」
クリスタルとルーグは、今視察に来ている。
場所は『エルフ』種の区域である。
この国では『エルフ』は、別名『妖精』『精霊』『ピクシー』といった種族も含まれている。
要は長寿で自然と共生するのを好む、魔法に長けた種族の総称である。
そんな彼らが住まう、霧の深い森の中の街にある『エルフ』の族長宅に二人はお邪魔している。
室内からでもハーブ類の爽やかな香りがする。
クリスタルが椅子に座り、出されたハーブティーを一口飲む。
以前と味の変化は無く、レモンの様な柑橘系の風味のするお茶である。
「報告では『ハーブの育ちが悪い』とか書かれていた。どのくらい悪いのか、族長本人から話が聞きたい。」
クリスタルの言葉に、エルフの族長が白く長い眉を下げながら答える。
「今年の収穫量が半減する可能性がございます。エルフの区域で主要で育てております『ハーブ』は、この国の一番の生産品であり、国民にお茶として一番飲まれる物。輸出も踏まえますと、国民の皆様に行き渡る数に到達しません。申し訳ございません・・・。」
エルフの族長は頭を下げる。
それにルーグは「顔を上げてくれ。」と言う。
「族長の事だ、色々知恵を絞って今まで対処してきてくれたんだろう? 今回は本当にどうにもならないから、報告書に誤魔化さず正直に『視察に来て欲しい』と書いてくれたのは俺達も分かっている。頭をそこまで下げて謝る事ではないさ。これは国を背負う俺達の問題でもあるんだ。」
ルーグの言葉に、族長は一度上げた頭を再度下げる。
「ありがとうございます・・・・!そう言って頂き有難い限りでございます。」
「族長、早速なんだがハーブの不作で何か思い当たる節はあるか?」
「それが、よく分からない植物が生えてしまっているのです。肥料も変えておりませんし、育て方も変わっておりません。それに、どうしてその植物が生えたのか原因が分からず、対策が欲しいのです。除草剤を撒く訳にも参りませんし、それは自然と共生する我らにとって、自然への最大の仇でございますので・・・・。」
困り顔のエルフの族長に、クリスタルは席を立つ。
「なら早速現場を見させてくれ。俺達なら分かる事があるかもしれない。」
「分かりました。こちらへどうぞ。」
__________
族長の家を出て程なくして見えたのは、一見緑豊かな畑である。
室内より一層爽快感のある香りが漂っている。
しかし、いつもエルフが育てているハーブは少ない。
ハーブの香りも、いつもとは違う様な、あいまいな違和感がする。
話の通り、謎の植物が畑の半分を占領している。
「ご覧の有様です。何か手立てはありますでしょうか?」
「これは確かに収穫量が不安だな。まずは植物を見てみるか。」
ルーグは畑を占領する謎の植物を見てみる。
本来ここの畑で育てられているハーブとは似ているが違う葉の形だ。
クリスタルも植物に近づき、観察をする。
「国王様、いかがなされましたか? 何やら思い当たる節でもございましたか?」
「これは・・・・。見た事ある品種かもしれない。族長、ちょっとこの葉を食べてもいいか? 食べればある程度なら品種が分かるから。」
「本当ですか! 是非どうぞ!」
クリスタルは一枚葉を千切って、匂いを嗅いでから食べる。
暫くの咀嚼の後、隣にいるルーグにこう言う。
「これ、俺の温室にあるハーブの品種の改良前のハーブだ。」
「へ!? お前のハーブの親戚かよ!」
ルーグが「何でそんな品種がここに?」とぼやく。
「この品種、この畑にあるハーブの親戚的な種類なんだ。突然変異して増えたんだろう。このハーブはハーブティー向けではないが、パスタなんかの小麦粉製品に練り込むと旨いし、繁殖力が高いから量産が楽な品種だ。だが俺はあくまでお茶にしたかったから、温室にあるハーブは繁殖率を下げて味を改良したものを育てている訳だがな。この品種なら良い案がある。」
エルフの族長にクリスタルが向き直って言う。
「族長、ここをもとのハーブではなく、突然変異した方のハーブ畑にして欲しい。それをパスタ生産元やパン屋に売れば、新しい販路が出来るだろう。」
突然のクリスタルの提案に、族長は悩む。
「それでは今年のハーブの出荷率に目をつぶって頂く必要がございますし、何より出荷しているエルフ達が飢えてしまいます。それはどのように対策をされるのですか?」
「まず生産者に、新しいハーブの生産を国として生産者に願い出る。それを受けた者に、生活と生産のための協力金を出そう。受けなかった者には協力金は出ないが、生活や生産に支障が出るような程困窮する者には支援金を出す。これなら生活は大丈夫だろう。」
クリスタルとエルフの族長の会話を聞き、ルーグがクリスタルに話しかける。
「クリスタル、新しい販路を開くなら今年の生産量は目をつぶろうか。ただ、もとのハーブの消費量は変わらないから、新しく開拓する必要が出てくるぞ。そこはどうするつもりだ?」
クリスタルはルーグの言葉に悩みつつも答える。
「今の案だと、国としても協力して新しい生産者を増やすか、今の生産者に畑を増やしてもらうかだな。お前はどう出る?」
「それもいいが、そもそも今ある畑でも収穫量を上げないか? 要は成長促進剤を使ってもらうか、繁殖率の高い品種を半年で開発をするかがいいと思う。」
「なるほど。族長としては、ハーブを生産してくれているエルフ達はどの案を飲みそうだ?」
族長は少し言いよどむが、背筋を伸ばして答える。
「まず今年の政策に関しては有難いお話ですので、仰っていた案を採択下さるようお願い申し上げます。生産に関しては、自然に交配させた品種改良が宜しいかと。農薬を使いたがらない生産者は多いですし、土地も森を崩さねばありません。品種改良ならば農薬を使わず土地も広げなくて良いので、皆手を付けやすいと思います。開発のお手数をおかけしてしまいますが・・・・。」
そう言ってエルフの族長は頭を下げて「どうか、お願い申し上げます。」と言う。
「わかった。では先に生活に関する政策を行う。品種改良には時間がかかるから、国からも発表を出すが族長からも『ハーブの品種が変わる』旨をあらかじめ皆に伝えてくれ。」
「俺達もエルフ達に負担をかけたくない。だが、多少負担をかけてしまうのは、どうか分かって欲しい。」
エルフの族長は少し背筋を伸ばして改まる。
「とんでもございません。私達エルフも微力ながら新しいハーブと品種改良されるハーブの生産に力を入れて参ります。どうかよろしくお願い申し上げます。」
クリスタルとルーグは族長に「今回の視察が終わってから、正式に政策を発表する。待っていてくれ。」と伝え、畑を後にした。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
今回のお話はいかがでしたでしょうか?
今回はハーブ畑に別種のハーブが生えて、新しい販路が開けるというお話でした。
補足ですが、この国ではハーブが良く使われるのが主流です。
お茶も食事もハーブが良く使われます。
そのために今回族長が困っていた、という経緯があります。
次回も視察回ですが、この国の風習が見られるお話です。
厚かましいですが、創作の励みになりますので、良ければ評価をお願い致します。
改めて、読んで頂きありがとうございました!